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DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章

作者:あさつき
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五章 混沌に導かれし者たち
  5-12教わる、教える

 防具屋には、()()れを間違えて売れ残っていたという、握りのサイズが小さめの鉄の盾があり、安く手に入れることができた。

「場合によっては、またネネさんの店に行こうかと思ってたけど。運がよかったね」
「サービスがいい分、()()るからな、あそこは。」
「ふつうのでも、いちおう使えると思うけど。村でも、練習はしたし」
「それでも、調整は()りますからね。その()()を考えれば、始めから合うもののほうがいいですから」
「ネネさんにお会いできなかったのは、少し残念だなあ」
無闇(むやみ)に急ぐわけじゃねえとはいえ、無駄に寄り道もできねえからな。そのうち、機会もあんだろ」
「そうですね。そのときは、ぼくも連れていってくださいね!」
「そうだな。機会がなくても、いるうちに一回は連れていってやるか。一回行きゃあ、あとはキメラの翼で行けるからな」
「やった!よろしくお願いします!」
「さて。私はこのあと、道具屋に寄りますが。ついてきてもらうほどのこともないですし、あとは自由にしてもらっていいですよ」
「オレは宿に戻って、昼まで寝るわ。そろそろ限界だ」
「ぼくは、パトリシアの様子を見てこようかな」
「わたしも、パトリシアに会いたい」
「では、一緒に行きましょう!」
「それでは、また宿で」


 少女はホフマンについて、宿の(うまや)に行き、馬の()()れを(おそ)わる。

「宿のほうで、ひと通りやってくれているようですね。旅のあとは、いつもは足の水洗いもするんですが、終わっているので()かすだけにしておきましょう。馬車に手入れ道具を積んであるので、これを使います。まずは、やってみますね」
「うん」

 ホフマンはブラシを使い、パトリシアの身体を()かし始める。
 パトリシアは、うっとりと目を細める。

「パトリシア、気持ちよさそう」
「汚れを落とすだけでなく、マッサージにもなりますからね。これも宿でやってくれているかもしれませんが、できるだけ自分でもするようにしてます」
「パトリシアも、そのほうがうれしいものね」
「そうですね。ユウさんも、やってみますか?」
「いいの?」
「もちろんです!ユウさんにはかなり(なつ)いてるようですから、喜びますよ!こいつはこう見えて人見知(ひとみし)りするから、珍しいんですよ」
「そうなの。うれしいけど、それなら、宿の人は大丈夫だったの?」
「それくらいなら。喜びはしませんし、あまり(ほう)っておくわけにはいきませんけどね」
「なら、よかった。やってみるね」

 少女はホフマンからブラシを受け取り、パトリシアを()かし始める。
 パトリシアは嬉しそうに、身体(からだ)を寄せる。

「パトリシア、気持ちいい?いたくない?」

 パトリシアは返事をするように、鼻を鳴らす。

「本当に喜んでますね!よかったな、パトリシア!」

 また、鼻を鳴らすパトリシア。

「パトリシアは、ほんとにかしこいのね」
「そうなんですよ!自慢の馬なんです!ぼくの命の恩人(おんじん)……恩馬(おんば)?ですから!」
洞窟(どうくつ)のとき、ね。……あの。おともだちは、どう、なったの?」
「……生きて、戻ったとは、聞いてません」
「……」
「死んだ、とも。それを確認できたとも、聞いてはいませんけど。みなさんのお話と、ぼくの状況を考えれば、……そういうこと、でしょうね」
「……」
「……ぼくは、ずっと。あいつらが、ぼくを裏切って。ふたりで宝を自分たちだけのものにして、逃げたんだと思ってた。あのとき、あいつらを、信じられなかっただけでなく。ずっと、疑い続けて、生きていくところだった。いや、あんな状態で、生きてるとも言えなかった。皆さんには、本当に感謝してます」
「……でも。わたしたちは、助けられたわけじゃ、ない」
「それは、ぼくたちの問題です。あのとき、洞窟に行こうと言い出したあいつ、それに乗ったぼくらの。それは、ぼくが()()って、生きていくべきことです。ユウさんが、悩む必要はありません。」
「……悲しく、ない?」
「……悲しい、ですね。」
「……自分のせいだって、思う?」
「……ぼくが、()めてたら。もし、そうしてたら、と。思うことは、あります」
「……もし。そう、してたら。」
「だけど、そうしてたとしても。ぼくが臆病者(おくびょうもの)と言われて、終わったかもしれない。そうすれば、結局は、ぼくも行ったでしょう。それにぼくは、そうはしなかった。しなかったことを、いくら考えても。もう、どうしようもないんです。もう、してしまったこと、起きてしまったこと、ですから」
「……もう……」
「ぼくが悩めば、(なげ)いていれば、あいつらが帰ってくるなら。いくらでも、そうしますけど。でも、そうではないですから。ユウさんがあの宝石を見せてくれたときに、ぼくは決めたんです。まっすぐ、前を向いて、生きていこうって。」
「……そう。……ホフマンさんは、すごいのね」
「そんなことは、ないですよ。自分の手に負えないことに手を出して、痛い目を見た。それだけの、話ですから」
「……」
「ユウさんは、まだ、世界を見始めたばかりですから。マーニャさんもミネアさんも、それに今はぼくもいます。聞けることは聞いて、ゆっくり、考えればいいと思います」
「……うん。ありがとう」
「いいえ。ぼくがしてもらったことを考えれば、これくらい。なんでもありません!」
「それでも。ありがとう」
「はい!」


 パトリシアの手入れを終え、宿の部屋に戻る。
 昼食までの少しの時間を、少女は読書をして過ごす。


 昼食の時間になり、ミネアに声をかけられて、食堂に()りる。
 起こされて眠そうなマーニャ、まだまだ元気なホフマンと、四人が顔を(そろ)える。

「町で、少し話を聞いたのですが。トルネコさんは、船を買うつもりで、港町に向かったそうです」
(はな)から買う気でいるとか、大商人はスケールが違うな」
「ポポロの、おかあさんね」
「あの噂の大商人、トルネコさんと、お知り合いなんですか!?」
「ご本人は、知らないのですが。先ほど話したネネさんの奥さんが、トルネコさんなんですよ」
「そうなんですね!仕事のできるご主人に、行動的な奥様の、大商人のご夫婦か……憧れるなあ!」
「港町に行くなら、会うことになるか」
「それとも、すれ違いになるかもしれないね」
「ぜひ、お会いしたいですね!会えるといいなあ!」
「ああ。引き(こも)ってたから、会ってねえのか」
「そうなんですよね……。もったいないことを……。」
「魔物に、狙われてる、のよね。海にも、魔物は、いるのよね。……大丈夫、かな」
「海に出ようってのに、なんも考えてないってこたねえだろ。それなりに、人を(やと)うなりしてるんじゃねえか?」
「そう、よね」
「ところで、話は変わりますけど。教会の(よろい)を見たとき、おふたりでなにか話してましたよね。あれ、なんだったんですか?」

 話を変えたホフマンに、マーニャが答える。

「ああ、あれか。普通の鎧だったな」
「え?」
「魔力的なものなら兄さんも、それ以外でも私なら、なにかしら感じ取れるはずですが。兄さんも私も、なにも感じませんでした」
「えっ!?じゃあ、町の伝説は、ウソなんですか!?」

 ホフマンが大声を上げ、マーニャが顔を(しか)める。

「声がでけえよ」
「す、すみません!」
「あるいは、すり替えられたか」
「そんな、さらっと!大変なことじゃないですか!」
「騒いでどうにかなることでもねえだろ。飾って()(がた)がってるだけなら、黙っといてやるのが親切ってもんだ」
「それは、そうですが!……そうですね。どうしようも、ないですか」
「そういうこった」
「まあ、ないもののことは、いいとして。今日はゆっくり休んで、明日の朝は少し早く出て、港町に向かいましょうか」

 ホフマンの動揺が治まったのを見て取り、ミネアが話をまとめにかかる。

「はい、わかりました!」
「なら、眠気覚ましに、今からひと稼ぎしてくるか。ミネア、付き合えよ」
「わかった」
「踊るの?」
「ああ。嬢ちゃんも、来るか」
「うん!見たい!」
「え?マーニャさんは、魔法使いではないんですか?」
「マーニャは、踊りがお仕事の、踊り手さんなの。マーニャの踊りは、すごいの!」
「そういえば、そんな話もしてましたね。魔法があれだけ使えて、手に職もあるなんて!本当に、すごいなあ!ぼくも、行ってもいいですか?」
「減るもんじゃねえしな。来るなら、来いよ」


 準備を整えた一行は町に出て、興行(こうぎょう)を行う。
 笛の()に誘われて、町の住人や湯治(とうじ)(きゃく)で、すぐに(ひと)(だか)りができる。

 久しぶりの娯楽に、優れた(まい)と曲に、踊り手と奏者(そうしゃ)美貌(びぼう)に、観客は盛り上がり、大量のおひねりが投げ込まれる。
 時間もあることだからと、今回はアンコールにも(こころよ)く応じ、更に大量のおひねりを獲得して、興行を終える。


「……本当に。すごかったですね!」
「そうでしょう!」
「ユウさんが、あそこまで期待してたわけが、わかりました!」
「そうでしょう!」
「マーニャさん!ぼくは、感動しました!」
「やめろ。野郎に鼻息荒くして詰め寄られても、嬉しかねえんだよ」
「だけど!この、感動を!伝えずには、いられません!」
「暑苦しいんだよ。燃やすぞ」
「そ、それはちょっと!本気でやりそうですよね!」
「死なねえ程度にな」
「ほんとに、殺さないでね」
「おう」
「やめてくださいよ!!ユウさんも、フォローになってませんから!!」
「ホフマンさん。兄さんはやると言ったら本当にやるから、気を付けてくださいね」
「いや、()めてくださいよ!!」
「もちろん、()めはしますが。結果に責任は持てません。だから、気を付けてくださいね」
「……わかりました」
「一応、()()は治せますから」
「……お世話にならないように、気を付けます」


 少女とホフマンの興奮も収まり、一行は宿へと引き上げる。

 夕食までの時間、荷物の整備をし、再び温泉に入り、ゆっくりと身体(からだ)を休める。

「あら、お嬢ちゃん。ひとりなの?」
「みんなは、男だから。別々なの」
「そうなの。ところで、知ってる?この温泉に入ると、お肌がキレイになるそうよ!」

(洗ったら、きれいになるのは。ふつうのことじゃ、ないの?)

「そう、なの?」
「そうなんですって!でも、これ以上キレイになったら、どうしましょ!?」

(きれいになると……困るの?)

「……やだー、そんなー!あたし、困っちゃうー!いやーん、もうー!」

(やっぱり、困るのね。……どうして?)

「……はっ。あら、やだ。なんでもないのよ、気にしないでね!」
「……うん」


 夕食の席で、再び少女は(たず)ねる。

「ホフマンさん。きれいになるのは、困ることなの?」
「え?……えーと。さすがに唐突(とうとつ)すぎて、よくわからないんですけど」
「温泉で、おねえさんが言ってたの。温泉に入ると、お肌がきれいになるって。でも、これ以上きれいになると、困るって。」
「うーん……これはこれで、説明しづらい……」
「洗うときれいになるのは、ふつうのことじゃないの?」
「やっぱり、そこからですか」
「きれいになると、どうして困るの?」
「うーん……こういうのは、マーニャさんのほうが……」
「おい。こっちに振るなよ」
「朝のよりはましじゃないですか」
「マーニャは、わかるの?」

 少女に問いかけられて、マーニャが諦めたように口を(ひら)く。

「……あー。まず、肌が綺麗になるってのは、汚れの話じゃねえ。嬢ちゃんにはまだわかんねえだろうが、年取ると、シミやらシワやら()()(もの)やらで、肌が荒れてくんだよ。それが、治るってこった」
「……うん、わかった。それが、どうして困るの?」
「本気で困るって話じゃなくてだな。そんだけ、自分に自信があるってこった」
「……自信?」
「温泉の力なんざ借りなくても、自分は十分綺麗だから。これ以上綺麗になって、野郎(やろう)(ども)に寄って来られても困るって、そういう話だ」
「……やろう?」
「男のことだ。いい女には、男が(むら)がるもんだ。それを喜ぶ奴もいれば、嫌がる奴もいるな。嫌がってるようで、やっぱり喜んでる奴もいるしな」
「おい、兄さん」
「他に、どう言えってんだよ」
「……うん。わかった。……ような、気がする」
「ま、半分冗談で言ってるんだろうがな」
「冗談、なの。……やっぱり、よく、わからない、かも」
「わからねえでも、大して困る話でもねえしな。そういうもんだと思っとけ」
「うん。わかった」
「やっぱり、こういうことはマーニャさんですね!」
「調子いいこと言ってんなよ。そのうち燃やすぞ」
「……一応、猶予(ゆうよ)があるんですね。気を付けます」
「明日は、早く出るなら、いつもより、早く起きて訓練するね。ホフマンさんは、大丈夫?」
「もちろんです!今日は、早く寝るようにしますから!よろしくお願いします!」
「うん、よろしくね」
「ふたりは、いいとして。問題は兄さんだね。早く寝てくれよ」
「わかってるよ。さすがに寝足りなくて、今日は起きてられそうもねえ」


 夕食後、することも済ませてあった一行は、早々(そうそう)に休む。

 翌朝、いつもよりも更に早い時間に、少女は起き出す。
 ホフマンには()()りなどの訓練を始める時間を伝えてあったため、ホフマンを待たずに走り込みを始める。

 走り込みの途中で、ホフマンが合流する。

「おはようございます、ユウさん!本当に早いですね!」
「おはよう、ホフマンさん。先に、走っておこうと思って。ホフマンさんも、早いね」
「ぼくも少し、身体(からだ)を温めておこうと思って。ユウさんよりも、先に起きるつもりだったんですけど」
「わたしも、まだそんなに、走ってない」
「それなら、良かった!」


 走り込みを、終える。

「……ユウ、さん、は、若い、し、女性、なのに。……ずい、ぶん、体、力が、あるん、です、ね!」
「毎日、走ってるから。……大丈夫?無理についてこなくても、よかったのに」
「……これくらい!問題、ありません!」
「……そう。わたしは素振りをしてるから、少し休んでてね」
「……はい。すみません」
「ううん。大丈夫」

 ホフマンは休んで息を整え、少女は素振りを始める。

 昨日手に入れた(てつ)(たて)を構え、盾のない状態とのバランスの違いを身体に覚え込ませるように、(はがね)(つるぎ)を振る。

 息の整ったホフマンが、(てつ)(やり)とうろこの(たて)を持ってやってくる。

 剣を(おも)(きた)えてはいたが、ひと通りの武器の扱いを教え込まれた少女は、我流(がりゅう)のホフマンの構えの問題点を、的確に指摘していく。
 ホフマンは、慣れない構えに戸惑いながらも、素直に聞き入れ、素振りを()り返す。

「慣れないから、動きづらい、気はしますが。力の、込めやすさは。全然、違いますね!」
「本当に、戦いに、慣れたら。自分なりの、構えを、作っても、いいけど。最初は、基本に、忠実なほうが、いいって。師匠(ししょう)が、言ってた」
「そう、ですね!これに、慣れれば!もっと、威力が、出せそうな、気がします!」
「うん、頑張って。……そこ、違う」
「はい!」


 素振りを、終える。

「……ありがとう、ござい、ました!」
「……大丈夫?」
「……もちろん、です!」
「……やりすぎ、た?」
「……やったのは、ぼくです、から!」
「……回復、する?」
「いいえ!これくらい、少し、休めば、大丈夫です!まだ、少し、時間は、ありますし!温泉にでも、入れば!」
「……そう。無理、しないでね」
「はい!」


 少女とホフマンは、それぞれ温泉で汗を流す。

 ホフマンは、ぎこちない動きで部屋に戻ろうとしているところを、ミネアに発見される。

「ホフマンさん?どうしたんですか?」
「……ちょっと。張り切りすぎて。……あちこちが」
「……回復しましょうか?」
「……お願いします」

 ミネアのホイミで、回復する。

「怪我をしたわけではないですからね。訓練したものを、治しすぎるのも良くないと言いますから、この程度で」
「ありがとうございます!かなり、楽になりました!」
「ユウも、ホイミなら使えますよ?」
「いや、それはちょっと……。さすがに、情けないじゃないですか……」
「ああ、そういうことですか。無理をせず、いつでも言ってくださいね。旅の前にあまり無駄遣いはできませんが、そう簡単に尽きるほど、私の魔力も少なくありませんし。ホフマンさんが強くなると思えば、無駄でもありませんから。その意味でも、ユウより私に言ってもらったほうがいいですね」
「そう言ってもらえると、助かります」


 昨晩は早く寝たマーニャの目覚めも良く、朝食を済ませ、身支度を整えた一行は、港町を目指して出発する。 
 

 
後書き
 新たな大陸を目指して訪れた港町に、(ただよ)不穏(ふおん)な気配。
 港町の(うれ)いを晴らすため、立ち上がる者。

 次回、『5-13港町と商人』。
 7/6(土)午前5:00更新。 
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