| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

形而下の神々

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

過去と異世界
  持ち物検査

 それから3日後、遂にレミングスは移動を開始した。

 その間に気付いた事だが、どうやらこの世にはいわゆる『魔物』的なものが存在するらしい。
 魔物と言うから、何やら世界征服とかを企んでいるのかと思いきや、そうでもなく。
 単純に自然界で蛇が蛙を捕食するように、魔物は人やそれに類似するものを捕食するのだそうだ。

 要するに、我々の天敵って訳だ。
 食べられるとか、嫌だなぁ。
 想像するだけでキモチワルイ。

 ただ、魔物とやらは大概が公式を使わないので、人間は公式で対抗するのだそうだ。
 ……ファンタスティックだ。


 あと、基本的な礼儀や所作は現代と変わらないっぽい。

 まだ毎日ドキドキしながら暮らしているが、なんとかやっていけている。

 笑われたり怒られたりもしていない……と、思う。


 ただ、食事中は絶対無言なのだそうだ。

 食器はスプーンのみ。
 俺は箸が使えるので、その辺の木の棒で代用してるが、グランシェは手づかみだ。

 別に手づかみだと行儀が悪いとかは無いらしい。

 食事中に箸を使った時には驚かれたが、麺類(多分、小麦粉と羊の乳で出来たもの)を手づかみは少し気が引けるだろう。

 その物珍しさもあってか、この集落では箸がちょっとしたブームになった。箸のおかげで何とかレミングスには馴染めたっぽい。
 そもそもレミングス自体が初対面の旅人との接触に馴れているということもあるだろうが。

 食事中は黙っているのがマナーらしいのだが、言葉が無い分食べ方は見て学ぶのか、最近は視線が熱い。

 まぁ、グランシェと違い俺は気さくなタイプではないから助かってはいるが、グランシェは相変わらずの饒舌で、一瞬にしてレミングス達に溶け込んだ。

 常々恐ろしい男だと思う。
 そんな折、グランシェが突然話を持ち掛けてきた。

 「なぁ、俺らは何を目的に何処へ行くんだ?予定は有るのか?」
 「いや、特には無いが、とりあえずはこの世界でのナツキに会おうと思ってはいる」

 するとグランシェは待ってましたと言わんばかりにドヤ顔を披露する。

 「なら良い話があるぜ」
 「良い話とは?」

 本当に子供みたいだなぁ。とか思っていると、まさに子供の様な笑顔で彼は続けた。

 「この高原地帯を超えた先に街が有るんだが、調度そこは情報の街とか言われてるらしい」
 「情報の街?」

 「そ、情報の街イベルダ。ウォピタって国の首都らしい」
 
 情報の街とは、ココには大した文明は存在しないんじゃなかったのか?

 「へぇ~、情報の街とは中々ハイテクっぽいな」

 「あぁ、なんでもイベルダの王様は世界一の頭脳を持ってるんだとさ。名前を聞いて驚いたよ」
 「どうした?そんなにすごい名前なのか?」

 俺が興味を示すと、グランシェは眉をひそめて言った。

 「あぁ、カール・デトゥーリッヒ・ノイマンって名前なんだ」
 「ノイマン!? ノイマンって言ったらコンピュータ演算の基礎を作った人じゃないか!!」

 「そゆこと。すごいだろ?あのノイマンの先祖かもよ?」

 いや確かに凄いが疑問は残る。話によると俺達は一回滅びるんだろ?
 まぁ、何か関係は有るのかも知れんが……。

 まぁその国の国王が誰であれ、俺達には情報が必要だと言うことは確かな事だろう。

 「そういえば、タイチはもう鞄の中身は確認したか?」

 と、突然グランシェが話題を変えてきた。
 鞄かぁ、そういえばホレズ修道院に行く時に持っていた荷物はそのままだった気がする。

 レベッカとレミントのテントに入り、何故か今まで気にもしていなかった鞄を開けた。



 マイルドセブン、ジッポーライター、手帳、デジタルカメラ、一眼レフ……
 色々と使えるのか使えないのか分からないアイテムが出現する。


 もはや中身は無価値な財布、マクドナルドのレシート、使わなかったマスタードソース……
 この辺りは本当に意味がない。


 携帯電話、無線、ラジオ……
 無線は使えそうだが、電波が無いのでそのほかは使えない。

 そして最後に……

 「固焼き煎餅お得用パック……」

 絶対に使えない。いや、ある意味一番使えるか。
 食えるし。


 と、鞄を閉じようとしたとき、鞄の内ポケットに何やら硬いモノがある事に気付いた。

 「あ、これは……」

 昔タクラマカン砂漠の辺りに住んでいたウィグル民族の人から貰った、使い道の分からない木彫りの鳥。
 とっても便利アイテムらしいが、鳥の後頭部に深いくぼみが彫られている事を抜けば、本当にただの鳥の彫刻だ。

 結局ウィグル語はよく分からなかったし。
 要らないアイテムばかりだった。







 「だろうと思った。サバイバル心が足りんな、タイチは」

 鞄の中身を報告するやいなや、グランシェから発っせられた言葉だ。

 「俺なんか、ホラ!!」

 鞄の中からは中央が膨らんだ謎の綱やら、ビニール袋やら水筒やらが出て来た。
 そして数々の自称便利サバイバルグッズたちの説明を始める。

 「この紐は投石紐だ!!」

 輝くドヤ顔。
 いやいや、何故ルーマニア旅行に投石紐なんだよ。

 不可解な持ち物はまだまだある。

 十得ナイフは当たり前の様に2本出て来た。
 その他は空のペットボトルが3つに、小さいステンレスの棒もある。

 ……がらくたかよ。

 「このペットボトルと棒で簡易適な化学物質の生成ができる!!」

 と、ドヤ顔は崩れない。
 ……だから何処の戦場に行くつもりだおまえは。何と戦ってるんだよ。


 更に出て来たのは鎖と手錠。
 この間アダルトショップで買った忌まわしき思い出だ。

 「何故それを持ってるんだよ!!」
 「いや、まぁ荷物の整理してなかったんだなこれが」

 そこで真相に気付いた俺はため息交じりに言う。

 「何がサバイバル心だよ……」

 要するに戦場から帰って、パリに向かって、そのままの荷物でここに来たって訳か。

 「まぁ良い。この状況では確かに助かる装備だよな」
 「だろ? グッジョブ俺!!」


 輝きを失わないドヤ顔が非常に腹立たしい。
 腹立たしいが、とりあえず俺の持ち物よりは有能そうだ。
 
 

 
後書き
 ネタバレですが、今後彼らの持ち物はこの世界で色々と役に立っていきます。
 ぼやっと覚えておくと、アイテムが活躍する時に楽しめるかもしれませんね。


 --2013年04月22日、記。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧