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剣風覇伝

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第五話「祝福」

 歓声が、聞こえる。
 だれがだれのために歓声を送っているんだろう。
 それにしてもいい気持ちだ。なにかに揺られて、ぐっすり寝たから体の疲れも癒えて。
 タチカゼはゆっくり体を起こした。
「ここは・・・・・・」
ワアアアアアアアアア!タチカゼを町中の人が祝福しているようだ。
「あなたが救った町の一つですよ。いま町に着いたところです。いやあ、物資の輸送に象が来たので、あなたを乗せてくれと頼みましたら、喜んで引き受けてくれました」
「あなたは関所の」
「あらためて自己紹介しましょう。わたし、関所の守備兵長
ジルタールと申すものです」
「ジルタールさん?」
「はい」
 タチカゼはあたりを見ました。町はパレードににぎわっていてあちこち歓喜の声を上げている、そしてそれを受けているのは間違いなく自分だということだった。
「これはどうしたんです。この町の人の騒ぎよう」
「あなたがゴブリンどもを倒したからですよ。みんなあなたを心の底から歓迎しているのです」
「そうか、おれは」
「そうです、あのときは悲しかった、あの戦いを勝利に導いたあなたが突然自分は勝ったのか?などと言い出すのですから」
「おれは……この人たちを救ったんだな?」
「ええ、ええ!」
「ははは、この俺が、……よかった」
「タチカゼどの!あの戦いはまぎれもなくあなたの勝利です!」
 すると象使いの者がタチカゼに言った。
「さあ、お客さん、町につきました。おれも驚いているのですが町に英雄でも来なさったみたいですわ。どうです、ここからあなたの顔を町のみんなにみせてやっては?」
 タチカゼは立ち上がった。
 歓声はさらに盛り上がった.なかにはどこからだしのか旗をふっている者もいる。
 そして象は町の中心にたどり着いた、象はその鼻でタチカゼを地面を降ろす。
 するとそこには町の町長さんがいた。
「ありがとう、あなたがタチカゼ様ですか?おお、なんとも凛々しい若者だ」
「こちらこそ、町長さんまで出てきもらって光栄です」
「いや、あなたのような勇者に出会えるなんてなんとお礼をしたらいいか」
「お礼などと、わたしは一晩の宿があればそれで」
「そんな、それではわたしのメンツにかかわります。どうかなにか望みをいっていだたきたい」
「うーん望みですか、旅費は十分にありますしそうだ!刀を研ぐのに砥石がほしいのですが」
「はあ、砥石ですか?そんまものでいいんですか?ほかにはありませんか?頼みますよ」
「えっと、うーん、あ!弓と矢が欲しい!それがあれば旅がずっと楽に」
「弓と矢?そうですねえ?しかしまだなにかありませんか?」
「あなたはどうしてそんなにわたしの望みが気になるんです?」
「タチカゼさん、それは、あなたがものすごい無欲だからですよ。弓矢に砥石、そんなもの町はずれの質屋にだってある」
「しかしジルダールさん、わたしは旅のものです、旅人がそんな高価なものを持っていては夜盗に狙われます」
「ほう、それもそうですな、いやはや私としたことがとすると旅の手助けになるようなものでどうでしょう?わたしはあなたにとっておきのものがあるんですが」
「とっておきのもの?なんですかそれは」
「いいですか、馬です」
「ああ、それならおれはもうすでに自分の手足のような馬がいます」
「ふふ、わたしのいう馬はね、空を飛ぶんです」
「え?」
「あれは、わたしが三度目の旅に出た時のこと。北のもっとも天上に近い山の頂上で私は三日三晩祈りつづけたんです。すると神のお告げがあり、わたしは天馬を授かったのです」
「しかし、そんな大切なものを」
「いえ、そのときの神のお告げがこういうものだったんです」
「おまえは、それを一生懸命世話するがよい、だが絶対に乗ってはいかん。乗れば、たちまち天馬は怒り出しおまえを振り落として絶命させるだろう。時が来れば、それはある勇者の持ち物となり、お前も偉大な贈り物をした者として名を残す」
「うーん、神がそういうのならば喜んでお受けします」
「よかった、では、わたしは馬屋のほうにいってまいりますので、わたしの宮殿で休んでいてください」
 この時、タチカゼは知らなかったがこの町長は、いまでこそ町の長などにおさまっているが昔は名の知れた船乗りであった。船乗りのシェリフといえば知らぬものはいなかった。
 タチカゼは待っている間、刀を研ぐのに精を出した。タチカゼぐらいになると刀とぎから鍛冶の方法までなんでもわかる。本当はここの砦づくりだって自分がついていたいくらいだった。いやいっそのことこの町にゴブリンぐらいの襲撃では揺らぎもしない兵隊でも鍛えてやりたいほどだった。
タチカゼという若者は与えられる事よりも与える事のほうが得意なのだった。
 刀はすぐに昔の光を取り戻した、いや、一度死地から帰ってきたせいか前にもまして光り輝いている。タチカゼはそのあと、贅沢なごちそうを振舞われ、三里離れた的をも射抜く立派な弓矢をもらった。そして翌日、もうすっかり元気になったタチカゼに神々しいばかりの天馬を町長は与えた。
「これが天馬」
「はい、さ、乗ってみてください」
 タチカゼが天馬に乗ると天馬は少しだけタチカゼのことを見た。
 その眼はタチカゼを見るや、自分を乗りこなす者と認めたようだ。天馬は一度いななくと空へと羽ばたいた。ぐんぐん飛翔してもこのあたりのすべてが見えた。
 タチカゼが下りていくと、町長はいった。
「おゆきになりますか?」
「ああ、何から何までありがとう。関所の人たちにあなたから私が礼を言っていたと伝えてください」
「おお、確かに承りました」
 タチカゼはペコリと頭を垂れるとぐんとそらを見上げて手綱を打った。
 天馬は空高く舞い上がった。

このあと、この地方は、何人も攻め入ることの難しい難攻不落の場所となり、そこに五名の腕利きの剣士がその一生をとして守ったとされる。
 
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