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外伝 ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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勇者まつなんとかさんの冒険?

あたしは、勇者まつり。


アリアハンで勇者になるために、訓練をしているわ。
正直、勇者なんてほかにもいるから、訓練なんかしなくても問題ないと思っているけど、王宮の人にふざけるなと大声で怒られたことがある。
別に、勇者になりたいと思った訳じゃないのに、勘弁して欲しい。

あたしが、5歳のときに王宮にある水晶玉にさわったら、急に金色に輝きだしたのでびっくりした。

「おお、本物の勇者だ」
「これで、世界が救われる!」
とか、口々に言われ得るけど、あたしみたいな女の子じゃなくて、大きな大人が集団でなんとかしなさいよ!と思ったけど、口には出さなかった。
誰も、興奮していたから、聞いてもらえないとわかっていたし。



その日から、急にまわりの大人達があたしのことを、「勇者様」とか呼ぶようになって、正直うんざりした。
あたしの名前は、まつり。
ちゃんと名前で呼んでよね。
3文字しかないのに、「まつなんとかさん」とかで覚えている人がいると聞いて驚いた。
そんな人には、「おもいだす」という呪文が必要ね。


まあ、勇者になって良かったことはあったわ。
家はお父さんが、若い頃に無くなったので、お母さんがわずかな収入で家計をやりくりしていたけど、あたしが勇者になったことで王宮から支度金がもらえたみたい。
「これで、生活が楽になった」と喜んでいた。

そのかわり、冒険であたしがもらえる支度金が50Gになるらしい。
「最初から大金を持って、強力な武器や防具を持つと、冒険の成長の阻害になる」とかなんとか、綺麗な服を着飾った人が言っていた。
世界を救う人への先行投資が50Gだけ。
それって、おかしいと思うのはあたしだけ?


勇者になるための勉強をしていたけど、あんまり面白くなかったわ。
本を読んだり、礼儀作法を学んだり、宝箱を開ける練習をしたり。
戦闘訓練も、ひのきの棒を毎日同じようにふりまわすだけ。
外に出ることが許されていないから、モンスターと戦ったことが一度もないの。
こんなことで、勇者なんて勤まるのかしら。


ついにこの日がやってきた。
アリアハンから勇者様ご一行が旅立つ日。
でも、王宮の人達はあまり勇者を歓迎しなかったみたい。
「アーベル達が倒すから問題ない」とか
「これで、キセノン商会の力がますます増大する」とか
「まあ、モンスターがいなくなれば問題ない」とか
「勇者オルテガの事もある。過信はできない」とか
「セレンちゃんの後をついていきたい」とか
いろいろだった。


勇者様ご一行の随行は、アーベルさん、テルルさん、セレンさんだった。
アーベルさんは、3人のまとめ役で、勇者が旅に出るまではリーダーとして世界各地を冒険したらしいわ。
彼は、ロマリア王国という国で、1年ほど王様になったらしい。
毎年、国のトップが変わる国なんておかしいわ。
ロマリアという国なんて、どんな国なのか知らないから、わからないけど。

「まつりさんね。はじめまして」
アーベルさんとはじめてあったとき、あたしにそういって挨拶してくれた。
黒目黒髪の青年は優しく微笑んでくれた。
少し小柄で、何処にでもいそうなおとなしい青年という感じだったけど、瞳の奥には強い意志が感じられる。

そこらへんのギャップに引かれる女の子もいるらしい。
「元王様」という肩書きに引かれる女の子も多いようだけど。
そんなことを思っているのか、あたしのことを「勇者」と呼ぶことはなかったわ。
よさそうな人だけど、年上には興味ないわ。
噂では、キセノン商会に婿入りする話しもあるようだし。


テルルさんは、キセノン商会の創設者キセノンさんの一人娘。
冒険に出る前は、長い髪を後ろでとめて綺麗なうなじが印象的だった。
盗賊に転職してからは、素早い動きに影響が出るといって髪をバッサリ切っていた。
それでも、彼女のクールな表情によく似合っていた。

美しいだけでなく、才能もあるわ。
1年前にアリアハンで発生したあの事件を彼女1人で解決したわ。
それ以来、「キセノン商会の1人娘」という色眼鏡で見る人はほとんどいなくなったわ。
才色兼備という言葉は、彼女のためにあるようなものね。
才色兼備と言えば、昔はエレンズさんというキセノン商会で働いていた娘が一番だったけど、彼女は国外で活躍しているらしいわ。
まあ、あたしが冒険に出たら変わるでしょうけどね。

セレンさんは、男性なら誰もが目を引くスタイルと、幼く見える顔のギャップでアリアハンの男達を虜にしている。
「笛に踊らされた」という言葉は、彼女が巻き込まれた事件から使われ出したらしいくらい、彼女は有名ね。
まあ、あたしもセレンと同じくらいの年齢になれば、身体ももっと成長するし、なにより魔王を倒した勇者として、絶賛されるわね。



あたしは今、3人にあうためにルイーダの酒場の前にいる。
3人はこれから勇者と一緒に魔王を倒す旅に出るため、ルイーダの酒場で勇者が来るのを待っているわ。

あたしは、3人とあまり話をしたことはないけど、勇者であるあたしを歓迎するに違いない。
さあ、この扉を開いてあたしの新しい冒険が始まるわ。

扉はあたしが手を触れる前に開かれた。
あたしは、とっさに後ろにさがった。
「急ぐぞ!」
「待ちなさい、アーベル」
「は、早いです」
「どこに向かえばいいのですか?」
4人の男女が街に向かって走り出していった。

あたしは、走り出す男女が遠ざかっていくのを呆然とながめてから、再びルイーダの酒場の扉に視線を向けた。
扉は開け放たれたままであり、扉の奥から騒然とした声が聞こえてくる。

あたしは気を取り直して、再び扉から入ろうとした。
扉の前には、ひとりの女性が微笑みながらあたしを見つめる。
ルイーダの酒場の女主人ルイーダさんだ。
円熟した大人の表情は、酒場に通う男の冒険者達にとって、癒しとなっている。
その微笑があたしに向けられた。
瞳の奥までは笑っていないようだけど。

「あら、まつりちゃんこんにちは。
せっかく来てもらって悪いけど、あなたはまだ10歳。
この酒場に来るのは、まだ早いわ」
そういって、あたしの目の前でドアが閉じられた。


たしかに、あたしはまだ10歳。
冒険に出るまで、あと6年待つ必要があるわ。
今日のあたしの冒険は、これで終わりね。 
 

 
後書き
タンタルさんはどうやら別の勇者(予定)の名前を覚えていた?ようです。
第13話で触れた、もう1人の勇者です。

なお「勇者まつなんとかさんの冒険?編」は1話で完結です。 
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