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メリー=ウイドゥ

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第二幕その一


第二幕その一

                 第二幕  騒ぎは大きく
「さあさあ皆さん」
 今度はハンナのパリの邸宅で。何やら皆集まっていた。
 公国の人間もいればフランス人もいる。当然ながらあの四国の四人もいた。
「ふむ、これはこれは」
 ロシア人は興味深い顔で邸宅の中を見ていた。邸宅はロシア風だ。
「いい御趣味だ。流石はグラヴァリ伯爵夫人です」
「しかも車はキャデラック」
 アメリカ人は玄関の車に対して言う。
「よい目をしておられる」
「いや、この壷は何と」
 中国人は自国の壷を見て笑みを浮かべている。
「我が国のもの」
「日本のものはありませんか?」
 日本人は少し不安げに公国のスタッフに尋ねていた。公国のスタッフは笑顔で言う。
「これなぞが」
「おお、これはいい」
 日本人は食器を見て目をその食器と同じ形にしていた。
「よくぞこれだけのものを」
「さあ皆様」
 着飾ったハンナが客人に対して言う。
「今宵が歌って騒いで。楽しく」
「ミヴェリモダーセ」 
 集められた合唱団が楽しげに歌いだした。
「ミヴェリダモーセ、ダーセ、ハイアホ!」
「これはヴィリアの歌ですの」
 ハンナはにこやかな顔で客達にこの歌を紹介する。
「ヴィリアの歌ですか」
「はい」
「さあ歌い騒ごう。さあ歌い騒ごう」
 その曲を背にハンナはさらに言う。
「昔ある森にヴィリアという妖精がいたのです。若い狩人が彼女に一目惚れをして」
「それで?」
「それで訴えたのです。こう」
「ああ、ヴィリア」
 ここでまた合唱団が歌う。
「ああヴィリア森の妖精よ、私を捕まえて御前の恋人にしておくれ」
「ヴィリアよ御前どんな魔法をかけたのだ」
 ハンナも歌いだす。
「恋の病の男は訴えました。するとヴィリアは」
「ヴィリアは!?」
「人になって生涯の伴侶となったのです。妖精から人になって」
「奇跡が起こったと」
「そう、奇跡が」
 また客人達に答える。
「そうして二人は末永く幸せになったのです」
「ヴィリアよ、森の妖精よ」
 また合唱団が歌う。
「私を御前の恋人に」
 華やかな歌が場を支配する。その中で男爵は秘書と共に宴の中をしきりに見回していた。
「閣下は来られているよな」
「はい」
 秘書は彼の言葉に応えて頷く。
「確か」
「しかしどちらに?」
「それは私も聞きたいことです」
 秘書は畏まって男爵に言ってきた。
「全世界がそれを確かめたいと思っています」
「いや、それは嘘だろう」
 流石にそれは笑って否定する。
「私達だけだよ、それは」
「その私達が困っています」
 秘書は今度はこう言ってきた。
「閣下が何処におられるのか」
「閣下はいつも急に現われたりされるからな」
 男爵は首を傾げて言う。
「いつも」
「そうだね」
 ここで誰かの声がした。
「いつもね」
「そうなのですよ・・・・・・ってこの声は」
 声がした右の方を見た。するとそこに彼がいた。
「閣下、探していましたぞ」
「僕はさっきからここにいたけれど?」
「またそのようなことを」
 顔を見合わせてそれを否定する。
「ふざけられては困ります」
「全くです。宜しいですか、閣下」
 秘書も口を尖らせて言ってきた。
「そもそも閣下は」
「実は面白い話を聞いてね」
 ダニロはここで話題を転換させてきた。
「面白い話!?」
「あのフランスの外交官」
「ああ、カミーユさん」
「そのカミーユ君が恋をしているみたいだね」
「そんなことですか」 
 男爵はそれを聞いてがっかりした顔になった。
「誰だって恋はするでしょう」
「ところが相手はどうやら人妻らしい」
「それもまたよくあることでは?」
 男爵はそれを聞いても平気な顔であった。自分のことだとは全く思わない。
 
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