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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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GGO編
  百十五話 殺人鬼、再来

 
前書き
はい!どうもです!

今回から、GGO編もラストバトル!
今回は三方面に分けてのお話となります!

では、どうぞ! 

 
「ありがとうございました」
乗っていたタクシーの運転手が差し出した電子マネー精算機に携帯を押し付け、ピロリン♪と言う軽やかな清算音がなると同時に、美幸はそう言って開いたドアの外に歩き出す。

東京都、御茶ノ水にあるこの病院兼リハビリテーションセンターが、涼人と和人がSAOから帰還した当初に元の筋力を取り戻す為のリハビリを行った場所であると言う事は、美幸も知っていた。
残念ながら自分のリハビリに涼人がちょくちょく見舞いに来てくれていたのに対して、涼人がリハビリをしていた間美幸は眠っていたのでその様子については知らないが、自身が経験したあの異様に痛かったリハビリを考えれば、その辛さには想像がついた。正直な所、あれに関しては余り思い出したく無い。

「……」
少し黙り込むと、美幸はゆっくりと歩き出し、自動ドアをくぐる。少し暗い中まだ明るい受付に近寄って、奥の女性に声を掛けた。

「あの……」
「はい?あ、えっと今日は受付は……」
「いえ、あの、私麻野と言います。その、事前に……」
「あ、はい」
受付の看護士は納得したような顔をすると、奥にいた少し年上と思われる別の看護士の方を見た。
目を向けられた看護士が端末を覗き込み、一つ頷くと美幸の前にいた看護士が振り向いた。

「分かりました。連絡を受けています。それじゃあ、此方が面会者用のパスカードになります。病室は 7025号室です行き方は――「サチ!」あら?」
「!?」
一応最後まで説明を聞こうと思っていた美幸は、不意を付かれて少々ドモる。慌てて声のした方を見ると、其処に息を切らしたアスナが立っていた。

「あの、その子連れて行っても構いませんか!?」
「え?あぁ、まあ同じ場所に行くわけだから……」
やたら焦ったような様子で駆け寄ってくるアスナに、 美幸と受付の女性は戸惑ったように圧され、看護師が思わず。と言った様子で答えた。アスナの反応は早い

「すみません!」
「わっ!?」
言うが早いが、アスナはサチの腕をひっつかむと、寸前で面会者パスを受け取ったサチを引っ張って奥のエレベーターへと突き進む。

「え、えっと、アスナ?」
「さち、ごめん強引で……でも、リョウが……!」
「……え?」
切迫した顔でそう言ったアスナに、サチは思わず聞き返した。

────

久しく聞いて居なかったような気さえする。金属の刃がぶつかり合う音を背に聞きながら、リョウはこれまで散々自分を妨害してくれた弾丸が飛来してきていた方向へと走った。
全力疾走で走りつつも、次の瞬間跳んでくるかも分からない前方からの弾丸に対する警戒が無いわけではなかった。しかし……

「やーっぱ、撃ってこねえな」
誰に言うでもなく、リョウは気怠げに呟く。そもそも、初めからそうだったのだ。狙撃手(スナイパー)の貴重な第一射をわざわざ武器破壊に使ったり、ザザと戦って居た時とて、やろうと思えば何時でもリョウやアイリの頭部に鉛玉をぶち込めたくせに、そうしなかった。

“誘っている”のだ。明らかに自分の事を。
こっちに来い。邪魔無しであの時の続きをやろうと、手招きしながらわざわざ自分の方に来るように呼んでいる。

「ったく……」
小さく呟く。それを待って居たかのように、視界の向こうで趣味の悪い黒いフード付きの夜間迷彩のコートを来た男が、ゆらりと立ち上がった。
走る速度は緩めない。腰から二本のコンバットナイフを引き抜き、そのまま一気に人影へと接近する。人影はゆらりとした動作で懐からリョウの物と比べても少々肉厚で長めのボウイナイフを取り出す。
しかしそれもこれも、リョウは全て無視する。一気に男との距離を詰めていき、男はゆっくりとナイフを持ち上げる。

まるでそれと同調するかのように、二人の男の口角も、ゆっくりと上がり、やがて二人は互いの笑みをその顔に浮かべる。

どこか楽しげで、どこか嬉しげで……同時に何処か、人の心を凍り付かせるような恐ろしさを秘めた、そんな笑顔を。

「ッ疾ィ!」
「ッハァ!」
互いに振りかざした
ナイフが、オレンジ色な火花を散らしながら空中で弾けた。二人の男の顔が、至近距離で突き付け合わされる。

「Yeah! Hey broski!久しぶりだなァ……」
「あぁ、久しぶりだ。また会えて最っ高に嬉しいぜェ……Pooooooooooooh!!!!!」
ぶつかり合う鉄の音を通して、二人の男が叫びあった。
言うと同時に、リョウが思い切り力を込め、耐える間もなくPohは弾き飛ばされる。というより、自ら後ろに飛んだのだが。
追撃とばかりにリョウは一息に距離を詰めると、右手のナイフを逆手持ちに腕ごと振り下ろす。

「あらよっ!」
「Haッ!」
Pohそれを右手のボウイナイフの腹で軽く受け流すと、その腕をそのまま左肩に向かって引き……

「Eat it!(くらいな!)」
「っと!」
ヒュンッ!と高い音を立てて突き出してきたそれを左手に持ったナイフで弾き上げると……

「てめぇがなっ!」
「!」
右半身を軽く引いて、其処から一気に横っ腹狙いに蹴りを打ち出す。それを大きく下がって避けたPohは、笑いながら言った。

「Wowwowwow……あい変わらずナイフでも良い戦い方するじゃねェか」
口を開いたPohの言葉には張りが有り、相も変わらず腹立つくらいの美声だ。声や話し方に関しては基本的にPohの右に出る者はSAOの中にも居なかった、そしてこの話し方に乗せられたものや誑かされた者、恐怖した者たちは一部を除いて皆、殺すか、殺されるかの運命をたどったのである。まぁ、そんなことは今はどうでもよい。
リョウは苦笑して、けれども悪い気はしないと言うように返す。

「ッは、薙刀の時に比べりゃまだまだだっての。っま、天下のPohさんに褒められた事だけは素直に嬉しく受け取っとくぜ」
「A-Ha」
顔の全体像の見えないフードの奥で、男が静かに、何処か楽しげな笑みを浮かべる気配がしたのが、リョウにも分かった。と、肩をすくめながらリョウはニヤリと笑って問う。

「それで?そのPohさんが今回はこんな所(GGO)に何の御用だよ?馬鹿な部下の手伝いにでも来たか?」
「Hmmmmmmm?そう思うか?」
顎に手を当て、手先で器用に右手のナイフをくるくるとまわしながら返してきたPohに、リョウはあっけらかんと返す。

「いや、全然」
「ハッ」
肩をピクリと上げて、Pohは笑う。

「お前がこの程度の殺しに付き合うタマじゃねぇ事くれぇ分かるわな。大方見物のつもりだったんだろ?で……俺に会いたくでもなったか?」
「Excellent(ご名答)久々にお前とやり合いたくなってな」
後半は冗談のつもりだったのだが、意外な答えにリョウはゲッといって若干身を引く。

「俺には同性に恋愛感情を抱く趣味はねぇぞ」
「Screw you(くたばれ馬鹿)俺にもねぇよ。そうじゃねェのさ……お前みてぇな“同類”には滅多に会えねェもんでな」
「ふーん……」
特に面白くもなさそうにフンッと鼻を鳴らし、ナイフを向ける。

「で?俺と暇つぶしにやる為に、わざわざライフルまで持ち出したと?」
「ザザにゃあ悪いが、アイツの実力じゃお前にとっちゃ遊び相手にもならねぇだろうからな」
「お、よくわかってんじゃーん」
ニヤニヤと笑い、リョウが右手のナイフをぷらぷらと振った。

「そんじゃ、まぁ……」
そうしてゆっくりと右半身を引く。ナイフのギラリと光らせ、まっすぐにPohのフードの奥を見据えると……

「その見事な俺の腕で、お前もさっさと逝っちゃってくれや!」
その腕を振り上げ、一気にPohに向けて走り出した。その様子をみて、Pohは少し焦ったような早口で話す。

「Hey、早まるなよ俺は確かにオマエの能力は認めたさ。But……」
即座に彼の腕が稲妻のような速さで軌跡を描いた。一瞬で懐に入り、抜かれた腕から……

「っ!?」

パンッ!

精々軽い爆竹を鳴らした程度と言った風な破裂音が響き、あっという間に伸ばされた彼の腕から閃光が煌めいた。

「俺がお前に劣ってると言った覚えはねェぜ?brat(ガキ)」

────

「せぁっ!」
「……」
振り下ろした鋼鉄の刃をゆらりとした動きで少しだけ後ろに下がり、ザザは躱す。其処から……

「ッ!」
ヒュンヒュンヒュンッ!!と甲高い音を立てて、死銃の刺剣が銀色の軌跡を描き、三連続でアイリの体を貫かんと迫る。それを構えた剣の尖端とステップを使用することで弾き防御と共に回避し、恐らくは何かしらの連続技だったのだろうその動作が終わったタイミングでアイリは再び横一閃に剣を振りきる。が、ここはSAOでは無い。故にシステムによる硬直時間の無いザザは、アイリが行動するよりも早くバックステップで彼女から遠ざかっていた。
空を切った斬撃はしかし元来距離を取る事を予期していたアイリは動作をコンパクトな物にまとめており、其処まで隙にはならない。が、とはいってもそれは余裕となるほどの利点では無く……

「ふっ……!」
「っ……!」
構えなおしたアイリの元へ、息つく暇も無く迫った再びの連続突きを、アイリは剣の腹で反らし、回避しの必死の対抗策で防ぐ。
右肩を狙った一撃をそのまま体の外側に、胸を狙った一撃は剣先で跳ね上げ、足を狙った一撃を叩き落とす。しかし引いては突きを超高速で行い、驚くほどになめらかな動きで突き込んでくるその連続技が八撃目に達した所でついにパリィと回避が追いつかなくなり……

「くっぁ……!」
大きく踏み込んで突き出されたエストックが、右腹部に深々と突き刺さり、思わずアイリはうめいた。
スカルマスクの奥でザザが歪んだ笑みを浮かべる気配と共に、マスクを睨みつけるアイリを正面から見返してくる。

「ク、ク……どうした、女。さっきまでの威勢が、無いな」
「っく……うぁ……!」
切れ切れの言葉と共に、ザザはエストックを左右に捻り、海外発信のゲームであるためにレベルを低く設定されているペインアブソーバによる強めの不快感が、アイリの腹部を掻きまわす。

「うる……さいっ!!」
「ふん……」
叫ぶように思い切り振りきった刃はしかし、ザザが大きくバックステップする事によって避けられた。その際にエストックが乱暴に引き抜かれ、少し声が漏れかけたが歯を食いしばって耐える。

「ク、ク、ク……必死、だな。もっとも、あれだけ、大口を叩いて、すぐに死ねば、面目も、立たない、だろうが……それに、本来の、目的も、あるか……」
「え……?」
妙な言い回しに、思わず聞き返すと、ザザは相も変わらぬシュウシュウと言う笑い声を洩らす。

「誤魔化そうと、するな。お前は、どんなに、自分を、偽ろうと、結局は、一つの事の為に、剣を振っている。俺達に、復讐したい、だけの、話だろう……?」
「っ……」
「信じるだ、なんだと、自分を偽る事は、出来ても、俺達は、知って居るぞ。お前は、今までに、俺達に、自分から挑んだ奴と、同じだ。親しい女を、殺された、恨みと、憎しみで、復讐の為に、剣を、振るう、復讐者だ」
嘲笑うようなその言葉を、アイリは黙って聞いて居た。同時に自分の中で、その言葉の意味を反芻し、自問する。

この男の言う事は、はたして自分にとって真実か、否か。

確かに、全てが全て、間違っているとは言い難いだろう。それは先程、自分でも認めた事だ。
あの事件から後、自分の人生の全てが彼女の死を追っていた訳ではない。しかしそれでも、多くの時間を彼女の死を追う事に費やしてきた事は確かだ。
調べ、リョウの存在を知り、彼を見つけ、現実でも出会った時、一瞬たりとも親友の敵討ちを考えなかったと言えば、それは間違いなく嘘になる。
それはつい先刻、ラフコフと彼女の関わりを知った時であれ、同様だ。
実際、今此処で復讐の為にこの男と戦ったとして、誰かに責められる道理は無いだろう。心の脆くなった親友をたぶらかし、あまつさえ殺人に走らせた原因の一旦は(たとえその最終的な選択肢があの時の彼女にあったとしても)間違いなくこの男達に有るのだから。

しかし……

「知ったような事を、言わないでくれるかな」
それを理解して尚、アイリはザザの言葉を、自分への問いを、真っ向から否定した。

復讐に全てを掛けると言う事は、その命を、人生を復讐にささげると言う事であると、アイリは思っている。実際、その認識は間違ってなどいないだろう。しかしそうであるなら……そうでなかったとしても、今の自分は復讐に興味など無いと、はっきりと言い切る事が出来る。

なぜなら、今のアイリには命を掛けるつもりなど無いから。

自分が、今日此処に至るまでに、心から大切に思う友人と、敵の男に言われた言葉。

『行くのは勝手だけど、死なないでよね……』
『お前、死ぬんじゃねぇぞ……──お前に死なれちゃ、俺も困る』

こんな自分に、「死ぬな」と言ってくれたその言葉が、アイリにとっては心から嬉しかった。

あの日から、自分の時間を止め、自分のふがいなさに押しつぶされそうになり、誰にそれを打ち明ける事も出来ず、たった一人で己の存在を罵倒し、疑問視し……たとえ親友の魂に呪い殺されたとしても文句はいえぬと思ってきた少女にとって、自分を想ってくれたその一言一言は、自分の存在に、生きている今この瞬間に、未来を歩みたいと願うこの心に「誰かに望まれている」という“意義”を確認させてくれる、かけがえの無い宝だったからだ。

『ごめん──アイリ』
故に、その言葉にだけは、背を向ける訳には行かない。たとえかつて生きていた親友に、薄情と罵られようと、無責任だと蔑まれようとも……

「(今だけは……)私は……私と、私の友達の為に戦う!」
全ては、死した親友の為でなく、現在(いま)を生き、未来(さき)へ向かわんとする、自分と、友の命の為に……

『今だけは……!私のわがままを通させて!』
そう強く念じながらアイリは剣をザザに突きつけた

「貴方達に絶対に殺されたりしないし……復讐なんて、するつもりも無い!」
「ほぅ……?ク、ク……なら、証明、して見せろ!」
ザッ!と音を立てて、ザザが一気に距離を詰めて来る。それに合わせて、アイリは剣を肩に担ぐように構えると、一切の迷い無く突撃した。一瞬ザザは驚いたように瞳を点滅させたが、その勢いは緩まず、あっという間に二つの影は近づき……交錯した。
互いに間合いに入ると同時に、ザザは剣を突き出し、アイリは振り下ろす。

「死ね!」
「二式……!」
ブンッ!と音を立てて両者が交錯する。互いの位置が先程と逆になり、背中を向け会う。

「っ……」
アイリの頬には小さな切り傷が突き、其処から赤いポリゴンが湧く。そうして、ザザはというと……

「な、に……?」
肩口に、浅いながらもはっきりと分かる切り傷がついていた。驚いたように少しふらつくと、一気に振り向く。其処に、ニコリと笑ったアイリが居た。

「お腹刺されたし、少しアガって来たかもね……此処からは、さっきまでとか違うかもよ?」
「…………」
黙り込むザザに、ゆっくりとアイリは構えを取る。

「さぁ、まだまだ始まったばっかりなんだから……来たら?死銃さん、バラッバラのブロック肉にしてあげるよ!」

────

「リョ……!」
「っ……!」
座っていた椅子の上から、明日奈と美幸は思わず立ち上がりかけた。
美幸が病院に到着してから数分。キリトとリョウがフルダイブしている部屋へと飛び込んだ二人は、リョウが謎のフードをかぶったプレイヤーと戦闘を始める前から、その全てを見つめていた。
何故か分からないが、リョウが死銃との戦いを別の少女に託し、自分は死銃の中まであると思われる(援護している部分が見えた)男へと駆け寄って行く姿も、そして……たった今、リョウが突進した瞬間を待ち構えたようにフードの男に拳銃で撃たれた所もだ。

「やっぱり……あのフード付きの人……」
「……明日奈?」
真剣な顔で画面を見つめるアスナに、サチは問いかけるような視線を向けた。
明日奈は画面を凝視しながら、美幸の方を向き、少しだけ言い辛そうに口を開く。

「サチ、ごめん……確信は持てないけど……もしかしたら……リョウ、死銃より酷い相手と戦ってるのかも……」
「えっ……?」
驚いたように目を向いた美幸を見て、明日奈はは一瞬従順したように目線を反らし、和人の様子を見ている安岐が意図的に話をスルーしているのを見て、息を吐くと、口を開く。

「あのフードの男の人、前に、見た事有る気がするの……」
「……?」
「似てるの……ラフコフのリーダーの……PoHって、奴に」
「っ……!」
明日奈の発言に、美幸は戦慄したように息を呑む。殆ど反射的な動きで美幸は再び表示されている画面を仰ぐ。一応先程の一撃はリョウのHPを削りきるほどの物では無かったらしく、何事かを二人の間で話しているように見えた。しかし数秒すると……ナイフを持って、リョウは一気にフードの男に接近していく。その体を銃弾が二発掠め、一発が肩を浅く切り裂くがお構いなしに突っ込み、一気に青年は男との格闘戦に突入する。

「~~ッ」
自分の手の届かない場所で行われている、恐らくは誰かの命の掛かったその戦いは、見たことも無い程の真剣さと、少しの空恐ろしさに満ちていて、美幸は再び人知れず息を詰める。

『あれが……』
それはきっと、単純に、相手を殲滅する事のみを目的とした戦い。
其処に矜持や誇りは無く、目的は唯眼前の敵を消し去る事のみ。そんな戦い。

『あれが……本当の意味で闘ってる、リョウ……』
それを、初めて見た。
否、あるいは一度だけ見たかもしれないその姿、あの時は、背中だけを。そしていまは第三者の視点として。
今も規則正しく、一定のリズムで心音を刻む心電図の横で眠るリョウの姿を、美幸はちらりと見た。その頭の上に付いた、二重環状の機械をじっと見る。
アレがナーヴギアで無い以上、今、美幸と涼人を隔てる壁は本当に薄い一枚の空間の壁だけだ。あの機械を取り外してさえしまえば、彼は自分の元に戻って来てくれる事が確定しているのだから。
しかし……

『……違うよね』
それは、出来ないと分かっていた。
涼人が本気になって戦っている。美幸には逸れがどうしても必要な事なのだと、直感的に分かったからだ。だからこそ、美幸は開きかけた手を強く握り締め、その衝動を押し込めた。と、不意に、鈴の鳴るような声が響いた。

『ねーね、手を……叔父さんの、手を握ってあげて下さい』
「え……?」
「ユイちゃん……?」
それは、アスナの携帯端末の中に居る、ユイの声だった。聞き返した二人の言葉に、ユイは返す。

『アミュスフィアの、体感覚インタラプトはナーヴギアほど完全では有りません。手を握ってあげれば、ねーねの手の暖かさなら、叔父さんに届くはずです』
「手を……」
ジッと握りしめた自分の手を眺め、アスナを見る。
アスナが微笑みながらコクリと頷き、釣られるように頷き返した。

リョウの横の椅子に座ると、ベッドの上に乱暴に投げ出されたリョウの手を、美幸はじっと見る。

実を言えば、今までに一度として、美幸は涼人と手を握った事が無い。……いや、正確には、小学校の頃分かれて以来。というべきか。
理由は、多々ある。ただ最も多かったのは、何度か美幸と涼人が二人だけになった時、それを言おうとすると、決まって美幸が緊張でどもってしまい、言えなかったのだ。

『……不思議だね……』
そんな涼人の手を、美幸は両の手でそっと包み込む。

『いつもなら、あんなにドキドキするのに……』
余り力を入れ過ぎると、自動ログアウトが作動してしまうため、あくまでもそっと、柔らかく。けれど、ありったけの思いを込めて……

『今は、あんまり緊張して無いんだよ……』
冷たく、冷え切ったその手に、自分の温度を染み込ませるように……

「リョウ……お願い」
いつの間にか口から紡がれ始めた言葉を、美幸は中継を見ることも無く、ゆっくりと目を閉じて言った。

──負けないで──
 
 

 
後書き
はい!いかがでしたか!?

個人的に今回は、作者の書きたかったシーンを結構混ぜ込んだ話になりましたw

まず、PoHさん!
恐らくSAO編外で出てくるのウチくらいではないだろうかと思ってるんですがw
相変わらずの英語乱射に、作者がてんてこ舞いでしたw
英語が大の苦手な作者ですので、恐らくどこかしら間違っているかな……と思っていたりするのですが、なにぶんどこが間違いなのかが分かりません……

で、アイリさんはもう、ね。なんか凄い主人公ってましたw
何時の間にこんなにもたくましくなったのか……“復讐の拒絶”というのは書きたかったシーンでもありました。

で、最後、サチさん!
ようやく!よーやく彼女をリョウと(状況はどうあれ)触れ合わせると言う所までこぎつけることが出来ました!
今まで作者が殺されそうなくらいヒロイン性の薄かった彼女も、これで少しは前進できたのではないかと思っていますwまぁ多分リョウが起きてたらまずできませんけどw
あー、自分のヒロインの事のくせに本当に嬉しかったりしてますw

次回もまた遅くなるかもしれませんが……申し訳ありません。

ではっ! 
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