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クラディールに憑依しました

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彼のギルド生活が始まりました

 数日後、月夜の黒猫団に加わり狩を指示していると、
 午後は他のギルドからプレイヤーが一人合流するとかで到着を待っていた。


「シリカちゃーん。こっちこっち」
「お待たせしました。
 ――――あれ? あなたは何処かで…………あ、第十層の時の――――」


 来たのは攻略ギルド血盟騎士団のメンバーの一人だった。

 俺は彼女を知っている。ビーストテイマーの《竜使いシリカ》だ。
 血盟騎士団のマスコット的な存在であり、今や副団長になったアスナと共に、
 アイドル的存在としてファンクラブが非公式で存在し、現在も会員は増える一方だとか。
 ただ、彼女達は最前線のリソースを容赦なく食い荒らす恐暴竜PTとしても名を馳せている。

 前に狩場が被って彼女達の狩りを間近で見たのだが、アレはちょっと羨ましかった。
 ヒールブレスを使える小竜の能力を最大限に生かし、前衛はHPを気にする事無くソードスキルを使い、
 後衛に控えるシリカはHPの回復とHPの低下したモンスターにスイッチでトドメを刺したり、
 前衛の死角に居るモンスターの状況を逐一報告し、時には軽業スキルを生かしたヘイト調整で狩場を走り回っていた。

 シリカの活躍は最前線でも注目されていて、攻略組の何人かはモンスターティムに乗り出し、
 その内の何人かは見事モンスターを獲得したらしいが、回復スキルが無かったり命令を聞かなかったりと散々な結果に終わったそうだ。

 アスナも血盟騎士団に入って良い仲間に出会えた様だ…………今は《閃光のアスナ》なんて呼ばれてたな。
 他にも第十層のボスを一人で瀕死にした《狂鬼クラディール》や、
 《撲殺の鍛冶屋リズベット》彼女のメイスには数多くのフィールドボスが餌食になったと言う。

 だが攻略組としてフロアボスに参戦するのはアスナとクラディールのみ。
 何故かシリカとリズベットは姿を現さないのだ。
 攻略組の何人かがその辺りをアスナに聞いていたのを小耳に挟んだが『お留守番です』と詳しい話は聞けなかった。

 しかし、彼女が月夜の黒猫団と関わりを持っているなら、レア装備の山やサチの戦闘慣れにも納得できる。
 きっとサチはあのPTに誘われて、そこで戦闘スキルを磨いたんだ。

 俺はシリカが何かを言い出す前に、人差し指を立てて黙ってるようにサインを出した。
 それだけで察したのか、シリカは『お久しぶりです。お元気でしたか?』と当たり障りの無い会話で済ましてくれた。

 ビーストテイマーである彼女が加わってから、このパーティーの本来の狩り方が見えてきた。

 シリカの麻痺短剣とサチの麻痺槍でスイッチを繰り返し、
 モンスターを動けなくした後は残りのメンバーで囲んで倒す。
 側面や後方から襲撃を受けても大したダメージにもならないし、小竜のヒールブレスで回復してしまう。

 どおりで戦術が育たない筈だ、シリカやレア装備に頼り切って誰も戦術なんて考えちゃいない。
 俺がこの数日で教えたスイッチや戦術も使う様子が無い、サチとシリカに頼りっきりだ。

 モンスターを倒し終えた所でその指摘をしてみると、
 シリカやサチからは『もっと言ってやれ』と鬼の首でも取った様にケイタ達を責め始めた。

 どうやら、前衛が少ない事もスイッチやHP回復の手順も、
 何度言っても『なぁなぁ』で済ましてしまい、全く改善された事が無いそうだ。 

 シリカは血盟騎士団のギルド運営も手伝っているらしく、あまり合流する事はできなくて。
 サチはいくら言っても聞いてくれないと、殆ど諦めていたそうだ。

 このままでは駄目だ、階層が上がれば装備に頼った狩も出来なくなるし、
 今の内から意識改革を始めないととんでもない事になる。

 とりあえずサチとシリカは後方に下げてケイタ達を前に出す事にした。
 もう一度スイッチのタイミングから教えないと…………。

 狩が終わり、シリカに少し時間を貰って、アスナ達に対する口止めをお願いする事にした。


「アスナさんもクラディールさんも、月夜の黒猫団のギルドエンブレムは見てますし、直ぐにバレると思いますよ?
 それにサチさんもアスナさんとは面識ありますし、一緒に狩りもするんですよ?」
「………………次のボス攻略の間までで良いんだ、こんな状態で月夜の黒猫団から離れるのは危険だって判るだろ?」
「……それは、キリトさんは攻略組の一人ですから、みんなも強くなるとは思いますけど…………」

「サチの方にも口止めをお願いするけどさ、アスナには前に何度か血盟騎士団に入らないかって誘われてたんだ、
 それが攻略組どころか中級プレイヤーのギルドに居るって知られたら、
 アスナが怒鳴り込んで来て俺のレベルも全部バラされそうで怖いんだよ」
「…………わかりました。――――多分大丈夫だと思います」



 結局、その次の第三十三層フロアボス攻略戦会議で俺が月夜の黒猫団に入った事がアスナにバレた。
 アスナは何も言わなかったが、俺を睨む目にはクラディール以上に狂気を発していた様な気がする。

 ――――気のせいだと思いたい。



 第十一層タフトにて。

 第三十三層ボス攻略も無事……無事? ……無事に終わり。
 いつも月夜の黒猫団が宿泊する部屋の一室、そこにギルドメンバーが集まっていた。


「なぁ、ケイタ? みんなはリアルでも同じ学校のパソコン研究部だったんだよな?
 どうやってナーヴギアとSAOを人数分集める事が出来たんだ? 結構な倍率になったと思うんだけど?」
「あぁ、その事か、仲の良いギルド連中はみんな聞いてくるけど、顧問の先生がパソコンなんて何にも知らなくてさ、
 よく解らないなりに一生懸命勉強して、ナーヴギアもSAOも先生の分も含めて全員分集めようとしたんだよ」

「その先生もSAOを?」
「それがさ、先生があっちこっちコネを使って集めたけど一人分だけ足りなかったんだよ、
 先生はSAOならパソコンが良く解らなくても顧問として、先生として役に立てる事があるかもしれないって頑張ってたんだけど、
 結局俺達生徒全員が一緒にログインできるのを優先させてさ、先にSAOで待っててくれって次の発売日を待つ事にしたんだ、

 それでデスゲーム化しちゃってさ、先生きっと泣いてるだろうから、俺達全員で誰一人欠ける事無く無事に帰ろうぜって、
 ウチの親も先生を怒ってなきゃ良いんだけど、学校中大騒ぎかも、こっちじゃネット見れないからどうなってる事か」
「そうか、災難だったな」

「キリトだってそうだろ? リアルでは誰か待ってる人とか居るの?」
「俺は両親と妹が居るくらいで、特に友達付き合いもしてなかったからさ、待っててくれてる奴なんて居ないよ」
「…………そんな事言うなよ、きっとキリトを待ってる奴だって居るよ」
「…………そうかな」
「絶対居るって」

「リーダー、新聞読み終わったけど読む?」


 ダッカーが新聞をケイタに放り投げた。


「あぁ、………………第三十三層ボス攻略かー、キリトはさ、僕たちと攻略組の違いって何だと思う?」
「…………そうだな、やっぱり情報力かな? 効率の良い狩場とかモンスターの行動パターンの把握とか、
 強い装備を手に入れる方法とか、そう言う情報を独占してるからさ」
「それだとビーターみたいじゃないか」


 ケイタの一言に、俺は心臓を鷲掴みされたような感覚に陥った。


「僕は意志力の強さだと思うんだよ、全プレイヤーをこのSAOから開放しようって言う意思が、
 ボス攻略で勝ち続ける力になってると思うんだ、僕らだって気持ちじゃ負けてないつもりだよ。
 借り物のレア装備をしっかり買い取って、ギルドホームも買って、借金がなくなる頃には、
 僕たちも攻略組に追いつけると思ってるんだ」


 月夜の黒猫団が攻略組に追いつく…………それよりもゲームクリアの方が先になりそうな気がするが、
 攻略組が全プレイヤーを開放する為に戦っているか…………実際はそんな大層な物じゃない。

 彼らは全プレイヤーの中で最強であり続けたいだけなんだ。
 ケイタが言う様な信念で開放したいなんて思っているのは、数名居るかどうかだろう。
 あの攻略の鬼と化したアスナでさえ、自分を解放するのが第一で、他の事なんてどう思っているか。


 本当に全プレイヤーを開放する気があるのなら、中層プレイヤーに手に入れたアイテムや情報を…………。
 ――――最大限提供すべきだ…………そう思い至った所で、今の月夜の黒猫団の現状に気付いた。

 強化すればまだ最前線でも使えるレア装備に、シリカの狩場情報や戦術。
 まだ全てが上手く回っているとは言えないが、これこそが中層プレイヤーを攻略組に加える最善の方法ではないのか?
 シリカの年齢がもっと高かったら? 俺が本当のレベルを伝えていたら?
 ケイタ達はもっと真剣に攻略と向き合ったのではないだろうか?


 ………………けど、俺が本当のレベルを伝えてビーターだとバレたら?

 きっと彼らに非難され、俺は月夜の黒猫団から追放されるだろう。
 それだけは駄目だ、今の状態で俺が抜けたらこのギルドはどうなる?

 せめて、俺がビーターだとバレるまで――――彼らを攻略組に加えるには俺の力が必要なんだ。 
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