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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epic6恐怖!? プールに巣食うは水お化け~8 of PentacleS~

 
前書き
8 of Pentacles/ペンタクルの8/修行の時。全神経を集中して、無心に、怠ることなく、努力をしていこう。

 

 
†††Sideユーノ†††

「――そう。集中して。心の中に魔法のイメージを浮かべて、そのイメージをレイジングハートに伝えて」

「うんっ。そしてイメージに魔力を籠めるんだよね」

「そうだよ。それから呪文を唱えて、レイジングハートの先から一気に放出!」

今朝も早くからなのはとの魔法の練習中。なのはが本格的にジュエルシード探索を手伝ってくれることになってから数日。僕はなのはにお願いされて、学校に行くまでの時間を魔法の練習に費やすことになった。でもこれはとても良いことだと思う。
なのはは正直言って才能に溢れた天才肌の魔導師だ。なのはがこのままずっと魔導師を続ければ、かなりの高ランク魔導師になれるはずだ。けどきっとそれはないとも思う。ジュエルシード回収が終われば、なのはとお別れすることになるんだから。

「リリカルマジカル! 捕獲魔法・・・発動!」

“レイジングハート”の先に綺麗なピンク色(なのはが言うにはサクラ色)の魔力光が集束されていって・・・。その様子を見て、なんかね、あ、これはダメかもって思ってしまってる僕が居るわけで。当たってほしくなかったそんな嫌な予想が当たった。制御しきれなかった魔力が暴発。

「にゃぁぁぁぁあああああああああああッ!?」

「なの――へぶっ!?」

ドカンと爆発した魔力に吹っ飛ばされたなのは。そんななのはの手から離れた“レイジングハート”があろうことか回転しながら僕を襲撃。爆発の勢いで飛来してきたデバイスの直撃なんて元の姿でも十分に痛いのに、今の僕は動物形態。小さいからこそ全身で受け止めることに。これがただ痛いなんてレベルで済むわけもなく。痛みを感じる前に一瞬で視界がブラックアウト。気が付けばそこは『花畑・・・?』だった。

『『いらっしゃ~い❤』』

『うぇっ!? セレネ!? エオス!?』

花畑の中で、幼馴染である2人が僕に向かって大手を振っていた。ああ、これが夢なんだってすぐに理解できた。だってセレネとエオスは今もどこかで発掘の旅を続けているから。セレネとエオス。そう言えば怒ってたなぁ、僕がジュエルシードを探しに行くって言った時。

――ユーノの所為じゃないじゃん!――

――どうしても行くって言うなら私たちも一緒に連れてって!――

――ダメだよっ。危ないかも知れないんだから!――

――私たちも杖を手に入れたもん! このクレイオスソウルを!――

――今ならユーノくらい軽くやっつけちゃうことも出来るんだからっ――

ジュエルシード発掘の後日、別の世界の古代遺跡で見つけることが出来た宝石――インテリジェントデバイスの“クレイオスソウル”。“レイジングハート”並に高性能。セレネとエオスが3日で僕以上に強い魔導師になったくらいだ。

『ユーノ♪』

『おいでおいで♪』

手招きされたから元の姿に戻っている僕は歩いて近寄っていく。で、いきなり『おらぁぁぁッ!』って跳び蹴りをしてきたセレネとエオス。突然の奇襲。普通なら避けれないけど、2人のこういった奇襲には慣れ過ぎてるから簡単に避けれた。でも、『浮気許すまじ!』なんて訳の解らない言い分で左右から頭を鷲掴みにされて、『痛たたた!』キリキリ締め上げられる。

『『復唱要求! 浮気はしません!』』

『い、意味が解らないんだけど・・・!』

浮気ってなんのことさ。本当に判らないからそう言い返したんだけど。それが気に入らなかったみたいで、さらに手の押しつけ力を強めてきたから、

『復唱します! 浮気はしません!』

耐えれなくなったからもう折れた。あれ以上締め付けられると、夢の中とは言え頭蓋が潰れてしまう。浮気云々って本当に理解できないけど、『それでよしっ』満足そうなセレネとエオスを見て、いつものように思考を放棄。と、後ろの方から何か声が聞こえ始めた。振り返ってみても誰も居ない。在るのは花畑。

「・・ユ・・くん・・・ーノ・・・ユーノ・・・ん・・・ユー・・・ユーノ君!!」

(なのは・・・? 僕を呼んでるのは・・・?)

なのはの声に耳を澄ますと、突然暗闇が目の前に広がって、次に真っ白になった。

†††Sideユーノ⇒なのは†††

“レイジングハート”の直撃を受けて気絶したユーノ君だったけど、何度か呼びかけたら「なのは・・・?」ようやく気がついてくれた。危うく動物虐待・・・ううん、殺人? 殺フェレット罪?になるところだったよ。
そんなこんなで今朝の魔法練習は終了。本日の成果。捕獲魔法バインド、失敗。射撃魔法ディバインシューター、なんとか形になりました。砲撃魔法ディバインバスター・・・完璧。

「砲撃は簡単だったけど、バインドは難しいなぁ。攻撃と防御はなんとなくコツが掴めて来たんだけどなぁ~」

「なのはは放出系が得意みたいだからね。結構単純な砲撃は放出系そのものだから、簡単だって思えるんだと思う。集束や圧縮は・・・そうだね、元の魔力が大きい分、さっきみたいに微妙なコントロールが苦手なんだよ」

なんだろね。ユーノ君には悪気は無いんだろうけど、何か引っかかりを覚えちゃう。単純な砲撃は意識しなくてもコントロールが出来て簡単で。けど集束や圧縮みたいな微妙なコントロールは苦手で下手。それって「つまりは・・・私は、力任せで大雑把な性格ってこと、だよね・・・?」ボソッと呟いてみる。そんな私がこれからもちゃんと魔法使い・・・ううん、魔導師(っていうのが本来の呼び方みたい)になれるか、本当にちゃんと手伝えるのか心配だよ・・・。

「うえっ!? ち、違う違う! そうゆうことじゃないよ!」

「そうかなぁ・・・」

「そうだよっ!・・・それに僕も一緒に戦うから。魔力も回復してきてるし、結界や捕獲は僕が担当するよ。元々そっち系が得意なんだし。だからなのはは心配しないで。焦らずじっくり、そして確りと苦手な魔法をも使いこなせるように憶えていこう」

「そっか。うんっ。ありがとう、ユーノ君。あ、ふと思ったんだけど。私とユーノ君っていいコンビじゃないかな? 攻撃と防御、封印が私。捕獲と結界はユーノ君。苦手な部分をお互いにカバーすることが出来るんだよ」

そうだよ。私たちは1人じゃないんだ。一緒にジュエルシードを回収する。今は全然ダメでも、たくさん練習して、ユーノ君のお手伝いを出来るようになりたいなぁ。俯いてたユーノ君も「そうだね。2人なら何でも出来そうだよ!」元気になってくれたし。

「あ、もうこんな時間だ。帰ろっかユーノ君」

魔法の練習の終わりを知らせる携帯電話のアラームも鳴ったし、朝ごはんに間に合うように帰らないと。
練習場所に選んでるここ桜台登山道を下ってる中、「アリサちゃんからメールだ」こんな朝早くからメールなんて。携帯電話をポケットから出してメールを確認する・・・んだけど。

――なのは! 今日の放課後だけど、みんなで新しく出来たプールに行くっていう約束、憶えてるわよね? 今日は午前授業だし、そのままプールに直行したいから水着を学校に持って来てД△÷○㈱――

「うにゃ? 文字化け・・・?」

どういう内容かは伝わって来るから困ることはないけど、メール打ってる時に何かあったのかなぁ・・? それはそうと「プールの約束。忘れてたぁ・・・」魔法とかジュエルシードのことで頭がいっぱいになってて、すっかり忘却の彼方へ飛んでた。「にゃはは」って苦笑いしてると、ユーノ君に「どうしたの? なのは」って訊かれたから、

「えっと、ユーノ君と出会う前に友達の子と約束したんだよ。今日、プールに遊びに行こうって♪」

携帯電話のメモリーに有る私とアリサちゃんとすずかちゃんが一緒に映ってる写真をユーノ君に見せる。写真を見せながら「右の子がアリサちゃん。左の子がすずかちゃん」大好きで大切な親友2人を紹介する。いつかちゃんと2人にユーノ君を紹介したいけど、ユーノ君が言うには魔法の無い世界で魔法を知るのはあまり良いことじゃないようで。
魔法を知って、そして扱える幾つもの世界には共通してそういう法律があるみたい。ユーノ君の場合は、自分が罰せられる覚悟があるっていうことで私に魔法を託したって言ってた。もしその時が来たら、私、ユーノ君のことを許してもらえるように頼み込むつもり。

(もし教えても良いって言われて、お話ししてみたとする・・・)

――はあ? 魔法ってあんたねぇ。リアルとファンタジーくらい分けないと可哀想な子になっちゃうわよ?――

――えっと。魔法とか本当に在ったら素敵だなって思うけど。でもね、なのはちゃん・・・魔法は、フィクションなんだよ?――

あはは。なんだか病んじゃってる子になってるよ私。とりあえずメールを返信しないと。危ないから立ち止まって「水着を持って登校、了解です♪っと。送~信」メールを送信。楽しみだなぁ。私、運動音痴でも泳ぐのは好きだから。「そうだ。ユーノ君も一緒に行かない?」誘ってみる。

「ええっ!? プールってあれだよね!? 溜め池っぽいやつで、専用の服着て入って、泳いじゃったり遊んじゃったりする!」

「そ、そうだけど・・・。あ、ジュエルシード探しはちゃんとするから」

「それはどうでもよくて! ううん、どうでも良くはないんだけど!」

う~ん、ユーノ君がどうしてそんなに混乱してるのかが判らないんだけど。あ、もしかして「ユーノ君って泳げないの?」考えられるのはそれだけど、それ以前にユーノ君・・というかフェレットって水に入れていいのかなぁ・・・?

「泳げないことはないけど・・・」

「じゃあ一緒に行こう♪」

「あ・・・。う、うん」

よぉし! もっと楽しみになって来ちゃった! 早く放課後にならないかなぁ♪

†††Sideなのは⇒アリサ†††

「・・・セレネ。あんたねぇ・・・」

あともうちょっとでなのはへのメールを打ち終えるっていうのに邪魔をしてきたセレネを睨み付ける。するとセレネは「私もプール行きたい!」とか言いだすし。あたしは大人しくしてるエオスを見た後にセレネを見て溜め息。

「ハムスター姿のあんたがプールに入ったりなんかしたら、一瞬でどざえもんよ? 嫌よ、あたし、人間形態のあんたの姿見てんだから。毎晩悪夢見ることになるわ。あんたの妹を見なさい。大人しくしてテレビ観てるじゃない。少しは見習いなさいよ」

「ええー!? エオスもプール行きたいよね!?」

「プール? アリサの言う通りだよセレネ。大人しく留守番してるのがベスト。動物形態で次亜塩素酸カルシウム漬けプールに入ったら、泳げない、溺れる、塩素中毒、最後にデスだよ。そもそも泳げないって判ってるんだから行ってもつまらないだけだよ。判れ、セレネ」

リス姿な(エオス)ですら理解できてるのに、「じゃあ元の姿に戻れるまで延期すればいいじゃん」この馬鹿姉はもう。誰があんたの都合を聴くっつうのよ。っと、「早速返信ね」なのはからの返信を確認。すずかにもなのはに送ったメールと似たような内容の奴を送って、「この話はこれまでね」切り上げて学校に行く準備を始める。

「あ、そうそう。アリサ。1つ年上のお姉さんから忠告。替えの下着、忘れちゃダメだぞ?」

「了解。エオスの方がお姉ちゃんって感じ。セレネ。見習った方が良いわよ」

「うっせぇ。もう、エオスはどっちの味方なのって感じ。普通はお姉ちゃんでしょうが」

エオスの忠告は素直に受け入れておこうっと。セレネの愚痴を聞くことになったエオスに心底同情。しょうがないわねぇ。可哀想なエオスを助けるためにいざ行動をと思えば、

「判ってないなぁセレネは。プールなんかより温泉だよ。この海鳴温泉ってとこ。行く予定があったら教えてよアリサ。絶対に私も連れて行ってもらうから。たとえ置いて行こうとしても荷物に紛れて行くからさ。私、セレネよりしつこいよ?」

「エオス。あんたもなわけ・・・orz」

結局はセレネと双子ってわけで。違いは惹かれるものがプールか温泉かってだけ。助けるのを諦め・・・ううん、やめた。あたしが帰ってくるまで大人しく留守番してなさいよ。

†††Sideアリサ⇒はやて†††

輝く太陽。雲1つとあらへん青空。今日、わたしらは新しく出来たレジャープールを訪れた。わたしとルシル君。そして、「じゃあフェンリル。はやてを任せたぞ」わたしの車椅子を押してるルシル君が、ルシル君の隣を歩いてる綺麗な女の人、フェンリルさんに声を掛けた。フェンリルさんはホンマに美人さんで、長い黒髪に蒼い瞳、白い肌、なんでかメイド服を着てて、ここに来るまで男の人の視線を集めとった。

「はーい♪ それじゃあ、はやて。私がマスターに代わって着替えとか手伝うから安心してね~♪」

「うん、お願いします♪」

施設のエントランスホールで、ルシル君からフェンリルさんに車椅子の持ち手が変わる。フェンリルさん。ルシル君が言うには魔法使いのサポートをする動物らしくて、フェンリルさんの正体はものすごく大きな狼さんみたい。そんなフェンリルさんがどうしてわたしらと一緒に居って、こうしてプールに来てるか。それは昨日、わたしがふと漏らした独り言が始まりやった。

――プールかぁ。一度でええから行ってみたいなぁ――

――それじゃあ行ってみるか? 今朝のチラシで見つけたんだけど、市内に温水プールが在るそうじゃないか。しかもただのプールじゃなくてレジャー系だそうだし。スライダーとか面白そうだ。それに今日は平日。それなりにゆっくりと過ごせそうだと思うけど?――

――わたしもそのチラシ見たんよ。そやけどわたしの足って動けへんから当然泳げへんし。それに、その・・・水着の着替えとか難しそうやし――

――じゃあ着替えとかを手伝えればいいんだな――

――うん・・・って、ルシル君のエッチ! さすがに女の子っぽい言うてもルシル君は男の子やで!!――

――早とちりしない!・・・最後まで聴け。ある魔法を試したいんだが、その試験ついでに男の私に出来ない手伝いをさせる子を召喚しようと思う――

――召喚・・・?――

そんな感じでルシル君が喚び出したんがフェンリルさんやった。そやけど今のフェンリルさんは魔法も使えんくって、一般人より身体能力が高いだけのただの女の人やってことみたいで・・・。ルシル君もフェンリルさんが召喚されてる間はあんまり魔法が使えんみたい。ルシル君に無茶ばかりさせて申し訳ないなぁなんて謝ったんやけど、

――どの道いつかは試すことになってたんだから、気にしないでいい。はやての為になるんなら良いことだ――

そう言われたらもう何も言えんくなるわけで。そやからお言葉に甘えることにした。

「おーい」

わたしとルシル君とフェンリルさん、3人分の利用料金の支払いから戻って来たルシル君にもう一度「ありがとう」お礼を言う。

「ん? ああ、どういたしまして。料金を払ってきたからもう入ってもいいよ。女子更衣室は向こうだから。はやて、フェンリル。集合場所は更衣室を出た後の合流所だから」

「イエス。マイマスター❤」

「うん。また後でな~」

ルシル君と別れて、わたしとフェンリルさんは女子更衣室へ。更衣室は広々してて、車椅子利用者専用の着脱場所もある。バリアフリー万歳や♪ わたしの乗る車椅子を押すフェンリルさんは女の人からの視線をも独り占め状態。そんなフェンリルさんの手伝いのおかげで、着替えもスムーズに済んだ。わたしは薄いピンク色のフリルワンピースで、フェンリルさんは白いビキニ。どちらもルシル君が用意してくれた物。

――私専用の保管庫に貯蔵されている物を、魔法の力で取り出しているんだ。便利だろ?――

とのことやけど。女の子物の水着って・・・。ルシル君。なんで持っとるんやろ?

「じゃあ車椅子はここに置いて行くことになってるから、プールへは私が抱っこして行くからね」

フェンリルさんにお姫様抱っこされて、プール側へ続く更衣室の出口から出たところで、わいわい騒ぎ声が聞こえてきた。

「なんか騒がしいけど。何かあったのかな?」

「男子更衣室の方からやね。あ、もしかしてルシル君ちゃう? 女の子が男子更衣室に入って来たとかなんとか~って♪」

「まっさか~♪」

冗談交じりに笑っとると、「どうしてダメなんですか!」ルシル君の怒声がハッキリ聞こえた。男子更衣室と女子更衣室の合流所に着くと、シャツの胸ん所に高町って書かれた名札を付けたお兄さんが、黒のトランクスタイプの水着を履いたルシル君の上半身を隠すようにタオルを翳しとった。

「ダメも何も下だけ履いて上を着ない――って、男物の水着ってところからしてダメすぎ! ほら。女の子用の水着もレンタルされているから、急いで着替えようね。更衣室は女性の方を使って」

「私が女子更衣室に入ったら犯罪ですから!」

「いやいやいや。おかしいから、その言い分! これ以上お兄さんを困らさないでくれ。そんなに可愛いんだから、変な人に襲われちゃうかもしれないんだよ? ね? 良い子だから」

「男を襲う男って気持ち悪すぎますから!」

「いくらなんでもそんな嘘は通用しないぞ? ささ。良い子だから着替えような」

「だったら確認すればいいじゃないですか!」

「コラっ! 水着を下ろそうとしちゃダメ! 男の人の目もあるんだから!」

「男同士なら問題ありません!と言うか、もし私が女の子であったなら、今やってることは痴女そのものじゃないですか!」

「ぶふっ!? ち、ちち痴女!? 女の子がそんなこと言ったらダメだぞ!」

「じゃあお兄さん1人だけでいいですから見てください!」

「君はお兄さんを犯罪者にさせるつもりかい!?」

ちじょ? その単語の意味判らへんけど、聞いとるこっちが恥ずかしくなるやり取りをしとるルシル君とお兄さん。どんどん騒ぎを聞きつけて人が集まって来てるし。それにしても、中学生くらいの男の子たちがルシル君を見て前屈みになっとるけど、なんなんやろ。

「フェンリルさん。えっと、どないしよう・・・?」

「う~ん。第三者として観てる分には面白いけど、さすがにこれ以上マスターを見世物にするのもちょっと。よし。はやて。マスターを助けて来るから・・・はやては待ってる? 晒し者になっちゃうし」

「晒し者って・・・う~ん。ううん。一緒に行く」

これから一緒にプールを回るんやしな。連れやってことが知られるんが今か後かの違いだけや。なんでか男の人たちの小さな歓声を受けてるフェンリルさんにお姫様抱っこされたまま、わたしはルシル君のところへ。

「そこのお兄さん。申し訳ありません。その子、我々の連れなのですが、確かに男の子なので。だから水着はそのままで良いんですよ」

「え? あ、ええ?・・・本当に男の子・・・なのかい?」

「もちろんです!」

困惑する高町お兄さん。初見やったら誰でもルシル君が女の子やって間違えると思う。フェンリルさんの説得のおかげで、ルシル君もようやくお兄さんから解放されたんやけど・・・。やっぱりどんよりしとる。さっきから「大人の姿に変身しておけばよかった」ってブツブツ呟いとるし。
そんなルシル君に「まあまあ。せっかく遊びに来てるんだし、楽しまなきゃ損だよマスター」フェンリルさんが笑いかける。ルシル君は一度わたしの顔をチラッと見て、両頬をパシッと叩いた。

「・・・そうだな・・・。もう忘れよう! よしっ。はやて、どこのエリアへ行こうか!?」

「(ホンマにルシル君は優しいなぁ・・・)そうやね~。いっぺんスライダーに行ってみたい!」

「スライダーだな! フェンリル!」

「はーい! フェンリル、はやて、いっきま~す♪」

「おわぁ? フェンリルさん、走ったらアカンよ!」

フェンリルさんに後ろから抱きつかれながらのスライダー初体験。頭を大きなおっぱいで挟まれてちょう苦しかったけど、スライダーの爽快感は最高やった。スライダーの後は、浮き輪を借りて流れるプールでゆったりのんびり遊泳。

「フェンリルさんってホンマに狼さんなんやな。泳ぎ方がその・・・」

犬掻きをしながらわたしとルシル君の浮き輪を追っかけてくるフェンリルさん。狼さんっていうよりわんちゃん。体は大人やのに、中身はわたしみたいな子供って感じや。

「私はどんな泳法でも出来るよ。なんならやって見せようか♪」

「流れるプールで本気泳ぎはご法度だ、フェンリル。大人しく漂ってろ」

「は~い。そういうわけだから、私の華麗な泳ぎ姿はまた今度ね」

「・・・うん♪」

また今度。またみんなでプールに来れるんやな。そう思うとホンマに嬉しくて。それやのに涙が溢れて来て。嬉し涙やけど、あんま見られたくないから、ルシル君とフェンリルさんに気付かれる前にプールの水でパシャッと顔を洗う。

「ぷはっ。プールもええけど海にも行ってみたいなぁ~」

「海か。・・・そうだな」

「海なら派手に泳いでも大丈夫だよね。そうしたら本気で泳いでやる!」

「バタ足で何mと水柱を上げない程度で頼むぞ」

「それじゃあ本気じゃないよマスター」

「お前の本気遊泳を一般人が見たらミサイル着弾による爆発かと思われるだろうが」

「じゃあちょこっと本気で泳ぐ。はやて。はやての脚が動くようになったら、私とマスターで泳ぎ方教えるね♪」

フェンリルさんの何気ない一言。原因不明なわたしの両足マヒ。治るんやろか? たった今までは・・・ううん、ルシル君と出会う前は別に治らんでもええとか思うてた。そやけど、ルシル君と出掛ける度、そんで今フェンリルさんの笑顔を見て、本気で足を治したいって思える。
そやからわたしはフェンリルさんを真正面から見て、

「そん時はお願いします♪」

もちろんルシル君にも同じようにお願いした。そんでわたしらは流れるプールを2周くらいしてから上がる。自然と出る話題は、次はどこに行くかってことや。スライダーに流れるプール。今日の行動の決定権はわたしにあるみたいで、ルシル君とフェンリルさんの視線を一手に引き受ける。

――広域封時結界――

「っ!・・・・あ、ごめん。ちょっとトイレに行ってくる。フェンリル。はやての傍に居ろ」

「うん。わたしらはここら辺で待っとるから~」

「お任せを。我が主。我が身命に代えてはやてを御守りします」

(ん? なんでフェンリルさん、そんな堅い言い方なんやろ?)

ルシル君が屋内プールの方に向かって走って行くのを、わたしはじっと見送った。

†††Sideはやて⇒なのは†††

ジュエルシードの発動を感じてユーノ君がいち早く結界を張ってくれたおかげで、騒ぎが広がる心配がなくなったんだけど。でも切り取り範囲が広いとかで、結界内に取り残されちゃった人も少なからず居るってことになっちゃった。急いでボイラー室から力を感じる場所、屋内プールに向かったんだけど・・・。

「きゃああああ!? 何なのよコイツぅ!」

「水着を脱がそうとしる!? いやぁぁああああああ!」

「アリサちゃん! すずかちゃん!」

「見ちゃダメだ、見ちゃダメだ、見ちゃダメだ」

姿を現していたのは水のお化け。アレもジュエルシードの影響みたいなんだけど。その水お化けがやっているのは、「え~っと・・・」なんとも説明に困る行為で。水お化けはあろうことか触手で捕まえたアリサちゃんやすずかちゃん、他の女の人の水着を脱がそうとしてた。
しかも水着を脱がせたら脱がせたで、ポイって放り捨てるって暴挙に出てるし。悲鳴を上げながらも水お化けに「返せ馬鹿ぁぁあああ!」って怒鳴りまくるアリサちゃんや、「酷いよ。脱がしたらポイって捨てるなんて・・・」今にも泣きそうなすずかちゃん。

「ど、どういうこと・・・?」

「推測になるけど。あのジュエルシードを発動させた人、たぶん捕まったっていう更衣室荒しの人の願いと興味が形になったもの・・だと思う」

お兄ちゃんから聴いた。女子更衣室荒しの変態さんがついこの前捕まったんだって。でも、それ以降も服や水着が盗まれちゃうってことが度々あるって。

「つ、つまり、それって・・・」

「うん・・・。女の子の服を集めたいって願いの下に動いてるって事に・・・」

だから女の子から水着を剥ぎ取って、後に残る女の子そのものには興味が無いってわけかぁ。ちょっとお近付きになりたくないなぁ。でもこれは早く封印をしないと、怒りすぎたアリサちゃんの頭の血管とか切れそう。

「・・・って、こっちに来ちゃったぁぁあああああ!」

大声を出しちゃったことで私にも気付いた水お化けが、触手のような物を伸ばしてきた。水着を脱がされる光景を見た後、アレに捕まるのだけは心の底からご遠慮したいわけで。申し訳ない気持ちでいっぱいなんだけど一時撤退。バリアジャケットに変身できる場所を探す。

「きゃあ!?」

「なのは!? コイツ、速い・・・!」

足首に纏わりつく水の触手。抵抗する間もなく吊し上げられて、別の触手が私から水着を脱がそうと迫って来た。今すぐ変身すれば、裸にされるのだけは回避できる。だけどその代わり魔法を見られちゃうことになる。結局、「ちょっ、待って! にゃぁあああああああ!!」私もアリサちゃん達みたく水着を脱がされちゃったよぉ~(泣)。しかも同じようにプールに放り投げられるし。急いで立ち上がって水面から顔を出す。

「なのは!」「なのはちゃん!」

水お化けの本体が動き出すと一緒にプールの水が引き潮みたいに引いてく。私たちの居るところの水が膝下くらいにまで引いた時、

――深淵へ誘いたる微睡の水霧(ラフェルニオン)――

プールの水が爆発して「今度は何なのよ!?」「爆発!?」悲鳴と一緒に屋内プールに充満する水煙。ユーノ君が『なのはっ、コレ魔法だ! 魔導師が近くに居る! 気を付けて』って念話を送ってきた。そう言えばユーノ君はどこに・・・あ、ちょっと離れたところで、前足で自分の目を隠してた。ぐるりと周りを見ようと首を動かして、真っ先に視界に入るのは「アリサちゃん!? すずかちゃん!?」の2人や他の人たちがパタパタ倒れ始めた光景だった。

――フローター――

次に銀色の光がアリサちゃん達を覆ったと思えば体がフワリと浮いて、プールサイドの上に寝かせていった。

『対象を眠らせる魔法!? それに、浮遊魔法(フローター)!・・・でも今なら。なのは! 今のうちに変身を!』

「あ、うん! レイジングハート!」

変身を終えて改めて周りを見回すと、「あの黒い子・・・!」がこの施設の出入り口に居た。でも様子が変。苦しそうに胸を押さえていて、壁にもたれ掛ってる。駆け寄りたい気持ちがあったけど、

『なのはっ、今は封印をお願い! 外に出られたら厄介だ!』

『・・・うん!』

確かに今は水お化けに専念しないとダメだよね。“レイジングハート”を水お化けに向けると、変な雄叫びを上げながら逃げようとし始めた。

「えっと、趣味・興味は人それぞれですが、人さまに迷惑をかける変質的行動は良くないと思います!」

変態さんはお断りです! “レイジングハート”をシーリングモードへ。そして意識を集中。

「リリカルマジカル。封印すべきは、忌まわしき器! ジュエルシード、シリアル・・・え?」

いつもなら浮かび上がるはずのシリアルナンバーが浮かび上がらない。私とユーノ君はちょっぴり混乱。でもとりあえず「封印!」を行ってみる。水お化けは魔力を失って破裂。今まで盗られた下着とか水着がたくさんバラ撒かれた。でも「ジュエルシードが無いよ、ユーノ君!」どこにも無い。やっぱりおかしい。

「反応も・・・消えてない! もしかして・・・分裂してる!?」

「ええ!? じゃ、じゃあ反応の在る場所へ――えっ!?」

突然何かを壊すような大きな音が後ろからして、そちらに振り向いてみれば関係者以外立ち入り禁止って書かれた扉を壊して出て来た水お化けの小さい版が幾つも居た。そして黒い子を一斉に襲ってた。黒い子は伸ばされる触手を避けては殴って、でも避けきれなかったモノが直撃。私のところにまで弾き飛ばされてきた。私は避けようとはせずに受け止める態勢を取る。でも黒い子は途中で態勢を整えて自力で着地。

「あのっ、大丈夫!?」

「はぁはぁはぁはぁ・・・。大丈夫。あなた、アレの封印が出来るんでしょ? 手伝って」

「でも、そんなフラフラじゃ・・・!」

黒い子は「前衛は任せて」そう言って、囮みたいなことをし始めた。おかしい。前に見た黒い子の魔法なら、きっと私の手伝いなんて要らないはずなのに。それにどうしてあそこまでフラフラなのかも気になるし。あれじゃあんまり長く動けないよ。

「なのはっ。バスターかシューターで――」

「バインド! バインドが使えたら使って! これだけ速いと単発射砲撃は避けられる!」

「「え・・・?」」

捕獲魔法(バインド)。今朝の練習の時に失敗した魔法。そのこともあってユーノ君から「無茶だ!」って反対意見。でも私は「やってみる!」あの黒い子の言葉は、どうしてか私のやれるって思いを強くしてくれる。イメージを魔力に乗せて。集中、集中、集中! 捕獲の魔法。私の・・・捕獲魔法。動きを止めて、1つに纏める・・・捕獲、そして固定の魔法。イメージは・・・固まった!

「リリカルマジカル!・・・あの、離れて!」

囮になってくれてたあの子に告げる。黒い子は小さく頷いた後、

――ソニックムーブ――

一瞬で私とユーノ君のところにまで移動してきて、それにビックリしてボーっとしちゃった。だから「早く!」その子の声に怒鳴られた。「ごめんなさい!」謝りながら頷き返して、

「行きます! リリカルマジカル・・・。レストリクト・・・ロック!!」

捕獲魔法を発動させた。輪っかのバインドでミニ水お化けを全部捕まえることが出来た。うん。イメージ通り。発動から完成までの間に私が指定した領域から出なかったモノ全てをその領域内で固定、バインドで捕獲して移動や動きを封じる魔法レストリクトロック。満足してると、「ジュエルシード・・・!」黒い子が現れたジュエルシードのところへ向かおうとした。

「なのはは封印! そこの子! ジュエルシードは渡せない!」

――チェーンバインド――

ユーノ君が作った3本の魔力の鎖が、黒い子の両腕と腰に巻き付いた。手伝ってくれて嬉しかった。

「ごめんね。だけどジュエルシードはやっぱり・・・」

ユーノ君の物だから、渡すわけにはいかないの。“レイジングハート”をシーリングモードにして、改めて封印作業に移る。

「ジュエルシード、シリアル17! 封印!!」

封印完了。“レイジングハート”の中に取り込んで、今回の騒ぎはこれで完全に終わり。ううん。まだだ。黒い子のことが残ってる。取られちゃった水着とかが持ち主の元に戻っていくのを横目に、私とユーノ君は黒い子と対峙する。

「僕はユーノ・スクライア。ジュエルシードを発掘した、ミッドチルダの魔導師だ」

「わ、私は高町なのは。この世界の住民で、ユーノ君の魔法の力を借りて、ジュエルシード回収の手伝いをしてるの」

自己紹介を終えると、「・・・テスタメント。それが私の名前」黒い子も名前を言ってくれたんだけど・・・。名前らしくない名前。テスタメント。英単語にあったような気がする。やっぱり偽名、だよね・・・?

「じゃあ、テスタメント・・? 君がジュエルシードを集めている理由を教えてほしい。なのはから一応聞いたけど、それが事実かどう――」

「もちろん事実。ジュエルシードの力を使って、人ひとりの人生を助ける。悪用はしない。それだけは信じてもらっていい」

そう言った黒い子は鎖を砕いた。ユーノ君が「バインドブレイク・・・!?」って驚きを見せる。黒い子は「今日のところはジュエルシードはあなたに預ける」って言って、ブツブツ何かを呟いた後に右手の平を私たちに向けた。創り出されるのは銀色に光り輝いている魔力球。攻撃だとしたら、今のユーノ君に防げるか判らない。だから私は前に躍り出て「待って!」防御魔法の発動を準備した時、黒い子がその魔力球を殴った。

――クラッシュホール――

すると魔力球が炸裂して、目が開けられない程の光が溢れて、それに耳を塞がないといけないくらいの大きな音が生まれた。

「何コレぇぇぇええええッ!?」

『ぅぐ、爆発的な光と音による視聴覚封じの魔法だ・・・!』

光と音が治まったことが判って目を開けると、そこにはもう黒い子は居なかった。

†††Sideなのは⇒ルシリオン†††

ジュエルシードが発動する日が今日だったとはな。フェンリルを召喚したことで大した戦闘は出来ず、ジュエルシードをなのはに取られた。先の次元世界ではなのは組が回収した物だから元より強奪しようとは思っていなかったが、目前に在るとつい取りたくなった。ダメだな。少しは自重しなければ。

「あ、おーい! ルシルく~~~ん!!」

「マスタ~~~♪ こっちだよ~~~♪」

屋外のプールで、浮き輪でプカプカ浮いているはやてとフェンリルが大手を振って私を呼ぶ。プールサイドを早足で歩き、「待たせた」はやて達と合流したら、「お疲れ様や、ルシル君。怪我とか大丈夫やった?」なんて気遣いの言葉を掛けてくれた。

「バレてたか?」

「うん。フェンリルさんの堅い言い方が変に思うてな」

そう言えば私を送り出してくれる時、堅苦しい言い回しだったな。浮き輪に乗っているフェンリルが「私のキャラじゃなかったか~」そう苦笑い。

「ああ、万事解決したよ」

とりあえずはやてを安心させたいがために笑顔を作る。

「そっか。それやったらもうちょっと遊んでいかへん?」

「もちろんだ♪」

笑顔になったはやてと、常にニコニコなフェンリルと一緒にとことん遊んだ。途中、なのは達と幾度かニアミスしたが、不自然にならないように彼女たちから距離を置くように行動を心がけた。はやてには悪いが、出来うる限りこの時期で友好関係を築くのはやめておきたい。

「ルシルく~ん♪」

「(ごめんな、はやて)どれ。こうしてみると結構面白いぞ」

何も知らずにいるはやての笑顔が眩しすぎて。私がちっぽけに見えてしまう。本当に嫌な男だな私は。そんな風なことを考えるのを止め遊ぼうと決め、はやての掴まっている浮き輪を掴みんで「ほら」と浮き輪を思いっきり回す。浮き輪の中に居るはやては当然「おわわわっ」浮き輪の動きに合わせてクルクル回る。どうやらお気に召してくれたようで、それから何度か回してやった。

(よかった。今日、プールに連れてくることが出来て)

私としても十分に楽しめたし、今日は実に良い日だった。


 
 

 
後書き
ドーブロエ・ウートロ。ドブリ・ジェン。ドーブルイ・ヴェーチェル。
サウンドステージ01『ドキ! 水着でプールで大ピンチなの?』をお送りしました。
改めて聴くと、ふと思います。

「どうして動物(ユーノ)がプールに入れるんだ?」

ご都合主義でしょうが、やはり浮かんでしまう疑問です。
さて。次回ですが、申し訳ないですが少々時系列をイジらせてもらいます。
つまり、彼女が登場するというわけです。ですが過度な期待は要注意です。
 
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