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連隊の娘

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第一幕その六


第一幕その六

「またな」
「後でな」
「ええ、じゃあ」
 トニオはとりあえず解放されて兵士達はシェルピスに連れられて一旦その場を後にする。村人達も彼等が去るとそれぞれ背伸びをしたり首を回して鳴らしてから言うのであった。
「じゃあまた兵隊さんが戻って来るまでは」
「仕事するか」
「そうしましょう」
 こう話してそのうえでそれぞれの持ち場に戻る。後に残ったのはマリーとトニオ、それに侯爵夫人とホルテンシウスだった。ここで夫人はホルテンシウスに対して言うのだった。
「ねえ」
「どうされましたか?」
「あの娘だけれど」
 彼女はマリーを見て言うのだった。
「何処かで見たと思うけれど」
「そうなのですか」
「もっと見てみたいわ」
 そしてこんなことも言った。
「もっとね」
「どなたかに似ておられるとか」
「そんな気がするのよ」
 首を傾げながらまた述べた。
「だからね。あそこにでも隠れて」
「はい」
 側の民家の物陰を指差してホルテンシウスに告げる。
「それで見てみましょう」
「わかりました。それじゃあ」
 こうして二人は物陰に隠れて彼女を見ることにした。マリーとトニオはそんな彼等のことを知らず今はそれぞれにこにことして見詰め合っているのであった。
 まず口を開いたのは。トニオであった。
「ねえ」
「どうしたの?」
「マリーっていったよね」
「そして貴方はトニオね」
 そのにこにことした顔でトニオを見上げての言葉であった。
「名前はもう覚えたわ」
「僕もだよ。ねえマリー」
 トニオはマリーの顔を見詰めながら彼女の名前を呼んでみたのであった。
「よかったらだけれど」
「どうしたの?」
「一緒にいていいかな」
 こう彼女に言うのだった。
「一緒に。これからね」
「私となのね」
「勿論だよ。二人だから言うけれど」
 少しだけ勇気を出して。それから言葉として出したのであった。
「好きだから」
「わかってたわ」
 マリーはにこりとして彼の今の言葉に応えた。
「さっき皆が囃し立てていたし」
「あの兵隊さん達がだね」
「いい人達よ」
 このことも言うマリーだった。
「皆ね」
「そうだね。最初は怖かったけれど」
 問い詰められた時のことを苦笑いと共に思い出しての今の言葉である。
「今はわかるよ」
「そうでしょ。それでね」
「うん。どうしたの?」
「私もなの」
 今度は彼女からの言葉であった。
「私も。トニオのことが好きよ」
「えっ、そうなの」
「私が好きだからずっと連隊の周りにいたのよね」
「うん。まあ僕はね」
 ここで自分のことも話すトニオだった。
「羊飼いの家の次男でね」
「羊飼いなの」
「多いんだよ、また家の羊が」
 ここでも苦笑いになっていた。
「何百といてね。その世話がね」
「羊がそんなにいるなんて」
「だから生活には困ってないよ。兄さん夫婦も元気でやってるし父さんや母さんもいるしね」
 家族のことも話すのであった。
 
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