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魔法少女リリカルなのはA's The Awakening

作者:迅ーJINー
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第三話

 
前書き
 竜二さんは決してニートではない。 

 
 とある日の昼間。竜二はショルダーバッグを提げて海鳴市の都市部にある楽器店にやってきていた。看板には「JS楽器」と書かれている。

「おはよざいますー」
「いらっしゃ……ああ、おはよう八神君。そろそろ出勤時間だったかな?」
「まぁ、そうですねぇ」

 彼に返事をしたのは紫の長い髪を持つ青年で、白の長袖シャツに青いジーンズ、店のロゴが入った深緑のエプロンという姿。竜二も似たような姿だが、半袖の白いポロシャツを着ている。胸元に付けられた名札の下に「店長」と書かれた紙を入れたプラスチックケースが提げられている。

「着替えたら今日は、各楽器のチューニングからお願いできるかな?私はあまり動きが早くなくてね」
「わかりました。つーかそれ前も言ってませんでした?」
「あれ?そうだったかな」
「若いうちからボケんで下さいよ店長」
「ああ、いかんなこのままでは。本当にボケてしまいそうだ」

 そういって更衣室へと入っていく竜二。横で作業しながらそれを眺めているのは小太りな坊主頭の青年だ。彼も似たような格好ということは、これがこの店舗の制服なのだろう。

「しかしまぁ、どう見ても人足りてませんよねぇここ」
「Rising Force、STORM BRINGERの八神竜二が働いているとなれば、有名にもなるかな、と思ってな」
「おかげで店回ってないでしょうが今」

 事実、竜二が働いているという触れ込みだけで客は増えている。彼にアドバイスをもらおうとした人もいれば、サインをねだるものも。表向きは解散して姿を消したとはいえ、アマチュア界ではまだまだその名が消えることはない。

「うぐっ……い、いや、スタッフの募集はしているんだよ?これでも」
「そのくせ誰も面接に来ないじゃないですか」
「ぐぬぬ……」

 青年の突っ込みに、返す言葉もない、といわんばかりに言葉に詰まる店長。これも事実で、一緒に働きたくても竜二が恐れ多いという人はただ眺めているだけだし、そもそもそんなに詳しくない人は楽器店のアルバイトなど受けに来ない。

「まぁ、数多くの楽器店が彼を欲しがってましたし、いいっちゃいいのかも知れませんけどね」
「事実、彼目当てのお客様も結構増えてきているよ。彼が開くボーカルスクールとギタースクールもなかなかの人気だ」
「予約殺到ですもんね。県外からも」

 わざわざ他の市だけでなく、県外からも生徒が集まってくるのだ。会いに行けるちょっとした有名人ということで話題にもなっている。

「なぜプロデビューしなかったのか不思議なくらいだよ。まぁ私としてはその方がいいといえばいいがね」
「自分の店舗の売り上げにつながるし……ていうか店長、書類仕事と電話応対しててください。接客とかは俺と彼でやりますから」

 どうやらこの店長、店長なのに機材を触るのに慣れていないらしい。明らかに青年より動きが遅い。

「むぅ……デスクワークは苦手だというに」
「泣き言はいいですから」
「私は行かなくてもいいのかい?」
「結構です。むしろ邪魔になります。それに書類ためてると、またあの秘書さんにどやされますよ。あ、いらっしゃいませー」

 そしてこの青年が客の対応に向かっている間に店長がノートパソコンのあるデスクへと向かうと、まるで女性的ともいえるほど白く細いその指を踊らせるように、滑らかにかつすばやくキーボードを叩いていく。デスクワークが苦手という言葉はまるで嘘のような作業速度である。ちなみに邪魔といわれたことはあまりこたえていないようだ。

「まぁ、売り上げ以外にも私の個人的な興味というか、本業につながることなんだがね……青年よ。私の期待に背かんでくれたまえ」

 などとつぶやきながら画面と格闘している間に、竜二も更衣室から出てきた。

「さぁて、今日も気合入れていきますか……店長、どれからやったらいいです?」
「ああ、今入り口にお客さんたちが来ているから、先にそっちの応対からお願いしていいかな?今矢吹君が一人で向かっているが、たぶん回らないだろう」
「だと思うなら店員増やしてくださいよねぇ……わかりました」
「頼むね。なかなか面接にすら来てくれなくて」
「ったく、全然人足りてないってぇのに……いらっしゃいませーどうぞー」

 色々こぼしながらも、客のほうへと向かっていく竜二だった。そんな店の奥からは、楽器を触っているときのゆっくりした動きが嘘のように、キーボードを叩く音がしばらくの間全くやまなかった。



「お先失礼しますー」
「ああ、お疲れ様ー」

 夜20時。閉店作業を終わらせて帰宅する竜二を、矢吹と呼ばれた青年が呼び止めた。

「あ、八神。ちょっと飲んで帰らない?」
「ん?ああ、悪いけど無理。給料日前やから金欠なんよな」
「そっかぁ、バンドやってたときのこと、色々聞きたかったんだけどなぁ」

 口ぶりとは違い、もともとそんなに期待していなかったようで、あっさり引き下がる矢吹。

「まぁ、それはおいおい語るわ」
「期待してるよ。それじゃあまた」
「おう、お疲れ」

 そういって竜二は、乗ってきたバイクにまたがって帰っていった。

「そういや、直人の奴はまだ顔合わせてないのかな?まぁ、連絡だけは入れといてやるか……」

 そんな彼を見送ると、携帯を取り出しどこかへと電話をかける矢吹だった。



「ただいまー」
「お疲れ様です」
「おう……」

 夜21時。帰宅した竜二をアスカが出迎える。

「お風呂にします?ご飯にします?それとも……」
「そのくだりはやらんといかんのか?」
「お約束は踏襲しないと……」
「言葉の使い方間違っとる気がするんやけどな……」
「間違ってないですよう……」

 むくれるアスカを尻目に部屋に上がろうとする彼だが、そこにはやてが声をかけた。

「あ、兄ちゃんお帰りー。先お風呂入っちゃってー」
「ただいまー。わかった」
「あ、じゃあ私が背中を……」
「絶対それだけですまんから来るな」
「え……?」

 呆けた顔をしたアスカにさらに畳み掛ける竜二。

「お子様ご禁制行為を小学生がおるところでしようとするなお前は」
「むしろなぜ主がそこまで自制できてるんですかねぇ……」
「お前が朝からナニしてるからやろ。気づいたら下半身脱がされてるし股間にお前おるし」
「あ、アハハ……」
「コホン……」

 などとご禁制スレスレの会話にシグナムが咳払いをして遮った。

「あ、シグナムさん……」
「兄殿、アスカ殿、やめろとは言わないからせめてその話は主のいないところでしてくれないか」
「やなぁ。情操教育上悪すぎる。とりあえず風呂入ってくる」

 シグナムが釘を刺すと、竜二が自室へと上がっていった。

「まったく……アスカ殿もアスカ殿だけどな」
「わ、私ですか?」
「大半そなたであろう?そういった話をふっかけているのは」
「ひ、否定できない……くすん」
「泣き真似って子供か……やれやれ」

 さすがのシグナムも、このタイプには手を焼いているようだ。右手を額に当てて盛大にため息を付いた。

「さぁて、兄ちゃんのご飯用意せななー」

 そんな彼女たちのことなど知らぬ存ぜぬとばかりに、うれしそうな顔ではやてが冷蔵庫から皿を取り出して電子レンジへと放り込むと、片手鍋を火にかけていく。

「……それで、魔力反応はあったのですか?」
「この街には何人かの者がありました。しかし、面識がないので協力してくれるかどうか……」
「そうですか……そう都合よく魔法生物がこの辺りにいるわけないですよねぇ……」
「現在ザフィーラとシャマルが、別の次元世界に出かけています。ザフィーラは守備の要ですが、攻撃にも秀でているのでうってつけかと」
「なるほど、それは確かに。ヴィータちゃんはどうしていますか?」
「今のところは出撃していません。しかし、次はそろそろ私たちの出番かと。兄殿もそれなりに形にはなってきていることですから」
「だといいんですが……」

 闇の書の魔力蒐集は、あまり進んでいないようだ。しかしそれでも、はやてのリンカーコアへの浸食は抑えられているはずだとシグナムが語ると、アスカはそれきり竜二が風呂から上がるまで黙り込んでしまった。




 それから数日後。暑さが和らぐ夕方にさしかかろうかという時間に、竜二は一人で青いミドルスクーターにまたがり、とある場所へと向かっている。これはこっちに来て三日後に彼の義理の親から宅配で送られてきたもので、もともと彼の乗っていたものである。

「さて、今日は3万くらい勝たせてもらったから、あいつらに土産でも買ってってやるか」

 今日の彼は表が赤く、裏地がヒョウ柄のノースリーブジレに半袖の白い文字プリントTシャツ、黒のタイトなカーゴパンツに茶色のブーツ。Tシャツの胸元にはシルバーネックレス、腹のあたりにはジレに埋められたシルバーリング同士をつなぐかのように、シルバーチェーンがある程度たるみをもってつながれている。
 バイクを降りてメットをとり、シートの下にしまっていたレザーのショルダーバッグを取り出してメットをしまい鍵をかけ、扉を開けて中へと入る。ドアに付けられた来客を告げるベルが店内に心地よく、かつ大きく鳴り響き、若い女性店員がすぐに反応する。

「いらっしゃいませ~、お一人様でしょうか?」
「はい」
「カウンターならすぐにご案内できますけど……」
「構いませんよ」
「かしこまりました。こちらにどうぞ~」

 その店の名は、喫茶「翠屋」。彼が一人で海鳴市内をバイクで巡っている間に、空腹を満たすために入った店の一つで、値段と味が「いい意味」で釣り合っていないという噂の店でもある。今や彼のお気に入りの店の一つといえよう。よく一人で来ているとか。
 主婦が談笑し、老人たちが憩いの時を過ごしている。若い男が一人で訪れるには、あまりにも場違いに思える。しかし、竜二はそんなことなど気にしていない。

「ご注文はお決まりでしょうか?」
「ホットケーキでセットを。アイスレモンティーで」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」

 注文を取り、奥へと引っ込んでいく。竜二はグラスに出されたお冷を口に運んでふと呟いた。

「平和やなぁ……しかしまぁ、ガキの頃はこんなことになるとか思いもよらんかったよなぁ」

 そして彼は、注文の品が届くまでの間に昔のことを思い浮かべていた。



 彼が大阪に居た頃は、少々はぐれものだったらしい。小学校の内はよそ者ということで学校では馴染めず、中学に上がってからは寂しさから繁華街に繰り出せば絡まれる日々。そんな日々の中で育まれた格闘技術は、荒削りながらも実戦慣れしたものへと研ぎ澄まされていった。
 高校に上がって音楽と出会い、仲間と出会ったため生活は変わり、大人しくなってはいったが、彼はそれ故か、平和で穏やかな日々というものに憧れを持っているフシがある。
 自宅は親と彼と、はやてとは別の妹の四人暮らしで、何の目的もなくただフラフラするだけの日々。家庭内でもよそよそしさが取れない中、彼の救いとなったのは、当時はまだまだ発達段階だったインターネットやテレビゲームなどであった。
 そんな中、竜二の15歳の誕生日で星天の書が起動したことでアスカと出会った。当時は名前がなく、感情もロクに表さなかったとか。



「お待たせいたしました。ホットケーキセットでございます」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ、ごゆっくりどうぞ」

 ふと彼が過去を思い出しながら苦笑していると、先ほどの女性店員が注文の品を届けに来たので、中断して受け取る。周囲に爽やかなレモンの香りを漂わせながら、ホットケーキにシロップとバターを塗って、フォークとナイフで切り分けていく。

「うん、うまい」
「いつもありがとう。最近よく来るね?」

 そう彼に話しかけた男性は翠屋の店長。大学生の息子がいるらしいが、そうとは見えないほど若々しい。

「つい最近大阪からこっちに越してきましてね。こんなうまい店があるとは知りませんでしたわ」
「妻が喜ぶよ。ゆっくりしていってくれ」
「ええ」
「しかし大阪からか。転勤か何か?」
「まぁ、そんなところですわ。あ、後でシュークリーム包んでもらえます?」
「わかった。桃子ー?」

 彼はそういうと裏へと向かっていく。シュークリームの在庫確認だろう。

 食べ始めてからしばらくすると、来客を告げるベルが鳴り響くと同時に、姦しい声が聞こえてきた。

「あー、お腹すいたー!」
「にゃはは、アリサちゃん待ちきれなかったんだね……」
「仕方ないよなのは。ここは何食べてもハズレがないし」
「あはは……」

 彼自身何度か顔を見たことはあるが、声をかけたことはなく名前すら知らない四人組の少女たち。彼女たちが来るとどこか和やかな空気へと変わっていくその瞬間は、彼自身ある意味で楽しみにしていたりもする。

「さて、これ食ったらシュークリーム買って帰るか……みんな楽しみにしてるしな」

 つぶやきながらホットケーキを口に放り込んでいく竜二。そんな中、一人の青年が店に入ってくる。

「みんな早すぎやて……もうついたんかい?」
「遅いよー直人さん!」
「さぁ、遅刻したお詫びに全員にケーキセット奢りなさい!」
「あ、アリサちゃん、それはいくらなんでもエグいと思うの……」
「うるさい!こんな可愛い女の子たちを待たせるなんて言語道断!」
「まぁ、こないだパチで8万買ったからええけどさ……」

 会話の中身そのものに特に変わったものはなく、奢らされる男がかわいそうだな、というくらい。しかし、そこに来た男は、竜二の知り合いにどことなく似ていた。

「あれ?そこにおるの……」
「誰のこと?」
「いや、そこで一人でホットケーキつついてるの、もしかしたら知り合いかなーと思ってな」
「やれやれ、話あるならさっさと済ませてきなさいよ?」
「はいはい、お姫様」

 どうやら彼女たちの中では、アリサという少女がリーダー格らしい。年上であるはずの青年にもためらいなく、まるで命じるように話すと、その青年が竜二に声をかける。

「あのー、竜二先輩ですよね?俺のこと覚えてます?」
「ん……おう、お前か。久しぶりやな、直人」
「お久しぶりです、先輩。矢吹さんからこっちに来てるって聞いて、いつ会えるか楽しみにしとったんですわ」
「そうなん?矢吹と知り合いかお前」
「ええ、ちょっと縁がありましてね」

 竜二にとっては地元の後輩であるその青年の名は、山口 直人。かつて彼の舎弟としてあちこち連れまわされながらも、中学卒業後に引っ越すまで竜二の元を離れなかったとか。

「しかし、こっちきてからえっらい変わったよなぁお前……今どないしてんの?」
「まぁいろいろありまして、高校卒業して今はフリーターですわ。平和に過ごしてはいますけどね」
「チャラいなぁ」
「それ言ったら先輩もじゃないですか?金髪て」
「ぐぬぬ……しかし、子供にいいようにパシらされてんのはどうなんよ?」
「それは言わんでくださいよ……しかし先輩は相変わらずですなぁ」
「まぁな。言うてお前ちょくちょく帰ってきてたやんけ」

 今日の直人は、青のイラストTシャツに迷彩柄のハーフパンツ、茶色のクロックスという格好。茶色に染めた髪と焼けた肌が、遊んでいる雰囲気を醸し出している。悪く言えば、チャラく見える。

「それにしても先輩、『Rising Force』に引き続き『STORM BRINGER』もやめたんです?すんごいこっちでも噂になってますけど」
「やめたっていうか、両方とも解散やなぁ。みんな忙しなってきたから、練習する時間もロクにとれやせんかったし、ライブもお客さん来なくなってたし」
「あの熱気は先輩らやからこそ出せたんやと思いますけどね。やっぱ環境なんかなぁ……」
「ていうかこっちまで噂って誰が広めたん?大阪限定の活動やってんけど」
「ああ、矢吹さんですよ。あの人、先輩が初めてバンド組んだ時にライブ行ったことがあるらしくて」
「ああ、『Dirty Children』のサポートで出た時か?」
「いや、サポートじゃなくてその後の『Rising Force』ですよ」
「あー、あの時のか。あの時の俺ヘタクソすぎて聞けたもんやなかったやろ?」
「いやいや、こいつは伸びるって確信してたらしいですよ?」
「ホンマかいなぁ?」
「インギーみたいに見えたって言ってましたよ」
「失敬な!俺あんな太ってないわ!そんであんな早く弾けんわ!光速の豚貴族には勝てんて!」

 と竜二が返すと、テンションが上がったのか狂ったように声を上げだす二人。

「弾けない豚はただの豚だ!」
「俺は貴族だ、正確には伯爵だ!」
「スレイヤー?ハッハー、まるでお笑いだぜ!」
「エクソダス?ウェー、ひどいな!!これだけたくさんのミスがあると一晩中かかっても指摘しきれないぜ。まるで才能ないね!」
「『カモン、ベイベー!今夜は一緒にいよう!イエィ!ロックンロール!』って歌詞は大嫌いだ!寒気がする!薄っぺらだ!大嫌いだ!」
「マークがいなくなったのはどうだっていいんだ。マッツ・レヴィンやヨラン・エドマンが辞めて心配したかい?マイク・ヴェセーラは?俺は気にしないね!誰がバンドにいるかなんて関係ない!」
「アイツがオレをパクってないって?もし本気でそう思っているんならこいつは頭が完全におかしい。とんでもない話だ!あの醜い顔を殴ってやりたい!」
「俺は皆と友達だよ。敵はいない。友達だけだ。唯一嫌いなのはブルース・ディッキンソンだ。あいつは大嫌いだ。あいつは○○○○だからだ。あいつはとんでもない野郎だ。生まれてから会った人間のなかでも一番非礼な奴だ!すごく失礼だ!本当に失礼だよ!あいつは大嫌いだ!それに、そんなに上手くもない。とんでもない奴だ。俺が『先祖が貴族なんだ』と言ったら、奴は『それがどうした?』だって。あいつは最低だ!」
「俺は天才だ!」
「俺以外の奴等はみんなカスだ!」
「俺の音楽が分からない奴等はクズだ!」

 などとイングヴェイ・マルムスティーン語録について二人で盛り上がっていた。



 ちなみに『STORM BRINGER』や『Rising Force』というのは、竜二が大阪にいたときにギタリストとして所属していたヘヴィメタルバンドのことである。また『STORM BRINGER』では作曲を担当していた。ヘヴィなサウンドながらも美しいメロディラインを意識し、歌詞はまさに『戦う漢の生き様』を表していた、いわゆるクサメタルと呼ばれるもの。ロック・メタルファンだけでなく、ヴィジュアル系バンドが好きな若者達からも人気があったとか。
 特に『STORM BRINGER』の勢いは凄まじく、そのままプロデビューも目前と言われていたほどであったが、あえなく解散の憂き目にあっている。



 そのまましばし続いたが、ネタ切れか周りの目線に気づいたか、互いに咳払いして落ち着ける。

「しかしお前、あの子らと知り合いなんやろ?まさかと思うけど聞かしてないやろな?」
「いやみんな知ってますけど」

 直人がしれっと返すと、竜二はため息交じりに続けた。

「やっぱりか……しかしなんでまたあんな子らに?そもそもお前こっちで何してん?」
「いや、まぁ、なんというか……ちょっとありまして」
「うわーないわー、お前子供に手ぇ出すとかないわーマジないわー」
「棒読みの上ないわー連呼とか怖いんでやめてもらえます!?しかもその言い方やと俺があの子らてごめにした風に聞こえるやないですか!」
「いやだってお前、バンギャでもない女の子にへヴィメタルやぞ?普通に考えたらありえへんやろ馬鹿じゃねぇの?」
「いやいや、聞かせようとしてたわけじゃなくてですね……てか先にそこ突っ込みいれないんですね」
「じゃあ聞くわ。なんでやねん?」
「いやもう勘弁してください」
「わっけわからんわお前……」
「わけわからんのは先輩もっすよ……」
「やれやれだぜ……」

 店内には女の子たちの楽しそうな声が聞こえる。本来喫茶店という場所である以上誰か注意しそうなものだが、常識外れた大声というわけでもないからか、みんな笑って黙認している。
 子供の楽しそうな声というのは、疲れた人達に元気を与えるものなのだろう。

「それにしても、なんだってこんな街までわざわざ?都会が鬱になったとか?」
「んなわけあらへんやろ。妹の面倒見るためやわ」
「あー、そういや生き別れたんでしたっけ……」
「おう。ちょうどお前の連れの女の子くらいの年やわ」
「はぁ……大変ですねそりゃ」
「まぁ、楽しんでるからええけどな」
「先輩どこいっても楽しんで生きてるイメージが」
「お前それは俺がどこいっても遊んでるってか?」
「住めば都、でしょ?」
「ものは言いようやなテメェ……」

 やはり旧知の仲ともなると、話のタネは尽きないようで、次から次へと話題が出てくる。ちなみに、話しながらも竜二の手は止まっていない。

「しかし、先輩も一人でこういうところ来るんですね」
「まぁな。暇なときに腹減ったり喉渇いたりすると、適当な店に入ったりは昔からしてたし、ここもそうやって見つけた店や。レベル高いしちょこちょこ来るようになったわ」
「適当に、ねぇ」
「なんやその疑わしい目は?」
「いや、ここの女性店員って美人さんだからその噂を聞きつけて……」
「俺がそんな奴やと?」
「先輩だって男でしょ?」
「ちちしりふとももぉぉぉぉおおおおおおッ!」
「やれやれだぜ……」

 などと話し込んでいると、少女の鋭い声が響く。

「いつまでかかってんのよ!」
「ちょっとアリサちゃん……」
「だってすぐ終わらすって言ったのに、直人の奴……」
「あーごめんごめん。でもまぁ、他の人もおるから大声あげたらあかんで?」

 それを聞いた竜二は、呆れ顔で直人に漏らす。

「……お前、子供にああまで言わせてええんかいな?」
「ハハハ……まぁ、ついつい。ほら、言うて小学生相手ですし」
「このロリコンが」
「ちょ!な!え!?」

 この一言に、直人が過敏に反応した。しかし、竜二は容赦せずさらに詰める。

「ロリコンやろ十分。まぁ安心しろ。お前がロリコンでも俺の舎弟や」
「ちょ、誤解っすよ!そんなロリコンロリコン言わんで下さいよ!」
「え?違うと?なんやったらお前があの子らと楽しげに話してるところ写メとって昔の連れに晒し回ろか?」
「いや、もういいですわ……ていうかそれなら言わせてもらいますけどね、先輩だってシスコンでしょ!?」
「んやとコラ!?お前言うにことかいてシスコンと来たか!?」

 竜二もこれには反論。しかし直人も先ほどの反撃のつもりか引き下がらない。

「だってそうでしょ!?大阪からわざわざこんなところまでやってきて、やることはなんだっつったら妹の面倒見るだぁ!?シスコンでしょどう考えても!」
「やっかましいこのロリコンが!表出ろやこのボケ!」
「上等ッスよ!今日という今日こそはアンタぶちのめしたらァ!」

 しかし、揉めだしたときに一人の少女が叫んだ。

「うるさああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああい!」

 アリサと呼ばれた金髪の少女。

「アンタたちいい加減にしなさいよ!ここどこだと思ってんの!」
「あ、アリサちゃんも大概……他のお客さんもいるんだよ?」

 その隣の紫の髪の少女がツッコミを入れるが聞いていない。しかも周りのお客さんは自分達の会話に夢中で、全く気にしている様子はない。これにはその場にいた儚げな雰囲気を持つ金髪の少女も苦笑い。

「あはは、こうなったら止まらないかも……あれ?あの二人は?」

 しかし、すでに肝心の二人はすでに代金をテーブルに置いて店から消えていた。そして外では……



「ぐ……」
「かはっ……」

 二人とも倒れており、その傍らには店長が仁王立ちしていた。

「お、おとーさん!?」
「お、なのはか。なぁに、大丈夫だ。問題ない」
「その発言が色々問題あるような気がするし、まず一体どういうことなのか説明してほしいの……」

 なのはと呼ばれた明るい茶髪をツインテールにしている少女が駆けつけると、店長は何事もなかったかのように笑っていた。地面を見ると二人とも腹を押さえてうずくまっており、彼が何かをしたのは状況から見て明白である。

「大丈夫だ。何も問題ない」
「いやあの……」
「大丈夫だ。何も問題ない」
「……うん、わかったからお店に戻ろう、おとーさん……」

 しかし、同じことを繰り返す彼の態度からして何かを察したのか、なのはは追求をあきらめたように、ため息をついてうつむいた。
 
「まぁ二人とも元気が有り余ってるのはいいことだが、公共の場所で、しかも他のお客さんがいる前で怒鳴り散らすのはいくらなんでもよろしくないなってことで俺直々にオシオキをしておいただけのことさ」
「そんなところだと思ったの……」

 その話を聞いていたのか、金髪のおとなしい子がなのはの後ろで震えていた。

「一撃で直人さん沈めるとか、なのはのお父さんって何者……?」
「にゃはは……フェイトちゃん、できればあまり聞かないでほしいの……」

 なのはとしても、冷や汗を浮かべた苦笑いでごまかすしかないらしい。
 ちなみに、竜二が目覚めてから自己紹介したときに、その場にいた子供達が全員卒倒したのはまた別の話。 
 

 
後書き
 ちょっとしたシーン追加。インギー様語録は書いてたら止まらなくなった。 
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