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同士との邂逅

作者:日月
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八 狐疑

 
前書き
オリジナルの動物が若干出てきますのでご注意ください。また、文珠を勝手に神器としてしまいました。NARUTO世界の神話に載っているという感じにしたかったんです、すみません。
今まではナルトを子どもと表記していますが、次回からはナルト視点なのでナルトと表記します。ご了承ください。

 

 

無音とは、これほど痛かっただろうか。


クナイの切っ先をぼんやり見つめながら、横島は場違いにもそう思った。


「………どこまで、知ってる……?」

抑揚の無い声で、子どもは問う。寸前の太陽の面影はもはや無い。
耳にした者が背筋を逆立てるほどの冷やかな声色だけが、部屋内に反響する。

「全部」

それに臆さず、横島も子どもの探るような目を見つめた。

互いの視線が搗ち合う。
荒涼たる原野にたった二人いるような、深閑な空間がその場に出来ていた。



こん こん

石像と化した彼らが身動ぎする切っ掛けは、窓を叩く小さな物音。
音を耳にした子どもは即座に身を翻し、警戒態勢を音の発信源へ移行させる。
しかし窓ガラスをノックするその姿を見るとすぐに警戒を解いて、客を部屋に招き入れた。
客は真っ先に子どもの傍へ近寄り、彼の腕へ止まる。

訪問者は、雪のような白い腹に浅葱色の美しい羽を持つ、鷹か隼ほどの大きさの鳥。
典麗な容姿の鳥は、子どもの顔を見上げ、ついっと片肢を上げた。その肢には白い紙が結わえてある。
白い紙を外した子どもの頬を甘えるようにそっと啄ばんでから、鳥は来た時と同じく蒼天へと帰っていった。

受け取った紙の文面を目にし、不愉快そうにフンと鼻を鳴らす。
「【遠眼鏡の術】……じじい、また覗いてやがったな…」
呆れかえったような声を上げる子どもの手元を、横島は窺い見た。

文面には〈暗部の仕事は後に回し、自来也にも病だと言っておいた。今日は休養するように〉と老人の筆跡が並んでいる。
瞬時に子どもが指先から青白い炎を出現させ、その紙は音も無く虚空に溶けてしまった。


「それで?」

四六時中装う道化の顔をしながら、にこにこと子どもは横島を見上げる。ただしその声は表情に似合わず、酷く静かで虚無的なものだったが。

「…覗き魔のじじいが休暇を寄こすってことは、お前が害の無い者だと気を許したってことだ…監視対象が俺の寝首を掻かなかったからだろうな…。なんせ寝込むなんて失態を起こした俺なら、殺そうとすれば殺せたはずだし……何が目的だ?」
ベッドに腰掛け、頬杖をつく子どもに、横島は一瞬何を言われたかわからなかった。

「な…、病気で寝込んでいる奴をほっとけるわけねえだろ!」
ようやく意図を理解して反論する横島を、子どもは不思議そうに見つめる。
「それだけ?……手引きする相手、仲間とかいないのか…例えば、蛇、とか」
「へび?なんじゃそら」

首を傾げる横島の顔を子どもは探るような目で眺めた。透き通った硝子玉のような仄暗い湖の底のようなその蒼い瞳に、横島の顔が映る。
先ほどと同じく、互いの視線が搗ち合った。










「……俺はじじいのように信用できない」


先に目を逸らしたのは子どものほうだった。その表情は道化を忘れてしまったかのように無表情で、しかし寂寞とした雰囲気を湛えていた。
横島のほうも子どもに何と言ったら言いかわからず、途方に暮れていた。だって信じてもらえないだろう。
行為は火影と同じ手段だが、過去の記憶を覗き見たなんて。


部屋を再び静寂が支配したが、子どもの嘆息がすぐにその支配権を奪い去った。

「……ッ…ごほ…っ」
「だ、大丈夫か!?まだ寝とけ………っ」
「触るなッッッッ!!」

パシンッ、と。

体を支えようと伸ばした横島の手を払いのける。
理不尽なその行動に横島は怒気を露わにするが、子どもの顔を見ると表情を改めた。叩かれた手を無意識にさする。
(…そんな顔されたら、怒るに怒れないじゃねえか……)

空を閉じ込めた蒼い硝子玉は、今にも雨が降りそうな曇り空へと揺らいでいた。




一方、子どもは無表情を装いながらも戸惑っていた。
痛みには慣れていたはずなのに。殴られ蹴られ抉られることなどしょっちゅうなのに。痛いのは横島のほうなのに。
手を振り払ったことがとても痛く、激しい後悔が子どもの心を占める。
一瞬触れた指先が、酷く熱く感じた。


「…悪い…。でも大丈夫、だから…その…お前もあまり寝てないだろ…このベッド、使え…」
「病人のベッドをとるか!それに元々お前のじゃねーか」
珍しく歯切れの悪い話し方をする子どもを、有無を言わさず横島は横たわらせようとする。
しかし彼の手が触れる前に、子どもはベッドに沈み込んだ。
まだ警戒し避けているその様子に心が痛んだが、それを誤魔化して横島は明るく声をかける。

「なにかしてほしいこととかないか?なんか飯とか作ろうか?」
「……二日前、お前の料理駄目にしたの覚えてないのか…」
「…気にすんなっ!あの時の飯はマジでヤバかったから!すげーマズくって俺も食えなかったから!」
子どもはきつく目を閉じた。それでも意識は横島のほうを向いている。


「…してほしいこと、と言ったな………じゃあ、なぜ俺が道化を被っているとわかった…?なぜ五日前路地裏で会った表の俺と、今の俺を結び付けた?お前は本当にどこまで知っている?なぜ知ることができた?……聞かせろ」


唐突に、緩んだ空気が威圧を増して張り詰める。同時に、深い深い深海色の双眸に横島は射竦められた。
拒否する事を許さない、常人では意識を失うほどの威圧感が彼の背筋を這う。
しかしながら突風の如く襲い掛かるその圧倒的な威圧を、横島は柳に風と受け流した。


「…聞くよりも、見るほうが早いんだけど」

一種の誘導尋問のような子どもの問い掛けに、横島は意味深な言葉で返す。
そのまま横島はどっかと胡坐を掻き、右手を掲げた。目を閉じてなにやら集中する彼を、子どもは訝しげに目を向ける。

緩やかにしかし確実に変化していく彼の掌に、興味が灌がれて覗き込み、子どもは目を見開いた。
横島の右手からほんのりと霊気が漂い、集束されていく。徐々に玉の形と化した二つの小さいモノが、拳からコロンと零れ落ちた。


「これ…は、まさか…文珠、か」
「知ってんのか?」
「ああ。神器―神々にしか扱えないはずの道具だ。文字一文字で表せるキーワードと共に開放することで、万能に近い能力を発揮………。神話でしか知りえなかったが、まさか本当にあるとは…」
驚愕する子どもの目前で、横島は文珠を拾い上げ、まじまじとソレを見た。

「そんな凄いもんかな~…俺にとっちゃ、お前のほうが色々凄いと思うけど」
「………今の行動からその珠はお前が創りだしたように見えるが、……………………お前、一体何者だ?」


スッと子どもの目が細められる。
目の前でお気楽そうに見えるこの青年が文珠の創り主であったことに驚いたが、同時に侮れない人物と認識した。子どもの心に、久方ぶりに緊張が奔る。

横島というこの人間が敵ではないと思いたい。けれどもし、火影に敵対する人物であれば、横島を子どもは何の躊躇も無く葬り去るだろう…相討ち覚悟で。

表情には出さない。けれど子どもの双眸は抜き身の刃のような鋭い光を宿しており、横島を見極めようとしていた。




それを知ってか知らずか、珠を弄ぶように拳の中で転がしながら横島はなにやら考え込んでいる。
直後に白い光が彼の右手に雲集し、蛍火が瞬くようにポッと二つの文珠が輝いた。

「コレで俺の記憶を見てもらうことが、さっきの答えになると思う」
「……その文珠が安全である保障は?」
差し出された二つの光輝く珠を手に取らず、子どもは試すような心持ちで問い掛ける。

「……害になるとすれば俺のほうだと思うぜ。過去を全て曝け出すなんて恥ずかしい思いすんのは俺で、お前は情報収集とさっきの答えを得る……どうだ?」
逆に試すように煽られ、興味を覚える。知識に貪欲な子どもは、実際文珠に興味津々であった。


(……どうせ久方ぶりの休みでやることもないしな……試してみるのも悪くない、が)
逡巡する子どもの心を読むように、横島は立ち上がる。


「さ~て………ちょっくらナンパでもしてくっかな。この里、けっこう美人多いし~」
文珠を床に置きっぱなしにして、鼻歌まじりに横島は部屋を出て行った。

その後ろ姿を見送り、バタンと開閉音が耳に届いた途端子どもは床へと手を伸ばす。躊躇しながらそっと掴んだ二つの珠は創造主がいないにも拘らず淡い光を放っていた。
それぞれの珠に一つずつ、文字が記されている。

【記】【憶】



ちらちらと明滅を繰り返す二つの珠は、瞬く間に子どもを記憶旅行へと誘った。
 
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