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剣の丘に花は咲く 

作者:5朗
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第八章 望郷の小夜曲
  第一話 ゆ、夢?

 
前書き
 ギャグ六割シリアス一割エロ三割。

 下ネタ多し、注意せよ。

  

 
―――っきろ……きろっ―――

 遠くから聞こえる声に、士郎は沈んでいた意識が浮かび上がるのを感じていた。ぬるま湯の中にいるような、微睡みに揺られながら、ゆっくりと意識が覚醒していく。何時までも眠っていたいと思いながらも、遠くから聞こえる声に、目を覚まさなければという強い思いに押され、意識が覚醒に進む。

―――っきなさいって……―――

 遠くから響く声は、段々と強く厳しくなっていく。士郎は、強く大きくなる声に焦りと恐怖を感じ、必死に起きようとするが、浮上する意識の覚醒は早まらない。
 そして、

「起きろって言ってんでしょっ! この間抜けっ!!」

 瞼が開き、目を覚ました士郎の視界に飛び込んできたのは、眠る自分に拳を振り下ろす、

「っぐはっ!?」

 遠坂凛の姿だった。











「凛……いくらなんでも殴ることはないだろう」
「わ、悪かったわよ。でも、何時までたっても起きないあんたも悪いのよ」

 日が差し込む縁側を歩きながら、士郎は前を歩く凛に文句を言う。
 昔はツインテールだった黒髪は、今はストレートに伸ばされて目の前をサラサラと耳障りのいい音を立てている。前から美人だったが、歳を経るごとにその美貌は磨かれ続け、今ではもう圧倒される程の美しさをたたえていた。その美しさは、怒りでふくれていてもなお、人を魅力するほどの美しさがあった。
 殴られた腹を撫でながら、恨み混じりの声を掛けるが凛は振り返ることなく大きく足音を立て歩いている。悪かったと口では謝っているが、むくれている様子が後ろからでもありありと伺え、そんな凛の様子に、士郎は恨みがましく睨みつけていた目を和らげると、ふっと口元に笑みを浮かべた。

「ま、確かにそうだな。起きない俺が悪かったな」
「っ……そ、そうよっ、あんたが悪いんだから……でも……」

 不意に立ち止まる凛。士郎は何とか凛の背にぶつかるギリギリの所で止まる。

「おい、どうし――」
「……ちょっとやり過ぎた……ごめん……」
「―――ぇ……」

 振り返った凛は、上目遣いに見上げ、微かに頬を染めながら小さく謝った。殴られた腹に手を当て、しょんぼりとした様子を見せる凛の姿に、士郎は戸惑ったように固まる。凛はそんな士郎の様子に気付いているのかいないのか、士郎の腹に触れる手を、ゆっくりと動かし始める。

「っ、ちょ、ちょっと待て凛っ」
「痛かった……わよね……うん……やっぱやり過ぎた……でも、本当にあんたが悪いんだから」
「……凛」

 むくれたように文句を言いながらも、凛は腹を撫でる手を止めない。士郎は腹に触れる凛の手を止めようと手を伸ばそうとする。しかしそれは、泣きそうな凛の声で止められることになった。凛は戸惑うように視線をうろうろとさせる士郎の身体に手を回すと、優しく抱きしめた。

「……いっつも突然出て行って……戻ってくる時も……心配するんだから……寂しいん……だから……」
「……すまない……俺は……」

 見つめ合う二人。二人の間に抜ける陽光が、段々と窄まっていく。

「……士郎」
「……凛」

 覗く陽光が消える瞬間。

「何やってるんですか姉さん」

 鋭くも粘ついた声がそれを止めた。

「「ッ!?」」

 横から響いた声に、同時に飛び離れる士郎と凛。合わせるように、ぎりぎりと顔を声が聞こえてきた方に向けると、そこには包丁を片手ににこやかに笑うエプロン姿の桜の姿があった。
 可愛らしい桜色のエプロンを身に付けた桜は、優しげに微笑むその顔に相まって、まさに新妻といった姿である。しかし、昔からさらに洗練された容姿は、清純な顔立ちでありながら、背筋をゾクリとさせるほど色気を纏っている。

「さ、桜」
「何ですか?」

 そんな思わず見惚れてしまうほど可愛らしい姿であるが、士郎と凛は、別の意味で目を離すことが出来なかった。色々と理由はあるが、一番分かりやすいのは、二人の視線の先にあるそれ。二人の視線は、桜の右手に注がれている。そこには朝日にギラつく……包丁の姿が。
 ヒクつく顔で、士郎は桜の右手にある包丁を指差す。指差す手が震えている。士郎の震える声の問いかけに、桜は笑顔で小首を傾げた。

「な、何で包丁を持っているんだ?」
「不思議なことを言いますね」

 心底不思議そうな顔を浮かべた桜は、ゆらゆらと包丁を握る手を揺らしている。

「料理をするためじゃないですか?」
「いや、そうだが、俺が聞いているのは、台所でもないのに、何で包丁を持っているかと……」
「だから……言っているじゃないですか……料理をするためだって」

 桜は未だ不思議そうな顔を浮かべながら、士郎の問いに答える。その視線は段々と士郎の横にいる凛に移動していく。凛は士郎と同じくカタカタと身体を小刻みに震わせている。
 そんな姉の様子に、桜はうふふと笑うと、軽い調子で士郎に笑い掛けた。

「知ってますか士郎さん。猫って結構美味しいんですって。だからちょっと食べてみませんか? ほら、丁度いいことに……目の前に泥棒猫もいることですし」
「ちょっと待てえええええええええええっ!!」
「ご、ごめん桜ッ!! ひ、久々だったからちょっと舞い上がってて! お、落ち着きましょっ! ね、お願いだらか落ち着いてえええぇぇぇっ!!」

 桜の暗い笑みに、二人が慌てて騒ぎ出す。
 と、

「っぷっ」

 そんな慌てる二人を止めたのは、その原因である桜の笑い声だった。

「あはははははは……あは……ふふ……もう、姉さんったら。冗談に決まってるじゃないですか。そんなに慌てなくても大丈夫ですよ」
「あ、あははは……そ、そうよね……冗談よね」
「ま、全くびっくりさせるな桜は……」

 安堵に膝を着きたくなる二人を尻目に、くるりとエプロンを翻し背中を向けた桜が、居間に向かってある始めた。士郎と凛の二人は、そんな桜の後を付けるように、歩きだそうとしたが、

「ああそうそう……二人共……後でお話がありますので、食事の後わたしの部屋に来てくださいね」

 立ち止まり顔だけ振り向いた桜の言葉に、再度足を止め固まる。

「……来ないと……本当に食べちゃいますよ」

 可愛らしく小首を傾げ笑いかける桜の白い肌に、黒い何かが映ったのを、かたかたと小動物のように震える二人は確かに見たのだった。













「おかわり」
「はいどうぞ」
「士郎、あれとって」
「ほら」
「ありがと」
「桜、それとってくれないか?」
「はいどうぞ」
「サンキュ」

 広い居間に置かれたテーブルには、今三人の姿があった。
 その十人は囲めるテーブルに、士郎を挟むように座る凛と桜は、手馴れた手つきでそれぞれの声に答え、食事を勧めている。時折会話をしながら食事をとっていた士郎が、不意に箸を止めると、首を傾げた。

「ん~……なあ桜。これ何の肉なんだ?」
「え? どれですか?」
「これだ。何処かで食べた記憶はあるんだけど……ちょっと思い出せなくてな。他のも、何処かで食べた記憶があるんだけど……名前が出てこなくてな」

 士郎が指差すのは、ズラリと並んだオカズの中の一つだった。自身も料理をし、数多くの料理を食材を知る身であるが、あまり覚えのない味に、その料理を作った桜に問いかける。

「ん……どれどれ? ちょっと食べさせて」

 士郎の横から箸を伸ばした凛は、士郎が指差す料理を端で掴むとパクリと口に入れた。

「ん~……確かに今まで食べたことのない味ね。何かしら……弾力があって……ちょっと生臭いような……んっく……で何なのこれ?」

 もぐもぐと口を動かしながら、うんうんと首を傾げる凛は、ごくんとそれを飲み込むと桜に問いかける。
 桜はうふふと口元に手を当てると、恥ずかしそうに頬を染め、

「オットセイのペ○スです」
「「ッぶほぁっ!!??」」

 とんでもないことを口走った。
 士郎とともに吹き出すが、凛は既にそれを飲み込んでおり、畳に手をつきいくらむせようが、何も出ては来ない。 

「お、おおおおオットセイのペニ○って、な、何てものを食べさせるのよあんたはっ!?」
「精力抜群ですっ!」

 両手で握りこぶしをつくり、ふんふんっと鼻息荒く頷く桜に、勢い良く立ち上がった凛は絶叫のような文句を言う。

「私は何でそんなものが朝食に出てるのかっ? 何でそんなものを食べさせるのかって聞いてんのよっ!?」
「何でって決まってるじゃないですか。士郎さんが帰ってくるのって久しぶりですし……何時また出て行くか分からないですし……やれる時にやらなくちゃ……って、何言わせるんですか姉さんっ。もう、恥ずかしいなぁ……」
「そんなんで恥ずかしがる奴が朝食にオットセイのペ○ス何か出すんじゃないわ~っ!!」
「それだけじゃないですよ?」

 え? 何言ってんの? みたいな顔で首を傾げた桜は、は? と唖然とした顔をする凛の前で、テーブルに並べられた皿を一つ一つ指差しながら説明を始めた。

「えっとですね、これが蠍の天ぷらで、こっちは蜂の子の甘露煮。で、ちょっと高かったんですけど、、これが冬虫夏草のスープ。他にもこれが――」
「ストップ」
「何ですか姉さん?」
「桜……もしかして今日の朝食って全部……」

 凛の恐る恐るとした、怖いけど聞かなくてはといった体の問いかけに、桜は目をキラキラと輝かせながらうんうんと頷いて見せた。

「はいっ!! 精力増強に効果抜群ですっ!! 漢方薬のお店の人も、『これを食べれば百歳のじじぃでも鉄の棒のようにカチンコチンだっ!!』って言ってましたっ!!」
「あんたは何がしたいのよっ!!!??」

 髪を振り乱し、凛が絶叫を上げると、桜は一度きょとんとした顔になると、ああっ! とぽんと手を叩き、優しく凛に笑い掛けた。

「心配しなくても、仲間はずれなんかにしませんよ。もちろん姉さんも一緒です。既に準備は整っていますっ!! 食事が終わったらそのままわたしの部屋に直行ですっ!!」
「なっななんあっ……何言ってるのよあんたっ!!?」
「もうっ姉さんったら。別に三人でするのは初めてじゃないんですから……そんなに恥ずかしがらなくても」
「そ・う・い・う・問題じゃないでしょっ!!」

 地団駄を踏み、凛は畳を揺らしながら叫ぶ。

「士郎も何か言ってやりなさいっ!? ……士郎? 士郎?」
「あれ士郎さん?」

 後ろを振り向いて士郎にも桜に何かを言わせようとした凛だったが、視線の先には後ろでむせていた筈の士郎の姿がなかった。
 桜も同じように首を左右に振り士郎の姿を探していると、

「……何やっているの衛宮くん?」
「……何処に行くつもりですか先輩?」

 ほふく前進で進んだのか、縁側に続く障子の前でうつ伏せの状態で、手を障子に伸ばした状態の士郎がいた。
 士郎は背中に突き刺さる二つの視線に気付き、凍りついたように動きを止めていた。
 二人の恐ろしい程平坦な声に、ゆっくりと振り返った士郎は、頼りない障子を背にするように身体を動かした。

「お、落ち着け二人共」
「変なことを言うわね」
「そうね姉さん。……これ以上ないくらい落ち着いているっていうのに」

 先程までの喧嘩を全く感じさせない和やかな様子で笑い合った二人は、ゆっくりと士郎に近付いていく。
 にこやかに笑い近寄る二人に、底知れぬ恐ろしさを感じた士郎は、迫る二人から出来るだけ逃げようと両手を突き出す。

「え、え~と……その……な、お、落ち着け」
「ですから「だから落ち着いてるわよ」ますよ」

 士郎の口から悲鳴が漏れそうになった瞬間。

「シェロッ!!」

 スパンッと鋭い音と共に、士郎の背後の障子が開いた。障子に寄りかかっていた士郎は、突然開いた障子に身体のバランスを崩され後ろに倒れる。

「いっ、つつ」

 縁側の床に倒れた士郎は、倒れた時に打った頭を手で抑えながら薄目を開く。

「―――あっ」

 開いた視線の先には、白く細い足の姿が。

「シェロ?」

 段々と視線を上に上げると、そこには魅力の光景が……。
 闇の中でさえ存在感を示す黒いレースの下着の姿があった。

「る、ルヴィア?」
「まあ…………大胆ですわね」

 ぽっと頬を染めると、ルヴィアは頬に手を添え、股の間に顔を置く士郎に微笑みかけた。
 豪奢に輝く金の髪を、縦にロールした絢爛な美貌の持ち主―――ルヴィアは、足を曲げ倒れる士郎の身体を抱き起こす。

「シェロ……お久しぶりです……もう、わたくしをこんなに心配させるなんて……いけない人」
「あ、ああ。そ、それはすまなかっわぷ!」
「いえいいのですっ!! あなたが今、こうしてわたくしの胸にいるのですからっ!!」

 ルヴィアの豊かな胸に抱き寄せられた士郎は、もごもごと顔と身体動かすが、身体を拘束する力が思いのほか強く、向け出すことが出来なかった。
 士郎の身体の動きを胸と両腕で封じたルヴィアは、そのままの状態で立ち上がると歩き出した。 

「さあ行きましょうシェロっ!! 既に最高級のスイートルームを予約してありますっ!! 今すぐ二人の愛を確かめに行きましょうっ!!」
「何かってに持っていこうとしてんのよッ!!」

 士郎を持ち去ろうとするルヴィアを止めたのは、活歩からの凛の崩拳だった。明らかに達人の域にある拳打だったが、ルヴィアはそれを片手で受け止めた。明らかに不意打ちである攻撃を、冷静に受け止めたルヴィア。それはルヴィアが凛より実力が上と言うよりも、明らかな慣れを感じる。

「あらリン。いきなり無粋ですわね。愛する二人の行く手を阻むなんて」
「誰が愛する二人だっ!! 明らかに誘拐じゃないのっ!!」

 ルヴィアの胸に顔を埋め、ぴくりとも動かなくなった士郎を指差し、凛は激昂する。ルヴィアはそんな凛の様子に、自身の胸からでている士郎の後頭部をぽんぽんと叩くと、誇るように胸を張った。

「オホホホホッ!!! シェロの何処に嫌がっている様子が見えますのっ!!?」
「明らかに死に体じゃないそれっ!! さっきからピクリとも動いてないわよっ!! いいから放しなさいっ!!」

 士郎の身体をルヴィアの胸から引きずり出した凛は、そのまま士郎の体を背後に放り投げる。畳の上落ちた瞬間、鈍い音が聞こえた気がしたが、凛は振り返ることなくルヴィアを睨みつけていた。

「何をするの!! さっさとシェロを寄こしなさいっ!!」
「何であんたに士郎を渡さなきゃなんないのよっ!! 全く、食事中に上がり込むなんて常識がないんじゃないのっ!!」
「食事中? ああ、そのテーブルの上にある貧相なものが朝食ですか?」
「……貧相……ねぇ……そういうことは食べてから言いなさいよっ!!」

 蔑むような目でテーブルの上に並べられた料理を見下ろしていたルヴィアに、凛は邪悪な笑みを浮かべると、とある皿を掴みルヴィアの前に突きつけた。

「何ですかこれ? まさか食べろとあなたは言うのですか?」
「ええその通りよ。文句を言うなら、食べてから言いなさいよ」

 皿を突きつけ吠える凛に、むっと押されたように一瞬黙り込んだルヴィアだったが、負けてたまるかと不敵な笑みを向けた。皿に添えられていた箸を掴むと、皿の上に乗っている料理を掴み、それを口に運ぶ。

「ん……く……ん……っ……やっぱり貧相ですわね。ゴムのように固くて、生臭い……酷く不味いですわね……何ですのこれは?」

 白いハンカチで口元を吹きながら、ルヴィアは凛を睨みつける。
 凛は睨みつけてくるルヴィアをふふんっと鼻で笑うと、にやにやと笑いながら口を開いた。

「オットセイの○ニスよ」
「っばふっ!!」

 爆発したように吹き出したルヴィアは、その勢いのまま畳に手を着くと、激しくむせ始めた。

「っゲホッゲホッ!!? っ……なっ何ていうものを食べさせるのですあなたはっ!!」
「あ~ら、高貴なお貴族さまにはちょっとばかり刺激的だったかしら」

 憤怒に顔を歪ませたルヴィアが、顔を上げ、にやにやと笑い見下ろしてくる凛を睨み付ける。

「刺激的とかそういう話じゃありませんわっ! 一体全体どうして朝食にこんなものが出るのですかっ!!?」
「私が知るかぁッ!!」

 怒鳴りつけてくるルヴィアを逆に怒鳴りつける凛。

「何であなたが怒るのですかっ!?!」
「私だって知らなかったのよっ!! 何で朝食にオットセイのペニ○を食わにゃあいかんのよッ?!」
「……あなたも食べたのですか」

 涙目で叫ぶ凛に、怒りで頭に上っていた血が少し落ち、ルヴィアはその分冷静さを取り戻した。凛はぷるぷると身体を震わせながら、地団駄を踏み叫ぶ。

「そうよっ!! これだけじゃないわよっ!! 蜂の子もっ! 蠍もっ! 冬虫夏草もっ!! 他にも色々っ!!」
「……あなたも大変ですわね。じゃあ、これを作ったのは、やはり―――」
「桜よ」
「サクラね」
「「………………」」 

 二人の視線が交わり……沈黙が満ちる。
 睨み合う二人の視線が、テーブルにズラリと並ぶ料理に移動し、

「「……はぁ」」

 示し合わせたように、二人はガクリと首を落とし、溜め息を吐く。

「今日の朝食は一人で作ると言った時から怪しいと思っていたのだけど……まさかここまで直接的なものを出すとは……」
「ですが仕方ないんじゃありませんの。シェロが帰ってくるのは久しぶりですし、その分張り切ってしまったのでしょう…………ちょ、朝食がこれと言うことは、も、もちろんしぇ、シェロもこの料理を食べたと言うことですわよね?」
「……まあ、そうだけど……何期待してんのよ」

 微かに頬を染めながら、あさっての方向を向いて何気ない様子で尋ねるルヴィアを、凛はジト目で睨み付けた。ルヴィアは凛の視線から逃れるように、テーブルの料理に顔を向ける。

「き、きき、期待なんかしてませんわよっ!! た、ただ……噂に聞くこれ(・・)の力がどれほどのものかと……そ、そうですっ!! 純粋な学術的興味からですわッ!!」
「一瞬で分かるような嘘をつくなっ!!」
「嘘とは失礼ですわねっ!!」
「誰がどう聞いても嘘じゃないっ!!」
「それはあなたの頭が可笑しいからですわっ!?」
「そんなことはないわよっ!! ほらっ士郎もそう思うでしょっ!! 言ってやりなさい! この色ボケ発情貴族にっ!! あんたのほ……う……が? って士郎は?」
「シェロっ!! どう聞いてもリンっの方が可笑しいです……わ……あら? シェロは何処に?」

 二人は額が触れ合いそうな程の至近距離で怒鳴り合っていたが、同時に士郎がいるはずの場所に顔を向けた。しかし、そこには士郎の姿はない。凛がルヴィアの手から取り戻した時、投げ捨てた筈の場所には、士郎の姿は何処にもなかった。二人の首が同時に傾げた時、背後からふすまが開く音が聞こえ。二人が背後を振り向くと、そこには、ぐったりとした士郎を引きずる桜の姿があった。

「桜っ!!」
「サクラッ!!」

 二人の声に、桜はビクリと身体を震わせると、恐る恐るといった様子で顔を上げた。

「見つかっちゃいましたか」

 えへへと苦笑いしながら桜は小首を傾げる。

「『見つかっちゃいましたか』―――じゃないっ!! 何やってんのよあんたはっ!?」
「シェロを何処に連れて行こうとしてるのですかっ!?」
「私の部屋ですけど?」

 何当たり前のことを聞くんですか? と不思議そうに眉根を寄せた桜に、凛とルヴィアが詰め寄っていく。肩をいからせ近付いてくる二人の様子に、桜は『やれやれ』と肩を竦めてみせる。

「っもうっ、仕方がないですね。なら四人でしましょうか」
「「何言ってんのあんたっ?!」あなたはっ?!」

 朗らかに笑いながらとんでもないことを宣う桜に、凛とルヴィアが声を合わせ突っ込む。

「何が『なら』なのよっ!! どうしてあなたはこうっ! ああっ! もうっ! 何なのよあんたはっ!!」
「どうしていきなりそんな話になるのですかっ!! 前々から油断ならない方だと思っていましたが、もうそう言った次元の話じゃありませんわよっ!!」
「全くもう、何をそう興奮しているんですか姉さん達は? 私はただ、そんなに文句を言うのなら、もういっそ全員でやりましょうと言っているだけじゃないですか。大丈夫ですよ士郎さんなら。士郎さんの実力なら、私たち四人でも足りないぐらいなんですから」
「そんな心配はしちゃいないわよっ!!」
「そんなことは、とうの前から知っていますわよっ!!」

 ぎゃあぎゃあと今にも掴みかかってきそうな雰囲気で声を上げる二人を見て、桜は『まあまあ』と両手で迫る二人を押さえた後、白く長い人差し指を自身の唇に当てる。そしてにっこりと可愛らしくも妖艶な笑みを浮かべた。

「ふふふ……そんなに恥ずかしがらなくても……四人でするのは初めてってわけでもないじゃないですか」
「っそ、それはっ?!」
「さ、サクラ、あ、あなたと言う人は……っ?!」

 桜のとんでも発言に、凛とルヴィアは顔を真っ赤に染め上げ後ずさった。しかし、後ずさる二人を追うように、士郎から手を離した桜が距離を詰め寄る。にこにこと目を細め二人に近づく桜の微かに開いた目が、淫蕩に暗く輝いていた。
 逃げるように下がる二人の顔が、怯えるように震えている。

「あらあら、何を怯えているんですか二人共?」
「お、おお怯えてなんかいないわよっ」
「な、なな、なな何を言っているのかしら?」

 部屋の隅に追い詰められた二人は、恐怖でヒクつく笑みを浮かべている。

「このメンバーでするのは久しぶりですね。大丈夫です。こういうこともあろうかと、色々と道具(・・・・・)を用意していますから」
「「道具って何っ?!」ですか?!」

 仲が悪いはずの二人が、互いに寄り添い仲良く悲鳴を上げた瞬間。

「士郎はいるかいっ!!」
「蒔の字、チャイムも押さずに入るのは正直どうかと思うぞ」
「もう蒔ちゃんったら、もう少し落ち着こうよ」

 スパンと障子が開き、中から三人の女性が飛び込んできた。
 一人は健康的な褐色の肌の二十代半ばの女性。Tシャツにジーパンとラフな服装から覗くスラリとした手足には、しなやかな筋肉が程よくつき引き締まり健康的な色気に溢れていた。肩まで伸びた黒髪が、身体の動きに合わせ活発に動いている。歳は二十代中頃に見えるが、キラキラとやんちゃな子供のように輝く瞳により、年齢よりも随分下に見せていた。
 その後ろにいるのは、眉根を寄せて溜め息を吐く理知的な美貌を持つ二十代半ばの女性。白いワイシャツに黒いスラックスという女っ気のない服装からでも分かるメリハリの効いたスタイルは、十分以上の色気を放っていた。丸いメガネのブリッジを白く細い指の先で持ち上げ、目の前で元気よく声を上げる褐色の女の行動に、眉根を寄せ溜め息を吐いている。
 一番後ろに立っているのは、白いワンピースを着た、ふわふわした雰囲気を身に纏った二十代半ばの女性。前を歩く二人を何処か困った顔を浮かべながらも、見つめる目は優しく穏やかであった。困ったように小首を傾げる度に、背中まで伸びた髪がゆらゆらと揺れている。

「ええいっ黙れ黙れっ! こちとら朝飯を食わずにここまで来たんでえぃっ! ネタは上がってるんだぜっ! さっさと士郎を出して飯を作らせやがれえぃっ!」
「蒔ちゃん言ってること無茶苦茶だよぉ~」
「そう言ってやるな由紀恵。久しぶりに士郎に会えると興奮しているんだ。テレと恥ずかしさを勢いで誤魔化しているということだ」
「ななななっ何言ってやがるメ鐘っ!! あた、あたあたしが何で士郎に会えるかもしれないからって嬉しがっているっていいい、言うんだよっ!!」
「士郎が帰ってきているかもしれないと聞いて、にやにや気持ち悪いほどニヤついていただろう」

 氷室の冷静な声に、蒔寺は勢い良く振り返ると、ワタワタと両腕を振り真っ赤に染まった顔でどもりながらも抗議の声を上げた。それを氷室は眼鏡のブリッジを押し上げ見つめ、にやにやと口の端を曲げ笑っている。

「ななな、何言って……っく、そ、そう言うあんただって、何時も以上に気合の入った化粧をしてっ!! し、知ってるぞっ! その野暮ったい服の下は、気合入れた勝負下着だってことをっ!!」

 氷室にいじられ真っ赤な顔で怒鳴り声を上げていた蒔寺だったが、にやにやと笑う氷室を勢い良く指差した。蒔寺が口にした言葉に、氷室はニヤついた笑みを浮かべていた顔を真っ赤な染め上げ動揺の声を上げる。

「なっ!! ななな何でそれを知っているっ!!」
「へんっ! あんたが部屋で下着を床に並べて、うんうん唸ってるのを覗いてたんだよっ!」

 ゴンゴンと額をぶつけ合い睨み合う二人。

「~~っっ!! 蒔の字ぃ~~ッ!!」
「~~っっ!! メ鐘ぇ~~ッ!!」

 一触即発の二人。いつ掴み合いが始まるか分からない空気の中に、

「二人共……怒るよ」
「ご、ごめん由紀っち」
「……す、すまない」

 にっこりと笑いながらの優しい声であったが、その下には何か固いものがあった。
 今にも始まりそうであった空気は一瞬にして霧散し、二人は肩を組んでにこにこと穏やかな顔で笑う三枝に頭を下げていた。三枝はそんな二人の様子を見ると、頬に人差し指を当て苦笑を浮かべた。

「久々に士郎くんに会えるからって、二人共興奮しすぎだよぉ。ね、もう少し落ち着いて。ほら、深呼吸深呼吸、すぅ~はぁ~、すぅ~はぁ~……ね、少しは落ち着いた?」

 頭を下げる二人の前で、三枝は胸に手を当て大げさな仕草で深呼吸をしてみせた。ほのぼのとする三枝の行動に、二人の頭の中が少しはクールダウンしたのか、先程までの興奮が収まっている。

「すまねぇメ鐘。腹減りすぎてさ、ちょっとイライラしてた」
「私も同じだ。すまないな蒔の字」

 頭を互いに下げ合う二人。そんな二人を見た三枝は、にこにこと笑い笑いながらうんうんと頷いていると。

「へぇ~こりゃ何だろ? コリコリして、生臭くて……ん~初めて食べた感触だな。モグモグ……んっ……ごく……」
「ああ確かに、これは何の肉だ? えらく生臭いが……何かの干物か?」
「って二人共何してるのっ?」

 仲直りした二人の姿に、三枝がうんうんと頷いている間に、氷室と蒔寺の二人は、ちゃっかりテーブルの前に座り、置いてあった料理を口にしていた。目を真ん丸に見開き、驚きを示す三枝は、テーブルに置かれていた料理をもぐもぐと食べている二人に詰め寄ると、腰に手を当てると二人にぐっと顔を近づけた。

「もうっ! 二人共人の家のご飯を勝手に食べちゃだめでしょっ!」
「そう言うなよ由紀っち。こちとらもう腹ペコで死にそうなんだよ」
「んぐんぐ、ふむ。蒔の字の言う通りだ。由紀恵も朝食はまだだろう。何か腹に入れたほうがいいぞ。これなんてどうだ。今まで食べたことがないような感触がするぞ。さすが衛宮邸だな。由紀恵もこれは食べたことはないと思うぞ」

 氷室がもぐもぐと口を動かしながら、後ろに立つ三枝に手に持った料理の皿を向ける。知らない料理ということに、三枝はいけないと思いながらも、ついついそれに手を伸ばしてしまう。

「え? そうなの? じゃ、じゃあ一口だけ……ぁん……ん~……ん? 本当だ。何だろこれ? くにくにしてて……ちょっと苦いな……生臭い? ん~下処理が出来てないのかな? でも、そんな筈はないだろうし……何だろこれ」
「「「オットセイのペニスよ」です」ですわよ」
「ぷボッ!!?」
「ぶはっ!!?」
「っ!!?」

 三枝が首を捻りながら疑問の声を上げると、今まで黙って三人のやり取りを眺めていた凛と桜とルヴィアが唐突に響いた。その三人の言葉のとんでもない内容に、もぐもぐと料理を食べていた蒔寺と氷室は目を見開き、激しくむせ始めた。

「っご~ほっごほごほ、げぼっ、げっほ……っ!? っ?! っ?! ぺ、ペ○スだとォオオッ!! な、なな、何でんなもんが飯に出てくんだよぉおっ??!」
「っ!? っ?? こほっ!? けほっ!? な、何故オットセイのペニ○?! なな、何でそんなものが朝食に出てるんだっ?!」
「…………」

 畳に両腕をつき、激しくむせながら、氷室と蒔寺が自分を見下ろす三人を睨み付け怒声を上げる。三人はそんな二人を呆れた目で見下ろしていたが、不意にその隣に倒れているもう一人に視線を移動させた。

「え~と……文句を言うのは言いんだけど」
「何だよ凛っ!! くそっ! 信じらんねぇっお、オットセイのチ○コを食っちまうなんてっ!?」
「○ンコ言うな蒔の字ッ!! 全く衛宮邸が色々と規格外だとは理解していたが、まだまだ認識が甘かったと言うことだな。朝食でまさかオットセイのペニ○が出てくるとは……」
「……隣の由紀香は大丈夫なの?」
「え?」
「は?」

 ぎゃんぎゃんと叫んでいた二人だったが、ポツリとした呟きに似た凛の言葉に、は? と口を半開きにした後、後ろを見てみると、

「由紀っち「枝ッ!!?」」
「……ひぅ~~……」

 そこには顔を真っ赤にぐるぐると目を回して気絶している三枝の姿があった。
 蒔寺と氷室が目を回している三枝に近寄ると、がくがくと身体を揺する。

「ゆ、由紀っち死ぬなっ!! くっそ~っ!! 一体どうしてこんなことに……っ!? 仇は絶対に―――」
「ちっ! 由紀香気をしっかり持てっ!! 誰がこんなことを……っ!? 仇は必ず―――」
「桜よ」
「「諦めるしかねぇな」ないな」

 憤慨する二人だったが、凛の冷静な声に、前言を華麗なまでに翻した。
 畳に両手をつき、項垂れながら二人の視線は凛の隣に小首を傾げながら立つ桜に向けられる。

「何でこんな料理を作ったのかって……まあ、言うまでもなねぇか」
「くっ! 士郎が帰って来たと聞いて、桜が何もしないわけがなかったか……っ」

 無念そうに呻く二人だったが、元凶たる桜には直接何かを言うわけではなかった。そんな二人の様子に、桜はえへへと頬に手を添えながら笑い。

「えっと……美味しかったですか?」
「っッうっさいこの色ボケっ!!」
「いくら何でもこれはないだろうっ!!」

 しかし、桜の何でもないような様子に、流石の二人も頭にきたのか、声を大きく上げながら立ち上がった。怒り心頭に迫る二人を、桜は穏やかな顔で見つめている。しかし、三枝の人を優しい気持ちにさせる笑みと違い、桜の浮かべる笑みは人を不安にさせる何かがあった。
 氷室と蒔寺はそんな桜の笑みにうっと一瞬怯んだが、背後に倒れる三枝を思い決死の顔で立ち向かっていく。

「美味しい美味しくないって言ったらまあ美味しかったがっ!! あたしが言いたいのは何で朝食にオットセイのチン○が出てるんだっ―――」
「蒔の字だからチ○コは止めろと言っているだろうがっ!! ええいっ! 桜の考えは分かるが!! せめてそういうのは士郎にだけだせっ!! 平然と食卓に並べるんじゃないっ!!」
「もう……そんなに興奮しないでもいいじゃないですか。仕方ありませんね。なら氷室さんたちも一緒にまざりますか?」
「「「「何でそんな話になるんだッッ!!?」」」」

 桜のマイペースな発言に、その場にいる気絶した三枝の以外の全員の声が響く。

「こ、ここにいる全員って何考えてんのよ桜っ!!」
「ああ、あんた色ボケ色ボケ思っていたが、もうそんな話じゃねえっ!! 淫獣じゃお前はっ!!」
「いくら何でもここにいる全員はないだろうっ!! 何を言っているんだ君はッ!!」
「そうですっサクラっ!! 人が多過ぎるとその分取り分が減ってしまいますわっ!!」
「「「そう言う話じゃないだろっ!!」」」

 ぎゃあぎゃあと騒がしくなる中、自分を落ち着かせるように小さく溜め息を吐いた凛は、後ろを向いてそこに居るはずの士郎に事態の収集を放り投げようとしたが、

「……あれ、士郎は?」
「「「「え?」」」」

 そこには誰の姿がなかった。













「もうっビックリしちゃった。シロウの家に行ったらあんな騒ぎになっているなんて……でも、相変わらずモテモテねシロウ」

 まな板の上の鯉のように、転がっていた士郎を助けたのは、今士郎も前をくるくる回りながら歩いている、銀色の髪を陽光に煌めかせながら朗らかに笑う少女だった。
 士郎を救出した少女は、そのまま士郎を家から連れ出し、今は青空が広がる下を歩いている。

「いや、本当に助かったよ。あのままだったらどうなっていたことか……」
「んふふ……でも、実は助からない方が良かったかもって思ってたりして~」
「言ってろ」 

 ん~? と上目遣いで見つめてくる少女に、士郎ははぁと溜め息を付きながらも苦笑を浮かべる。
 少女はそんな士郎の様子を見てクスクスと小さく笑うと、くるりとスカートを翻しながら士郎に向き直った。

「んっふっふ~……本当かなぁ?」
「本当だって言ってるだろ―――イリヤ」






「で、どうしてあんな事になっていたのよ?」
「あ~……それはだな……その……何というか?」
「何というか?」

 無邪気な笑顔で見上げてくるイリヤに、口ごもる士郎。士郎の様子に眉根を寄せて考えるイリヤだったが、家から脱出する際に聞こえてきた怒声の内容を思いだし、無邪気な笑みを苦笑に変えた。

「あ~……もしかしてサクラがまた何かやったの?」
「……ああ」
「そっか……なら仕方ないわね。それじゃあ、家に変えるのは時間が必要ね」
「そうだな。落ち着かない内にあの家に戻るのは正直ゾッとしないな」

 ぶるっと身体を震わせる士郎に、イリヤは目を細め笑うと、手を取り走り出した。

「なら私と遊びましょうっ!! 行きたいところが一杯あるのっ!」
「お、おいイリヤっ!!」

 急に手を取り走り出したイリヤに、慌てる士郎だったが、満面の笑みを浮かべ走るイリヤを見つめるうちに、強張っていた身体から力が抜け始めた。

 自分の手を握る、白く小さな手。 

 日の光を反射させ眩いほどの輝きを見せる銀の髪。

 抱きしめれば折れそうなほど小さく華奢な身体。

「……ぁ?」

 不意に視界が滲むのに気がつくと、頬に濡れた感触を感じた。走りながら空いた手で頬に触れると、指の先に湿った感触がある。

「なみ、だ?」

 小さな背中が、元気よく走っている。
 それを滲んだ目で見つめながら、士郎は不意に湧き上がってきた感情に戸惑うような声を漏らした。

 喜び。

 悲しみ。

 寂しさ。

 懐かしさ。

 安らぎ。

 不安。

 突如湧き上がってきた感情に、心が千々に乱れる。
 何故そんな気持ちになるか分からず、戸惑う士郎を導くように、明るい声が響く。

「そう言えば言ってなかったね!」 

 肩ごしに振り返り笑いかけてくるイリヤの笑顔は、

「シロウッ! お帰りッ!!」

 眩いほど輝いていた。


 











「んっ~~っ! 遊んだ遊んだっ!! 遊びすぎてもう日が暮れちゃったねっ!」
「ああ、これは家に帰るのが少し……いやかなり怖いな……」

 背伸びをしながら川原を歩くイリヤの隣りを、肩を落としながら足を引きずるように士郎は歩いていた。青空は茜色に変わり。日は遠くに見える山に沈むように、その姿を揺らめかせている。涼やかな音を響かせる川に、滲んだ夕日が写りこんでいる。

「だったら私の城に来る? セラやリズも歓迎してくれるわよ」
「あ~……リズはともかくセラがな……何でか知らないが、当たりが強いんだよな」
「何か覚えはないの?」
「…………ありすぎてどれだか……」
「全くシロウはもう」

 ますます肩を落とし意気消沈の様子の士郎に、イリヤはくすくすと笑い声を上げると急に駆け出した。士郎から三メートル程離れた前まで行くと、走るのを止めたイリヤは、後ろに手を組みながら、歩き始める。夕日と川から反射してくる夕日の光り。二つの夕日を受け、イリヤの身体が紅く燃えるように光っているかのようだった。
 士郎の前を、イリヤは小さく笑いながら歩いている。

「―――ねぇシロウ……今日は……楽しかった?」

 唐突にイリヤが足を止めると、それに合わせるように士郎も足を止めた。
 イリヤが上げた声は、先程までの明るい笑い混じりのものではなく。何処か縋るような必死な気配が満ちていた。

「ああ。もちろん楽しかったよ」

 それに気付いていた士郎だったが、何でもないような声色で、笑いながらイリヤの問いに応えた。

「そっか……楽しかった……か」

 士郎の答えを噛み締めるように口にしたイリヤは、風に揺れる髪を片手で抑えながら振り返り、優しく士郎に笑い掛けた。

「なら……ずっとここに居ようよ……シロウ」

 士郎を見つめるイリヤの顔をは、穏やかで優しく、包み込まれるような暖かさに満ちていた。柔らかに弧を描く細めた目には、慈しみと労わりが溢れ。かける声は、愛おしさに満ち満ちていた。
 何処からどう見ても小さな少女にしか見えないのに、纏う雰囲気は、まるで子を見守る母親のような雰囲気だった。
 誰もが頷きたくなる、そんな誘いを士郎は、

「それは出来ない」

 拒絶した。















「どうしてって……聞いてもいい?」

 拒絶の声をかけられても、イリヤは穏やかな顔のままであった。それは、笑っているが、今にも泣き出しそう雰囲気を纏う、士郎が目の前にいるからなのか。優しく士郎に再度問いかけるイリヤ。
 士郎はそんなイリヤの言葉を、目を閉じ受け止めると、顔を沈んでいく夕日に向け独白のように声を紡ぎ始めた。

「……俺がこうして幸せを感じてる間も、苦しんで助けを求める人がいるかと思うと……じっとしていられないんだ……」

 士郎の声は震えていた。
 イリヤは夕日を見つめ、ことらに顔を向けてこない士郎に近づくと、微かに震える手を握り締めた。

「全部シロウが背負う必要なんてないんだよ?」
「分かってる……だけどダメなんだ……だって俺は……俺は……」

 目を瞑れば、瞼に浮かぶのは闇ではなく惨劇の光景。

 爆撃で吹き飛んだ我が子の欠片を掴み狂ったように泣き叫ぶ母親の姿。

 笑いながら引き金を引く少年兵に撃たれ、悲鳴を上げ血を流し倒れる幼い子供の姿。

 何もかも焼き尽くされ村の真ん中で、ただ一人枯れた木のように立ち尽くす少年の姿。

 諦めと絶望に満ちた……目……目……め、目、眼、瞳…………。

 それを一度目にすれば……こうして幸せを感じること自体に……罪悪を覚えてしまう。

 どれだけ救っても、何人も助けても……終わりはない。

 身体が……心が磨り減っていくのを感じながらも、止まることが出来なかった。

 助ける度に、救う度に……。

 助けられなかった人が……救えなかった人が……いた。

 全てを救うことなど到底出来はしなかった。

 必ず零れ落ちるものがあった。

 それでも今度こそはと立ち上がり、進み……その繰り返し。

 誰もが全てを救うのは無理だと言う。

 だけどそれでも、俺は諦めることは出来なかった。 

 そんな俺を、皆止めようとしたが、俺は止まることが出来なかった。

 どんな言葉を受けても、どんなことをされても……止まれなかった。

 ただ……泣いて引きとめようとする皆を背に、謝りながら去るだけだった。

 ―――ごめん―――

 ―――悪い―――

 ―――すまない―――

 …………謝るだけしか………………出来ない。

 どんどんと落ちていく思考に引きずられるように、士郎の意識が段々と遠のいていく。

 しかし、


「謝らなくてもいいんだよシロウ」


 優しく包み込むように抱きしめる細い腕と、愛しさに溢れた声がすくい上げた。

「イ、リヤ?」

 何時の間にか膝をついていたのか、河原の柔らかな草の上に膝をつく士郎の身体を、イリヤが身体全体で包み込むように抱きしめていた。
 背中回された手で、優しく撫でるようにぽんぽんと背中を叩く。それはまるで、泣きじゃくる赤子をあやすかのようであり。頭を抱き寄せられた士郎は、最初慌てていたが、微かな胸の膨らみ越しに聞こえる鼓動に、段々とおとなしくなっていく。
 イリヤは背中に回していた手を一つ士郎の白い髪の上に移動させると、優しく撫で始めた。

「わかってる……シロウがみんなを見捨てられないことは……もう知っているから…………どんな言葉でも……行動でも……助けを求める人を救おうとする士郎は……止められないって…………だから……いいんだよ……謝らなくても……」

 空から暖かい雫が落ちてきた。

 それは髪を伝い、頬に落ち、唇に運ばれる。

 塩っ辛いその味に呼び起こされるように、士郎の目尻からも同じ雫が漏れ始める。

「だけどね……シロウ……これだけは覚えていて……あなたはここでのことを忘れてしまうだろうけど……これだけは……お願いだから覚えていて…………シロウは…………一人じゃないって……」

 士郎の身体に回された腕の力が強くなる。抱きしめるイリヤ自身に痛みが走るほどの力は、士郎の身体と心を強く締め付けた。

「例えシロウがどんなところにいても、あなたを愛する人はずっと傍にいるって……リンも、サクラも、ルヴィアも、リズも、セラも、ユキエも、カネも、カエデも……ふふっ……もちろんルイズやシエスタもいるわよ……みんなみ~んな……ずっとシロウと一緒だよ……」 

 緩やかに解けるように手を離したイリヤは、涙を流す士郎の頬に両手を添え、ゆっくりと持ち上げ自分と視線を合わせる。
 じっと見つめ合う二人。
 河原を吹く緩やかな風が、二人の身体を通り抜ける。

「だから、寂しくなったら……悲しくなったら……辛くなったら……あなたを抱きしめてあげる……あなたの中にいる皆が、あなたを抱きしめるから……だから……我慢しなくていいんだよ」

 イリヤはそっと士郎に顔を近づけると、涙が流れ続ける目尻に唇を当てた。

「シロウは一人じゃないから……周りに誰もいなくても……あなたの中に……みんないるから……」

 柔らかく微笑むイリヤの頬を、涙が流れていく。
 柔らかに膨れる頬をなぞり、顎先から滴り落ちる雫は膝をつく士郎の足に落ちる。
 雫が足に落ちる度に、士郎の心に暖かなものが満ちていく。
 イリヤの最後の涙が足に触れると、士郎はゆっくりと立ち上がった。
 イリヤは士郎を見上げる。
 その目には、未だ涙で潤んでいる。

「行くの?」
「ああ」

 くるりと背を向けた士郎に、イリヤが声をかける。士郎はそれを振り向かずに応えた。

「大丈夫?」
「みんなの……イリヤのおかげでな」

 イリヤの心配に、笑みを含んだ声で答える士郎。そんな士郎に、イリヤの顔に浮かんでいた笑みが深くなる。

「ふふふ……それはそうよ……なんたって私は―――」

 歩き出した士郎の背を見つめ、イリヤは風に揺れる髪を抑えながら、泣き笑いのような声で呟く。

「―――シロウのお姉ちゃんだから……ね」














 士郎がイリヤの下から離れた瞬間、世界は闇に落ちた。まるで電気を消したかのように暗闇に落ちた世界に、しかし士郎は慌てることなく歩き続けていた。足にはしっかりとした地面の感触があった。上下のない世界ではないようだと、妙に冷静な考えを浮かべながら士郎は歩いている。
 一体どれだけ歩いたのか、視界の端に、光りが見えた気がした士郎は、そちらに向かって歩き始めた。すると、闇の中に浮かぶ光りを見付けた。士郎ははやる気持ちを抑え、一歩一歩確実に足を踏みしめその光に向かって歩き出す。次第に光は大きくなり、段々とその形が見えてきた。 

「まさ、か……」

 闇に灯る唯一の光り。
 それを後光のように背にして立つ人影があった。
 その正体に気付いた士郎は、身体を震わせると、突然走り始めた。
 全力で駆けていく。
 歩きとはその速度が違う。
 しかし、歩くよりも格段に早いはずが、光は近づくどころか段々と遠ざかっていく。
 士郎は小さくなっていく光に手を伸ばし、更に足に力を込める。

「……っ……ま、待ってくれっ!!」

 大きく上げた声は、光に届く前に闇に吸い込まれ消えていく。
 しかし、士郎は諦めることなく声を上げる。

「待ってっ……くれっ……ッ!!」

 必死に願うように叫ぶ声は届かず、光りは次第にか細く小さくなっていく。
 消えかける光に食らいつくように、士郎は全身の力を振り絞り一気に加速する。
 痛い程伸ばした手を光に……光の前に立つ人影に向かって声を張り上げた。

「―――っア!!」

 光の前に立つ少女が、士郎の声にゆっくりと振り返り始める。
 士郎はそれに応えるように腕を伸ばし。

「―――ッッ!! セイバーッ!!!」
















「セイバーッッ!!!」
「えっ?」

 指先に柔らかな感触を感じるやいなや、士郎はそれを掴み引き寄せた。引き寄せられ勢い良く士郎の胸に飛び込んできたそれを、士郎は逃がさないとばかりに強く抱きしめた。胸の中にある感じるそれは、すっぽりと腕の中に収まるぐらいに小さい。

「ちょ、ちょっと待ってくださいシロウっ?! ど、どうしたと言うのですかっ?!」
「っあ……ぅ」

 胸の中で上げられる戸惑いの声を聞き、士郎は心臓を掴まれたかのような切ない気持ちに落ち入る。二度と聞けないと覚悟していた声。十年以上が過ぎたと言うのに、ハッキリと覚えている声。心を掴まれる強さと同じ力で、士郎はアルトリアの背に回した腕に力を込める。

「そ、その、し、シロウ? こ、混乱しているのは分かりますが、お、落ち着いてください。まずは私を―――」
「セイバーっ!!」
「っんぅ!」

 士郎の胸に両手を当て、必死に離れようとするアルトリアを、士郎は逃がさないとばかりに力を込め抱きしめた。ぴったりと身体が合わさると、士郎はアルトリアの耳元で愛しさに満ちた声を上げる。それを聞いたアルトリアは、一瞬びくんと身体を震わせたが、顔を真っ赤にさせながらも、士郎から離れようと腕に力を込めるが、

「アルトリア……っ」
「っう!」

 再度今度は名を呼ばれ、力が抜けてしまう。
 ベッドの上、体だけを起こした士郎の胸に抱きしめられたアルトリアは、周りに誰もいないことを確認すると、おずおずと士郎の身体に両手を回し始めた

「まったく……随分と身体は大きくなったようですが、中身は反対に幼くなったんじゃありませんか?」

 士郎の身体を確かめるように撫でながら士郎の背中に腕を回すと、諦めたように小さく溜め息を吐着ながら、アルトリアは士郎を抱きしめた。

「仕方……ないだろ……夢だと分かっていても……お前が俺の腕の中にいるんだ……」
「……夢じゃ……ありませんよ」
「……いいんだ……夢でも……セイバーと……アルトリアともう一度会えたのなら……」
「夢じゃないって言っているんですが……」

 抱きしめ合いながら、それぞれ相手の肩に自分の顔を置き、耳元に囁きかけるように話し始める二人。 耳を震わせる、美しい声。
 窓から差し込む日の光に照らされ、黄金に輝く髪。
 花の香りが風に乗ったような、涼やかで香しい匂い。
 折れそうなほど細い腰。 
 柔らかな感触。
 士郎は全身に感じるそれを、さらに感じようと腕に込める力を強くする。

「っあ」
「っ! す、すまない。強くし過ぎ……」
「……ぁ」

 腕に力を込めた瞬間、苦しむような声が聞こえ、我に返った士郎は、慌てて腕の力を弱めるとアルトリアから離れた。
 そこで、二人は初めて互いの顔を見つめ合う。
 士郎は目の前にいる、光を受け輝く女性を見つめる。
 その女性は、士郎の記憶通りのままの美しい顔を切なげに歪ませながらこちらを見つめている。
 桜貝のような唇から、切ない吐息が漏れ。
 深い森のような翠の瞳を涙で潤ませて見上げてくる。 
 記憶にない安っぽい草色のワンピースのような服を身にまとっているが、それでも身に纏う高貴なオーラは隠せない。
 士郎はアルトリアの背に回していた一方の手で、その染み一つない白い頬を触れると、ゆっくりと形をなぞるように動かしていく。

「……っ……ん……ぁぅ……っ」

 士郎の指が頬をなぞるたびに、アルトリアは身体を震わせながら、押し殺した声を上げた。士郎はその耐えるようなアルトリアの仕草に、胸の中に沸き立つ何かを感じていた。そしてそれは、士郎の指先がアルトリアの唇の端に触れた瞬間に、急激に膨れ上がり、

「……ぁ……し、ろう」
「ッッ!!」

 爆発した。
 甘く誘うように士郎の名をアルトリアが口にした瞬間、士郎は最後の感覚を味わうため、アルトリアに襲いかかった。

「っ?! んぁっ! ぁぷ、し、シロ、ゥ……ぁ、ま、まっ、て……ぁ……っ!」
「んっ、ん~っ、ぁ」

 最初はついばむように優しく触れるキスであったが、それは段々と激しく濃厚になっていく。唇が離れる度にアルトリアは抗議の声を上げるが、士郎はそれに応えることなく唇を貪る。
 士郎の背中に回していた腕を外したアルトリアは、一気に士郎から離れようと、腕に力を込めたが、

「んっぅっ!」
「んぐっ?! ん、ん、んぁ、んぅっ?!」

 抗議の声を上げようと口を開いた瞬間を狙い、士郎が深く口づけをしたため、腕に入っていた力が一瞬にして霧散してしまった。そこからはもう、一方的であった。人形のように力が抜けたアルトリアの身体を抱きしめながら、士郎は深く口を合わせる。士郎の舌は逃げる力を失ったアルトリアの舌を捕まえると蹂躙を始めた。
 最初は抵抗の素振りを見せていたアルトリアだったが、士郎の舌がアルトリアの口内を暴れるたびに、その抵抗は次第に弱くなっていく。時間が経つにつれ、互いの唾液が混ざり合う粘っこい音が二人の合わさった口の隙間から聞こえてくる。アルトリアの手が恐る恐ると士郎の背中に手が回り始めた。それだけでなく、応えるように、おずおずと士郎の口の中に自分の舌を差し込みはじめる。士郎とアルトリアの唇は一度も離れることはなく、二人の口の隙間からは、白く泡立った唾液が溢れ、次第にアルトリアの身体を濡らしていく。身体から吹き出る大粒の汗と、唇から溢れる白濁した唾液は、草色のワンピースをベトベトに濡らし、アルトリアの身体にぴったりと張り付き、その身体の線を浮き上がらせる。
 アルトリアは酸素不足と快楽に赤く染まった顔で、目の前にいる士郎を淫蕩にとろけた瞳でぼんやりと見つめている。ハッキリとした意識がないのか、士郎の為すがままであった。
 士郎はそんなアルトリアの状態に気付くと、ゆっくりと焦らすように口を離した。士郎がアルトリアの口からずるりと舌を抜き取ると、半開きになったアルトリアの口の端から白濁した大量の唾液がだらだらとこぼれ始めた。

「ぁ……っ……ぁ……ぅ……」

 惚けたようにぼんやりと視線を漂わせていたアルトリアを、士郎は丁寧な動作でベッドに横たえる。
 仰向けに倒れたアルトリアの股を押し開くように身体を寄せる士郎。そのためアルトリアの着るワンピースは膝上まで捲り上がり、太ももがむき出しになっている。窓から差し込む陽光に照らされ、むき出しになった濡れた白い太ももがきらきらと光っている。
 惚けた顔で荒い息を吐くアルトリアをじっと士郎は見下ろしている。
 ベッドに倒れたアルトリアの視点が段々と定まっていくのを確認した士郎は、アルトリアの目をしっかりと見て囁く。

「……いいか」
「……っん」

 声なく小さく顎を引く肯定を受け。士郎の身体が段々とアルトリアに傾いていく。
 二人の視線が交わる、熱い吐息が互いに触れる。窓から差し込む陽光を受け、士郎とアルトリアの身体が重なり―――。

「アルトさん。もう二日も休まれてないんですから。私が代わりますので、休ま―――え?」
「はっ―――?」
「あっ―――?」

 合う前に、ドアが開き、外から陽光を背に金の髪をたなびかせた少女が入っていた。可憐な容姿を心配気に歪め、大きな胸をゆさゆさと揺らしながら部屋の中に入ろうとした少女だったが、ベッドの上の状況に気付きピタリとその足を止めた。
 驚きに目を見開き見つめ合う目が三対……部屋の中に沈黙が満ちる。

「……ご、ごめ、ごめんなさいっ!! わたわた、私なにもしあなくてっ!! っっ!! ひ、ひしゅれいしまひゅっ!!」
「あっ! まっ、待ってくださいティファニアっ!! ちが、違うんですっ!!」
「え? は? どうい――っぐあはぁっ!?!」

 ティファニアがどもりながらも何か叫び、突然背を向けドアの向こうに駆け出していく。それを呆然と見ていた士郎とアルトリアだったが、はっと我に返ると、士郎を弾き飛ばし慌ててベッドから降り立ち上がり、ティファニアの後を追いかけ始めた。魔力でブーストした身体能力を持って、手加減なく殴り飛ばされた士郎は、ベッドから遠く離れた壁に叩きつけられた。ずるずると壁をずり落ちた士郎は、床に頭から落ちる。視線の先には、ドアの向こうで、ティファニアに慌てて言い訳をするアルトリアの姿があった。
 士郎はズキズキと痛む殴られた頬を手で押さえると、




「…………え? ……あれ? 痛い? え? ……夢じゃ……ない?」




 呆然と声を上げた。





 
 

 
後書き
 感想ご指摘お願いします。

 
    没ネタ。

士郎     「セイバーっ!!」
ティファニア 「きゃっ」
士郎     「もう離さないっ!」
ティファニア 「あっいや、きゃっ」
士郎     「セイバー……あれ? 胸が……あれ?」
セイバー   「ティファニア、ありがとうござ―――何をやっている」
士郎     「あ、え? ちょ、ま、待てセイバー!!」
セイバー   「あなたという人はっ……!!? シロオオォォォッ!!」
士郎     「っぎゃあああああぁぁぁっ!!」
 

 
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