| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

ファントム・バレット編
ファストバレット
  ISLラグナロク

「お兄様」

朝食を終え、今夜の本戦前にあれこれ用事を済ませておこうと自室に向かう途中、背後から沙良の呼び止める声が聞こえた。

「どうした?」
「これを」

沙良がスッ、と差し出したのはごく一般に普及している薄型タブレット。紙媒体の情報紙に代わって普及しつつある電子ペーパーだ。表示されている記事には【ガンゲイル・オンラインの最強者決定バトルロイヤル、第3回《バレット・オブ・バレッツ》本大会出場プレイヤー30名決まる】とあった。

「………ふむ?」
「とぼけないで下さい」

沙良にしては珍しくしつこい追求に俺は早くも白旗を上げることにした。まぁCブロック優勝者の欄に堂々と【Ray(初)】ってあるしな。

「いや、な。別にALO辞めたとかじゃないぞ。単純に趣味だよ。うん」
「もちろん、お兄様がGGOもやっていることは存じております。しかし、理解できません」

沙良は一歩近づきながら俯く。

「……お兄様は、その腕になってから戦いの場に出ることはなくなりました。……嫌っていたあの場所に戻ることもなくなったのに……。なぜ……!!」
「……………」

俺は今まで気にしていなかった事に気がついた。


先代は俺をあくまで『兵士』とするために拾ったのに対して、当代の当主、冬馬が沙良を養子にしたのは『普通』の意味だ。
『戦うために』育てられた俺とそうでない沙良。似ているようで根本的に『作り』が違う、彼女に螢の心情を汲み取れる道理は無かった。
しかし、螢はそれを沙良に諭そうとはせずに、ただ微笑しながら沙良の頭を撫でた。

「大袈裟だよ、沙良。GGOはあくまで『ゲーム』だ。SAOでない以上、ゲーム内で死ぬことはない。……沙良、俺達がVRMMOをプレイする上での義務は何だ?」
「……『楽しむこと』です」
「そう。俺はただ《ガンゲイル・オンライン》という世界を『楽しむんで』いるだけだよ」

そう言って沙良の真紅の瞳を見つめる。すると沙良は予想通り頬を染めて顔を背けると、分かりましたと言うと、足早に去っていった。

「……ごめんな」

その背中にポツリと呟くと、俺は出掛ける支度を始めた。





________________________________________







午後6時。



本番は8時からなので2時間の余裕はあるが、俺はいつもより少し速いペースで病院の駐車場に乗り付けると、間に合ったことに安堵のため息を吐く。
数時間前まで融通の利かない諸々の用事を片付けていたと思えば、今度は力がモノを言う、闘いの世界だ。

「んっ……」

ヘルメットを脱いで体を伸ばすと緊張していた筋肉がほぐれていく。最後に大きく息を吐くと、今度はゆっくりと病院のエントランスに向かって歩いて行った。



昨日と同じ病室に入ると、2つあるベットの内、1つはもう埋まっていて、和人が既にダイブしていた。

「やぁ螢君」
「こんにちは、先輩」

昨日と同じく堅焼き煎餅をかじりながら、今回は電子ペーパーで何かを読んでいるようだった。

「何か、ありましたか?」

その様子に見覚えがあった俺は少し迷った末に訊ねた。

「ん……?」
「先輩、昔から悩み事があるとそれを誤魔化そうとして同時進行で色々始めますから。……電子ペーパーに煎餅の粉末は避けた方がいいです」

安岐ナースは一瞬面喰らったようにキョトンとして、次いで苦笑すると電子ペーパーをしまった。

「よく覚えているわね。……もしかして私のストーカーだったりした?」
「なに人聞きの悪いこと言ってるんですか。藍原先輩と安岐先輩は似ていますから。クセまで同じぐらいに」
「そ、そうかな?」

人を喰ったような性格をしている彼女にしては珍しく頬を掻きながら目を泳がせる。

「それで?いったいどうしたんですか?」
「うん……。桐ヶ谷君ね……SAOで人を殺してしまったのを悩んでいたの。私、そうしなきゃいけなかったのは、誰かを助けるためだったんじゃないかと思って、そう言ってあげたんだ。助けた人を思い浮かべることで、自分も助ける権利があるって……」
「……すばらしいですね」
「……そうかな?」
「ええ。今、俺を待たずに向こうに行っているのが証拠です。アイツはもう、戦えます」
「だったら、良かったのかな……」

人にものを教えるさじ加減と言うのは往々にして難しいものだ。今のように不安に思うこともあるのだろう。
少なくとも俺には安岐先輩が和人に言った言葉以上の事を言う自信は無かった。

「じゃ、行ってきます」
「よろしくね。桐ヶ谷君のこと。……って私が言うことじゃ無いけど」
「了解です。―――リンク・スタート」






________________________________________






午後8時。



決戦の舞台《ISLラグナロク》に同時に転送された30人が思い思いに行動を開始した直後、レイは田園地帯のとある民家に潜伏した。
試合開始前にキリトと合流し、今後の方針を話した。
まずはフィールドで合流は最優先。そのために最初の15分は無理に動かず、目視の発見を避けるために手近な場所に隠れて《サテライト・スキャン》を待つ。
本当の事は分からないが、実際にそういうふうにするプレイヤーは多いのではないかと思われた。

(……アイツなら最初から動いてそうだけどな)

昨日の決勝で戦ったアサルトライフル使いの顔を思い浮かべながらニヤリと笑う。

決勝で出し惜しみは無しだ。もし出会ったなら用意した幾つかの隠し玉を使い、全力で戦うつもりだ。そのために《死銃》の早期退場は絶対条件だ。

その時、

―――ザッ

「…………っ!!」

俺の隠れている民家の入り口からにゅい、と銃口が入ってくる。
次いで、そろそろとプレイヤー本人が民家に体を入れてくる。
どうやらここに俺が隠れているのに気がついた訳ではなく、偶然にも潜伏場所を鉢合わせただけなようだ。

(……危ねぇ……)

腰から一撃必殺のダブル・イーグルを引き抜きながら物陰からすっ、と姿を晒す。

「おわぁ……!?」
「ドンマイ!!」

―ドォン!!

狙ったのはプレイヤー本人ではなく、得物のショットガン。こうゆい散弾タイプの銃は屋内においては中々に厄介だ。
弾丸はトリガーを破壊し、ついでに手に微量のダメージを負わした。直後、銀光が閃き、対弾アーマーを長めのしかし異様に薄く出来たコンバットナイフが貫通し、急所の心臓を突き刺す。
決して安価ではない、頑丈なそれをいとも容易く。

――システム外スキル《鎧貫し(アーマー・ピアース)

「な……ん、だと?」
「はい、お疲れ」

どさっ、と倒れる名も知らぬ襲撃者を労い、直ぐ様移動を開始する。これ以上プレイヤーが近くに居るという確証は無かったが、銃声を聞き付けて寄ってくるのは言うまでも無いだろう。

「まあ、性能はそこそこだな。ハンニャにちゃんと礼を言っておこう」

刃渡り15センチ弱のコンバットナイフを再びマントの下に隠すと、レイは森林地帯に向けて移動を始めた。






_________________________________________







15分後。サテライト・スキャンにより、キリトが無事に草原地帯を疾駆しているのを確認すると、俺は森林地帯で潜伏を再開した。
無論、プレイヤー全員にこの位置を知られているのだが、動こうとはしない。レイにとって最優先すべきはキリトとの合流であり、優勝ではないからだ。

しかし、その行動は同時に全プレイヤーに対する挑発だった。すなわち、『俺は逃げも隠れもしない。掛かって来い』という。
さらに、彼の目的はそれだけではなかった。

森林地帯、及びその付近にいるプレイヤーは彼を含めて3人。
《レイ》、《シシガネ》、そして《シノン》。

大会前にハンニャの元へ頼んでおいた装備を受け取り次いでに本戦進出者の情報を聞いてみた結果、昨日、キリトが助けてもらった女の子がそこそこ有名な《狙撃手(スナイパー)》だということが判明したのだ。
つまり、昨日キリトが帰り際に言った『シノンとの再戦』の勃発を邪魔―――もとい、後回しにしてもらうためにこうしてわざわざ狙撃手の背後を取ったわけだ……。

しかし、サテライト・スキャンで俺が背後にいるのは分かっているはずなのに銃弾の一発も飛んでこないのは如何なる理由か。
もう1人の《シシガネ》氏に気付かれたくないのは分かるが、だったらこの場から一度離脱すればいいのでは……?

そんな事を考えている時、俺が監視している方向、つまりシノンがいる場所で轟音が鳴り響いた。
反射的に身を強張らせるが、銃弾はいっこうに飛んでこなかった。シノンが《シシガネ》氏を射殺したらしいとすぐに理解したが、直後、俺の眉間を赤い《弾道予測線》が貫いた。

「わー、おっかねぇ……」

コンマ数秒で飛んできた大口径弾を上体を反らして回避すると、お返しにダブル・イーグルを抜き撃ちする。
距離は100m。拳銃はとどきこそすれ、大したダメージにはならない。そもそも、普通ならば当たるわけがない。
だが、
慌てたように弾道予測線が消え、辺りに静寂が戻った。

「やれやれ、キリトの反応速度も規格外だが、あの子も大概だな……」

レイはそれ以上追撃することもせず、その場から離脱していくシノンを見送ると、再びその場で沈黙した。





_____________________________________







実を言えば、俺は本戦が始まる前に出場者の名前から《死銃》であろう人物を特定していた。
名前を《Sterben》。
見慣れない綴りから英語ではない事は分かった。数分の思考の後、意味を理解し、確信を得た。
Sterben、ドイツの医療用語で読み方は《ステルベン》、意味は《死》。

だから、最初のサテライト・スキャンの時に俺はキリトを見つけた後、《死銃》を探した。しかし、フィールドの何処にもその名前は無かった。
スキャンを回避するには洞窟に入るなどの危険を犯さなければならない(山勘でグレネードを投げ込まれる)。
ラフコフの残党は総じて狡猾な性格をしたやつらばかりなので、誰であろうとそんな馬鹿をするはずがないのは明白だ。

ここで迷うのは今回の菊岡の依頼内容についてだ。
依頼内容は『死銃の力は本物かどうか確かめる』であって、そこに『死銃の殺戮を止める』は付随するか否かだ。

ここで、お馴染みの相反する考えが対立するわけだ。すなわち、一方では『依頼内容に入っていない』という理由で余計な事をしない。
もう一方は『個人的なケジメ』、そして何より『SAO生還者』の1人としてあの世界の闇の残党を止める義務。

「まぁ、今までのパターンからして選ぶ道は1つなんだけどね」

ポーチからサテライト・スキャンの受信端末を取り出し、画面の光点を数えながらタッチしていく。その数21。

「ありゃ?」

キリトの名前が無い。
咄嗟に死亡組の名前も確認するが、そこにも無かった。不意にとてつもなく嫌な予感がした。

「まさか、な……」

思考内で否定しつつ、俺は最後にキリトを確認した草原地帯に向かって走り出していた。






_________________________________________







Sideシノン


「……………なに、今の」

ボロマントのプレイヤーがハンドガンで1回だけ相手――ペイルライダーを撃った。それだけで相手は死亡、いや、《回線切断》してしまった。
ペイルライダーはその前の戦闘では大してHPを減らしているわけではなかった。事実、銃撃の後すぐに跳ね起きてボロマントに反撃しようとした、その刹那に消え去ったのだ。

―――まるで、ボロマントがペイルライダーをゲームから切断させたがごとく………

ボロマントは大会中継のバーチャル・カメラにその拳銃を向けてアピールをした。
シノンはその瞬間、理解した。あの消滅こそがボロマントにとっての勝利だと言うことを……。

「あいつ……他のプレイヤーを、サーバーから落とせるの……?」

尚も信じられず、隣でボロマントを同じく凝視しているF型アバターと見紛う男性プレイヤーにも聞こえるように呟く。

「……違う。そうじゃない。そんな生温い力じゃない………」
「ぬるい?どこがよ、大問題でしょ。チートもいいところだわ、ザスカーは何してるん……」
「違うんだ……あいつは、サーバーから落としたんじゃない、殺したんだ。……たった今、ペイルライダーを操っていた生身のプレイヤーは、現実世界で死んだんだ!」
「………な………」

何を言ってるの。という言葉はキリトの言葉に押し止められた。

「間違いない。……あいつが《死銃》だ」

その妙な通り名のプレイヤーの事は噂話で聞いていた。

「それって、あの、変な噂の……?街中でプレイヤーを撃って撃たれたプレイヤーがそれっきりログインしてないっていう……」
「そうだ……」
キリトは頷くとかつて無いほど深い衝撃や恐怖などの様々な感情を宿した瞳でシノンを射た。

「俺も……最初はあり得ないと思っていた。昨日、待機ドームであいつと遭遇してからも、まさかと否定し続けていた……。でも、もう疑いようはない……あいつは、何らかの方法で、プレイヤーを本当に殺せるんだ……」

キリトの真剣な声、表情、眼差しがシノンに理屈を越えてそれが真実だと伝えていた。
ボロマントはそれから銃を片付けると鉄橋の方へ姿を消した。
その時、ちょうど三回目の《サテライト・スキャン》の時間が来たので、キリトに橋の監視を頼むと、ポーチから端末を取り出し、画面を見る。
が、

「えっ……な、無い!?」

シノンはつい先程、キリトが突如として背後に現れた事を思い出した。

「端末に映らない……つまり、あいつも川に潜っているのか?」
「そうね。だとしたらチャンスよ。あのボロマントは川に潜っている。つまり、武装全解除をしているはず。装備を戻す隙、そこを攻撃すれば……」
「駄目だ!拳銃一丁なら装備したまま水中にいられるはずだ。……あの黒い拳銃は一発当たっただけで本当に死ぬかもしれないんだぞ!」

即座に反論してきたキリトの目は真剣そのものだった。だが、シノンはまだ信じられずにいた。ゲームの中で撃たれたからと言って現実世界の自分も死ぬという事は……。

「私は……認めたくない。PKじゃなく、本当の人殺しをせるVRMMOプレイヤーがいるなんて……」

シノンの呟きにキリトは痛みを堪えたような声で返した。

「いるんだ。……《死銃》は、昔、俺やレイがいたVRMMOの中で多くの人を殺した。相手が本当に死ぬと解っていて剣を振り下ろしたんだ……」

シノンはこれまでのキリトとの対話から彼と相棒の拳銃使い――レイが《あの事件》の関係者であることを薄々察していた。
そして、彼の言葉が真実ならば、《死銃》もまた然り。さらに、《死銃》は《本当の人殺しをするVRMMOプレイヤー》でもある……。

混乱した思考の中で、ようやくそこまで理解した瞬間、シノンは全身に悪寒が走った。
視界が闇に染まっていき、その奥から見詰める何者かの視線。生気のない、虚無的な、じっとりと粘つくようなこの視線は……。

「……ノン。シノン!」

不意に名前を呼ばれて目を開けると、キリトの気遣うような顔が現れた。

「……大丈夫。ちょっと驚いただけ。……キリト」

キリトの顔を見た瞬間に湧き上がってきた小憎らしさ。それがシノンの闘争心に火を付ける。

「あんたとの勝負。一度お預けにするわ」
「……え?」
「そんな危険なやつを放ってなんかおけない。だから、協力してあいつをこの大会から叩きだしましょ」
「……………」

キリトは数秒迷う素振りを見せたが、ふっ、と肩の力を抜き、頷いた―――直後。

シノンの眼前に立ちはだかると、右手を閃かせてフォトンソードを抜き放ち、突如として伸びてきた弾道予測線、その直後に放たれたフルオートの銃弾の嵐を光剣で叩き落とした。

銃弾の嵐が止み、シノンの視界に写った射手は《夏候惇(カコウトン)》。前回、前々回の大会にも出ていた古強者だ。

「まずはアイツからだな。俺が突っ込むから、バックアップよろしく」
「………了解」

妙な成り行きになったなあ。などと考えながらシノンは愛銃のウッドストックに頬を付けた。





――《死銃》討伐チーム。キリト、シノン。結成。




 
 

 
後書き
アンケートの回答が少ない!

レイ「興味ないからだろ」

それじゃあ、困るんダナ。プリーズ回答ぅ!

レイ「……………」

というわけで、まだアンケートに回答してない方、回答してくれると非常に嬉しいです。

そして、お気に入り登録200件突破!
大したことじゃないかもしれないけど、個人的には超嬉しい!めざせ300件!
何か記念にやりたいなぁ~。でも今GGOノッてるし……。
何かご希望はありますか~?(他人任せ)

という与太話はさておき、更新の遅れのお詫びを……
まじですいません。気づいた方はいらっしゃると思いますが、今回はいつもの1.2倍ぐらいの長さです。ここの話を付けたし(書き忘れともいう)ていたので、遅れました。
以後、気をつけます。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧