| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

―ジェネックス Ⅱ―

 鮫島校長主催の国際大会《ジェネックス》が開始されて少し経ち、このデュエル・アカデミアにも外部の人間が目立ってきた。
外部の人間とは、現役で活躍中のプロデュエリストや、鮫島校長が目を付けて誘った実力あるアマチュアなど様々で、この島がこんなに活気づいているのは文化祭以来では無かろうか。

 今のところは、俺の回りの友人たちは誰も脱落していないものの、光の結社を除くデュエル・アカデミアの生徒の大半はプロデュエリストに挑んで負ける者や、そもそもデュエルをせずに逃げるものの方が多かった。

 それもその筈、光の結社は実力ある者からスカウトしていっているらしく、一般生徒にはプロデュエリストと渡り合えるほどの実力者は少ないからだ。
三沢や吹雪さんのように実力で光の結社のスカウトをはねのけている者や、洗脳された俺を見て、光の結社と関わり合いにならないようにしている例外もいることにはいるが。

 しかしてその一方、光の結社の構成員も参加者の数を減らしつつあった。
万丈目や五階堂などの実力者は順調に勝ち進んでいるようだが、下位の構成員が日に日に脱落していっている。

 原因は……光の結社を辻斬りのように狙い撃ちしている黒崎遊矢という人物――つまり俺だった。
組織が拡大化しきった光の結社相手に、俺がやれることなどこの程度しかないのが悲しいところだが。

 しかし、実力者をスカウトしているという予想は間違っておらず、初戦の取巻のデュエルのようなヒヤヒヤさせられるデュエルも多く、なかなかスリリングだった。

 俺は光の結社狙い、十代はプロデュエリストのみの大物狙い、翔は一日一戦のノルマを下級生相手にこなして逃げ回り、エドは自分から仕掛けることなく大量に返り討ち……など、メダルの集め方にも性格が現れているような気がしてならない。

 こうして順調にデュエル・アカデミアの生徒は数を減じていったためか、ようやく俺もプロデュエリストと巡り会うこととなった。

 相手のプロデュエリストは、『数学デュエリスト』との異名を持っているデュエリスト、《マティマティカ》。
彼の所属しているリーグでの順位は、プロランク10位というれっきとした実力派である。

 相手にとって不足はない、そう考えて俺は目の前にいるマティマティカと同様にデュエルの態勢を整えた。

『デュエル!』

遊矢LP4000
マティマティカLP4000

「私の先攻から。ドローします」

 デュエルディスクは、ニュース番組のキャスターを連想させる声色のマティマティカを先攻に選んだようで、俺のデュエルディスクには後攻と表示されていた。

「私は《巨大ネズミ》を守備表示で召喚」

巨大ネズミ
ATK1400
DEF1450

 戦士族でないという点を除けば、同じようなリクルーター《荒野の女戦士》の上位互換の登場に、マティマティカのデッキは地属性メインのデッキだろうと推測される。

「カードを二枚伏せてターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 マティマティカのリクルーターとリバースカード二枚という磐石な態勢に、俺はとりあえず切り込むことを選択した。

「俺は《スピード・ウォリアー》を召喚!」

『トアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 今回戦陣を斬るのはアタッカーの《マックス・ウォリアー》ではなく、俺のマイフェイバリットカード、スピード・ウォリアー。

「バトル! スピード・ウォリアーは、召喚したターンのバトルフェイズ時のみ攻撃力が倍になる! ソニック・エッジ!」

 スピード・ウォリアーの勢いが乗った回し蹴りに、巨大ネズミはたまらず破壊されてしまうが、リクルーターの仕事は破壊されること。

「《巨大ネズミ》が破壊されたので、デッキから攻撃力1500以下の地属性モンスター《測量戦士 トランシッター》を特殊召喚!」

測量戦士 トランシッター
ATK1000
DEF2100

 測量機のような外見をした、ダイレクトアタックを補助する効果を持ったモンスターが特殊召喚される。
マティマティカが参加しているプロリーグは見ていなかったのだが、確か彼の代名詞とも言える主力モンスターだと聞いたことがある。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン。ドロー」

 トランシッターの効果は、自分フィールド場のモンスターをリリースすることで、相手プレイヤーにダイレクトアタックする権利を得るというものだ。
難点は、起動効果なのでメインフェイズ時にしか効果ん発動出来ないところだろうか。

「私は永続魔法《違法召喚》を発動! 私のメインフェイズ時、お互いにデッキから好きなカードを相手のフィールドへ特殊召喚します」

 一風変わった効果の永続魔法の発動に、なんとなくマティマティカのコンボを予想しながらデッキからモンスターを選択した。

「私はデッキから《マタンゴ》を特殊召喚」

「俺は《ワンショット・ブースター》を特殊召喚する!」

マタンゴ
ATK1250
DEF500

 双方ともに相手のデッキから特殊召喚されたモンスターは守備表示を選択し、マティマティカのフィールドにワンショット・ブースター、俺のフィールドにマタンゴがそれぞれ現れる。

 俺が選択した《ワンショット・ブースター》は、マティマティカのデッキではあまり活躍の場がないだろうが、問題なのは俺のフィールドにいる《マタンゴ》。
こいつがいる限り、俺はスタンバイフェイズ時に300ポイントのダメージが与えられ続け、500ポイント払ってマティマティカに返しても《測量戦士 トランシッター》の効果のコストになるだけだ。

「さらに永続魔法《エレクトロニック・モーター》と伏せてあった《死の演算盤》を発動し、トランシッターの効果を発動! 私のフィールドの《ワンショット・ブースター》をリリースし、このターンダイレクトアタックの権利を得る。そして、私の計算はこれだけでは終わりません」

 トランシッターの効果に触発されて起動した《死の演算盤》がマティマティカの前に出現し、その演算盤の計算力を活かし、コストにされたワンショット・ブースターを俺へと射出した。

遊矢LP4000→3500

「《死の演算盤》は、モンスターが墓地に送られた持ち主に500ポイントのダメージを与える。そして永続魔法《エレクトロニック・モーター》は、私のフィールドの機械族モンスターのみの攻撃力を300ポイントアップさせます。バトル! トランシッターでダイレクトアタック!」

「なるほど、そういうコンボか……!」

遊矢LP3500→2200

 《違法召喚》で相手フィールド場に《マタンゴ》を送りつけると同時に《測量戦士 トランシッター》のコストを手に入れ、その効果で《死の演算盤》によるバーンとダイレクトアタックを行うコンボ。
バーンダメージのために送りつけた《マタンゴ》に《測量戦士 トランシッター》を破壊されないように、永続魔法《エレクトロニック・モーター》で攻撃力を300ポイントアップさせ……最後は、俺にトランシッターを攻撃させないためのロックカードだろう。

「永続魔法《平和の使者》を発動し、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」


 やはり予想通りにロックカードが現れたが、予想出来ただけでマティマティカのコンボに対する対抗策は依然としてない。

 ……いや、対抗策がないわけでは無いのだが、このターンでは発動出来ないというのが正しいか。

「あなたのフィールドの《マタンゴ》の効果。300ポイントのバーンダメージを与える!」

遊矢LP2200→1900

 打開策を考えている間にも、俺のフィールドに寄生虫のように居座るキノコの化け物にライフを吸われる。
300ポイントという微々たるダメージではあるが、このライフではそれも出来れば喰らいたくないダメージだった。

「くっ……カードを一枚伏せてターンエンドだ」

「私のターン。ドロー!」

 早くも勝利を目前としたマティマティカがカードを引いて自分の手札に収め、俺にトドメを刺そうとする前に《平和の使者》の効果処理に入った。

「《平和の使者》を維持するのに100ポイントのライフを払いましょう」

 攻撃力1500以上を全て封殺するという効果であるのに、たった100ポイントという微々たる維持コストが若干納得いかないが、今はそんなことを考えている暇ではない。

「フフ、私の計算の前では防戦一方なようで。念には念を入れ、速攻魔法《サイクロン》を発動してあなたのリバースカードを一枚破壊する!」

「チェーンしてリバースカード、《ダメージ・ダイエット》を発動! このターン受けるダメージを、全て半分にする!」

 マティマティカの発した旋風が俺のリバースカードを破壊するよりも前に、《ダメージ・ダイエット》の効果で一ターンのみ俺の辺りへと薄いバリアーが張られた。

「なるほど……しかし、そんなその場しのぎでは……《違法召喚》の効果を使用し、私は再び《マタンゴ》をあなたのフィールドへ!」

「俺は《ニトロ・シンクロン》を特殊召喚する」

 またもお互いにデッキからモンスターを特殊召喚することになり、マティマティカはキノコの化け物、俺は消火器のような形をしたシンクロンをお互いに守備表示で特殊召喚した。

「《測量戦士 トランシッター》の効果。ニトロ・シンクロンをリリースし、《死の演算盤》によるバーンダメージ!」

 俺の墓地に、ニトロ・シンクロンが送られたことによって《死の演算盤》が起動し、俺に500ポイントのダメージを与えようとするが、《ダメージ・ダイエット》のおかげでその半分の250ポイントで済む。

遊矢LP1900→1650

「バトル。トランシッターでダイレクトアタック!」

 スピード・ウォリアーとマタンゴ二体の壁をすり抜け、俺を《測量戦士 トランシッター》の攻撃が襲うが、《ダメージ・ダイエット》の薄いバリアーが俺を完全でないにしろ守ってくれる。

遊矢LP1650→1000

「これでトドメと行きましょう。リバースカード《停戦協定》を発動! フィールド場の効果モンスターの数×500ポイントのダメージを与える! 今フィールドにいる効果モンスターの数は四体、ダメージ・ダイエットの効果が適用されて1000ポイントのダメージ!」

 これはいくら《ダメージ・ダイエット》でも防ぎきれないが、かといってもう一枚のリバースカードは効果ダメージを防ぐカードではなく、俺のフィールドにいるモンスターもそんな効果は持っていない。

「私の計算に狂いはないのですよ」

「いいや、まだだ! 俺は手札から《シンクロン・キーパー》を捨てることで、効果ダメージを無効にする!」

 ラッキーカードである《エフェクト・ヴェーラー》の効果ダメージ版とも言えるモンスター、《シンクロン・キーパー》の活躍により、なんとか俺の敗北は免れた。

「……カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 御自慢の計算が狂わされて少し残念がっているようだが、それはマティマティカが先程口に出したようにその場しのぎにしか過ぎない。

 俺が真に攻勢に出るのはここからだ。

「スタンバイフェイズ、マタンゴ二体のバーンダメージを受けてもらいましょう」

遊矢LP1000→400

 この効果ダメージは一種の通過儀礼だと受け取って、俺はまず墓地のカードを使って反撃に転じることにした。

「墓地の《シンクロン・キーパー》の効果発動! このカードとチューナーモンスターを除外し、そのレベルに等しいシンクロモンスターを特殊召喚出来る! 俺は《ニトロ・シンクロン》と《シンクロン・キーパー》を除外し、エクストラデッキから《パワーツール・ドラゴン》を特殊召喚する!」

パワーツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500

 ラッキーカードでもある黄色い機械竜が特殊召喚されるものの、その効果は無理やり特殊召喚した代償に失っており、マティマティカの《平和の使者》によって攻撃もままならない。

「更にチューナーモンスター、《エフェクト・ヴェーラー》を召喚!」

エフェクト・ヴェーラー
ATK0
DEF0

 羽衣を纏った中性的な容姿をしたモンスターの登場により、これでラッキーカードが二体フィールドに揃ったこととなり、パワーツール・ドラゴンの効果が無効にされていようと関係ない。

「レベル7の《パワーツール・ドラゴン》と、レベル1の《エフェクト・ヴェーラー》をチューニング!」

 エフェクト・ヴェーラーがパワーツール・ドラゴンの周囲を回り、炎と共にパワーツール・ドラゴンの装甲が外れていく。
もはや俺は見慣れたシンクロ召喚だったが、マティマティカは驚きを露わにしていた。

「集いし命の奔流が、絆の奇跡を照らしだす。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》!」

ライフ・ストリーム・ドラゴン
ATK2900
DEF2400

 パワーツール・ドラゴンの装甲が炎と共に全て外れ、その正体である神話の龍のような姿を晒し、空中へと飛び上がった。

「ライフ・ストリーム・ドラゴンがシンクロ召喚に成功した時、俺のライフを4000にする! ゲイン・ウィータ!」

「その前にシンクロ召喚を行ったことにより、《死の演算盤》の効果を発動! 墓地に送られたモンスターは二体なので1000ポイントのダメージを与える!」

 ライフ・ストリーム・ドラゴンより《死の演算盤》の効果が先に発動し、ちょうどジャストキルになる効果ダメージが俺を襲ったが、バーンダメージはライフ・ストリーム・ドラゴンへと吸収されていく。

「ライフ・ストリーム・ドラゴンの効果発動! このモンスターがいる限り、俺は効果ダメージを受けない! ダメージ・シャッター!」

 《死の演算盤》によるバーンダメージも防ぎつつ、俺のライフを4000へと戻すという、ライフ・ストリーム・ドラゴンが正に八面六臂の大活躍を見せつける。

「更にリバースカード、オープン! 《リミット・リバース》! 墓地から《エフェクト・ヴェーラー》を特殊召喚する!」

 しかしまだ終わらない、そのことを示すように再びラッキーカードがフィールドに特殊召喚され、シンクロ召喚の準備が完了する。

「レベル3の《マタンゴ》二体と、レベル1の《エフェクト・ヴェーラー》をチューニング!」

 マティマティカが俺のモンスターを《測量戦士 トランシッター》の効果で使うならば、俺はこのキノコの化け物共をシンクロ召喚に活用させてもらうとしよう。

「集いし刃が、光をも切り裂く剣となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《セブン・ソード・ウォリアー》!」

セブン・ソード・ウォリアー
ATK2300
DEF1800

 7つの剣を持つ機械戦士がシンクロ召喚されたことにより、マティマティカのフィールドの《死の演算盤》が、自分の主人にしか害を及ぼさないにも関わらず律儀に起動した。

「《死の演算盤》により、マタンゴ二体分のダメージを受けてもらう!」

 俺も《エフェクト・ヴェーラー》の分の500ポイントダメージがあるが、そのダメージは《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の効果で俺には届かないため、マティマティカのみダメージを受けた。

マティマティカLP4000→3000

 そして、なんだか久々にシンクロ召喚された気がする7つの剣を持つ機械戦士に、その効果を十全に活かしてもらうための装備魔法を装備した。

「装備魔法《パイル・アーム》をセブン・ソード・ウォリアーに装備する! そしてパイル・アームの効果。装備された時、装備モンスターの攻撃力を500ポイント上げると共に、相手の魔法・罠カードを一枚破壊する! 俺が破壊するのは、当然《平和の使者》!」

 装備魔法《パイル・アーム》の効果に加えて、装備したモンスターが《セブン・ソード・ウォリアー》であるため、これだけには止まらない。

「更に、セブン・ソード・ウォリアーの効果! このモンスターに装備カードが装備された時、相手に800ポイントのダメージを与える! イクイップ・ショット!」

 セブン・ソード・ウォリアーの右手に装備された《パイル・アーム》からはパイルが、左手からはセブン・ソード・ウォリアー本来の武器の一つである投げナイフが放たれ、マティマティカと《平和の使者》に直撃することとなった。

マティマティカLP3000→2200

「更に、セブン・ソード・ウォリアー第二の効果! 装備された《パイル・アーム》を墓地に送り、《測量戦士 トランシッター》を破壊する!」
 装備されているカードを墓地に送ることにより、相手モンスターを一体破壊するのがセブン・ソード・ウォリアー第二の効果。
その効果により、マティマティカの主力モンスター《測量戦士 トランシッター》は破壊された。

「バトル! セブン・ソード・ウォリアーで、マティマティカにダイレクトアタック! セブン・ソード・スラッシュ!」

「《攻撃の無力化》を発動し、バトルフェイズを終了させます」

 トドメとばかりに攻撃したセブン・ソード・ウォリアーの一撃は、残念ながら時空の穴に吸い込まれて無効にされてしまった。

「カードを一枚伏せてターンエンド!」

「私のターン。ドロー!」

 セブン・ソード・ウォリアーとライフ・ストリーム・ドラゴン二体のシンクロ召喚により、マティマティカにはもう主力モンスター《測量戦士 トランシッター》はおらず、ライフも逆転していた。
だが、まだ相手フィールドには永続魔法《エレクトロニック・モーター》に《違法召喚》、ほとんど意味を成さないとはいえ《死の演算盤》もあるのだ、油断は出来ない。

「あなたはなかなかやるようで、私も計算をし直す必要があるようです……通常魔法《マジック・プランター》を発動し、《死の演算盤》を墓地に送り二枚ドロー!」

 ライフ・ストリーム・ドラゴンが俺のフィールドにいる以上、自分にダメージが来るだけの罠カード《死の演算盤》を墓地に送り、マティマティカは二枚ドローする。
そんな事実よりも、マティマティカの「計算をし直す必要ある」というのはどういうことなのだろうか……?

「私は《違法召喚》の効果を発動。あなたのフィールドに《巨大ネズミ》を特殊召喚」

「俺は《チェンジ・シンクロン》を特殊召喚する」

チェンジ・シンクロン
ATK0
DEF0

 三度目の《違法召喚》の発動だが、俺のフィールドに特殊召喚されたのは、ライフ・ストリーム・ドラゴンのせいで効果ダメージを与えられないせいか《マタンゴ》ではなく、地属性のリクルーター《巨大ネズミ》だった。

 俺はまたもステータスの低いチューナーモンスターを特殊召喚し、先程の《ニトロ・シンクロン》のように墓地送りに利用させてもらおうと考えたのだが……マティマティカは不敵な笑みを洩らした。

「私は《巨大ネズミ》を召喚し、レベル1の《チェンジ・シンクロン》とレベル4の《巨大ネズミ》でチューニング!」

「なっ……!?」

 マティマティカのフィールドで行われていくのは、俺も見慣れたチューナーモンスターが光の輪となってモンスターを包んでいくその光景。

 そう、別にシンクロ召喚のテストが終わって一般的に発売されている今、シンクロ召喚は使用者は未だに少ないものの、決して俺専用な訳じゃないのだから。

「この世界を支配する計算式。ラプラスの悪魔の化身をここに! シンクロ召喚! 《A・O・J カタストル》!」

A・O・J カタストル
ATK2200
DEF1200

 シンクロ召喚をメインにした新カテゴリー《A・O・J》のカード……俺の前に現れたシンクロモンスターを見て、相手がシンクロ召喚を行わないという、無駄な慢心はしないことを心に誓った。

「永続魔法《エレクトロニック・モーター》の効果により、カタストルの攻撃力は300ポイントアップ。バトル! A・O・J カタストルで、セブン・ソード・ウォリアーを攻撃!」

 永続魔法《エレクトロニック・モーター》の効果で、セブン・ソード・ウォリアーの攻撃力を超えている、などと考えていたが、そんなことは全く関係がないということに気づくのは少し遅かった。

 セブン・ソード・ウォリアーは戦闘を介することなく、カタストルが発したレーザー砲が一方的に敗北したのだ。

「A・O・J カタストルは、闇属性モンスター以外が相手ならばダメージステップ開始時に破壊します」

「なるほど、一方的にやられるわけだ……!」

 《機械戦士》は闇属性モンスターの割合が少なく、いたとしてもあまり戦闘には向かないモンスターだけなのが問題だった。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 《測量戦士 トランシッター》の代わりにマティマティカのフィールドに現れた《A・O・J カタストル》は、闇属性モンスター以外を問答無用で破壊するという確かに強力な効果だ。

「……だが、シンクロ召喚ならば俺に一日の長がある! 通常魔法《シンクロキャンセル》を発動!」

「《シンクロキャンセル》……私の計算が確かならば、シンクロ素材だった《パワーツール・ドラゴン》は蘇生制限を満たしていない筈では?」

「……ああ、そうだな」

 そんな会話を繰り広げていた俺たちの横で、マティマティカのフィールドの《A・O・J カタストル》が光の輪のようなものに包み込まれていた。

「……な?」

「俺が《シンクロキャンセル》の対象に選ぶのは《ライフ・ストリーム・ドラゴン》じゃない……お前の、《A・O・J カタストル》だ!」

 通常魔法ではあるが、シンクロモンスターの《融合解除》とでも言えるこの魔法カードは、当然ながら相手のシンクロモンスターにも使用することが可能だった。
これまでは、レイの《恋する乙女》などにコントロールを奪取された時ぐらいしか活用法が無かったが、今は存分に相手のシンクロモンスターに使わせてもらうとしよう。

「これでお前の厄介なモンスターは消えた! ライフ・ストリーム・ドラゴンで、マティマティカにダイレクトアタック! ライフ・イズ・ビューティーホール!」

「くっ……リバースカード、オープン! 《グラヴィティ・バインド-超重力の網-》! レベル4以上のモンスターは、攻撃宣言が出来ない!」

 ライフ・ストリーム・ドラゴンが光弾を放つよりも早く、マティマティカのリバースカードから大型モンスターを捕らえる超重力の網がフィールドに展開し、ライフ・ストリーム・ドラゴンの動きを封じた。

「フッ……シンクロモンスターへのメタも計算に入れておきましょう」

「その計算を使う機会は、もうこの大会中には無いがな! リバースカード、オープン! 《上級魔術師の呪文詠唱》! 手札の通常魔法を速攻魔法として扱うことが出来る! 俺が使うのは《シンクロ・ギフト》!」

 自分フィールド場のシンクロモンスターの攻撃力を、他のモンスターへとそのまま移すという通常魔法カード……俺のフィールドにいるのは、ライフ・ストリーム・ドラゴンとマイフェイバリットカード!

「ライフ・ストリーム・ドラゴンの攻撃力を0にし、スピード・ウォリアーの攻撃力に加算する!」

 よって、ライフ・ストリーム・ドラゴンの力を借りたスピード・ウォリアーの攻撃力は3800であり、スピード・ウォリアーに《グラヴィティ・バインド-超重力の網-》なんていうロックカードは通用しない……!

「バトル! スピード・ウォリアーで、マティマティカにダイレクトアタック! ソニック・エッジ!」

「私の計算を、超えた……だと……」

マティマティカLP2200→0

 マティマティカとのデュエルがマイフェイバリットカードの一撃で終了すると、少し場違いな拍手がこの場を包んだ。

「良いデュエルだった。相変わらずのデッキのようだな、遊矢」

「……亮!」

 拍手の主はプロデュエリストとなった友人、オベリスク・ブルーの制服を模した服を着たカイザー亮だった。

「久しぶりだな遊矢。それより、メダルをどれくらい集めた?」

「開口一番デュエルのことかよ……まあ、ボチボチだ」

 こっちは相変わらずのデッキならば、あっちは相変わらずのデュエル馬鹿だった。
先だってはエドに敗北していた亮だったが、そんなことは今の亮には感じられなかった。

「まだお前とデュエルする気はないからな。最近プロデュエリストではどうだ?」

「そうか……少し残念だな」

 バトルロイヤル形式のこの世界大会で、こんな序盤に亮ほどの実力者とデュエルする気は無かったが、亮の残念そうな表情を見るに、あっちはやっても良かったようだった。

 変わらずデュエル馬鹿の友人に安心しつつ溜息をつき、しばし世間話に興じるのだった。
 
 

 
後書き
誰得かと自分でも思った、VSマティマティカ戦でした。

感想・アドバイス待っています。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧