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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第110話:テログループ討伐


はやてと本局に出かけて古代遺物管理部長と話をしてから3週間が経った。
その間、ミッドでも何度か事件があり、その都度緊急出動に備えた
態勢をとったのだが、いずれも6課の出番はなかった。
結果として、フォワード隊は全員が訓練に明け暮れ、俺も何度かスバル達との
模擬戦に参加した。
今日も、いつも通り起床して朝食を食べるために食堂へと向かう。
食堂に入ると、なのはとフェイトとヴィヴィオが朝食を食べていた。
他に親しい人間も居ないので、俺は3人が座るテーブルへと近づく。

「あっ!パパだ」

俺に背を向けて朝食を食べていたなのはとフェイトが、ヴィヴィオの
声につられて俺の方を振り返る。

「あ、ほんとだ。おはよ、ゲオルグくん」

「おはよう、ゲオルグ」

「3人とも、おはよう。ここいいか?」

「もちろんだよ。一緒に食べよ」

なのはがにっこり笑って言うのに合わせてフェイトが頷く。
俺は、テーブルを回りこんで2人の向かい側に座る
ヴィヴィオの隣に腰を下ろす。

「おはよう、ヴィヴィオ」

「おはよう、パパ!」

ヴィヴィオが見せる満面の笑みに対して、俺も笑顔を返す。

「ヴィヴィオと一緒にご飯を食べるのも久しぶりだな」

俺がそう言うと、ヴィヴィオが頬を膨らませる。

「そうだよ。ずっと一緒に食べたかったんだからね」

「ごめんな、仕事が忙しくてなかなか時間がとれないんだよ」

「でも、パパはヴィヴィオのパパでしょ?」

「そうだよな。今度からはできるだけヴィヴィオやなのはと一緒に
 食べられるようにするから」

「ほんとに? きっとだよ」

「ああ。 仕事でどうしても無理な時はあるかもしれないけど、
 できるだけなんとかするよ。 さ、食べようか」
 
俺の言葉にヴィヴィオが頷き、再び朝食を食べ始めた時に、なのはが
念話で話しかけてきた。

[ゲオルグくん、あんなこと約束して大丈夫? 忙しいんじゃないの?]

突然話しかけられ、多少驚いた俺はなのはの方に目を向ける。
しかしながら、なのはは平然とした顔で朝食を食べていた。
俺も、自分の朝食に手をつけながらなのはに念話を送る。

[まあ、そこそこってとこだな。会議があるわけじゃないし、大丈夫だよ。
ただ、ヴィヴィオと飯を食う前には連絡してくれ]

[わかったよ。 必ず連絡するね]

なのははそう言うとちらりと俺の方に目線を向けてくる。
俺はなのはに向かって小さく頷くと、朝食の続きをとり始めた。





朝食を終えて食堂を出たところで、なのは達と別れて副部隊長室に向かう。
部屋に入って席に着いたところで、来客を告げるブザーが鳴った。

(誰だよ、こんな朝早くに・・・)

そんなことを思いながら腕時計に目をやると、時刻は8時を
少し過ぎたところだった。
俺は少し不機嫌になりながら、手元の端末を操作してドアを開ける。
かすかな音を立ててドアが開くと、その向こうから現れたのははやてだった。

「おはよう、ゲオルグくん。 今ええかな?」

「まだ朝飯食ったばっかりだからダメ」

「ええねんな。 ほんならちょっと失礼するで」

はやてはそう言って部屋の中に入ってくると、適当に置いてあった
椅子を引いてきて俺の机の前に置き、その上に腰を下ろす。

「で、真面目な話やねんけど、今から私と本局まで行くよ」

「は!? 何言ってんだよ?」

「部長から連絡があってん」

はやてのその言葉で、俺の頭は一気に覚醒する。

「例の話か?」

「さあ? でも、こんな時間に呼び出されるんはそれ以外思い当たる節が
 あれへんし、たぶんそうやと思う」

「わかった。今すぐだな?」

「うん。行くで」

「了解。ちょっとだけ待ってくれ」

俺ははやてにそう言うと、部屋の中にあるクローゼットからコートを
取り出して羽織ると、はやてに向かって無言で頷く。
はやての方も俺に向かって小さく頷くと、俺の部屋から足早に出た。

「どうやって行くんだ?」

「転送ポートまではヘリで行くよ。許可もとったし、ヴァイスくんにも
 待機してもらっとる」

俺は、前に2人で行った時と同じく車で転送ポートに行くと思っていたのだが、
俺の前を歩くはやてが玄関とは逆方向に歩いて行くのでそう尋ねると、
はやては振り返ることなく足早に歩きながら答えた。
それからは無言のまま通路を行き、屋上ヘリポートに上がると
はやての言った通りヘリがローターを回して待機していた。
ヘリの起こす風に逆らって歩きヘリに乗り込むと、
フェイトが一人でちょこんと座っていた。

「お待たせや、フェイトちゃん」

はやてが声をかけるとフェイトは俺たちの方に顔を向ける。

「あ、はやて。おはよう」

「うん、おはよう。ほんなら行こか」

「そうだね」

フェイトが頷くとはやては操縦室に向かって声をかける。

「行くで!ヴァイスくん」

「了解です。ちゃんとベルトしてくださいよ!」

操縦室からヴァイスの声が響くと、ヘリがフワッと浮き上がる。
窓の外に見える真新しい隊舎がみるみる小さくなっていった。

「ねえ、はやて。今日は何で呼ばれたのかな? 教えてくれない?」

フェイトがそう尋ねると、問われたはやては2・3度めをしばたたかせてから
口を開いた。

「正確なところは知らんよ。私も部長からすぐ来いって呼ばれただけやからね」

「そうなんだ。でも、思い当たるものはあるんじゃないの?」

「そうやね・・・、フェイトちゃんには話しとくわ」

はやてはそう言って、前に俺とはやてが部長に呼ばれた時のことを
話しはじめた。
フェイトははやての話を聞き終わると、はやてに向かって大きく頷いた。

「話してくれてありがとうね。それでゲオルグも乗ってるんだね」

はやての方を向いていたフェイトが俺の方に目線を向けて聞いてくるので
俺は、小さく頷いてから答える。

「ま、そういうことだな」

「それに、今回の任務はゲオルグくんに負うところが大きいからね」

「そっか、敵地攻撃だと事前の情報収集が大事だもんね。
 そういえば、私が初めてゲオルグと一緒に戦ったのって
 テロ組織の本拠地攻撃だったよね」

「よく覚えてんな、そんなこと」

「もちろんだよ。あのときは、執務官になってすぐだったし、
 ゲオルグにずいぶん怒られたもん」

「そうだっけ?」

「そうだよ。 それがきっかけでゲオルグと仲良くなったんだもん」

俺とフェイトが昔話に花を咲かせていると、はやてが割って入ってくる。

「その話は聞いたことないなあ。教えてえな、フェイトちゃん」

「うん、いいよ。 えっとね・・・」

フェイトが話し始めたところで、操縦席の方からヴァイスの声が飛んできた。

「まもなく着陸しますんで、準備してください」

それを聞いたフェイトが苦笑する。

「残念だけど、さっきの話はまた今度だね」

「そやね。さ、気を引き締めて行かんと」

そう言ったはやての顔は先ほどまでと異なり引き締まった表情をしていた。
窓の外に目を向けると、クラナガンの町並みがぐんぐん大きく迫ってきていた。





転送ポートから本局へと向かい、はやての後に続いて歩いていく。
やがて、はやての足がある会議室の前で止まった。

「ここやね」

はやては小声で呟くようにそう言うと、会議室のドアを開けた。
ドアの向こうには部長と数人の男が座っていた。
俺達が部屋に入ると、彼らの目線が一斉にこちらに向く。

「朝早くに済まんな、掛けたまえ」

部長が硬い表情でそう言うと、俺達3人は部長の正面に並んで座る。
少しあって、部長は大きく息を吐くと俺たちに向かって話し始める。

「今日来てもらったのは、あるテログループの本拠地が判明したからだ」

そう言って、部長はあるテログループとその本拠地について話を始めた。
曰く、このテログループはミッドにある管理局の施設に対して、JS事件以後
5回の攻撃を仕掛けているらしい。

「で、このグループの本拠地を情報部と捜査部が追っていたんだが、
 昨日、捜査部が本拠地を探り当てたんでな。
 早速本拠地を急襲して構成員を検挙しようということで
 朝早くから来てもらったわけだ」

部長が話を終えると、はやてが軽く頷いてから口を開く。

「私らが呼ばれた理由は判りました。
 それで、その本拠地っちゅうのはどこなんです?」

はやてに尋ねられて、部長が口を開きかけたところで、
部長の隣に座る人物が部長を手で制する。

「そこは私が」

「そうだな、君から話してもらう方がいいだろうな」

部長はそう言うと腕組みをしてうつむき、隣の男が口を開く。

「我々捜査部が調査した結果、連中がクラナガン東方の山岳地帯に
 潜伏していることが判りました」

捜査部に所属するらしい男は手元の端末を操作し、会議室のスクリーンに
地図を映し出す。

「この地点にある洞窟に出入りしている痕跡を発見しており、
 洞窟の入り口の周辺では見張りの人員が配置されていることも
 確認しております。
 さらに、このグループのリーダー格である人物が出入りしることも
 確認できておりますので、捜査部としてはこの洞窟に本拠地があるものと
 考えております」

捜査部の男が抑揚のない声で話を終えると、部長が顔を上げる。

「というわけだ。理解できたかな?」

「いくつかお聞きしてもええですか?」

はやてが捜査部の男に目を向けて尋ねると、彼は軽く頷く。

「まず聞きたいんが中の状況ですね。 テログループの人数と
 構成員の能力を教えて頂きたいです」

はやての質問に対して、捜査部の男は即座に答え始める。

「そうですね。人数は20名前後です。能力の方は・・・」

そこで一旦言葉を止めると、捜査部の男は手元の端末を操作する。

「判っている範囲ですが、魔導師が10名程度ですね。
 能力としては、最も高い者がB+ランク相当であとはCランク以下です」

「なるほど。ほんなら、必要以上に恐れる必要はないっちゅうことですね。
 個々のデータについては送ってもらえますか?」

「了解しました。あとはよろしいですか?」

「洞窟の構造は判ってますか?」

俺がそう尋ねると、訝しげな表情で捜査部の男が俺を見る。

「構造・・・ですか?」

「そうです。入り口の数や内部で通路がどのようにつながっているか、
 質量兵器がある場合にはどこに保管されているかなどですね」

「申し訳ありませんが、そういった類の情報は収集できておりません。
 質量兵器についても小火器類と爆弾については保有しているのを
 確認できておりますが、どれだけの量を保有しているかは把握しきれて
 おりません」

「そうですか・・・。それはちょっと、危ないですね。
 作戦の継続は難しいかな・・・」

敵の本拠地に対して攻撃を加える場合、敵基地の構造を
理解しておくことは非常に重要だ。
洞窟を基地化している場合、すべての出口を把握していなければ
気付いていない出口から逃走を許すことになる。
のみならず、突入部隊の背後に回り込まれれば一気にこちらが
全滅の危機に陥る。
それが身にしみているからこそ、俺は情報不足に対して危機感を覚えていた。

「馬鹿を言うな。作戦の中止は認められんぞ。テロの被害もバカにならん。
 ここらでテロリストどもを叩いておかなくては、テロの連鎖が
 際限なく続くことになるからな」

俺の弱気な発言に対して、部長が強い口調でたしなめる。

「ちょっと待ってください。シュミット3佐かてそのへんは理解してますって。
 そやけど、情報不足のまま突入してうちの人員に殉職者でも出そうもんなら
 目も当てられませんよ。部隊の責任者としてそれだけは避けんと
 いかんのですよ」

部長の叱責に対して、はやても強い口調で反論する。

「だからこそ6課に任せたんだろうが」

「必要な情報は自分で集めろってことですか?」

俺がそう訊くと、部長はにやりと笑って俺の方を見る。

「よくわかってるじゃないか。そういうことだよ、シュミット3佐」

「ですが、俺とクロス1尉以外の人間は潜入調査の経験はありませんが」

「情報収集にそれ以上の数が必要か?」

「それは・・・まあ、2名いれば十分ですかね」

「なら問題ないな?」

「そうですね。問題はありません」

俺の答えに対して、部長は満足げに頷く。

「他にはあるか?」

「いいですか?」

はやてを挟んだ向こう側から声が聞こえてきて、そちらに目を向けると
フェイトが控え目に手を上げていた。

「テログループは全員検挙とのことですが、罪状は?」

「現時点で決まっているのは公共施設に対する破壊行為だな。
 あとは、質量兵器の不法所持および使用だが、それについては
 身柄を確保した後に、起訴するかどうかを捜査部で決める。とのことだ」

「わかりました」

フェイトが納得したように頷くと、会議室に沈黙が訪れる。

「他に質問がなければ終了としたいが、かまわないかな?」

しばらくして、部長がそう訊きながら会議室を見回す。
それに合わせるように、はやてが俺とフェイトの方を確認するように見る。
俺とフェイトが軽く頷くと、はやては俺たちに向かって頷き返し、
部長の方に顔を向けた。

「問題ありません」

「よし、それでは頼むぞ」

「はい」

最後に俺たち3人はそろった声で部長に向かって返事をした。





本局から隊舎に帰る途中、俺達3人は終始無言だった。
隊舎に到着してヘリを降りたときに、はやてが重い口を開いた。

「ゲオルグくん。今回の作戦は迅速に運ばなあかんから、明日にでも
 情報収集に出てや。遅くとも明々後日には突入作戦を実行するからね」

「了解。今夜にでもシンクレアと行ってくる」

「頼むわ。基本的な戦術は私と隊長・副隊長陣で決めとくから」

はやてはそれだけ言うと、足早に屋上から降りて行った。
後には俺とフェイトが取り残される。

「ゲオルグ。 今夜にも行くって本気?」

俺が屋上から降りようと階段に向けて歩き始めたところで、
後ろからフェイトが声をかけてきた。

「本気だ。 潜入するには夜の方が適してるし、作戦日程を考えれば
 明日の夜では遅すぎる。今夜以外の選択肢はないんだよ」

「でも、きちんと準備しないと危ないよ。作戦開始を遅らせてでも
 万全の準備を整えてから・・・」

「甘い。向こうだって管理局が探り当てたことに気付いている
 可能性もあるんだ。迅速に作戦を展開しないと逃走されるかもしれない。
 それに、作戦計画を変更する権限は俺にはない。部長とはやてが
 作戦日程について決定を下した以上、俺はそれに従うのみだ」

フェイトの言葉を遮ってそう言うと、俺はフェイトに背を向けて
階段に向かって歩き出した。そのまま、早足で自分の部屋に向かう。
部屋のドアを開けると、目の前にシンクレアが立っていた。

「・・・なんでお前がここにいる?」

確かに、以前は俺の部屋でシンクレアが仕事をしていた時期もあった。
しかし、JS事件終結後しばらくして、シンクレアの正体を6課のみんなに
明かしてからは、共用のオフィススペースで仕事をするようになった。
つまり、俺が居ない間にこいつがここに居るのはおかしいのだ。
そんな思いを知ってか知らずか、シンクレアは真剣な表情で俺の問いに答える。

「はやてさんにゲオルグさんの部屋に行けって言われまして。
 潜入作戦をやるんですよね」

「ん? ああ・・・」

聞きたいのはそう言うことじゃない、と思いながらシンクレアに返事をすると
シンクレアがニヤリと笑う。

「そういえば、ゲオルグさん。 部屋のロックシステムから俺の
 魔力反応パターンを外してないでしょ。勝手に開いてびっくりしましたよ」

「は? マジか!?」

予想外のシンクレアの言葉に俺は絶句する。

(待てよ・・・、確か新隊舎の完成時にロックシステムの登録をどうするか
 訊かれて、面倒だから前のままでいいって答えたような・・・)
 
「スマン。教えてくれて助かった」

「いえいえ、セキュリティは大事ですからね。 で、本題ですけど」

そう言って、シンクレアは表情をもとの引き締まった表情に戻す。

「そうだな。まあ、座れや」

そう言って俺自身はデスクの上にある端末を持って、ソファに腰を下ろす。
シンクレアが向かい側に座ったところで、俺は話を始めた。

「はやてから大まかなところは聞いてるな?」

「ええ」

「ならその辺は飛ばすぞ。で、場所としては・・・おっ、捜査部の兄ちゃんから
 データが送られてきてるな・・・、ここだ」

そう言って、本局で話をした捜査部の男から送られてきた現地の詳細な地図を
表示させながら、シンクレアに話をする。

「洞窟・・・ですか。内部構造は判ってるんですよね?」

「いや、不明だ。他にも、敵の質量兵器保有状況なんかは不明」

「なるほど、その辺を明らかにするための潜入ってことですね」

「そういうこと。相変わらず話が早くて助かるよ」

「いや、まあ・・・つい1年前まではしょっちゅうこんなことを2人で
 やってましたからね。で、欲しい情報としては、洞窟の構造と質量兵器の
 配備状況。あとは、なんかあります?」

「敵の見張りの状況だな。場所・人数・交替パターン」

「最初の2つはともかく、最後のをやるには時間が足りませんよ」

「まあ、やれる範囲でだな。突入作戦前に隊舎に帰ってこなきゃいけないか
 どうかで、情報収集に充てられる時間も変わってくるし」

「そこはゲオルグさんとはやてさんで決めてください。
 あとは潜入方法ですけど、ステルスで行きます?」

「いや。連中が魔力反応をセンシングしてるかもしれないから、
 魔法は使わずに行くぞ。今回は原始的に行く」

「気配を消してこっそり、ってやつですか?」

「そうだ。得意だろ?」

「まあ、苦手だったら特務になんか居られませんけどね」

「だな。じゃあ、事前の打ち合わせとしてはこんなもんか。
 装備は任せる。バックアップはなし。今夜11時に格納庫集合」

潜入作戦ではバックアップチームの存在が重要だ。
最悪バレたときの脱出援護など、潜入チームの安全を確保するには不可欠と
言っていい。ただ、情報部にいたころの潜入作戦はほとんどがバックアップ
チームを配置することすらできない状況だった。

「了解です」

だからこそ、シンクレアは平然とそう言ってのけるのだが、
俺もシンクレアも不安がないわけではない。最悪、死を覚悟して突っ込むのだ。

「じゃあ、これで」

シンクレアはソファから立ち上がり、部屋を出て行った。





夕方になり潜入作戦の準備を終えたころ、なのはから夕食への誘いの
連絡が入り、俺は食堂へと向かった。
食堂に入ると、なのはとヴィヴィオが2人で食べているのが目に入る。
俺は列に並んで軽めのメニューを注文すると、トレーを持って2人が座る
テーブルに向かう。

「悪い、遅くなった」

俺がそう声をかけると、なのはが顔を上げて俺の方を見る。

「あ、遅かったね。なんかあったの?」

「いや、別に」

俺はなのはの問いに対して濁した答えを返し、2人の向かい側に座る。

「パパ。おしごとおつかれさま」

「ありがとな、ヴィヴィオ」

邪気のない笑顔でそう言うヴィヴィオに、俺は思わず頬が緩む。

「あれ? ゲオルグくん、ずいぶん少ないね。それで足りるの?」

なのはが俺の食事メニューを見て首を傾げながら訊いてくる。
実際、今日のメニューは軽めにしている。
このあと、潜入任務で動き回らなければならないから、
あまり満腹にしたくないためだ。

「まあな。今日はあんまり動いてないからこれで十分だよ」

「ふーん。そっか・・・」

なのはは腑に落ちないような表情でそう言った。
そのあとは、とりとめのない話をしながら夕食を終え、
席を立った時になのはが声をかけてきた。

「ゲオルグくん。これから私の部屋に来ない?」

「なのはの部屋? 寮の?」

「うん。部屋に帰ったら、ヴィヴィオを寝かしつけるし。だめかな?」

「ダメってことはないけど、いいのか?」

「アイナさんに話せば大丈夫だよ」

「じゃなくてさ、フェイトがいるだろ?」

俺がそう言うと、なのはは困ったように苦笑する。

「あー、フェイトちゃんはね・・・いないから大丈夫だよ」

「そっか・・・じゃあ行くか」

俺がそう言うと、なのはは笑顔で頷いた。
食堂を出るとヴィヴィオを真ん中にして、3人で手をつないで歩いて行く。
寮に着くと、なのはがアイナさんに俺が女子寮に入る許可をとりに行く。
なのはとアイナさんが二言三言話している間、ヴィヴィオは眠そうな顔を
見せ始めていた。

「眠いみたいだな、ヴィヴィオ」

「ううん。だいじょうぶだよ」

ヴィヴィオは気丈にも首を横に振る。

「無理はしなくていいぞ。でも、部屋に帰るまでは頑張ろうな」

「うん、がんばる」

そう言いながら、ヴィヴィオは今にも寝そうだ。

「お待たせ。入っていいって」

「そっか。じゃあ行くぞ、ヴィヴィオ」

「うん・・・」

俺となのはは再びヴィヴィオの手を引いて歩き始める。
しばらくして、なのはの部屋にたどり着き部屋の中に入ると、
ヴィヴィオは真っ直ぐベッドに向かい、次の瞬間には寝息が聞こえてくる。

「あらら、もう寝ちゃったんだ・・・」

ヴィヴィオのパジャマを持ってきたなのはが、ベッドで眠っている
ヴィヴィオを見て苦笑する。
しばらく2人無言でヴィヴィオの寝顔を見ていると、ふいに
なのはが俺の顔をじっと見た。

「なんだよ。人の顔をじっと見てさ」

「・・・今夜、行くんでしょ。シンクレアくんと」

「・・・行くよ。さっきまでその準備をしてた」

俺が答えるとなのはは渋い顔をする。

「やっぱり行くんだね。フェイトちゃんが心配するわけだ」

「フェイトが心配? 何言ってんだよ」

俺がそう言うと、なのはは首を傾げて目をぱちくりさせる。

「何・・・って、お付き合いしてる相手が危険な作戦に出るってなれば、
 心配するのが当たり前だと思うよ」

「はぁ? 付き合うって、誰と?」

「誰とって・・・シンクレアくんに決まってるじゃない」

「は!? 何言ってんだよ!?」

思わず大きな声を上げてしまい、なのはが指を口に当てて睨んでくる。

「ダメだよ、ゲオルグくん。ヴィヴィオが寝てるんだから」

「悪い。でも、なのはがフェイトとシンクレアが付き合ってるなんて
 デタラメを言うからびっくりしてさ」

「デタラメなんかじゃないよ。ホントにあの2人って付き合ってるもん」

「・・・マジで?」

俺が再度尋ねると、なのはは無言で頷く。

「マジかよ・・・、全然気がつかなかった・・・」

俺が肩を落としていると、なのはが俺の方に手を置く。

「そうか・・・。それなら、フェイトがあんなに突っかかってくるわけだ」

今朝、本局から帰って来たときに交わしたフェイトとの会話を思い出しながら
そう言うと、なのはが不思議そうに目を向けてくる。

「フェイトちゃんが突っかかってくるって・・・どういうこと?」

なのはに尋ねられて、簡単にフェイトとの会話の一部始終を話して聞かせると、
なのはは妙に納得したように頷いていた。

「やっぱり、シンクレアくんが心配なんだね。判るなぁ・・・」

「判るって・・・なのはも俺のことを心配してくれてんのか?」

「そりゃそうだよ。でもね、私もゲオルグくんにいっぱい心配させたと
 思うんだよね。 ゆりかごの戦いのときとかさ。
 でも、ゲオルグくんは私に頑張れって言って送り出してくれたでしょ?」
 
「まあ、なのはのことを信じてたからな。必ず帰ってくるって」

「だよね。だから私もゲオルグくんは絶対に無事に戻ってくるって
 信じようと思ってるんだ。実際、これまでだって危ないことはあったけど
 ちゃんと無事にもどってきてくれたもん」

「そこまで言われたら、無事に帰ってこない訳に行かないな」

「そうだよ。ヴィヴィオだって待ってるんだからね」

なのははそう言うと、俺の手を握り俺の目を見つめる。

「判ってるよ。約束する」

「うん。信じてるから」

なのはは小さくそう言うと、俺の胸に顔をうずめた。
 
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