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形而下の神々

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過去と異世界
  魔物の正体

 サンソンは感心していたのだが、何故か突然怒り出した。

「お前は本当に馬鹿か! 確かに初対面の相手を切り伏せる強さも大切だがな、敵を知る事も同じくらい大切なんだよ!」

 敵を知り、己を知れば百戦危うからずというやつか。確か中国かどこかの格言だった気がするが、ここでもやはり兵法の根本は何ら変わらないらしいな。

「じゃあ教えてくれよ。魔物ってどこを狙えば良いんだよ」
 グランシェは何ら悪びれる事も無く、逆にふてくされ気味で聞き返した。
 ……マジかコイツ。なんでそこでふてくされるんだよ。

「魔物に急所は無いんです」

 と、グランシェの質問に答えたのはレミントだった。

「魔物は私たちと同じ矛盾から生まれる生命体。ただ少し違うのは私たちはこの世に初めから存在する、言わば自然の摂理から生まれたものであるのに対して彼らは人が後から作った公式の矛盾なんです。公式の矛盾は生きているようで純粋な生命とは違う存在。私たちもそうですが、彼らにとっての心臓は血液を循環させる器官ではなくただの勝手に動く筋肉なんです。仮に止まっても何ら実害はありません」

 なんと……じゃあ魔物はどうやったら事切れるというのか。
 そう俺が質問しようとしたとき、先にその答えをサンソンが語ってくれた。

「だから奴らに必要なのは急所へのダメージじゃない。大量の深い傷なんだ。俺たちを含め矛盾である物は皆、自身に酷い損傷を受けると矛盾として存在できなくなる。だから単純に大きなダメージが必要なんだよ」

 と、そこで俺は思った。じゃあ別にどこ狙ってても怒られる必要なくない?と。しかしそれはドドド素人の思考回路だったようで、グランシェは何やら納得しているみたいだ。
 仕方ない、聴くは一時の恥、聴かぬは……この場合一生の恥どころかすぐにその一生が終わッ血まうような事になりかねないのでちゃんんとグランシェに聞いておこう。

「今の話だと、別にどこ狙っても良かったんじゃないの?」
 小声で聞くと、グランシェは俺の小声を全く無駄に知るほどの大声で答えた。

「どこを狙っても同じなら、下手に胴体を狙うよりも四肢や感覚器官、攻撃手段などを壊した方がいいだろ?」

 うわぁお。全くもってその通りだ。流石、常に戦いに身を置くものは違うねぇ。
 と、そんな話をしているとサンソンは興味深々と言った様子でグランシェに話かけてきた。

「グランシェ、君はどうやら結構な腕前があるみたいだね。どこかの傭兵か何かかい?に」
 ほぉ、この世界にも傭兵に準ずる職業があるんだね。グランシェはこの世でも職に困る事はなさそうだ。比べて俺はかなり困る。考古学者とか絶対ないだろ。強いて言うならこの世はすでに最も古い時代っぽいし。
 そんな俺のブルーな思考に関係なく、グランシェはしれっと答える。

「あぁ、昔はそこそこ腕の立つ傭兵をしてたよ。それが何か?」

 と、それを聞いたサンソンが無言で剣を投げてきた。音を立ててグランシェの足元に転がる剣。

「一度俺と手合わせしてくれないか。もちろん、公式や神器は抜きだ」

 物騒なお願いだがグランシェは満面の笑み。
「良いねぇ、望むところだ」

 しかしグランシェは剣をサンソンに返した。

「俺にはこのマンゴーシュが有る」

 そう言ってグランシェはポケットからマンゴーシュを取り出す。刃渡りが45cm程の短剣だ。確かあのマンゴーシュはグランシェのお気に入りで、俺がヤツと出会った頃から使い続けてる。どうやら特注品らしく、普通は刃渡り30cm程までしかないマンゴーシュだが実践でメインの武器として使う為に長くしてあるらしい。
 更には見えないくらい小さな凹凸が刃に刻まれていて、それが切れ味を格段に増しているとの事。なぜそこまでマンゴーシュにこだわるのかは知らんが、結構な一品だという事は俺にも分かった。

「さぁ、勝負だ」

 グランシェはやる気満々で言った。が、サンソンは怪訝そうに顔をしかめる。

「そりゃあ短剣じゃないか。リーチが違い過ぎるが、良いのか?」

 確かにサンソンの言う通り、彼の使うロングソードはザッと1m近い長さ。彼の身長は175cmといった感じなので、腕と合わせて1.5mくらいのリーチはあるだろう。
 対してグランシェは体格では勝るもののリーチはザッと1mがそこそこ。がたいの良さは攻撃の当たりやすさを意味しているし、50cmもの間合いの差は一歩踏み込むだけの差を持っているのでグランシェが圧倒的に不利なのは流石に素人の俺だって分かる。

 しかし、グランシェは俺の創造を遥かに超えた発言をさらりと言い放つ。

「気にするな。俺に1対1の近接戦でリーチは関係無い」

 カ……カッコイイ!! 何なんだよお前その発言は!
 しかも今回は特にドヤ顔をしていないという点が特にカッコイイ。

 と、その時服の裾が引っ張られるのを感じた。レベッカだ。

「あのぉ~、グランシェさん大丈夫なんですか?」
「まぁ、大丈夫だろ」

 軽く答えた。あのマンゴーシュにはまだまだ俺の知らない秘密が隠されているらしい。細かいところは知らないが、敵の攻撃を受け、弾き、切る。剣と盾の両方の使い方ができるとのこと。

「大丈夫だ、グランシェはたぶんあのサンソンって人より素の力は強い」
「でもサンソンさんは一番……」

「行くぞ!!」

 レベッカは何かを言いかけていたが、とうとう二人の試合が始まったみたいだ。
 まず剣を構えて走るのはサンソン。グランシェは動かずに迎え撃つつもりらしい。

「でやぁっ!!」

 サンソンが思い切りロングソードを振り下ろし、ガンッと音を立てて剣とマンゴーシュがぶつかる。

「攻撃の時に声を出すのは良くない。タイミングがバレちまうだろ?」

 グランシェはそう言って剣を弾き返し、一瞬でサンソンの懐に入った。そしてマンゴーシュをサンソンの鳩尾に突き付けて動きを止めた。
 俺には早すぎてグランシェが何をしたのか正確には一切分からなかったが、どうやらグランシェはサンソンに一瞬で圧勝してしまったようだ。

「俺の勝ちだな」
「うそだろ……」

 おもしろくない。非常に詰まらない。やっぱり一瞬でグランシェが勝ってしまったのだ。

「グランシェさんって何者何ですか?」
 と、いきなり一部始終を見ていたレベッカが聞いてくる。

「ヤツはプロフェッサーだよ」
「プロフェッサーってなに? カッコイー!!」

 レミントも興味津々だ。実は俺も詳しくは知らないのだが。

「まぁ、何処だったかの軍隊の教官の中でも一番偉い人の事だよ」

 ニュアンスはこれで合ってると思う。グランシェから聞いた話だったが、ヤツはあまり昔の話はしない。

 それにしても――

 向こうではサンソンとグランシェがなにやら話し込んでるし、レミントなんかタイチさんも何かしてよみたいな目で見てくるし。

 何この状況。

 マズイよ……俺は何も出来ないし。

「レベッカ……」
「はい?」

「帰ろっか」

 ここは早いトコ退散するに限る。
 
 

 
後書き
 ここまでご愛読いただきありがとうございます。前回と今回を合わせて、本編初のバトルパートでした。
 僕は戦闘描写が不得手です(不得手ばっかりですが)ので、何とかそれをごまかそうと考え出したのが情報戦です。今回はリーチについて言及し、あたかもタイチが頭脳戦をしているかのように見せかかるという、何ともなめた作戦です。
 実際タイチは一切戦闘とは関係ありませんが……。

 これからもこんな感じでドンドン戦闘シーンが増えて行きますが、タイチ目線である限り戦闘はかなり理屈っぽいものになります。
 何にも考えない、力と力のぶつかり合いみたいな熱いバトルはほぼ存在しませんが、飽きずに読み続けていただけると、幸いです。 
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