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ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~

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SAO編
  episode7 こんな自分にできること


 「くそっ……!」

 長引く死闘の中、また一人、ポリゴン片となって爆散した。

 ボスの攻撃は、単調でありながら対策のとれない、それでいてクリーンヒットを貰えば一撃でHPを持っていかれる厄介なものだった。鎌を捌き続けるキリト、アスナ、ヒースクリフ。だが、その前衛を務める三人が抑えてくれている間はまだましだ。

 「ちっ!また動き出すぞっ!離れろ!!」

 振りまわしていた鎌を万歳をするように大きく上げる。
 再移動の合図だ。

 一旦大きく仰け反った骸骨ムカデが、その無数の足を蠢かせて突進を開始する。だがそれは直線軌道では無く、フロアを隙間なく埋め尽くすような、ジグザグの不規則な動き。

 「くっ!」
 「クライン!!!」

 そして、十メートルを優に超えるだろうその長い巨体。逃げ方によっては「詰み」に追い込まれてしまうものも出てくる。今まさにその状態に追い込まれた、無精ひげのカタナ使いが顔を歪めながらポーチを漁る。追い込まれてしまえば。

 「ちっきしょうがっ!」

 そのまま。
 無慈悲に、暴力的に、圧倒的に。

 「う、ぐああああっ!!!」

 轢き潰された。

 突進攻撃時には、あの恐ろしい威力の鎌は使ってこない。だがその代わり、鋭く尖った無数の足が次々にプレイヤーを踏みつけ、そのゲージを凄まじい勢いで削っていく。クラインは素晴らしい判断力で咄嗟にハイレベルの回復ポーションを煽っていたようで、数秒ごとに回復しているためなんとか致命的なダメージを防いでいるが、この咄嗟の行動が出来なかった仲間がすでに何人もやられている。

 そしてクラインを踏みつけながら、ムカデが壁へと登っていく。

 「上に行くぞ! 真上に行く前に撃ち落とせ!」

 叫んだ男が、投擲用のダガーナイフを次々と投げつける。キリトら数人の『投剣』スキル持ちがピックを放ちまくる。真上に行くまでに一定のダメージを与えられれば、戦闘開始時に見せた跳躍からの全床衝撃攻撃がやってこないからだ。

 「っしっ!」
 「降りてくるぞ!」
 「散らばれっ、鎌から目を離すな!」

 今回は何とか成功し、骸骨ムカデが途中であきらめて降り立ってくる。
 次の行動は先ほどの蛇行ではなく、今度はすさまじい速度での一直線の突進…鎌攻撃の前行動。

 その先には、固まってポーションでの回復していた一団。
 彼らを薙ぎ払うべく、高々と振り上げられる禍々しく輝く大鎌。

 そして。

 「ふっ!」
 「おおおおおっ!」
 「やああああっ!」

 その一撃を、キリト、アスナ、ヒースクリフの三人が迎撃する。
 凄まじい金属音と、部屋全体を震わす衝撃。

 と同時に、まだHPに余裕のある面々が武器を構え、側面へと突進。薙ぎ払われ、突きたてられる尾骨の槍をなんとかかわしながら攻撃を放つ。

 そんな中、俺は。
 俺がやっているのは。

 「クライン!」
 「くっ、大丈夫だ、ちょっとフラついただけだ、すぐに俺もいけるっ、く…」
 「回復ポーション持ってけ! まだHP注意域だ!」
 「うっ、だが……っ…!」

 踏み潰され続けたクラインのもとに駆けよってその体を支え、ストレージから取り出した回復用のポーションを手渡す。あれだけの力で連続して踏み抜かれたのだ、数値的ダメージ云々以前に連続した衝撃で脳震盪を起こしていてもおかしくない。

 そんな中、俺は。
 俺は、攻撃には参加できなかった。

 (……クソッ…)

 唇を噛む。

 戦闘開始直後、俺もこの『敏捷』を生かして突っ込みはしたのだ。だが、恐らくウィークポイント…というか、「ダメージの通る個所」である体節の隙間に《エンブレサー》を叩きこんでさえ、「ダメージが通った」感覚が無かったのだ。

 (……クソッ…)

 恐らく奴にダメージを与えられる下限的な攻撃力に、俺の攻撃力が達していなかったのだろう。

 「…クライン、ポーションは俺がオブジェクト化して持っとく。いつでも手渡せるよう準備しておくから、必要になったらすぐに呼べ。……大丈夫か?」
 「うっ…ああ、分かった」

 未だに顔をしかめるクラインに、声をかける。
 俺に出来るのは、こんな支援ともいえないような支援しか無かったのだ。

 クラインから離れ、また骸骨ムカデへと向き直る。相変わらず超人的な力で鎌を捌く三人。そして、重武器の面々が、動かない横腹を次々と打つ。そして何人か、キリト達に次ぐ反応を誇る面々は後ろの暴れまわる尾に立ち向かい、うねりながら襲い来るその槍を捌きつつ、時折見える体節の隙間を完璧なタイミングでソードスキルで攻撃する。

 俺は。俺は。

 「っ! 避けろっ!」

 ソードスキルを放った数人が、その技後硬直で固まっている。ムカデの体がおおきくしなり、そこへと向かって、鋭い長槍の尾骨が真っ直ぐに振り上げられる。あれが突き刺されば、また一人、攻撃特化のプレイヤーが。

 飛び込み、一番装備の薄い軽装戦士を弾き飛ばす。
 だが、それでもまだ数人はソードスキル後の硬直のまま。

 そこに向かって、伸びた槍が、

 「ぬううううん!!!」

 右下段から鋭く振り上げられた斧に、その側面を激しく打たれた。

 赤紫の強烈なエフェクトフラッシュが迸り、一瞬怯んだ尾骨に再びの、左の斬り上げ。『斧』スキルの中でも有数の威力を誇る二連重攻撃、《ヘヴィ・スワロウ》。強烈な衝撃に弾かれた尾骨が、まるで意志をもつように苦々しげに揺れる。

 「エギル!」
 「逃げろ! これはまぐれだ、次は捌けんぞ!!!」

 ぎりぎりのタイミングで後ろの数人の命を救った褐色の巨漢は、厳しい表情のまま尾骨を睨みつける。巨大な尾骨の槍は一度は数秒こそ揺らめいていたが、すぐさま再びしなるようにして次の獲物を探してその先端を向けていく。

 その、骨の槍の、側面。
 弾かれたエフェクトフラッシュの残滓が煌めく、槍の横腹の一点。

 その、赤紫の光の中。

 「……っ!!!」

 俺は、確かに見た。
 僅か、ほんの僅か、描画にして数ドットに過ぎなかっただろうが。

 尾骨の側面、エギルの斬撃をまともに受けたその一点に、細い細い、一筋の罅が入ったのを。


 
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