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薬剤師

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第七章


第七章

「それでもう一枚はヴォルピーノさんになっているんですか?」
「それは予定通りだけれど」
 グリエッタはそちらはいいとした。
「けれどヴォルピーノさんまで同じことをするなんて」
「まあまあ」
「それは大した問題ではありあませんよ」
「いや、大した問題ですよ」
 センブローニョはムキになった顔で二人に言い返した。
「何で私が相手に入っていないのですか?」
「ですからメンゴーネ君がですね」
「ヴォルピーノ君がですよ」
「いいや、僕・・・・・・いやメンゴーネ君がです」
「僕・・・・・・いやヴォルピーノさんがですね」
「とにかくです」
 たまりかねたセンブローニョが二人の言い争いを止めさせた。
「こんな証明書は受け取れません。お帰り下さい」
「まあまあセンブローニョさん」
 しかしここでヴォルピーノが言うのだった。
「もう一つ面白いお話がありまして」
「面白い?」
「今トルコで薬剤師を探しています」
 彼はこのことを話したのだった。
「トルコで丁度ペストが流行っていまして」
「何っ、ペストが」
「あの病気が流行るなんて」
「トルコも大変なのね」
 センブローニョだけでなくメンゴーネもグリエッタもペストと聞いて顔色を変えた。この時代欧州ではペストはまさに恐怖の象徴だったのである。これは長い間そうであったことだ。
「ですがセンブローニョさんはペストの治し方を御存知ですね」
「勿論です」
 彼は今度は真面目な顔で答えた。
「あの病気をどうにかできなくて何故薬剤師ですか」
「そうですね。それではです」
 ヴォルピーノもそれを聞いてからさらに言うのであった。
「今トルコは国を挙げて薬剤師を募集しています」
「薬剤師をですね」
「報酬がかなりものだそうですよ」
 このことも話すのであった。
「如何でしょうか」
「そうですな」
 センブローニョはその話を聞いて考える顔になった。そのうえで一人考えはじめた。
「ううむ」
「よし、今のうちだ」
 そんな彼を見てまた動くヴォルピーノだった。そっと扉から抜け出す。
 その間メンゴーネとグリエッタは二人一緒になって。そのうえであれこれと話していた。
「今度はトルコ人ね」
「そうだね」
 真面目な顔で話をしていた。
「それに化けてね」
「わかっているよ」
 メンゴーネは彼女の言葉に頷くとまた姿を消した。彼は店の奥に消える。その間センブローニョは考え続けている。そうして顔をあげるとだった。
「よし、決めたぞ」
「おお、そうなのですか」
 店の奥からトルコの服を着た男が出て来た。とはいっても髭はそのままで服はいつものメンゴーネの服で頭にターバンを巻いただけである。
「決められたのですね」
「トルコの方ですか?」
「見ておわかりですよね」
「ええ、まあ」
 センブローニョはとりあえずターバンだけで判断した。
「そう見受けますが」
「如何にも私はトルコ人です」
 ここでも言い繕うメンゴーネだった。
「いや、薬剤師を探してこのミラノまで来たかいがありました」
「そうでしたか」
「それでです」
 メンゴーネはトルコ人に化けたまま話を続ける。
 
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