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北ウィング

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第四章

「三年もあるのに」
「彼氏に会えたら違うけれど」
「本人にね」
「そうなればいいけれどね」
「けれどそれはね」
 皆はフィンランドにいるから無理だと言う。けれどだった。
 そのことを言われて私は思った。彼がいないからそうなるから。
 閃いたそのことをだ。私はすぐに皆に言った。
「私が行けばいいのよ」
「?行けばいい?」
「っていうと?」
「ちょっと人事部長にお話してくるわ」
 思い立ったが吉日だった。私は自分でも目の光が戻ってきていることがわかった。
「そうするから」
「人事部長にお話するって」
「何?それ」
「具体的に何するの?」
「一体どうするの?」
「考えがあるの」
 どんな考えかは言わなかった。それで。
 私は人事部長にそのことを申し出た。部長は私の話を聞いてまずは目を丸くさせてこう私に言ってきた。
「おい、本気か?」
「はい、本気です」
 私は毅然として部長に言った。人事部の部長室に座っている部長の前に立って。
「あちらは人手不足ですよね」
「うん、遠いからね」
 だからだとだ。部長も私に答える。
「どうしてもね」
「なら行っても構いませんね」
「正直言ってまだ誰かに行って欲しかったんだ」
「そうだったのですか」
「あそこの経済は安定してるしね」
 部長は経済のことも話した。
「我が国にも好意的だし」
「そうらしいですね」
「うん、汚職も少なくてビジネスもしやすい」
「それで事業の発展を考えておられるんですね」
「そうだよ。だからね」
「じゃあいいですよね」
「うん、志願者は最優先だよ」
 この辺り軍隊と同じらしい。徴兵で無理矢理集めるより志願者に来てもらった方が気持ち的にも楽らしい。
「けれど本当にいいんだね」
「お願いします」
 こうしてだった。私は自分で申し出て。
 荷物を全部整えて空港に向かった。そこに赴くと。
 皆が見送りに来てくれていた。皆呆れているやら楽しんでいるやらの顔でこう私に対して言ってきた。
「やるわね」
「思い切ったことするわね」
「自分から行くなんてね」
「凄いことするわよ」
「こうするのが一番だって思ったから」
 私は微笑んでその皆に言葉を返した。空港の中は色々な人が行き来している。電子で時間が示され放送がかかっている。英語や中国語も聞こえる。
 その空港の中で大きなトランクを傍に置いて私は言った。
「それでなのよ」
「行くのね。今から」
「あそこまで」
「行くわ。三年なんてね」
 その歳月も今ではどうでもいいものになっていた。
「とても待てないから」
「そうなのね。じゃあね」
「向こうでちゃんとしなさいよ」
「覚悟はしてるでしょうし」
「覚悟。勿論よ」
 それもあると。私は答えた。
「それがあるからこそ行くのよ」
「あえて自分で」
「そうするっていうのね」
「そういうこと。向こうに着いたら手紙送るから」
 私は微笑んでこうも言った。前を見ながら。 
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