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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第六話 様なんて柄じゃねえ

 目を開けた闘悟は目の前の光景を見る。
 そこには今にも少女に跳びかかりそうな獣がいた。
 どうやら異世界に戻って来たみたいだ。


「まずは魔力を全身に巡らす」


 体に力が溢(あふ)れてくる。
 それも怖くなるほどだ。


「これが第一の能力、身体強化」


 魔力で身体能力を増加させる。
 魔力量に比例するので、膨大な魔力量を有する闘悟の身体能力は、本気を出せば一撃で大地が裂ける。


「これはしっかり調節しなきゃな」


 うっかりすれば、世界を壊してしまうと、自分に言い聞かせる。
 大体一パーセント程度の魔力を体に巡らせる。
 そして、目の前の獣を見る。


「うん、これでも十分過ぎるほどだ」


 そう言って地面を蹴る。
 獣が少女を食べようと口を開ける。


「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 少女は体を抱えながら叫ぶ。


「どっせぇぇぇいっ!」


 闘悟は獣の胴体に蹴りを入れ、吹き飛ばす。


「ぐぎゃっ!!!」


 骨が折れる音を響かせながら吹き飛んでいく。


「うし!」


 闘悟はガッツポーズをする。
 そんな闘悟を呆然と見つめる少女。
 目の前で起こったことに理解が追いついていないんだろう。


「なあ」


 闘悟は未だ放心している少女に声を掛ける。
 だが、返事は無い。


「あらら、意識飛んでんなぁこれ」


 闘悟は息を吐き少女に近づく。
 少女はフードを被っている。
 顔が見えにくい。
 隠してんのかな?
 膝を曲げて、座り込んでる少女の頬を軽く叩く。


「お~い、大丈夫か~?」
「えっ!? あ! ええっ!?」


 少女は口をパクパクさせて言葉を絞り出している。


「とりあえず落ち着けって」
「え? あ……はいです」
「よっしゃ」


 闘悟はニッと笑う。


「ところで、アイツは何なんだ?」
「はい?」


 少女は首を傾げる。


「いや、だから、あの犬っころのことなんだけど……」


 完全に沈黙している獣を指差す。


「えと……はいです。あれはタイガラスという魔物なのです」
「ふうん、あれがそうなんだ、へぇ」


 闘悟は興味深そうな表情をした。
 どうやら持ち前の知識欲が顔を覗(のぞ)かせている。
 少女はそんな闘悟を見ながら、まだ信じられないといった顔つきで声を出す。


「あ、あの……助けて頂いてありがとうございますです」


 少女は立ち上がり深々と下げる。


「ああ、いいよいいよ、気にすんなって。困った時はお互い様だろ?」


 しかし、心の中では自嘲(じちょう)していた。
 一度見捨てようとしたことが、罪悪感として心に突き刺さった。


「は、はい! 本当にありがとうございますです!」


 満面の笑みを向けてくる。
 この笑顔を見れたことが素直に嬉しかった。
 本当に見捨てなくて良かった。


「あ、私は……えと……クロリス。クロリス・フィル・トーキネスと申しますです」
「……長いな」
「あ、良かったらクロとお呼び下さいです」
「そうか、助かるよ。あ、オレは赤地……って、こっちではトウゴ・アカジだな」
「とう……とお……ご……」
「ああ、言い難かったらトーゴでいいぞ。そうだな、これからはそう名乗るか」


 闘悟はうんうんと頷く。


「あ、はい。トーゴ様ですね」


 ……ん? 今確かトーゴ様って? 


「あ、あのさ、その様は止めてくれ」
「何故なのですか?」


 不思議そうに尋ねてくる。
 闘悟は頭を掻(か)きながら答える。


「いや、そう呼ばれ慣れてねえし、様さんてつけられるほど偉くもねえし。できれば、呼び捨てか、トーゴさんとか、トーゴくんとかにしてくんね?」
「そ、そんな! 命を助けて頂いた殿方をそのような呼び方はできませんです!」
「……絶対?」
「絶対なのです!」
「……どうしても?」
「どうしてもなのです!」


 どうやら、交渉は成立しないようだ。
 闘悟は溜め息を吐く。


「しょうがねえな、んじゃそれでいいよ」
「あは! 良かったのです!」


 嬉しそうに微笑むクロリスを見ると、呼び方なんてどうでもよくなった。

 
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