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管理局の問題児

作者:くま吉
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第6話 教導官だけど愛さえあれば関係ないよねっ!



 リクは現在隊長である、なのは、フェイト、はやての部屋の前に来ていた。
 訓練の時に、フェイトとある程度仲良くなり、話していたら、部屋の場所と、3人でルームシェアをしている事を知ったリク。
 美少女三人のルームシェアに頭の片隅で下らない事を考えながら、リクは部屋の前にあるインターホンを押す。

 ピンポーン。

「なんで日本式のインターホンなんだよ」

 十歳くらいの時、地球にある武術は為になるという理由で、一時期地球に住んでいた経験のあるリクは、そんな事を廊下で呟く。

(そういや、なのはやはやてって地球の日本出身だったっけ)

 昔レイと一緒に可愛い子を探すという理由で、ミッドチルダにある雑誌会社が毎年発行している「ミッドチルダ女性魔導師大全」を見ていた時に書かれていた事を思い出した。
 ちなみにその「ミッドチルダ女性魔導師大全」、毎年五千万部を売り上げるベストセラーであり、その理由として、巻末にシリアルコードがあり、公式HPでそのシリアルコードを打ち込むと、好きな女性魔導師に投票出来、最終的にミッドチルダで一番人気のある女性魔導師が決まるという、一種のミスコンを行えるようになっているのだ。
 さらについでとして、「ミッドチルダ男性魔導師大全」も販売している。まあ、男であるリクにとってはまさにどうでも良い代物ではあるが。

『はいはーい。ちょっと待っててー』

 リクが考えている内に、ドア越しになのはの声が聞こえてきた。
 それと同時にリクの期待もムクムクと高まっていく。

(風呂上り…いや、シャワー終わりの汗ばんで上気した肌!少しだけ濡れ、光沢を放つ髪!そして、ノーブラのパジャマ!!更に薄いパジャマに浮き出るパンティーの線…っ!!―――ふむ、まことに雅なり)

 前話で見せたキャラはどこへやら。リクは脳内で変態全開であった。
 普段は結構真面目で、仲間想いで、お節介なリク。しかし彼もレイ程ではないが、れっきとした女好きである。今まで言葉巧みに落とした女は両手の指では数えきれない。ついでに酒癖が非常に悪い事も記しておく。
 まあ、そんな女好きなリクが、美少女の中の美少女であるなのはに対して、そういう事を考えても仕方のない事である。
 もちろんリクは無駄なプライドに賭けて死んでも表情には出さないが。

「デレは巧みに使い分けろ。下心は死んでも出すな」はリクの持論だ。

 ―――ウィイン。

 自動スライド式のドアが開く。
 それと同時に、リクは己の下心を一瞬で頭の隅に追いやる。勿論真面目な話をしにきたので、即座にスイッチも入れ替えようとするリク。
 しかし目の前には―――。

「――――――え?リ…ク…くん?」

 髪を拭くタオル以外何も衣類を付けていないなのはが出てきたのだ。しかも持っているタオルはハンドタオル程度の大きさなので、当然上も下も完全に丸見えである。
 そして先程書いた通り、リクも男なので、なのはの整った肢体をこれでもかというくらいガン見する。
 なのはの思考が追いつくまで二十秒もかかった。勿論その間リクはなのはの裸を見まくりである。

「きゃああああああああぁぁぁああああ!!!」

 悲鳴を上げながら、なのはは両手で胸を隠し、その場に蹲る。

(ってその場で蹲るだとっ!?)

 リクは内心で驚愕する。
 リクがなのはの裸を見てもある程度余裕を保っていられたのは、どうせすぐさまバスルームになのはが駆け込むだろうと見越しての事だった。しかし、なのは悲鳴を上げてその場で蹲ってしまったのだ。
 リクは自分が一気に冷や汗をかき始めた事を感じる。

(や、ヤバい。この状況を誰かに見られたら完全にアウトだ。言い訳しようもなくレイプ犯扱いされてしまうッ!!)

「た、高町隊長、き、着替えてきた方がよろしいのでは…」

 威勢の欠片もない情けない声を出しながらリクは言うが、なのはは混乱の極みにいる為全く動けずにいる。
 そもそも異性と付き合った事すらないなのはにとって、異性に裸を見られるというのは恥ずかし過ぎる状況なのだ。九歳児の時にフェレット状態のユーノに裸を見られた事があるとはいえ、九歳と十九歳では色々と心の在り様が違う。

「うっ…えぐっ…ぅ…、あぐ…ぇっ…ぐ」

 そしてとうとうなのはは羞恥と、ついでに午後の訓練での自分の不甲斐なさを思い出すというダブルパンチで泣き出してしまった。
 涙は女の最強の武器。とはいうが、今この状況では核兵器に匹敵する威力を誇る。

 リクの前に全裸のなのは。
 ↓
 なのは泣いている。
 ↓
 リク、レイプ犯として逮捕。
 ↓
 死刑。色んな意味で。

 この図式が一瞬でリクの脳内で描かれる。
 既にとてつもない冷や汗がリクから流れ落ちている。必死で頭を働かせるが、そもそもリク自身なのはの裸を見たせいで自分でも気づかない内にかなりの狼狽状態になっている。

 と、リクは近づいてくる二つの魔力を感知した。

 戦闘能力を持っている「剣の民」全員が使えるスキル…のようなものに、魔力察知がある。ミッドやベルカの魔導師ならば、専用の魔法を使うか、デバイスが感知するか、もしくはある程度の距離まで近づかなければ分からないが、彼ら「剣の民」は感覚的に魔力を感知する事が出来るのだ。それも非常に広域で。

(くそ、動揺し過ぎたせいでこの距離まで気付けなかった)

 無剣リクは言い訳というか弁明といったものを心の内で呟く。そして、そんな事を言っている間にも、この部屋に近づいてくる二人の魔導師との距離は縮まるばかりだ。
 そして近づいてくる魔導師は、フェイト=T=ハラオウンと、八神はやてなのは間違いない。

「―――くそっ」

「え―――きゃっ!?」

 何を思ったのか、リクはなのはの手を握り、そのまま無理矢理立たせ、一緒に部屋に入った。

「え、え、な、なに?」

 先程まで泣いていたなのはは、いきなりの事に混乱する。
 しかし、リクはそれどころではない。一刻も早くこの状況を何とかしなくてはいけないのだ。

「高町隊長、クローゼットはどこですか」

 努めて冷静になる努力をしながら、なのはに言った。

「えっと、そっちにあるけど…」

 なのはが指差した方へ歩いて行き、リクはクローゼットを思いっきり開けた。

「ええ!?な、何してるの!?」

「そりゃ勿論高町隊長に服着て貰うに決まってます。全裸じゃマズイですから」

「う…、そ、そりゃそうかもしれないけど、女の子のクローゼットを開けるのは―――」

「もうすぐフェイト隊長と、八神部隊長が来ます。流石に今の高町隊長を見られる訳にはいきませんから」

 リクの確信めいた言葉に、なのはは「そ、そうなんだ…」と、半ば無理矢理納得した。というかしてしまったという感じか。
 そこで、ふとなのはは気付く。自分がやればすぐに終わるのではないか、と。

「あっ、リク君ちょっと待ってわたしがするから―――ってそれはフェイトちゃんのー!!」

 そう叫ぶなのはの前には、一枚の黒い下着を持つリクの姿が。
 素早くなのはは、リクの手からフェイトの下着を奪い取る。

「あ、すいません。やっぱり高町隊長のじゃありませんでしたか。ブラのサイズがどう見ても合ってな―――」

「じゃあなんで手に取ったの!?」

「ムラムラしたので」

「あ、そうなんだ。なら仕方な―――くないよっ!!ダメだよ女の子の下着を手に取ったら!!」

「―――――――――」

「なに、驚愕!!みたいな顔してるの!?常識だよ常識!!」

「分かりました。なら高町隊長の地味で可愛げのないダサい下着で我慢します」

「そこまでダサくな…いよね?カワイイ下着持ってるよねわたし?」

「それは見て見ない事には」

「ならわたしの一番のお気に入りを見て判断―――ってその手にはくわないよっ!?」

 と、その時。

『あー、今日も仕事きっついなぁ』

『少しは休まなきゃダメだよはやて』

『何言うとんの。フェイトちゃんも無理しすぎや』

『それを言うならなのはもだよ』

『アハハ、そうやなぁ。なのはちゃんも相当ガンバっとるからなぁ』


「「やっべええええええ!!!」」


 扉のすぐ近くから聞こえてくるフェイトとはやての他愛もない会話。しかし今のリクとなのはにとっては地獄からの呼び声に近い。
 まあ、ふざけてさっさと服を着なかったなのは、そしてそれ以上に、なのはをからかっていたリクが全面的に悪いのだが、二人の脳内からはそんな考えは抜け落ちている。あるのはどうやってこの後待ち受ける状況を切り抜けるかである。

「う…くっ…あぐッ…」

 と、いきなりリクは嗚咽を漏らし始める。
 なのははギョッとしてリクの方を向くと、そこには涙を流すリクの姿が。それを見たなのははリクの真意を直感で理解する。

「わたしをパワハラ教官にするつもりなの!?」

「すいません高町隊長。これしか道は残ってな―――ぐえっ!!」

「ふざけないでそんなの絶対に許さないよ!!」

 普通なら、なのはの事をキチンと理解してくれているフェイトとはやてならば、リクが泣いていたとしても、即座になのはが悪いなどとは思わない。それどころか、リクの思惑にも気づくだろう。
 まあ、なのはがそんな事にも気づかないくらい動揺しているということなのだが。

 ―――ウィィィン。

 ドアが開く。

 ―――ガシッ!

 なのはがリクの服の襟をガッシリと掴む。

 ―――グイッ!!

 そして、全力で引っ張る。

 ―――ガチャ。

 部屋にある使われていない、クローゼットを開く。仕事が忙しく、買い物などをする機会がないなのは達三人は、あまり私服を持っていないのだ。普段は管理局の制服を着てるので別段問題は無い。

 ―――バタン。

 そして、なのはと、なのはに引きずられたリクは、共にクローゼットの中に入る。

「ちょっと何してんだあんた!?(小声)」

 余りに余りななのはの行動に、敬語すら忘れている。

「し、仕方ないでしょ焦ってたんだから!!(小声)」

「分かってんのか!?この状況見られたらどう言い訳すんだ!?(小声)」

「そんな事知らないよ!それにリク君が悪いんだ!女の子下着でえっちな事するから!!(小声)」

 絶体絶命(社会的に)な状況下でも喧嘩し続けるリクとなのは。ある意味では仲が良い二人なのかもしれない。

『あれ?なのはちゃんおらへんで?』

 ―――ギクゥ!!

 クローゼットの外から聞こえるはやての声。
 都合よくなのはの存在を言われ、隠れている二人は同時に身体をビクッと震わせた。

『また仕事でもしてるんじゃない?』

 はやての疑問にフェイトが答える。

『ん~、そやな。なのはちゃんなら十分考えられるわ。花より団子もとい、男より仕事やもんな、なのはちゃんは』

『それは私達にも言えると思うよ、はやて』

『私達、やて?』

『え?もしかしてはやて好きな人出来たの?』

『ちゃうちゃうフェイトちゃん。私が言うてんのはフェイトちゃんのことや』

『私?』

『そや。なんや訓練のじかん随分とリク君とイチャイチャしとったらしいやん』

『ふえ!?わ、私そんな事してないよ!誰が言ったの!?』

『シグナムや。それにエリオやキャロも言っとたで』

『ええ!?ち、違うよ!私とリクは別にそんなんじゃないし、それにリクだって私の事なんか別に好きじゃないと思うし…。なのにそんな事言っちゃリクが可哀想だよ』

『ふっふっふ。そないな事考えとる時点でフェイトちゃんがリク君に惹かれとるのは明白や!』

『ええ!?そ、そうなのかな…』

『そや!!フェイトちゃんはリク君の事が好きなんや!!』

 はやては人差し指をビシッ!と、フェイトに向ける。
 一方のフェイトは、はやての言葉に妙に納得した表情をした後、その顔を真っ赤に染めはじめる。

『そ、そうなんだ。私、リクの事が好きなんだ…』


「「チョロッ!!?(小声)」」


『ん?いまなんや声が聞こえんかった?』

『そ、そうなんだ、私、恋してるんだ…』

『あかん、全く聞こえてへん。まあええか。フェイトちゃーん、もう寝るよー』

『あ、うんそうだねはやて』

 こうして二人は大きなベットに入る。
 ちなみに二人は既に別の所にあるシャワールームでシャワーを浴びている。

『ほなお休みなぁ。…ぐう』

『ふふ、寝るの早いよはやて。…ぐう』


「お前も早いわ(小声)」
「フェイトちゃんも早いよ(小声)」


 そして残された馬鹿二人。
 いや、少なくともなのはは普段全然バカではないのだが、この状況下では馬鹿と表現するしかない。

「今出てもバレないと思うか?(小声)」

「無理だよ。フェイトちゃんなら絶対気付くよ(小声)」

「マジかよ。ならいつまでこのままでいるつもりだ?俺は役得でも高町隊長は―――(小声)」

 その時、なのはは、リクを見た。
 ちなみに身長差で必然的に上目使いになり、リクの心臓は高鳴る。なのはは恥ずかしさでドクドクドクといった感じだが。

「もう敬語使ってないんだからなのはって呼んでよ(小声)」

 それは普段の高町なのはではあり得ない、少しだけ挑発的な色を含んでいた。

「なに言ってん…言ってるんですか。上官を呼び捨てなんて出来るわけありません(小声)」

「なら上官命令だよ。これからわたしに対して敬語は要らないから(小声)」

 なのはの言葉に真意がリクには分からなかった。
 上官に対して敬意を払わない口調…つまりはタメ口で話す事は、組織内での規律を乱す事に繋がる。いくら機動六課自体がそういう縦社会から大きく外れた内部空気を醸し出しているとは言っても、最低限の礼儀は必要だ。
 レイやアキがぶっ飛んでいるので、リク自身上官にタメ口を許可され、今からタメ口になる事は可能ではあるし、違和感なく馴染めるだろう。だがそれを受け入れるかどうかは別問題なのである。
 そこでリクは一つの解答を用意した。

「なら…」

 ポツリと、小さく呟き、リクはなんとか体勢を崩し、なのはの顔に自分の顔を近づける。

「ふえ―――!?」

 いきなりの事に、再びなのはの顔は耳まで真っ赤になり、ついでに身体が固まる。
 そんななのはを無視して、リクが更に顔を近づける。
 徐々に、ゆっくりと近づき、なのはの顔に、リクの吐息がかかる。反対にリクは、なのはのシャワー上がりのシャンプーの良い香りが鼻孔をくすぐる。
 しかしやはり問題なのは、なのはの方であった。未だかつてこれ程までに異性と接近した事などないし、なにより自分は裸だ。そして、その裸に、リクの鍛え上げられた肉体の力強さを直に感じ、思考が凄まじい速度で麻痺していく。

「ふ…ぁ…」

 今もゆっくりと近づくリクの顔、そして目を見つめる内に、無意識下で艶めかしい声が小さく吐きだされた。
 鳴り止まない心臓の音に支配されるように、なのははゆっくりとその瞳を閉じた。


「―――これから、二人っきりの時は“なのは”って呼ぶよ」


「……………………………え?」

「いやだから、二人っきりの時は呼び捨てにするし、タメ口で話すって言ったんだけど」

「ぁ…、そ、そうなんだ!ま、まあ、今はそれで許してあげる!」

 と、少しだけ残念そうに、そしてホッとしたような表情を浮かべながら、なのはは微笑んだ。
 しかし、なのはのそんな表情の変化を、リクはあざとく気付く。

「もしかして…キス、されるとか思いました?」

「全然っ!?全・然!!そんなことないから!!」

「そうか。まあ、いいけど。二人きりの秘密も出来たし」

「ふ、二人きりの秘密!?」

「そ。俺が“なのは”に対してタメ口の使うのは二人きりの時だけだから」

 リクは挑発的、かつ魅惑的な笑みを浮かべながらなのはの目を真っ直ぐに見つめる。最早完全に主旨を忘れ、なのはを口説き落とす事に心血を注いでいるリク。そんなリクに、恋愛に関する経験値で絶対的に劣っているなのはは、翻弄されまくり。顔というか耳まで真っ赤、そして身体も真っ赤である。
 しかし、なのはも教導官として、そして管理局の「エース・オブ・エース」として年下の男子にいいように翻弄されるのはプライドが許さない。

「じゃ、じゃあわたしもこれから二人きりの時は『リッくん』って呼ぶ…から」

 しかし、混乱と緊張のせいか、またもや見当違いの事を言い始めた。
 だが、そんな事でリクを言い負かす事など出来ない。何故ならリクも立派に女好きであるからだ。

「なのはって俺意外をあだ名で呼んだりするの?」

「ううん。しないよ」

「じゃあ俺はなのはの特別ってわけだ」

「え…、えぇ!?ち、違うよ!わたし全然そんな事考えてな―――」

「あはは、冗談だけど」

「んがー!!これ以上わたしをからかうのは止めてー!!」

「悪い悪い。けどなのはにあだ名で呼んでもらえるのは素直に嬉しかったりするけど」

 そう言って、リクは笑う。
 その笑顔に、なのはは更に顔を赤くして、目を逸らし、そして恥ずかしそうに俯く。リクの鍛え上げられた身体、しかし、見せる笑顔は年相応のもので、そのギャップになのはは胸の高鳴りを鎮められないでいた。

(こ、こんな気持ちになったことなんてないよ…。―――こんなの、知らないよ…)

 高町なのは一等空尉が出会った、これまで感じた事のない未知の感情。けれど、この感情の名前をなのはは、知っているような気がした。

「ね、ねえ、“リッくん”。もしかしたらわたしは、君に―――」


 ―――ガチャ。


「…なにしてんの?」

「「……………………あれ?」」

 そこには、額にとんでもない数の青筋を浮かべた八神はやてと、その後ろで瞳一杯の涙を溜めたフェイト=T=ハラオウンの姿があった。



 続く。


「え、これってまだ続くの?」

 リクは誰にでもなく、ぽつりとそんな言葉を残すのだった。

 
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