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外伝 ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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アリアハンでの事件 前編

 1 盗賊と提案とテルルさん



「いらっしゃいませ」
アリアハンの中心から少し離れた商店で、働いている少女の透き通る声が小さな店内に響きわたる。
「どうも」
店に入った精悍な顔つきをした男が、あわてて返事を返す。
初めて入店した男の表情は、少し困惑していた。
対応した女性の存在に驚いていたようだ。
男が驚いたのも無理はない。

商店の規模自体は、小さいながらも、アリアハンの住民でこの店の事は知らないものはいなかった。
アリアハン最大の商会「キセノン商会」の本店だからである。
世界各地にある支店を統括する事業所は、隣接する5階建ての建物にあるとはいえ、創業者支配人であるキセノンが勤務している店舗である。
「現場の感覚を忘れないように」と、アリアハン市街地の店舗とは別にひっそりと運営している。

来客はまれとはいえ、通常アリアハンで入手できない貴重な品が陳列されていることもあり、昔からの顔なじみや大富豪など、特別な客には好まれている。
そのような、客を相手にするため、通常は経験豊富な店員が対応するだろうと、男は考えていたようだ。
だが、実際に接客の対応をしたのは、少女とよばれても違和感のない女性だった。
男はこの少女が、大きな商談や、特別な注文の対応ができるとは、とても思えなかったからだ。

一方応対した少女は、来客者の顔を眺めて、今来た客は、初めての来店者だなと思っていた。
少女は、華美ではないが、上質な生地で清潔感あふれる緑を基調にした制服をきちんと着こなし、明るい緑色の丸い帽子を被っていた。
少女は、お得意様と同様の対応をする。
「ご来店いただきましてありがとうございます、本日はどのような商品をご所望ですか?」
優雅なお辞儀をした少女は、失礼の無い程度に男性の瞳を見つめた。
少女の視線の先にある男は、少し困惑した表情をしていた。
男は鍛えられた体をみる限り、歴戦の冒険者に見える。
男の装備品は、皮の鎧等、軽装備であるため、職業は盗賊であることが推測できる。
男は、精悍な顔つきを困惑した表情に変化していたが、瞳の奥にある強い意志は変わらなかった。
男は覚悟を決めて少女に話しかける。

「既製品ではないと思うので、希望した商品が作成できるか教えてほしい」
「かしこまりました、どうぞこちらの席におかけください」
少女は近くにある席を勧める。
「できれば、個室で話をしたいのだが?」
男は、少女に要請する。
「かしこまりました。
お客様、失礼ですがお名前を確認させていただきたいのですが。
私は、キセノン商会本店営業部のテルルと申します」
テルルは帽子を取り、深々と頭を下げる。

帽子をとったため、帽子に隠された銀色の髪飾りによってまとめられた後ろ髪が左右に揺れている。

男は、揺れた髪に気がつくことなく少女の名前に驚愕の表情を示す。
「キセノン商会の次期当主ですか・・・」

テルルは、男のつぶやきを無視して、先ほどの問いを繰り返す。
「お客様、恐れ入りますが、お名前を確認させてください」
「・・・。失礼、ゲールだ」
「ありがとうございます。
ゲール様ですね。部屋までご案内いたします」
テルルは、優雅に頭を下げると、ゲールを部屋まで案内した。

「ゲール様、本日はどのような商品をお探しでしょうか?」
テルル一人でゲールと対応していた。

このような商談の場合、直接キセノンが対応することが多かった。
変わった商談の場合、当主が対応した方が迅速に対応できることのほかに、新たな商品開発や販売戦略のヒントにつながることが多いと、キセノンが考えているからだ。
実際、キセノン商会が一代でここまで、規模が拡大した理由はここにあった。

そして、今日はキセノンは別の商談のためレーベの村にいた。
キセノンは一人娘に対して同様の経験を身につけさせるため、自分が不在の場合の対応を任せていた。

テルルは旅にでるまで、責任のある立場で商談を任されたことはなかった。
しかし、代理を任されてからのテルルの対応で大きな問題が発生したことはなかった。

一つ目は、自分の権限と責任がどこまであるか十分把握していたことによる。
キセノンは、テルルに仕事を任せるに当たって、きちんと役割と権限そして責任を明確に説明したからだ。
そして、仕事について不明な点はきちんと納得がいくまで議論しているからだ。
テルルの納得がいかない場合は、キセノンが対応することになるが。

二つ目は、子どもの時の経験による。
テルルは子どもの頃から、キセノン商会に顔を出していた。
これは、幼なじみが店に入り浸っていたことによるものだった。
幼なじみは、子どもには不釣り合いな対応をしており、「キセノン商会の秘蔵っ子」とも噂されていた。
テルルが幼なじみと一緒にいたときの経験は、今の仕事に息づいていた。

「ゲール様、今日はどのような商品をご所望ですか?」
「棺桶に用いられた技術を基にして、商品を製作してほしいのですが」
「棺桶ですか?」
テルルは、ゲールの提案に驚いていた。


「棺桶」は、死亡した冒険者の蘇生率を高める為に考案されたアイテムである。

命を落とした冒険者が教会で復活できるためには、できるだけ遺体に欠損部分が無いことが望まれる。
とはいえ、戦闘行為で欠損部分が発生しないということなどあり得ない。

そのため、遺体の保存を目的に、棺桶の開発が始まった。
最初は、大きく重く、運搬にも問題が生じたことから実用化にはほど遠いものであった。

開発が前進するきっかけとなったのが、魔法の解析と命の石の分析、冒険者が持つ袋の製法の提供による。

製法は、門外府出のため詳細は記載できないが、現在の棺桶は冒険者が死ぬとともに冒険者の体を包み込み、これ以上の死体の損傷を守ってくれる。
また、冒険者に支給されている袋に用いられている軽量化の魔法を使用しており、運搬の面でも問題ない。

冒険者に必須のアイテム棺桶は、教会と冒険者ギルドが総力を結集した成果品である。
棺桶は冒険者ギルドに登録した段階で、冒険者に支給される。

だが、棺桶は複数の技術の固まりであり、どのような商品が必要なのか、テルルには想像ができないでいた。

「それで、どのような商品ですか?」
テルルは興味深そうな表情を押し殺しながら質問する。

「透明で、小型化したものが欲しいのですが・・・」
ゲールは話を切りだした。



 2 神官と苦悩とテルルさん



「ゲール様の提案内容を確認します」
テルルはゲールが希望する商品の内容を聞き取りしたあとで、確認をする。

「まずは、商品の性能ですが、棺桶の作成に使用されている、死体の腐敗化を防止する技術があれば十分ですね」
「ああ」

「次に、商品の素材ですが外側から中の様子が分かるように、ガラスのような透明な素材で作成して欲しいと」
「そうだな」

「商品の大きさにつきましては、高さ50cm、横幅1m20cm、奥行き50cmでよろしいですね」
「ああ、間違いない」
「最後に、中身の取り出し方は、上の蓋から取りはずす方法でよろしいですね」
「結構だ」

「作成可能かどうかは、これから商品開発部と協議して、5日以内に作成期間及び作成予算を含めて回答させていただきます。
なお、この事前研究及び予算の見積もり費用として1,000Gいただきますがよろしいですか」
「わかった」
ゲールは腰にぶら下げた袋から金貨を数えて手渡した。
「確かにお受け取りしました」
テルルは、表情をわずかにくずしてから、ゲールに質問する。

「もし、よろしければこの商品の使用目的を教えていただけませんか?
その場合、こちらの方からいろいろと商品の改良のための提案を行うことも可能です。
また、キセノン商会が同じような商品を販売して利益が上がることが見込まれる内容でしたら、作成に必要な費用から、商品開発費部分を減免させていただくことも可能です」
「それは、ありがたい申し出だ」
ゲールは、にやりとして説明を始めた。

「この世界には多くの変わったモンスターが存在する。
そいつらを捕まえて展示すればおもしろいと考えたわけだ」
「なるほど」
テルルは、しばらくゲールの表情を眺めながらかんがると、
「ところで、ゲール様はどのようなモンスターを展示するお考えですか?」

「そうだね、メタルスライムを考えているよ」
ゲールはしばらく悩んでから答える。
「確かに、あれは貴重なモンスターといえますね。
了解しました。
現時点で断言はできかねますが、商品開発費の減免についてはご検討させていただきます」
「ああ、頼んだよ」
ゲールはそう話すと立ち上がって、一礼する。


「では、また5日後に」
「ありがとうございました」
テルルは、ゲールが店を出たのを見届けてから、考え始めた。
「さて、教会に寄りますか。
後は、お願いね」
「かしこまりました、お嬢様」
店員がテルルを見送った。



テルルは、教会に入ると知り合いの神官に声をかける。
「ホープさんこんにちは」
「こんにちは、テルルさん。
今日もおきれいですね」
「あらいやだ。
お世辞をいっても何もでませんよ」
「教会ではお世辞をいうつもりはありません」
返事をした神官は、にこやかにテルルの相手をしてくれた。
ホープはがっちりした体格に似合わず、細い顔つきをしていた。
ホープは、かつて世界中を旅し僧侶としての経験を積んでいたそうだ。
ホープは、教会の力を用いずに、死者を蘇生することが可能な人間だ。
アリアハンでも数えるほどしか存在しない。

冒険者としてもたまに活動し、「モンスターを食す」の改訂版を出すたびに、冒険者たちの支援活動を行っていた。

ただし、聖職者の階級からすれば、下の方に位置付いている。
教会の階級は、基本的に教会内でどれだけ活躍したかという基準で評価される。
ホープは20歳以上年下であるセレンと同じ役職にいた。
周囲は教会に対して、問題があるのではと考えていたが、ホープは階級を問題視していないため、今のところ教会への批判にはつながってはいない。

ホープを慕う信者は多くいた。
ホープは少し低めの声で落ち着いて話すことで、多くの人々の心をつかんでいた。
ホープは世界を旅した経験を素直にわかりやすく話して、ルイーダの酒場で毎日飲んだくれている冒険者のように、過去を自慢することも無かった。
さすがに、最近の人気はセレンという若い女性の僧侶に奪われていたが、彼女が自宅で修行するようになってから、ホープの人気は再燃している。


そのようなことを考えながら、ホープはゲールからの依頼内容について相談していた。
「モンスターの捕獲用ですか・・・」
ホープはテルルの話を聞き終わると、少し表情が暗くなった。
「何か、問題がありますか?」
「いえ、ご依頼のアイテムの作成自体には、問題はないですが」
ホープは、ロマリアで冒険したときの話を始めた。

「テルルさん。
闘技場はご存じですね」
「ええ、知っているわよ。
賭けたことは無いけど」
テルルは答える。

闘技場を否定するつもりはない。
今の時代に、庶民を楽しませるような娯楽がほとんどないからだ。
へたに、裏の社会で行われるよりは表の世界で行われた方が、監視しやすいし国の利益につながる。

ロマリアでは、そのような考えで運営していた。
どこかのバカ王子が、大勝ちして一悶着あったらしいが、それを除けばきわめて順調であった。
「セレンさん。
闘技場のモンスターはどのようにして集められているかご存じですか?」
「知らないけど、ひょっとして、ゲールの依頼内容の技術が使用されているとか?」
「ええ、テルルさんの御想像のとおりです。
さすが才色兼備といわれるだけのことはありますね」
「そんなことはないわよ。
そこまで、話をしてもらったら、話の流れから誰だってわかるわよ」
「そうとは、限らないと思いますよ。
まあ、ここまでは私も問題ありません」
ホープは、緩めていた表情を最初の頃のようにもどすと説明を続ける。

「それでは、テルルさん。
モンスターは、棺桶によってロマリアに運ばれます。
では、死んだモンスターをどうやって闘技場で戦わせると思いますか?」
「まさか、ザオリクで?
でも、アーベルから聞いた話では、モンスターは復活できないと」
ホープは悲しそうな表情で首を振る。
「実は、すぐに唱えれば復活させることが出来ます。
もちろん、損傷の状況にもよりますが。
ですが、その情報は秘匿されています。
その理由も、テルルさんならわかりますよね?」
「想像はつきます」
テルルはそれだけしか言わなかった。
神聖な呪文でモンスターが復活するという情報は、教会にとって秘匿したい内容であることとは想像できた。
「ええ、御想像のとおりです。
そして、私が何を悩んでいるかわかりますか?」
「・・・」
テルルはホープが悩んでいる内容も想像することができた。

しかし、その内容は信仰の問題に触れることになるため、テルルは黙ったままだった。
「お優しいのですね、テルルさんは」
「そ、そんなことはありません」
テルルは否定する。

「いいのですよ、どうして神はモンスターの復活をお許しになるのかなんて、私の目の前で話すこともできないでしょうから。
どうして、モンスターに襲われた村人を生き返らせることが出来ないのでしょうか。
金の無い貧しい者を救うことが出来ないのでしょうか。
失った田畑は元に戻らないのでしょうか。
どうして、勇者でなければ、世界を救うことが出来ないのでしょうか・・・」
「・・・」
2人はしばらく沈黙した。

ホープは落ち着きを取り戻すと、再び話を続ける。
「まあ、これは自分の信仰の問題です。
申し訳ございません。
今日は、変な話におつきあいいただきありがとうございます。
本日のご依頼内容については、教会からよりも冒険者ギルドから技術提供を受けられた方がよろしいかと思います。
冒険者ギルド宛に紹介状を用意します」
ホープは席を立つと、教会の外までテルルを案内した。

「あら、テルルさん。こんにちは」
テルルは教会の入り口で1人の女性から声を掛けられた。



 3 同級生とギルド幹部とテルルさん



「あら、テルルさん。こんにちは」
テルルは教会の入り口で1人の女性から声を掛けられた。

「あら、リニアさんお久しぶりです」
テルルはかつて同じところで勉強した学友に挨拶をした。
テルルが挨拶をしたリニアという女性は、背が高くすらっとした印象を与える女性で、地味な色ながら上品な素材を使用したドレスを身に纏っていた。
顔は、大きな瞳が特徴であり、瞳をうるうるさせながら丁寧なお願いをされると、同年代の男の子は断ることが出来なかった。
ただひとり、テルルと一緒に旅をした男の子を除いて。

リニアはテルルと一緒に商人の勉強をしていた。
リニアの父親は、王宮で魔法使いとして働いていたが、リニアの兄が魔法使いとして働いているため、娘には好きな職業を選ばせたようだった。
リニアは、冒険者養成所で職業を商人に選んでいた。
リニアの友人が彼女に商人を選んだ理由を聞いたところ、
「綺麗な宝石を取り扱いたいから」
と、答えていた。

「養成所を卒業して以来かしら。
本当に久しぶりだわね。
テルルさんは、あの男と一緒に旅に出たと聞いたときは、本当に驚いたわ。
あなたのような才能のある女性が、家の後も継ぐこともせず、魅力的な男性を捜すわけでもなく、血なまぐさい冒険の旅に出るなんて。
もちろん、テルルさんのことだから、戦いの事はあの男に任せて、優雅な旅を続けたのでしょうけどね。
変わった趣味をお持ちのようですけど、ほどほどにされた方がよろしいわよ。
花の命は短いのですから。
いつのまにか、おばあちゃんになったとか、笑えない話よね。
まあ、冒険者の服装をしていないようだから、冒険は終わったのかしら?」
リニアは、特徴のあるハスキーな声で質問する。
「残念ながら、しばらくお休みです。
アーベルがロマリア王になりましたから」
テルルはため息をついて答える。

「ロマリア王?
あの男が。
なにかの間違えでは?」
「事実です。
アーベルも、間違えであって欲しかったそうですが」
残念な表情で答える。

「まあ、そうでしたか。
でも、冒険はお休みなのですか?
私はてっきり、あなたの彼氏が王様になったから、冒険が終わったのではないのですか?」
「違います。
アーベルは彼氏ではありません」
テルルは思わずムキになって返事をした。
「あら失礼。
でも、王様になったらさすがに冒険は出来ないわよね?」
リニアはテルルの態度に構わない表情で話を続けた。

「なんとかすると言っています」
リニアは驚きの声を上げる。
「すごいわね!
なんとかする!
王様より貴女のことが大事なんて」
「違います。
私なんかより、冒険の方が大事みたいです」
テルルは、話がかみ合っていないと思いながらも話を続けていた。


「失礼します、ここは入り口です。
話を続けられるのでしたら、別の場所でお願い出来ませんか?」
「あら、ごめんなさいホープ様」
「すいません」
テルルとセレンの会話を止めたのはホークだった。

「こんにちは、リニアさんでしたか。
毎日教会に足を運んでもらいましてありがとうございます」
「こんにちは、ホープ様。
懐かしい人とお会いしたもので、つい話が弾んでしまいました。
場所を考えないといけませんわね。
失礼しました」
ホープの指摘により、教会の中に入ったリニアは、謝罪の言葉と共に、優雅に頭を下げる。

「いえいえ、他の信者さんが来られなかったので問題有りません。
それにしても、いつもリニアさんがお越し下さるので、この教会が華やいで見えますね」
「セレンさんほどではありません。
彼女が、自宅で修行されると聞いて、悲しまれたのではないですか?」
リニアは悪戯っぽい口調でホープに質問する。

「そ、そんなことはありません。
たしかに、教会に日参する信者が減りましたのは事実ですが、リニアさんのように熱心に来られる人がいれば大丈夫です」
ホープは、少しうろたえながら答えていた。

「ホープ様ありがとうございます。
実は、ホープ様にご相談が有りまして」
「わかりました。
では、こちらにご案内致します。
テルルさん、失礼します」
ホープはテルルに一礼する。
「こちらこそ、ありがとうございます」
テルルは、2人を見送って教会を出て行った。



「キセノンのところのお嬢さんか」
「失礼ね、テルルという名前があるわよ」
「そのくらい、知っているよ。
お嬢さん」
テルルは冒険者ギルドの幹部の1人ライトと面談していた。
ライトの対応に不満を持ちながらも、テルルはライトに書類を手渡す。
「これを読んで」
「わかった」


「なるほどな。
おもしろい」
「で、話を受けてもらえるわよね?」
テルルは、頬を膨らませながら質問する。
「その前に、いくつか確認したい」
男は、テルルの行動を無視して、問いかける。

「依頼したのは、ゲールだな?」
「ええ、そうよ」
「そしてゲールは、モンスターの捕獲を目的にしていると?」
「それが、何か問題でも?」
テルルの質問に対して、ライトは机の中にあった資料を引き出すと内容を一瞥してから、説明を始めた。

「ゲールの活動なのだがね。
こちらが把握している状況では、彼はアリアハンから出たことは無いのだよ」
「なんですって」
テルルは驚愕の表情を示す。
「そして、ここ数年は完全に1人で活動しているのだよね。
その状況で、どうやったら彼が、メタルスライムを倒すことができるのか教えて欲しいものだ」
ライトは、資料を机の中にしまい込む。

「なぜ急に、彼はメタルスライムを倒そうと考えたのだろうね?
そして、大金を掛けてまで展示したいと考えている。
だが本当にゲールは、モンスターを展示したいのだろうか?」

「わからないわ」
テルルは降参の表情を示す。
「まあ、そうだね。
ひとつ、思いつくことがあるのだが。
協力してもらえるかな?」
「どのようなことですか?」
「心配はいらないよ、お嬢さんに危険なことはさせないから」
ライトは、にこやかに笑いながらテルルに説明を始めた。
ただ、ライトの目は、説明が終わるまで笑うことはなかった。


「さて、費用の件ですが、こちらの条件を了承してもらえれば、無料で制作させて頂きます」
「どのような、内容でしょうか?」
テルルとゲールは前回交渉してから5日後に、再び同じ場所で交渉をしていた。

「こちらがご用意しました箱に、メタルスライムを捕獲して欲しいのです」
「・・・」
ゲールは急に押し黙った。
「ゲール様の目的と同じですから、こちらも一匹確保したいと思いまして。
ちなみに、捕獲したメタルスライムについては、すばやさの種の秘密を解析したいと王宮の方から要請がありました。
実験に成功すれば、報償も得られると思いますよ」
「今回は遠慮する」
「その必要は、ありませんよ」
ゲールは、急に否定したが、テルルは話を続ける。

「こちらから、歴戦の冒険者を派遣させて頂きますから、たとえ、ゲール様がアリアハン国外に出るのは初めてでも、問題有りません」
「・・・」
ゲールは、テルルの説明に対して沈黙する。

「それとも、冒険できない事情でもありますか?
たとえば、棺桶が使用できない状況にあるとか?」
ゲールは顔を青ざめ、右手を隠そうとする。
テルルは、隠そうとするゲールの右手をつかんでいた。

「ゲール様、キメラの翼での脱出はおやめになったほうがよろしいかと思います。
既に、アリアハンとレーベには、兵士を派遣しておりますから」
テルルは、ゲールが袋からアイテムを取り出そうとするのを阻止しながら、にこやかに説明する。
「・・・」
「住居まで案内してもらえますか?」
「はい」
ゲールはテルルの言葉に従った。


棺桶の中には、白い右手が置かれていた。
「右手か。
なかなか、美しい手だね。
さて誰の手かな?」
ライトはつぶやいた。

「・・・」
「まあ、君に尋ねるよりも、本人に質問した方が早いでしょうね」
ライトはテルルの沈黙に対して、小さくつぶやいた。
「では、行きましょうか」
テルル達は、棺桶を引きずりながら教会へと向かっていった。

「そ、その手は・・・」
ホープはテルルが抱えている右手をみて、蒼白な表情をしていた。
「ホープさん、生き返らせたら答えがわかるわ」
テルルはホープの表情に驚きながら答える。
「そ、そうですね」
ホープは、なんとか落ち着きを取り戻すと、自分の任務を思い出して、作業を開始する。
「おお、わが主よ!
全知全能の神よ!
忠実なる神のしもべ・・・」
ホープの儀式が突然中断する。

「どうしたの?」
「名前がわからないと、復活の儀式ができないのです」
ホープの説明によると、「誰々のみたまを今ここに呼び戻したまえ!」と神に祈りを捧げることで対象者がよみがえるとのことだ。
「なんとかならないの?」
「ザオリクなら、あるいは」
ホープは、精神を集中させると呪文を詠唱する。
しかし、目の前の右手は、復活することは無かった。 
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