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ファイアーエムブレム~ユグドラル動乱時代に転生~

作者:脳貧
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第三十九話

 
前書き
お気に入り250件突破とか、またまたびっくりです。
拙作に目を通してくださっておられる皆さまに感謝申し上げます。

※今回は残酷表現が多いので、ご覧の方はお気をつけください。 

 
 大型船は座礁を恐れてなのだろう、海岸には三隻の小型船や多数の端艇(カッター)が押し寄せてはいるものの、沖のほうにはいまだ二隻の海賊船が控えていた。
悪臭が少しずつ漂ってくるのは海賊が近づいているからなのは間違いない。
帆船だけで奴らは構成されているのでは無く、ガレー船の割合が高いと思われる。
もちろん帆船の方にも補助的に漕ぎ手は用いられているのだろうが……漕ぎ手への衛生面での配慮が皆無なのだろう。

俺たち漁師小屋での待機メンバーは敵の規模に対して少なすぎたので、急遽伏兵の側から十名単位で借り受け、身を潜めていた。
上陸していた海賊達はなるべく音を立てないよう静かに上陸し、乗って来た艇ごとであろうかそれぞれグループを作り、船が流されないよう慎重に作業していた。

「わたしはここだ!」

あらかじめ打ち合せた手はず通りにエーディンさんは叫びながら、ろくに訓練もしてはいないわりに堂に入った姿で海賊の群れの中へ矢を放つと漁師小屋へと駆けだした。
半数以上の船が接岸し、大勢の海賊たちが襲いかかるタイミングをいまかいまかと待ちわびていた所にこれである。
それぞれの小集団がてんでばらばらに、だが、方角だけは統一されて追い始めた。
乳母日傘(おんばひがさ)で育ったとは思えぬ健脚を発揮し、エーディンさんが小屋に駆けこんできたので、それと交代で俺は小屋から姿を現し扉を閉める。
すると部屋の内側からは重いもので扉に重しをかけ、つっかえ棒をかける音が聞こえてきた。

「今だ! いけー!」

号令をかけると同時に立て掛けてあった投槍を次々と海賊の群れに投げ込むと面白いように当たり、
胸や腹を貫かれて二三歩進むともんどりを打って倒れる者、顔面を貫かれ即死する者、腕や足を掠めてその痛みに行き足を鈍らせる者……
これは俺だけが作りだした光景では無い。
号令と共に漁師小屋の陰に控えていた皆が何かしらの遠距離攻撃……俺と同じような投槍の他にも
弓から放たれた致命の銀の筋、石の礫、思い思いの手段で死者と負傷者と憎しみと恨みを量産していった。

大勢の仲間が落命し傷を負いながらも、それを踏み越え海賊の一団は続々と迫って来る。
ぎりぎりまで遠距離攻撃をしつつも、俺たちは互いに仲間同士の距離を縮め陣形を組み接近戦の準備を整える。
時折海賊側も死んだ仲間の斧を拾って投げつけてくるが、それは盾で受け、武器で叩き落とし、誰一人として傷を負いはしない。
投槍は既に使い尽くしたので投石していた俺だが、頃合いを見て愛用の槍を地面から引き抜き、陣形から三歩前に……打ち合せ通りの立ち位置に着くと縦横に槍を振りまわし、海賊の多くを引きつける。
鬨の声を上げながら同時に三人の海賊が斬りかかって来たが、槍を真横に一閃すると二人の死者と片腕を斬り落とされた被害者を一名生み出した。

これにひるんだ海賊であったが、陣形の内側からは未だ投石や弓から放たれた矢は続き、彼らを打ち据え続けた。
海賊側は一度引いて体勢を整えるべきであろうが、そこは雑多な集団。
統制の取れた行動など望むべくも無く、後方から追いついてくる部隊からは進め! 殺せ! と、叱咤される訳であるから前に出るより他は無く、俺たちに殺され続けるより他は無かった。

こうして戦況に停滞が訪れたので、次の一手を打つ。

「合図を!」

俺の号令と共に陣形の内側、遠距離攻撃を専門に担っていた傭兵が懐から鹿の角で作られた風笛を矢にくくりつけ、遠くを見定めて弓を射た。
海賊達のわずかな頭上、浜風に乗った矢は風笛と共にさながら年老いた魔女の甲高い笑い声とでも形容しうる不気味な音を響かせて戦場を駆け抜けた。



 戦場に鬨の声が響き、藪に隠れていたわずかな騎兵とその数倍の随伴兵、海岸の洞窟からも隠れていた傭兵達が一気に戦場へとなだれこんだ。
わずかな騎兵とはいえ、この状況を横撃された海賊達はひとたまりもなく打ち砕かれ、なすすべもなく海岸に残された端艇や小型船に逃げ込み海へと逃げるか、絶望的な抵抗を続けるか、降伏するか……
絶望的な抵抗を続ける男が俺の前へと突き進んできた。
走り込みながら一本の斧を俺に投げつけ、すぐさま己の腰にぶらさげたもう一本の斧に手をかけると凄まじい勢いで跳躍し振りかぶって振り下ろしてきた。
俺は投げつけられた斧に槍を投げ当てて叩き落とし、腰間の剣に手を伸ばして引き抜きざまにこの海賊の斧を受け止めた。

「我はレンスターのミュアハ! おぬしの名、聞いておこう!」
力比べに打ち勝ち、海賊を押しやった俺は相当な手練とおぼしきこの海賊に問うてみた。

「……ピサール」

「なるほど、頭目の一人だな。相手にとって不足なし!」
俺は地面と水平に右手を伸ばし剣もそれに倣わせ、左手を胸側に引き寄せ盾を構えて地を蹴り、体当たりを敢行した。
真正面から盾で受け止めては、こんな木盾では割れ、砕けるであろうから、引き寄せてあった左手を思い切り外側に開き、振り下ろされた斧の側面にぶち当てた。
そのまま、奥歯を噛みしめると頭突きをピサールの鼻っぱしらに叩きこむ、俺も衝撃と痛みにふらつくが、そこは気合いで右手の剣を下から切り上げ、返す一撃で振り下ろした。
それには手ごたえがあり、とっさに飛びすさったピサールの左手の指が幾本かぼとぼとと地面に落下した。

「……降伏せよ」
戦場は既に掃討戦の段階に進んでおり、沖合では海賊船から煙が上がり、その周辺には幾隻かのマディノ側の戦闘艦や護衛艦が取り囲んでいるように見え、大勢は決したようであったから降伏勧告を行った。
鼻と左手から鮮血が続くピサールは応えようとせず、左半身(はんみ)になると右手に構えた斧を後方へ構え、己の全力を懸けた一撃を行おうとする様が見て取れた。

じりじりと有利な間合いを取ろうとするピサール、俺は視界の端に危険を感じたので思い切り転がるように左側へ身を投げ出したのはピサールの仲間が割って入り斧を振り下ろしたからだ。
地面の岩に斧がぶち当たり火花が上がったが、その刹那、その海賊は眉間に矢を受け落命した。
体勢が不利になった俺にピサールは踊りかかってきた。
思わず盾を投げつけ、それをピサールは防いだ為に出来た隙を活かして立ち上がると目についたものがあった。
互いに構えたのは右手の武器一本、だが……
睨み合いに痺れを切らしたピサールが踏みこんで来ようとしたその時、俺は右足を思い切り踏み込み、叩きつけるほどの気持ちで行った。
先程斧を撃ち落とす為に投げつけた槍の刃の逆サイド、石突と呼ばれる部分を踏み込むと梃子の原理よろしく勢いよく跳ね上がり、思いがけない間合いに現れた致命の刃へとピサールの体は吸いこまれた……




  「お前たちの頭目、ピサールは討ちとった!無駄な抵抗は止め降伏せよ!」

俺が声を張り上げ何度も叫ぶと散発的な抵抗も終息し、逃げ切れなかった海賊たちは捕虜となった。
先程窮地を救ってくれた弓兵に礼を述べ、彼はお互い様などと謙遜していたがピサールと戦いながらもう一人を相手どるなど危険極まり無かっただけに、さらにもう一度感謝の気持ちを伝えた。
完勝と言ったところであろうが、死んだ振りをして襲いかかる海賊が居るとも限らないので油断なく戦場を回った。
途中、ヴォルツとベオウルフと顔を合わせたので礼を述べ、互いの奮戦を讃えあい部隊の死傷者を確認し、傷の重い者にはエーディンさんの力を借りることにした。
彼女は先日に続き、こんな争い事で胸を痛めているかと思うが見た目には出さず、味方も海賊も問わずその死を悼んでいた。
戦後処理をしていると沖合から味方の軍船が一隻やってきて、船首からひらっと地面に着地したレイミアは俺達を褒めそやしてくれた。
彼女が言うには海賊の戦力はほぼ壊滅に等しく、それはもう一人の首魁、ドバールも討ちとったということからも言えるとのことだ。
もちろん数人規模の集まりはいくらでも残っているだろうが、それを完全に潰すなんてことは不可能に近いだろう……
海岸から町側へ進んだ空き地にとりあえず海賊の死者を埋め、俺もエーディンさんに倣い、祈りを捧げたが、俺のそれはきっと自己満足の偽善に違いない……
これについては、あとでクロード神父に慰霊の式典をお願いする運びとなった。
味方の死者はそう多く無いが丁重にマディノへと運ばれるのは言うまでも無い。



海賊を潰したので、ブリギッドの行方を少しは探しやすくなったと思いたい。
 
 

 
後書き
バトルの話が最初から最後までというのはほんと少なくてタグに偽りあり!

今回騎兵が出まして破壊力に疑問があるかもしれませんが、むかーし競馬が好きだったころ
ゴール板そばで観戦していると、わずか軽種馬が十頭前後、そして乗っている人はわずか50kg前後というのに地面が激しく揺れるし、迫力は物凄いしということで目標にきちんと騎兵をぶつけた場合、その破壊力のヤバさは想像以上じゃ無いかと思い、こんな表現になりもした。
今回戦ってくれたお馬さんらはそれなりに武装した兵を乗せているし、馬自体も軽種よりは重種に近いのではと想定し、掠っただけでぶっとばされるような、暴走する車の群れぐらいの気持ちだったりします。 
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