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魔弾の射手

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第三幕その四


第三幕その四

「それでははじめさせてもらいます」
「うむ」
 彼はそれを認めた。
「さっきの様にな。落ち着いていけ」
「はい」
「目標は、だ」
 丁度ここで白い鳩が目に入った。
「あれがいいな。よく目立つし」
「あの鳩ですね」
「そうだ。撃てるな」
「勿論です」
 だがここで魔弾のことが気にかかった。一抹の不安が胸によぎる。
(大丈夫だ)
 自分にそう言い聞かせる。今までも確実に当たっているからだ。
(魔法の弾だ。絶対に当たる。だから安心しろ)
 必死に言い聞かせている。胸の中の不安を必死に抑える。
「ではよいな」
 ここでオットカールの声を聞いてハッとした。
「撃ってみよ」
「はい」
 頷く。そして白い鳩に向けて構えた。
「おっ」
 ここでアガーテ達が来た。猟師達はそちらに目を向けた。
 アガーテもマックスを見た。だがその先にある鳩に気がついた。あの白い鳩だ。
「マックス!」
 彼女は思わず叫んだ。
「その鳩は撃たないで!」
「その声は!?」
 マックスは耳に入ったその声に反応した。だが目と神経は鳩から離しはしない。猟師としての習性が彼をそうさせた。
「いよいよだな」
 カスパールはそれを見てやはり笑っている。その彼のところに白い鳩が来る。しかしそれには気がつかなかった。これが命取りになった。
 マックスは撃った。その魔弾が放たれた。
 それは目には見えないが奇妙な動きをした。何とアガーテに向かったのだ。銃口が向けられてはいないというのに。
 しかしそれは彼女の目の前で軌跡を変えた。そして鳩、その真後ろにいたカスパールに向かった。
「ああ!」
 カスパールとアガーテは同時に倒れた。皆それを見て顔面を蒼白にさせた。
「まさか!」
「カスパール、どうした!」
 そこにカスパールも落ちて来た。オットカールとその周りの者はアガーテの方に駆け寄った。マックスもだ。狩人達はカスパールの方に駆け寄った。そして彼等を見る。
「アガーテ!」
「お嬢様!」
 オットカールとエンヒェンが倒れているアガーテに声をかける。見れば傷はない。
「大丈夫だ、傷はない」
 オットカールがそう言うと彼女はゆっくりと目を開いた。
「生きていたか」
 皆それを見てホッと胸を撫で下ろした。とりわけマックスの顔に血の気が次第に戻ってきた。
「私は生きているの?」
 彼女は信じられないといった顔であった。
「信じられないわ」
「よかった、生きていたんだ」
 クーノが娘を抱いた。アガーテはその抱擁を受けようやくどうなったのか理解した。
「助かったのね」
「そうだ。弾は当たらなかった」
「当然だ。マックスは彼女に銃を向けてはいなかった」
 オットカールはここでそう言った。だがそれを聞いたマックスの顔がまた青くなった。
「まさか・・・・・・」
「どうした、マックス」
 オットカールはそんな彼に声をかけた。
「いえ・・・・・・」
 だが彼はそれについて語ろうとしなかった。話せる筈もなかった。
「ところで弾は」
 クーノがその弾に気付いた。
「一体何処に」
「そう、それだ」
 オットカールも彼と同じ考えであった。
「見ればカスパールが倒れているが」
「しかしマックスは彼を狙ってなぞおりませぬぞ」
「だがああして今倒れているのだが」
「ううむ」
 クーノは倒れているカスパールを見て考え込んだ。彼は胸から血を流していた。
「ウググ・・・・・・」
「おい、大丈夫か」
 同僚達が彼を気遣う。だがその傷が致命傷であるというのは誰にもわかることだった。助かるとは到底思えない傷であった。
「しかし何故マックスの弾が」
「ああ、あいつはカスパールなんか狙ってはいないのに。どういうことだ!?」
 猟師達は首を傾げる。カスパールはそんな中で呻いた。
「クソッ、あの娘に神の加護があったとは」
「何!?」
 猟師達だけでなくそこにいた全ての者が彼の言葉に顔を向けた。
「今何と」
 だがカスパールは意識が混濁しているのか周囲のことにまで考えが至ってはいなかった。
「迂闊だった。まさかこんなことがあろうとは」
「おい、カスパール」
 周囲の者が声をかけるがそれでも彼は気付かない。
「一体どうしたんだ!?」
「ザミエル、それでも御前は満足なんだろう」
「ザミエル・・・・・・」
 その名を聞いて震えない者はいなかった。森に潜む魔王の名だ。
「おい、見ろ!」
 皆異様な気配に気付き気配がした方に顔を向ける。するとそこに陰気な顔をして濃い髭を生やした大男がいた。
「ザミエル・・・・・・!」
 カスパールは彼の姿を認めてそう叫んだ。
「あれがか」
 皆魔王の姿を見て息を呑んだ。
「迎えに来たのか、この俺を」
「まさかこの男は」
 皆カスパールのその言葉に沈黙した。
「悪魔に魂を売ったのか!?」
 その通りであった。そしてカスパールは自らの言葉でそれを証明した。
「ならば持って行け、地獄へも何処にも行ってやろう」
「やはり・・・・・・」
 彼等は言葉を失った。
 ザミエルはただカスパールを見ている。陰気な顔のままで表情は変えない。
「それもこれも神のせいだ。それさえなければ俺は地獄に行かずには済んだものを」
「・・・・・・・・・」
 今度は神を呪った。それがどれ程恐ろしい言葉であるのかわからない者はいない。
 
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