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メリー=ウイドゥ

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第一幕その八


第一幕その八

「政治は殿方の御心を悪くさせて女の魅力を失わせますわ」
「そうでしょうか」
「恋はあくまで恋」
 そう主張する。
「ですから」
「楽しみましょう」
「しがらみなぞ忘れて」
 マキシムの娘達はこう言う。
「さあ皆さん」
「楽しく」
 そう四国の男達に述べる。彼等はもう鼻の下を長くさせていてそのつもりになっていた。
「いや、全く」
「左様で」
「またえらく単純だね」
 カミーユはそんな彼等を見て呆れたように呟く。
「どうしたものだろう」
「閣下はどうされるのですか?」
 ここで彼女達はダニロにも楽しげに声をかけてきた。
「私と一緒に踊って頂けますか?」
「それとも私と」
「そうだね」
 遊び慣れている彼はにこやかに彼等に応える。ちらりとハンナの方を見やりながら。
「どうしようかな」
「まあ遊びですので」
 秘書が横から言う。
「誰でも宜しいですが」
「おや、政治的に言うつもりかい?」
「いえ」
 秘書はそれには首を横に振る。一応はそうではないと述べてきた。
「ただ。御気をつけを」
「ふふふ。それじゃあ」
「さあ」
 ハンナもハンナでその場にいる者達に対して述べてきた。
「ワルツを。どなたか」
「張るには花の咲くように、色とりどりに咲くように甘いワルツの響きを」
 ダニロは楽しげに歌う。
「ヴァイオリンの音はあでやかにまた情熱込めて歌う時」
「閣下」
「それは一体どなたの歌で」
「祖国の民謡です」
 そう四国のものに答える。
「わりかし新しい曲でしてね。如何でしょうか」
「いや、素晴らしい」
「奇麗な曲ですな」
 四人はそれに頷く。酒と美女のせいだが先程よりもさらに機嫌をよくさせている。
「誰が踊らずにいられよう。若者よ、たじろぐことなく情熱込めて踊るのだ。踊ることこそが君の甘い務めなのだから」
「ささ、伯爵もそう仰っていますし」
「皆さん」
 またマキシムの女達が皆を誘う。
「甘いワルツと共に」
「憂いなぞ消し去って」
「夜の仕事は楽しく」
 ダニロはまた歌う。
「朗らかに」
「できればお昼もそうして欲しいものですが」
「全く」
 秘書と男爵はこっそりと話す。しかしダニロは一切気にはしていない。これが彼のやり方なので当然と言えば当然であった。
「選ばれないのですね」
 男爵夫人はそんな中でハンナにそっと囁いてきた。
「御自身では」
「選んで頂けないと」
 彼女もまたちらりとダニロを見て言う。
「意味がありませんわ」
「そうですわね。けれど私は」
 にこりとカミーユの方を見た。それから手をゆっくりと差し出す。
「カミーユさん」
 彼の名を呼んだ。
「宜しいでしょうか」
「はい」
 カミーユは笑顔でそれに応える。こっそりと彼女の目を見詰める。
「私でよければ」
 その手を受け取って言う。
「御願いします」
「この方はポルカがお上手ですの」
 彼の手を握ってハンナに述べる。
「そしてマズルカも。右へも左へもステップされて」
「本当にお上手なのですね」
「ええ。それに今からはじまるワルツだって」
「奥様、あまり褒めないで下さい」
 まんざらでもない笑顔で男爵夫人に言う。
「照れてしまいます」
「あら、これは失礼」
 男爵夫人も思わせぶりに笑ってそれに返す。
「それでは」
「ところで奥様」
 カミーユは真面目な顔でハンナに言ってきた。
「何か」
「鞘当ては女性がするもの」
 こう言うのだった。
「それはお忘れなく」
「え、ええ」
 少し戸惑いながらそれに応える。
「わかりましたわ。それでは」
「はい」
 二人はそのままカップルになる。すっぽかされた男爵は仕方なく踊り娘の一人と組む。何か周りからは何があるかわかるような流れであった。
 
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