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第四章

「入り口には管理人さんと雇われているガードの人がいるし」
「夜もな」
 セキュリティもしっかりしているのだ。
「だから普通は入られないよな」
「ええ、マンションの廊下は中にあるし」
 外に向けられているのは窓だけだ。
「窓から来るのならともかく」
「こうして扉から来るのはな」
「だとするとマンションの中の人よね」
「そうなるけれどな」
「このマンションの中にそんなおかしな人いるのかしら」
「聞いてるか?そんな話」
「いいえ」
 小百合は怪訝な顔になって高雅に首を横に振って答えた。
「聞いたことはないわ」
「そうだよな、御前もな」
「ないわ。じゃあ誰かしら」
「というか人間か?」
 高雅はそうした存在は信じない方だが今は違っていた。
「今二時だぜ、夜の」
「夜の二時ね」
「言うだろ、草木も眠る何とやらってな」
 所謂丑三つ時だ。
「俺はそういうの信じないけれどな」
「出るっていうのね」
「まさかとは思うけれどな」
「だからあの人もお塩とか松ヤニとかお札を」
「そうじゃないのか?」
「だったらお塩も」
「ああ、松ヤニにお札もな」
 二人はおじさんから貰ったその二つをなおしていたキッチンの下から取り出して二人で持った、そのうえで玄関に戻った。
 まだチャイムは鳴り続けている、その扉の前に来て。
 再び顔を見合わせて高雅の方から言った。
「いいな」
「ええ」
 小百合もこれまで以上に真剣な顔で頷いて返す。
「何時でもね」
「じゃあ開けるからな」
「開けてそしてよね」
「出て来た奴が人間でも妖怪でもな」
「やってやりましょう」
 二人は何者かわからないチャイムを鳴らす相手に対して身構えた、そしてだった。
 今遂に扉を開けた、小百合が開けた。
 高雅はバットを右手に上に構え左手に握っている塩をかけるつもりだった、だがそこにいたのは誰かというと。
 白ブリーフ一枚にネクタイの全身傷だらけの男だった、全身傷だらけの筋骨隆々の毛がある身体をしている。
 脛毛が特に深く黒ナイロンの靴下に同じ色の革靴だ。
 髪は短く刈り込んでおり目は鋭く細い、アジア系の男だった。
 その男が着ているトレンチコートを両手で大きく前に開いて二人の前にガニ股で立っていた、黄色く汚れたブリーフの前を誇示しながら言ってきた。
「用件を聞こう」
「で、出たああああああ!」
「へ、変態よおおおおおお!」
 二人はその男を見て即座に絶叫しありったけの塩や松ヤニをぶつけてから扉を閉めなおした、そしてだった。 
 二人でトイレの中に潜んで、バットを持ったまま一夜を過ごした。そのうえで。
 次の日二人は仕事を休んでおじさんのところに行き一睡もしていない顔でこう言った。
「転居します・・・・・・」
「今すぐに」
「ああ、やっぱりそう言いますね」
 おじさんも納得している顔で二人に答える。
「お二人もまた」
「一睡もできませんでした」
「恐ろしいものを見ました」
「一体何を見たんですか?」
 おじさんは返答がわかっていながらも問い返した。 
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