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ソードアート・オンライン ―亜流の剣士―

作者:チトヒ
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Episode1 口論と決闘




にじり寄る剣先に俺は理解が追い付かず、ただ凝視するしかなかった。それは横に立つクラインとその仲間も同じだった。

じりじりと迫るその剣が――不意に退かれた。

「やめなよ、アキ」

アキと呼ばれたそいつの肩に手が置かれた。振り返るその顔は本当に煩わしそうなものだった。

「…なに、ジン。この僕を止める気」
「当然だよ」
「いてっ」

頭を軽く叩かれたアキが、頭を押さえ俺をきつく睨んだ。

「…お前のせいで怒られたじゃないか」
「は、はぁ?」

ようやくフリーズから頭が目覚め、クラインに手を貸してもらいながら立ち上がった。立ってみると、さっきまでやたらと高く見えていたそいつの身長は、俺とそう変わるものでもなかった。
立ち居振る舞いが高圧的だったせいで、むやみに長身に見えていたようだ。

「だから~!お前のせいでジンに怒られたって言って――」
「だからやめなって」
「いてっ、うぅ」

俺に向かって大声を張り上げたアキの頭が再び叩かれた。アキが頭を押さえてその場にしゃがみ込んだ。

なんだが弱々しい。さっきまでの貴族さながらの振る舞いはどこへ行ったのか。それに、さっきからコイツを制している奴も誰なのだろうか?

一瞬そちらに向かいそうになった意識が、ぶつぶつと聞こえて来る声に引き戻された。

「もう、ジンはいつもいつも僕の頭を餅搗きみたいに叩いて…」

視線を下げれば、アキが空中で指をイジイジしていた。…いじけたときに渦巻きを書くのは地面じゃなかっただろうか?

「ゴメンね。連れが失礼をしたみたいで」
「…ん?あぁ、別にいいけど」

アキに向いていた意識が今度はジンに向けられる。

が、すぐさま痛いほどの視線を感じ意識の方向はアキに向いた。

「なぁお前。これ以上ジンに怒られるの嫌だから、僕の邪魔をしたのは赦してやる。代わりにアイテム返せよ」

見ればしゃがみ込んでいるせいで俺の遥か下にあるアキの、中性的で男か女か分からない顔に涙が浮かんでいた。……相変わらず、目つきが鋭いせいで同情の意はこれっぽっちも湧かないが。


「アイテムって…。おぉ!」

アイテムと言われ、開いたシステム画面のアイテム欄には、念願の《ネペントの胚珠》が追加されていた。感動のあまり固まった俺を見て、アキが立ち上がり、俺を睨む。

「あったんだろ!渡せよ!」
「ちょっと待てよ」

クラインが横から口を挟む。無精髭の生えた顎をジョリジョリしながら俺の横に立つ。

「おらぁ事情が良く分かっちゃいねぇけどよ。大概のRPGじゃこういうときは、アイテムはドロップした奴のものってのが常識だろ?」
「そうなのか?」

あまりゲーム慣れしていない俺は思わず聞き返してしまった。クラインが当然と言わんばかりに大きく頷く。
だが、腑に落ちていない風のアキが不機嫌に鼻を鳴らす。

「はんっ!僕はお前らみたいにオタクじゃないからそんなの知らない!いいから渡せよ!急いで戻ってきて、五日も探し回ってやっと見つかったんだよ!」

五日、というワードにクライン達一行がどよめく。しかし、そんなのもう一ヶ月近くも探していた俺にとってみれば短期間だ。
思わず『俺はその五倍は探してたぞ!』と言い返しそうになった俺より早く、謝罪以降沈黙を守っていたジンが口を開いた。

「口論しても仕方ないしさ。ここは一つ勝負で決めないかい?」
「…勝負?」
「うん、このゲームにはシステム上に設定された《決闘》がある。それで決めたらどうかな?」

決闘、というのはプレイヤー同士の力比べのためにある模擬戦のことだ。正直、受けてやる義理も理由もなかったのだが、逆に受けてやらない義理も理由もなかった。だから、俺は一つ首を縦に振った。

もしかしたら、自分はこの辺りのプレイヤーよりは少しレベルが高いという驕りもあったのかも知れない。
更に加えれば、俺のお人好しな性格も手助けしていたかも――などなど、単純なんだか複雑なんだか分からない思考を経た結果だから頷いたことは問題ない。

……ただ、ジンの申し訳なさそうな顔と、さっきのアキの発言で決して聞き逃してはいけなかった一言が決闘承諾の表記が出てから《初撃決着》のモード選択をする指を少しばかり鈍らせていたことに気付かなかったのは、完全に俺の過失だとこのあと思い知らされることとなるのだった。

 
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