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ドン=カルロ

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第四幕その九


第四幕その九

 扉の栓が落とされた。すると民衆が雪崩れ込んで来た。
「よし、進め!」
 彼等は手に得物を持っていた。そしてその顔は殺気立っている。
「何処に進むというのだ?」
 王は彼等の前に進む出て言った。
「う・・・・・・」
 彼等は王の姿を認めて動きを止めた。
「わしの後ろには何もないぞ」
 彼は民衆達と正対してそう言った。
「わしの他には何もない。そなた等は何を求めているか」
「それは・・・・・・」
 彼等は立ち止まった。
「わしを殺すつもりならそうするがいい。だがわしが死してもこのスペインは揺るがぬ」
 彼は毅然として言った。
「そしてもう一つ言おう、わしは暴徒達の刃には屈さぬ。さあ愛する民達よ、そなた達は暴徒なのか!」
 王は雷の様な声で問うた。民衆はその威厳の前に折れ得物を投げ棄てた。
「陛下の民です!」
「そうか」
 王は彼等のその姿を見てそう言った。
「ならば良い。わしの冠はそなた等を罰する為にあるのではない」
 彼は静かに言った。
「悪しき者を討ちスペインと民を護る為にあるのだ」
 そう言うと彼等を一瞥した。
「落ち着くがよい。そなた等に罪はない」
「わかりました・・・・・・」
 流石は一国の王であった。彼はその威厳だけで猛り狂う民衆を落ち着かせたのだ。
「これが王か・・・・・・」
 カルロもそれは全て見ていた。そして何かを悟った。
「私も王というものを学ばなければ」
「陛下、お見事です」
 大審問官が王の前に進み出てきた。
「これも神のご加護です」
「はい」
 王は答えた。
「民達よ」
 王は彼等に対し言った。
「すぐにこの宮殿を去るがいい。そなた等は罪に問われることはない故安心するがいい」
「わかりました」
 こうして宮中での暴動は幕を降ろした。そして民衆達は街に帰りロドリーゴは棺に入れられた。血の一日はこれでようやくその幕を降ろした。
 その日の夜である。エリザベッタは一人密かに宮殿を出ていた。
 そして夜の闇に紛れ何処かに向かおうとする。そこに誰かが声をかけてきた。
「誰です!?」
 彼女は咄嗟に身構えた。
「私です」
 それはエボリ公女であった。
「貴女は・・・・・・」
「今日の騒動ですが」
「民達が宮中に入って来た騒ぎですね」
「はい」
 彼女は答えた。
「殿下はあれで助かったでしょうか?」
「そうでしたか、貴女が手引きされたのですね」
「そうです、全ては殿下をお救いする為」
 彼女は強い顔で頷いた。
「殿下はご無事でしょうか?」
「はい、ポーザ公爵が命を賭けてお救いになられました」
「公爵が・・・・・・では私のしたことは・・・・・・」
「その心は神に伝わりました」
 エリザベッタはうなだれようとしていた公女に対して言った。
「え・・・・・・」
「その心は伝わりました。カルロは明日私と会います」
「御気をつけて」
 公女は感謝した表情でそう言った。
「異端審問官達が捜しておりますから」
「その様なものもう怖くはありません」
 彼女は毅然として言った。
「ポーザ公爵は命を賭けてあの方を救われました」
 彼女もまたロドリーゴの心がわかったのだ。
「そして貴女も全てを賭けてあの方の為に動かれました」
 この煽動は異端審問官達に感づかれれば命にかかわる。公女はそれでも動いたのだ。
「そして私も」
 彼女は言葉を続けた。
「あの方の為、フランドルの為に行きます、あの聖堂へ」
「王妃様・・・・・・」
 公女はそれを聞いて頭を垂れた。
「これが永遠の別れになるかも知れません」
 彼女はそう言うと公女に顔を向けた。
「ご機嫌よう」
「はい・・・・・・」
 エリザベッタも全てを棄てた。実に澄みきった表情となっていた。
 公女はそれを見送った。そして夜の世界にその姿を消していった。
 
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