| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

渦巻く滄海 紅き空 【上】

作者:日月
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

五十一 足止め

戦場と化した試験会場。

その空間内では、試合などとは比べものにならぬ真剣勝負が彼方此方で繰り広げられていた。一瞬の隙が命を落とす。正に生きるか死ぬかの命のやり取り。
そんな中、緊張した面持ちで武器を構えていた彼は気遣わしげに屋根を仰いだ。

視界に入る結界の紫。更にその奥にいるであろう己の父の姿を探す。眼を凝らして櫓を睨んでいた猿飛アスマは、視線をそのままに、背後から襲ってきた敵の忍びを殴り飛ばした。その際、眼の端に映った壁穴に反応する。

壁穴を抜け、うちはサスケを追い駆けて行った三人の下忍。父である三代目火影――猿飛ヒルゼンの無事を祈ると共に、己の教え子であるシカマルを始めナルとサクラの安否がアスマは気掛かりだった。

いくらカカシの忍犬がついているとは言え、戦闘向けではない犬一匹では心許無い。だが後を追おうとするアスマの動きを読んでいたのか、音忍達が次から次へと襲い掛かって来るのだ。
足止め役なのだろう。特に木ノ葉の暗部に扮している男の采配は見事なもので、上忍達は皆、音と砂の包囲網から脱け出せずにいた。

(チッ…悪いな、シカマル。こりゃ応援に行けそうもないぜ)
心中教え子に詫びを入れて、アスマは再び拳を振り上げた。
里を守る為上で闘う父同様、下で奮闘するのは己の役目だというように。













里に反して森は妙な静けさに覆われていた。その静寂は普段には無い緊張に満ちている。
木々のさざめきに心を慰められるはずもなく、むしろ急かされるように二人の少女は駆けていた。先導するパックンがくんと鼻を動かし、「追手がどんどん近づいて来てる」と益々ペースを上げる。増す速度に焦ったサクラは、シカマルが逃げたのでは、と疑いを抱き始めた。

「まさか…シカマル、」
「大丈夫だってばよ」

遮る。サクラが次に言う言葉を前以て知っていたかのように、ナルが告げた。一人と一匹の怪訝な視線を浴びながら、前方を真っ直ぐに見据える。

「シカマルは一端口にした事は必ず守る。それは絶対だってばよ!!」

きっぱりと言い放つ。サクラの言葉を一蹴し、ナルは枝を蹴った。シカマルを信じ切っている彼女の瞳は、木々の合間から覗く空と同じく澄み切っていた。






枝々が織り成す天蓋の上方には鮮やかな青が広がっている。樹の根元にて座り込んでいた彼は小さく息をついた。
「はぁ…。なんとか上手く逃げ切ったぜ…」

天を仰ぐ。耳朶に届く、次第に大きくなる複数の足音。傍らの小枝を手にして彼は身を起こした。澄み切った空の青に苦笑する。
「なぁんて、逃げ腰ナンバーワンのはずだったんだけどなあ…」

足跡を辿って来た音忍達の視線が一箇所に集まる。目に留まった地面の凹みは疎らで、疲労が増してきた証拠だ。標的は近い、と含み笑った男達は次の瞬間、身体が強張った。


「悪いな」

目線ではなく相手そのものが一箇所に集まった瞬間を狙う。あたかも走るのに疲れているかの如く、ナル達の道筋を偽造した張本人は口元に不敵な笑みを浮かべた。再度同じ言葉を口にする。
「逃げ腰ナンバーワンのはずだったのにな。アイツに宣言した手前、そうもいかないんだ」

犬の足に似せた木の小枝をこれ見よがしに掲げる。音忍達の目を見事欺いたシカマルは、待ち伏せに見せ掛けた囮役をしっかりこなしていた。

「後で追いつくってな」






















「俺らの鼻を舐めんなよ。忍犬にだって負けやしねえぜ」

吼える赤丸の隣で仁王立ちする。得意気に鼻を擦った犬塚キバは「更にこっちにゃ『白眼』まであるんだ」と後ろを振り返った。後方で控え目に佇んでいる日向ヒナタがおどおどと、だが真っ直ぐカンクロウを睨んでいる。

(二人相手か…。アレの出番もあるかもな)
鋭い嗅覚に、遠くを見通す視覚。追跡者の顔触れに納得したカンクロウは背負っていた武器を降ろした。

「揃いも揃って何もわかってねえじゃん」
冷笑する。うちはサスケが向かった先を視界に入れ、カンクロウは目を細めた。その瞳には嘲りと呆れ、そして僅かな憐れみが含まれていた。

「本当の恐怖ってヤツを知らねえんだろうなあ…お前らは」
「…なら、その恐怖とやらを教えてもらおうじゃねえか」

カンクロウの言葉を自身と闘う上での恐怖かと勘違いしたキバが、挑発に挑発で返した。
それを馬鹿にしたかのような眼差しで見下す。武器を覆う包帯端を握り締め、カンクロウは指先からチャクラ糸を伸ばした。解く。
螺旋を描く白い帯。チャクラ糸がぴんと張る。
傀儡人形を背に、彼は口元に弧を描いた。

「俺を倒し、さっきの奴を追い駆ければ嫌でも知る事になる」
その物言いは恐れを知らぬ幼子を諭すような、それでいて残忍な口調であった。









冷酷な面持ちでこちらを見るカンクロウ。背後の人形が不気味にカタカタと嗤う。
対して腰を低く落とし、身構えるキバ。キバに倣ってヒナタもまた柔拳の構えをとる。

「俺らでアイツを追い詰める。ヒナタは追い込んだところを柔拳で叩き込んでくれ」
「う、うん…。わかった」

小声で話された計画に小さく頷く。ヒナタが了承した途端、キバは印を結んだ。
「【四脚の術】!!」

駆ける。もの凄い速度で一気に向かって来たキバに、カンクロウが腕を振るった。
「甘いじゃん!」
迫り来るキバ。目前まで近づいた相手の真横で、カタカタと音が響いた。

カンクロウの傀儡人形【(カラス)】。手首に仕込まれていた刃物が鈍く光るのを目の端に捉え、キバが身を翻す。回避。

「逃がすかよッ!!」
木の幹に突き刺さった刃物を素早く抜く。追って来る人形を振り返って、キバは気づいた。刃物の刺さった箇所がどす黒い色へ変わる様を。
(毒か!?)
俊敏な動きで人形から距離を取る。カタカタと鳴る人形の笑い声が耳触りだ。


「てめえの人形、バラバラにしてやるよ―――赤丸っ!」
主人の呼び掛けに応じ、赤丸が勢いよく吼えた。キバの背に飛び乗る。
「【獣人分身】!!」
擬獣忍法で獣と化したキバと、擬人忍法で主人の姿に変化した赤丸。二人のキバが同時に動いた。身体を捻る。

「【牙通牙】!!」

渦を巻く高速回転が傀儡人形【(カラス)】を襲う。人形だけでなく自らにも向かって来た二つの嵐にカンクロウは焦った。かろうじて避けたものの、傍の大木を抉ったその威力に冷や汗を掻く。
(やべえ…ッ!こうなりゃ、アレを出すか!?)

傀儡人形【(カラス)】を囮にして、カンクロウは一端茂みに身を潜めた。隠し持っていた巻物を広げる。念の為に用意していた奥の手をこんな所で使うとは意外だったが、仕方が無い。

はっきり言って相性が悪過ぎる。遠距離戦が得意なこちらに対して相手は接近戦に長ける。どう考えても不利だ。果たしてコレを使ったところで勝てるかも保証は無い。


「どうした!?もう降参か!?」
しかしながらキバの挑発にカンクロウは迷いを捨てた。印を結ぶ。

(その言葉、そっくり返してやるじゃん)
意外と短気であるカンクロウはキバの挑発に乗った。口寄せの術で現れたそれにチャクラ糸を繋げる。


その瞬間、カンクロウの匂いを嗅ぎつけたのか、キバが茂みに飛び込んで来た。彼の操る傀儡人形【(カラス)】はまだ外にある。身を守るすべはない。

勢いよく殴りかかって来たキバ。無防備なカンクロウの眼前で拳が迫る。
「そんな迂闊に近づいたりしたら…」
だがカンクロウは防御の構えすら取らなかった。口角を吊り上げる。

「駄目じゃん!!」

顔面に振り下ろされたキバの腕を掴む。思い切り殴られたにも拘らず、平然としているカンクロウの顔が崩れ始めた。


何時の間に入れ替わったのか。カンクロウに成り済ましていた傀儡人形がキバの身を抑える。だがその人形は初めて見る顔だ。【(カラス)】ではない。

動揺するキバに構わず、人形の陰に潜んでいたカンクロウが腕を振るう。同時に傀儡人形が腕を振るった。キバを締め付ける。
その上、腕に仕込まれていた多数の刃が彼の全身を突き刺した。


「キバくん…ッ!!」

白眼で戦闘の様子を視ていたヒナタが悲痛な声を上げる。木々の幹上で闘っていた故にキバの身がグラリと揺れた。カンクロウが冷酷にもキバの身体を突き落としたのだ。

高所から落下してきたキバ。彼に急いで駆け寄ったヒナタの眼前で白煙が立ち上る。煙が晴れた後には倒れ伏した赤丸の姿があった。

「なんだ。犬っころのほうじゃん」

明らかに落胆した声を聞いて、ヒナタが鋭くカンクロウを睨みつけた。彼女の視線に気づかず、残ったキバのほうへ顔を向けるカンクロウ。カンクロウと目が合ったキバはうろたえたように後ずさった。

「次はお前じゃん…」
低い声音で脅す。ビクリとキバの肩が跳ねた。カンクロウの眼力に圧されたのか、キバは次の瞬間、まさかの行動に出た。

くるりと背中を向け、走り去ったのだ。


「あの野郎…。女をおいて逃げるとは男の風上にも置けない奴じゃん」
呆然とするヒナタの前で、カンクロウの哄笑が響き渡った。













印を結ぶ手が震える。自らを縛る術者の疲労を見て取って、音忍達は冷やかに嗤った。

「お前は本試合に出てたガキだろ。そうチャクラももつまい」
「試験後にまた闘う羽目になるとは思ってもいなかったか?」

傍を飛ぶ虫を鬱陶しそうに見遣りながら嘲笑する。八人の音忍の動きを止めていたシカマルは微かに目を細めた。

試合後の事を思い返す。鋭い観察力と記憶力の持ち主である彼は、つい口を滑らせたテマリの一言を正確に憶えていた。

『なら、覚えておきな。その甘え、今に消えるだろうよ』

戦争を暗示するかのような物言い。耳から離れなかった懸念がこういう形で現れるとは流石に思わなかったものの、テマリの言葉を聞いて以来、彼は周囲に気を配っていた。類いまれなるその頭脳は僅かな点すら見落とさない。


術者から己の足下まで伸びる黒い影を見下ろして、音忍達が宣戦布告する。
「この影真似の術も直解ける。その時は覚悟しておけ」
「そう言われてもな…」
術を掛けているはずのシカマルが困ったように地面を這う黒を見下ろした。ふてぶてしく笑う。


「とっくに術は解けてんだよ」
「……なにッ!?」


刹那、男達の身体がずぶずぶと沈み始めた。全身が影に呑み込まれたかのように黒く染まる。否、それは影ではない。

「む、虫!?」

影のように密集していた虫の大群であった。







「……たとえ、相手がどんなちんけな虫であっても舐めてかかってはいけない」
何処からか聞こえてきた声。纏わりつく虫の重みで倒れ伏した音忍達の視界に、子どもの足が映った。

「なぜならそれが命取りになるからだ」

木ノ葉の下忍の中でも冷静な奈良シカマルと油女シノ。二人の子どもの前で、音の中忍達の意識は途絶えた。












「よく俺がいると知っていたな」

気絶した音忍達の身を拘束しつつ、シノが淡々と問い掛ける。シカマルもまた、取り上げた武器や巻物を音忍達の手が届かない場所に積み上げながら、シノの質問に答えた。
「会場を出る前に虫を俺につけただろ。羽音でわかったんだよ」

囮役を決める際、ナル達の間では沈黙が降りていた。その時聞こえた虫の羽音が、シノがすぐ傍まで来ている確認となったのだ。なぜただの虫だと思わなかったかというと、シカマルの身体から一向に離れようとしなかったからである。

「流石だな。お前が会場を出る前にメスの虫をつけさせてもらった。メスの匂いはほぼ無臭…。そのメスの微かな匂いを嗅ぎつけるのは同種のオスだけだ」
「それでこいつらにもメスの一匹をそれぞれつけたんだろ?」
シノの言葉を引き取ってシカマルが続きを話す。先に言われ、若干不貞腐れながらもシノは渋々「…その通りだ」と頷いた。 


シカマルが影真似の術を発動したその瞬間、音忍達の一人一人に一匹ずつメスの虫をつける。そして影と影が繋がれている間は動けないと思い込んでいる音忍達の影上にオスの虫が群がる。
秘かに術を解いたシカマルが影を退いても、音忍達は足下でじっとしている虫達に気づかなかった。更にシカマルがわざと疲れている風情を装う事で、音忍達は皆油断する。その隙をついて、シノは虫達に襲わせたのだ。


「とにかく助かったぜ、シノ。俺のチャクラはそろそろヤバかったからな~」
ようやく一息ついたのか、シカマルが地面に腰を降ろそうとした。だがその瞬間。


カッ、と地にクナイが突き刺さった。





何処から飛んできたのか。明らかに自分達を狙ったモノが地面に深く刺さっている。

即座に身構えたシカマルとシノが周囲を見渡した。姿の見えない敵に焦る。おそらく八人の音忍が待ち伏せにあった場合を仮定し、一定の距離を取って後方を移動し敵襲に対応する九人目。

シノはともかくシカマルのチャクラはもう残り少ない。今襲われるとマズイ。

張り詰める緊張。しかしその緊迫感は直後破られた。
クナイを投げた張本人だと思われる一人の音忍が、潜んでいたらしい木から落下して来たのだ。同時に視界に入ったのは、動けぬよう上から音忍を押さえ付けている人影。

「……なッ!?」
「キバ!?」

シカマルとシノの危機を救ったのはキバだった。思わぬ人物に目を瞬かせるシカマルの隣でシノは眉を顰める。そして一言、「違う」と頭を振った。

「キバじゃない」

















一人取り残されたヒナタは追い詰められていた。彼女はネジに予選で負かされて以来、闘う事が怖くなっていた。表面上は何でもないように装っているが、いざ闘いになると躊躇してしまう。

しかも今現在差し迫っているのは試合などではなく、戦闘だ。一つ間違えれば死ぬ可能性もある。キバと共にナルを追い駆けて来たヒナタだったが、未だ闘いへの恐怖を克服出来ずにいた。足が竦む。

その上相手の武器は新たに増えている。傀儡人形【黒蟻(クロアリ)】の登場により、内心彼女は物怖じしていた。

「逃げてもいいぜ?女殺す趣味は無いじゃん」
傀儡人形【鳥】と【黒蟻】を引き連れてカンクロウが言い捨てる。そしてそのまま我愛羅の後を追おうとする彼を、ヒナタは呼び止めた。震える身体を抱き締めるように、けれどきっぱりと。

「ま、待って…っ。い、行かせない…ッ」

はあ~とあからさまにうんざりとした溜息をついて、カンクロウは振り向いた。「お前に付き合うほど俺は暇じゃないんじゃん」と軽く指先を動かす。


途端ヒナタの背後で【黒蟻】がぱかりと口を開いた。吸い込まれるように人形の腹部の中に閉じ込められる。
攻撃に特化した【鳥】に比べ、【黒蟻】は捕獲に特化しているのだ。

「暫くそこでおとなしくしてな。恨むんなら逃げた仲間を恨めよ」


全く自分を相手にしないカンクロウ。成すすべなく閉所に閉じ込められたヒナタは唇を噛み締めた。俯く。
(わ、わたしは…)
瞳を閉じる。瞼に描くのはナルの姿。ネジと真っ向から勝負し、最後まで闘った本試験。
(私は…)
観戦客から野次を飛ばされ、誰からも負けると決めつけられていた。それでも試合から逃げず、諦めなかった。
「私は」
光が届かぬ人形の内側。暗闇の中、ヒナタの震えが止まった。ナルの励ましの声が身体の奥から聞こえた気がした。


「逃げない…ッ!!」
刹那、【黒蟻】は弾け飛んだ。







驚いたカンクロウが目を見開く。内部から破壊された人形の破片がバラバラと振ってきた。

全身のチャクラ穴から一気にチャクラを放出。密閉空間内で迸ったチャクラに傀儡人形が耐え切れるわけもない。日向一族であるヒナタだからこそ実現出来たのである。

予想もしていなかった出来事に愕然とするカンクロウ。まさかあの硬い傀儡人形【黒蟻】が、こんなか弱そうな少女に壊されるとは。
呆然とするカンクロウの懐目掛け、ヒナタが一気に迫る。慌てて身構えるも、もう遅い。

パンッ、と柔拳を捻じ込まれる。ガクリと膝をつきそうになるのを耐え、カンクロウはヒナタから飛退いた。足下で倒れている赤丸の傍ら、傀儡人形【鳥】で攻撃しようと指を動かす。

しかしその瞬間、今度は隣で突然煙が立ち上った。再び驚愕の表情を浮かべるカンクロウの瞳に、キバの不敵な笑みが映る。

「これはダチに教わったやり方だぜ」


殴りかかった傀儡人形【黒蟻】の攻撃を受けたのは、キバ本人だったのだ。だが木から落ちた時、彼は予選試合で自らが騙されたナルの事を思い出した。だから変化し、あたかもキバに変化した赤丸のように見せ掛けたのである。そしてキバに変化していた赤丸はというと、逃げたのではなく応援を呼びに行ったのだ。
キバと赤丸の鋭い嗅覚はカンクロウ達だけでなくシカマルとシノの匂いも突き止めていた。だから万が一の事を考え、自身に変化したままシカマル達の許へ向かうよう事前に指示しておいたのである。


「俺が仲間を見捨てるわけねえだろーが!……――【通牙】!!」


【牙通牙】よりも機動力に長ける【通牙】。高速回転による嵐がカンクロウの傍で渦を巻く。完全に不意を突かれたカンクロウの身体が吹っ飛んだ。


気を失ったカンクロウを見下ろしながら、キバは「へへっ」と得意気に鼻を擦った。だが彼は背後から響く仲間の低い声にビクリとする。

「キバくんの…」
「あ、あのなヒナタ。敵を欺くにはまず味方から、と」
「ばか―――!!」
「ぐふッ」

てっきりキバが逃げてしまったのだと思い込んでいたヒナタが涙目で柔拳を放つ。手加減しているものの、まさかの攻撃にキバの意識は暗転した。傀儡人形【黒蟻】の攻撃による傷がまだ癒えてなかった事も大きい。


キバに変化していた赤丸に促され、ヒナタの許へ向かったシカマルとシノが見た光景は、カンクロウとキバが仲良く気絶している様であった。


気まずげに視線を泳がせるヒナタを、フォローのつもりかシノが慰めにもならない言葉を送っている。そのよくわからない展開の真っ只中でシカマルは空を仰いだ。

(悪い。追いつくの、もう少し後になりそうだ)


深々と溜息をつく。ナルの瞳と同じ青い空の下で、彼はメンドクセ~と肩を落としたのだった。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧