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シャンヴリルの黒猫

作者:jonah
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45話「第一次予選(1)」

『おはようございます! 9回鐘が鳴りました。冒険者ギルド主催、第64回大武闘大会の開催をここに宣言します!!』

わああああああああ!!!!!

 会場が歓声に包まれる。男も女も、大人も子供も関係なく、席から立ち上がって自分の応援する選手に声援を送っていた。もちろん、その中にはユーゼリアとクオリの姿もある。

「すごい熱気ですね!」

「ほんとね。ちょっと後ろの方だけど、席が取れただけラッキーだったわ」

「あ、それならですね、いい魔法があるんですよ。【我請う、大気に遊びし自由なる君よ、狭間の先を見つめる瞳とならんことを】」

「わっ」

 途端、ユーゼリアの視界がぐぐっとズームインされ、たまたま視界を向けていた司会の顔が目の前にあるように拡大された。なんだか目が回りそうだ。

「もう少し遠くから見たい時はですね、魔力を手のひらから出しながら手をこうすると、調節できます。逆の動きをすればまた拡大できますよ」

 クオリがその反応に笑いながら、手のひらを顔の前で押し出すようにする。確かに今度は司会の体全体を見れる程度になった。もっとやり続け、自分のちょうど良いアングルに持っていくと、今度はユーゼリアは試合場を観察し始めた。

 なんてこともない、極めて一般的な試合場だ。
 地面は固い砂で作られた石舞台のようになっており、円形状のフィールドと観客席を隔てる高い壁の間には幅2m弱のくぼみがある。観客席は10mほどの塀の上からすり鉢状に座席があり、試合での攻撃の余波が当たらないように工夫されていた。
 さらに、この塀は1つの巨大な魔道具らしく、戦闘が始まったら担当の者達が一斉に魔力を込めることで、絶対不可侵の魔法壁が出現するようになっていた。もちろん視界は確保されてある。後部の座席や、会場に入れなかった観客にも見えるよう、空には映像を映し出す魔道具が5個ほど、気球でふわふわと浮いていた。かなり巨大な2D映像だ。

「うわ、高級そう……」

「リアさんがそれをいいますか? それより、まずは予選からですよね。どうするんでしょう」

 声をたてて笑いながらクオリが言った。
 もう出場者であるアシュレイは別に呼ばれた部屋へと移動していた。ところが、会場に彼はおろか、出場者は誰もいない。他にも疑問の声を上げているものはいた。だが、多くの観客は動じていない。むしろ慣れっこだった。特にファイザルに居を構えている民衆などは、2年ごとにやるこの武闘大会の席取りからなにから、もはやプロである。

『司会はわたくし、普段は冒険者ギルドファイザル支店受付を任されておりますモナ=イズリクス。解説はSランカー冒険者、カスパー=スパタでお送りします!』

『よろしく』

きゃあああーー!!!!!
カスパー様ぁぁぁ!!!!!
ひっこめこの野郎ぉぉおお!!!!!
すてきーー!!!!!
こっち向いてーー!!!!!
うぉおおお!!!!!
きゃあああーー!!!!!

 金髪碧眼の美青年が拡声魔道具を口元にもって片手を上げた途端、物凄い歓声が会場を包んだ。9割5分方女性観客の黄色い声だが。ちなみに残りの5分は太い声で叫ぶ独身の野郎共の大ブーイングである。

 いきなりの熱狂ぶりにびっくりしたクオリだったが、ユーゼリアもノリに乗ってきゃーきゃーはしゃぐので、じきに笑顔で一緒に歓声を上げていた。初めてのことばかりで、全部が新鮮だった。

 パッと画面が切り替わり、表が映し出された。

『武闘大会の日程をお知らせします。

 1日目、個人部門第一次予選、第二次予選。 チーム部門予選
 2日目、個人部門第一次本戦、二次本戦、
 3日目、チーム部門第一次本戦、第二次本戦
 4日目、チーム部門準決勝戦、決勝戦
 5日目、個人部門準決勝戦、決勝戦、表彰式

 この日程表は会場外の掲示板にも大きく載せてありますので、よろしければご覧下さい。個人配布は行っておりません。
 では早速、個人部門第一次予選を始めます!』

わあああああ!!!!!

『シード権保有者は計9名、ランクA-以上の冒険者とさせていただきます』

 司会モナの言葉に小首を傾げたクオリが、ユーゼリアに尋ねる。

「シード権?」
「今年は特に多いとはいえ、毎回100人を超える参加者がいるの。大会は5日間って決まってるし、というわけで、毎回武闘大会の一般参加は予選からあるわけ。でも予選は毎度毎度、気が遠くなるような1日がかりのものなのよ」

 歓声でユーゼリアの声がかき消されそうになるが、彼女はクオリの耳元で精一杯叫んだ。

「それで人数を絞ったらやっと本戦なの! で、シード権保有者っていうのはその予選をパスできる人達のこと! 与えられるのはAランカーとか、実力者だけだけどね!」 

『これから第一次予選のルール説明をさせていただきます!』

「3日目と4日目は3人でお祭りを回れそうですね。後でお金は入ってくるんですから、沢山いろんなもの買いましょうね!」

「アッシュが優勝するのが当然っていう風に取れるけど?」

『第64回武闘大会個人部門、第一次予選は、“兎狩り”!!』

「だって、アッシュさんですから」

 割れるような喝采の中、くすりと笑うとユーゼリアも頷き返した。

「確かに。アッシュが負けるとこなんて、想像できないわね。よし、奮発してレストランとか行きましょ!」




******




 懐中時計を持った男性が、スタッフに耳打ちする。スタッフは静かに頷くと、声を張り上げた。ざわめきが消える。

「開始時間になりました。これより個人部門第一次予選を始めさせていただきます」

 ところ変わってアシュレイ他個人部門出場選手たちは、現在森の入り口に集まっていた。後ろは草原、その向こう、あまり遠くないところにファイザルが見える。今ちょうど9回鐘が鳴り終わったところだった。

「今年度個人部門第一次予選は“兎狩り”です。
 ルールを説明させていただきます。この森と草原には半径3kmほどの円形の結界が張られています。強度はそれほどありません。破壊行為は失格とみなしますので、ご注意ください」

 スタッフの1人が何かぶつぶつ唱えると、魔道具を起動させた。

ヴン...

 明滅をいくらか繰り返すと、やがて淡い青に光る結界が展開される。
 スタッフ数人と選手達は、薄い結界で隔たれた。

「この結界の内側に、40匹のフェアラビットがいます。うち20匹は首に赤いリボンを、20匹は青いリボンをつけているので、すぐお分かりになるでしょう。
 第一次予選内容は、15回鐘がなるまでにフェアラビットを捕獲することです。剣、魔法、罠、なんでも有り。人から奪い取るのも有りですので、ウサギを捕まえたからと油断は禁物です。
 ただし、フェアラビットを殺してしまうと失格です。もちろん、選手の命に関わるような強力な攻撃も禁止となります。
 ここには計61名の選手が集められましたから、うまくいけば、半数以上第二次予選に通過することができます。頑張ってください。
 なお、結界内の様子は飛行型映像転送魔道具で会場に中継されています。壊したら弁償ですから、お気をつけて」

 そこで一旦言葉を切る。深く息を吸うと、腕を振り上げた。

「それでは、予選、開始!」

 
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