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ロミオとジュリエット

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第四幕その四


第四幕その四

「これが最後の抱擁だ。そして」
 懐から黒い小瓶を取り出してきた。
「僕も貴女の下へ。これで」
 その中にあるのものを飲み干した。それからまたジュリエットを抱いた。
「もうこれで離れることはない。永遠に」
 その時であった。ジュリエットの瞼が微かに動いた。
「えっ」
 それに気付く。見ればジュリエットは少しずつ目覚めてきていた。
「ジュリエット、貴女はまさか」
「ロミオ様なのですか?」
 ジュリエットも今目に入っているロミオを見て問うてきた。
「まさか貴女が」
「僕はここにいる」
 ロミオはそれに答えて述べる。
「貴女は生きていたのか」
「どうしてこちらに」
「神父様に言われて」
 ロミオはそれに答えた。
「一人戻ってきたのだけれど。貴女は」
「生きていたのです」
 ジュリエットは言う。
「神父様のお薬で。一日だけ死んでいたのです」
「そうだったのですか。そんな・・・・・・」
「どうかなさったのですか!?」
「それをもう少し早く知っていれば」
 彼は言う。
「僕は死なずに済んだのに」
「死!?」
 ジュリエットはその言葉に不吉なものを感じた。
「まさか貴方は」
「はい、飲みました」
 ロミオは答えた。
「毒を。貴女が死んだと思い」
「そんな・・・・・・それでは」
「僕は間も無く死にます。もう指の先が」
「こんなに冷たくなって」
 触れるともう氷のようであった。
「どうしてですの、早まられて」
「貴女がいないのならもう意味がないからです」
 青くなっていく顔で言う。
「それならもう」
「けれど私もまた」
「僕が全てだって言ってくれるのかい?」
「そうです」
 その言葉に迷いはなかった。
「ですから私もまた」
 意を決した。懐から短刀を抜いてきた。
「これで・・・・・・私は貴方と共に」
「ジュリエット・・・・・・」
 自らの胸を刺した。紅の薔薇が胸に咲いた。それは死の大輪であった。
「共に参りましょう」
 ジュリエットの顔もまた青くなっていく。
「二人で」
「二人なんだね、僕達は」
「はい」
 ロミオのその言葉に頷く。
「これでもう永遠に」
「僕達は何があっても永遠に一緒だ」
 震え、冷たくなっていく手で握り合った。
「これからは。何があっても」
「ずっと。離れ離れになることはないのですね」
「そうさ。だからもう」
「悲しみも苦しみもなく」
「僕達だけの永遠の世界がはじまるんだ」
「それでは私達はもうすぐ」
「幸せを手に入れられる」
 こうジュリエットに告げる。
「ずっと二人で」
「離れることはないのだからね」
「ロミオ様・・・・・・」
「ジュリエット」
 最後に抱擁を交わした。
「これでもう」
「思い残すことは」
 抱き合ったまま静かにその場に崩れ落ちていく。その白い顔はもう目覚めることがない。だが二人の顔には微笑が浮かんでいた。まるで天使達に迎え入れられたかのような幸せそうな笑みを浮かべていた。



ロミオとジュリエット   完



               2006・11・13
 
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