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ファイアーエムブレム~ユグドラル動乱時代に転生~

作者:脳貧
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第五十三話

 翌日、在陣中のレイミア隊全員に重要な発表があるとして集合してもらった。
 二、三日休んでからのほうがいいと思ったが彼女の意思を尊重することにし、彼女の姿に全員が歓声を上げたので、確かにこれで良かったなと思う。
 少しやつれたものの眼には変わらず力があり、いつもの自信たっぷりな表情は健在だ。

「みんな、命がけで助けに来てくれてありがと。恩に着るよ! ……だけど、その、なんだ、アタシは一線から身を引くつもりなんだ」

 すると隊員の多くが口々に疑問や不満などで騒ぎたてるものだから、ヴォルツやベオ、それに俺は皆をなだめたのだがなかなか上手くいかない。

「話はまだ途中だよ! 黙って聞きな!」

 すると一瞬にして静まるのは流石だ。 
 内容はわかっているので俺は彼女の腕を取って、未明に嵌めてやった指輪を皆の前に示した。

「……アタシがもらわれてやってもいいって人、察しのいい奴ならすぐわかるだろ? ……ミュアハ王子と一緒になるんで…………その、アタシもいいトシだし、みんないいだろ?」

 最後は顔を赤らめる彼女に、一瞬の静寂のあと歓声が湧きあがったり口笛を鳴らす者が居たり、驚きの声を上げる者など反応は様々だった。
 俺も隊の皆の前でレイミアを娶ることを認め、恐る恐る反応を待った。
 小突かれたり、冗談交じりに恨み言言われたりしながらも受け入れてもらえたようだ。 
 ……レイミア隊の名前はそのままにし、彼女は相談役や顧問ということで、あとは臨時で敷いた体制をそのまま正式に改めてやっていこうと言う事になった。




 散会したあと、俺は探していた人影(シルヴィア)を認めて近寄る。
 向こうも気が付いたようで、こちらを見てはっとした顔を見せてから視線を逸らし、顔を伏せた。
 言いにくいけれど報告しようとすると、彼女は意を決したように伏せた顔を上げ、口を開いた。

 
「……レイミアとのこと、おめでと! 急なことだからお祝いの品が無くてゴメンネ!」
「うん、ありがと」
「そんな顔してどうしたのよ。 あたし、レイミアのことも大好きだし、しあわせになって……ね」
「………やさしいね、お前ってさ」
「あたしの一番好きな人がとってもやさしいから、見習ってるんだ。……ね、二人きりで長いこといるの良くないよ………ちょっと一人にもなりたいし、もう行っていいんだよ……会いに来てくれてありがと」

 黙って頷き、彼女の優しさに甘えてその場を後にした。
 きっと黙って泣いてるであろう彼女を思うと胸が痛んだ。
 
 


 
 



 リボー族長はマナナン王と一騎討ちの末命を落としたが、彼を操っていた魔道士達はいつのまにか逃げおおせてしまったらしい。
 王は族長の首を蜜蝋漬けにしてダーナへ自ら持って行くと言う。
 ……原作ではダーナへ詫びに行ったマナナン王は弁明の機会を得られることもないまま捕らわれ処刑されてしまい、その対応に激怒したイザークは全面戦争へと踏み切るのだが……
 それを避ける為に小細工をいろいろしてきたし、それも概ね目論見通りだ。
 既にダーナとは顔を繋いでいるし、被害は出したとはいえ治める代表は皆健在だ。
 グランベル……というより戦を起こしたいアルヴィスとマンフロイに口実を与えないで済むだろう。
 国を挙げての出兵権限を実質握っているクルト王子とは信頼関係を構築したし、イザーク出兵こそがクルト王子暗殺への舞台装置だということも伝えてあるので、この戦は起こることはないだろう。
 なので、俺は何の心配もなくダーナとイザークの仲介を引き受けた。


 一度王都へと戻ってからダーナへ赴くのかと思ったが、王はこの足でそのまま向かうそうだ。
 俺達もダーナに残してきた人員を回収する必要があるので早い方がいい。
 ただ、リボーをそのままにして向かう訳にも行かないため戦後処理にそれなりに日にちを要した。
 ……本当はレイミアを辱めた者に報いを受けさせたかったが、開城させる為にマナナン王が行った条件を破ることになるし、確認するためとして彼女にそういう奴らの顔を再び見せたくは無かったので耐えることにした。
 だが、毎日何人かずつ、局部を切られた男の死体が城の堀に投げ捨てられていた。
 闇から闇へ、そういう仕事をする組織がこの国にはあるようだ……
  

 

 リボーからダーナへと再び向かう前日、戦陣ゆえ豪華な装いも典雅な儀式も無く、互いに甲冑を帯び、剣を差して、俺とレイミアはささやかな華燭の典を挙げた。
 腕が思い通りに動かないとはいえ、それを諦めたりもせず、彼女は剣士としての姿を通すことにこだわったし、俺もそんな彼女が好きだ。
 リハビリって概念はあるようで、結ばれた次の日から俺も皆も協力している。
 マナナン王に行った願いとは見届け人や公証人として立ちあってもらうことと、カルフ王へのこの婚儀について手紙を……いろいろ色をつけてしたためてもらう事だ。
 そんなやりとりをしていたら、ここにも上級貴族、公女さまってのがいるらしいよ?と、ブリギッドも協力してくれた。
 
「いずれ豪華な披露宴を挙げる際には、是非招待してほしいものじゃ」
「エーディンも親父もアンドレイも呼んであげたいな」

 俺とレイミアは豪華な披露宴なんかが嫌だから今ここで挙げたのにって二人に言って苦笑されてしまったが、いずれ開くときには必ずと答えた。
 







 それを全く予想もしてなかったので、俺たちはただ々驚くばかりであった。
 遠くに見えるダーナの街から立ち昇る煙、もちろん炊事で上がるようなものじゃあ無い。 
 いったい何処の勢力によるものだろうか………

 




 マナナン王は当初、わずかな付き人だけを連れて向かうつもりだったようだが、俺達も王の側近もそれを押しとどめ、小規模な部隊の随伴を認めさせていた。
 行軍速度を上げた俺たちが街を指呼の距離に仰ぐ頃には攻めている軍勢が居るのが見てとれた。
 大軍という程では無いが、俺達が街を後にした時の戦力では抗しえないほどだ。
 そして、部隊長らしきものが天空より召来せし隕石のようなものを度々城内に降らせているのが見てとれる。
 これによって引き起こされた火災が巻き起こす煙によって、俺たちは異変に気がついたという訳か。

「答えはわかっているつもりですが、軍使を出して互いの所属を明らかにし、戦うべきか否かを改めて協議いたしましょうか? それとも、このままあの軍勢を横撃し蹴散らしましょうか?」
「ミュアハ殿下ならばいかがする?」

 俺の質問はマナナン王にそのまま返された。

「もちろん、あの軍勢を横撃し、ダーナを救います」
「ふふっ、そう来なくてはな! さすがは我が朋輩の息子よ! 皆の者続けー!」
「……レイミア隊、マナナン王に続くぞ!」

 


 虚を突くことまでは出来なかったが、陣形をこちらに向ける前の軍勢に襲いかかる事が出来た為だろう、あっさりと敵部隊を突き崩し、俺は敵の将と相対した。
 操る炎の魔法を想起させるかのような赤く燃え上がるような髪と、鋭く、隙の無い雰囲気。

「アイーダ将軍! なぜここに!」
「何物かは知らぬが死んでもらおう……地獄の業火をその身に浴びよ!」

 俺の応えも名乗りも待とうともせず、すぐさまに攻撃に移るのは流石である……が、俺を黒焦げにしたければお前の上司を呼んで来い!

「……効かんな、わたしはレンスターのミュアハ! このような自由都市を襲うとは、盗賊に身を落としたか? グランベル近衛兵団にその人ありと言われたあなたが!」

 実際のところ、熱いし火傷も軽くしていそうだが、敵の最大の攻撃を防いだのだ、ここは余裕を見せてもいいだろう。

「だまれ! 我々は命令通りに動いているだけだ! 我らが任務にとやかく言われる筋合いは無い!」
「……いいでしょう、だが、あの街を守るために今はあなたを倒す!」
「のんきに喋っている暇があったら……喰らえ!」

 再度彼女が放つ灼熱地獄に包まれたが……熱い! たしかに……だが、せいぜい暑い程度だな!
 槍を振るい、剣を叩き落とし、さらに加えた一撃が彼女の脇腹を切り裂き、鮮血が飛び散る。

「あなたではわたしに勝てない、潔く降伏されよ。 身分にふさわしく遇しましょうぞ」
「私を愚弄する気か? グランベル軍人に降伏など無い!」
「ミュアハ王子、この御仁は?」

 俺とアイーダ将軍が問答をしているのを見かけたのだろう。
 マナナン王が割って入ってきた。

「はっ、グランベル近衛兵団アイーダ将軍です」
「わしはイザークのマナナン王、なにゆえダーナを襲う? これはグランベルの侵略と見たが」
「ほう……これはこれは」

 アイーダは目を細めると不敵な表情を浮かべ、唇の端に笑みにすら見える動きを見せた。

「イザーク軍に占領されたダーナ市の解放に来てみたら、レンスターとイザークにより逆撃を受けた……ククク」
「何をバカなことを!」
「各自撤退せよ! 合流地は所定の通りだ!」

 そう言葉を残してアイーダは指輪に触れてから何やら囁くと一瞬にして姿を消した。
 同じようにして消えた者が幾人か居たが、大半がそのまま走って逃げだした。
 追撃、掃討戦を行うべきか迷ったが……

「陛下! ダーナの火災、放ってはおけません。 我が隊だけでも消化に該たりたいがよろしいか?」
「うむ。 そうすべきだな……だが、騎兵の者には追撃に回ってもらいたい」
「御意」



 消化活動は土や砂をかけるなどで行い、幸い隕石召喚(メティオ)の魔法は直接的に火炎を発生させるものでは無かった為、火災は思ったほど酷くはなかった。
 だが、アイーダ将軍の強引なまでのやり方は何故か………
  
 

 
後書き
闇から闇へ……は、ガルザスの仕業でした。

 
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