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ファイアーエムブレム~ユグドラル動乱時代に転生~

作者:脳貧
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第三十五話

 
前書き
第5章開始です。七話構成を目指します。 

 
 ブラギの塔が聖地と呼ばれる由縁は、そこにバルキリーの杖が安置されているからだ。
継承者に真実を示し、過ちを正す力は死者をも蘇らすと言われている。
具体的にそれを知る者は大陸の中でもごく限られた者であるが、100年以上前の大戦後の復興期に果たした教団の大きな功績を背景に権威が確立され、死ぬまでの間に一度はブラギの塔への参拝を行いたいと巡礼者が訪れることからいつしか杖のことを知らぬ一般の者にも広く聖地と呼ばれるようになった。

教団の最高権力者はグランベル六公爵家、エッダ家の当主がその地位を兼任しており、現在はクロード神父がその地位に就いている。
年単位で定期的に行われるエッダ家当主の聖地巡礼は大陸中の耳目を集める一代祭事で、その随員に選ばれることは名誉なことである。
そのような公的な行事にとらわれず、私的にエッダ家の当主が聖地へと巡礼することもあるがその時の随員の扱いは数段落ちることになるだろう。
とはいえ、公的な巡礼の時期は数年単位で綿密に計画された日程で行われるため、今回のように"ちょっと杖にお伺い立ててみましょうか"と気軽に出かける為に日程を合わせることなど考えもつかないことゆえ私的な訪問として行くより他あるまい。



クロード神父がいかに模範的で責任感に溢れた聖職者であり、公爵家の一員であろうとも"世界の危機"のような漠然としたものよりも、自分の家族という身の周りに関わった部分からなら信じてもらえる可能性のほうがありそうだとの狙いは当たった。
その後、日程を合わせるのに時間はかかってしまったがシルヴィアの左の二の腕の内側に見つかった小聖痕を確認してもらい、少なくともブラギの縁者であることは確定した。

「ミュアハは最初に会った日に言ってくれたんです。あたしがエッダの公女だって…今思い出したけど冗談だと思ってた、あたしの気を引きたいためのって…」

「…神よ、この奇跡に感謝いたします。そしてミュアハ王子、あなたを疑ったこと、信じ切れなかったこと、お許しいただきたい…いえ、それはあまりにも身勝手な願いでした」

「いえ…神父様、わたしがあなたと同じ立場ならば同じく信じきることなど出来なかったでしょう。ただ、これからは信じていただければ…信じ切れ無ければ杖に尋ねてくださっても結構ですし、そうしていただきたいです、一番最初に話したこの世界を覆う影の話については特に…」



 そういう経緯があって俺はクロード神父の随員として、今、船の上にいる。
士官学校のほうは休学の願い出が必要かと思い、願い出てみたら聖地巡礼の随員として士官学校の候補生が選ばれる事例はそう少ない訳でもなく、他の科目の時間に充当されるそうだ。
巡礼により生じる権威に教団の関係者を選ぶのを避ける為にそういう人選もあるのだそうだ。
しかし、我儘を言ってエーディンさんも随員に選んでもらった。
これは姉妹引き合わせのためだが彼女に信じてもらえるとは思えないのでクロード神父の教団上の地位を利用しての命令という形式を採ってもらった。

ひとまずの行き先であるアグストリア連合王国のマディノ砦に付随する港町では、俺と別れてからずっと対海賊の用心棒として腰を据えていたレイミアが、いまでは一つの傭兵団を率いるまでになっていると何度もやりとりした手紙で知っていた。
日程を調整している間に俺たちがマディノへ行くと手紙で知らせると、部下のジャコバンという男と数人の部下を護衛として送ってきた。
彼が持っていた証書はたしかに彼女の筆跡だったので歓迎し、出発までの数日はバーハラの宿に逗留してもらい、時間を作って向こうの情報を教えてもらったりもした。
そうしてクロード神父とその身の回りの世話をする者達、俺、シルヴィア、エーディンさん、ジャコバンさんと数人の部下が乗り組んだ船がマディノを目指して進んでいた。

「だらしないなぁ、ミュアハは」

「う、ううっ…」
船酔いに苦しむ俺にシルヴィアは付きっきりでいてくれた。
言葉とは裏腹にずっと手を握ってくれて、濡らしたタオルで顔を拭いてくれたり、バケツにたまった吐瀉物を海に捨てたりと、かいがいしく世話してくれた。
こうして俺が苦しんでいた間に海上警備を行う集団が船にやってきていたことも、その集団に護衛船を付けてもらった事も知らずにマディノに辿りついた。

上陸してすぐに体調が元通りになりシルヴィアにはからかわれて俺は一緒に笑った。

「でもねー、ミュアハの役に立てて嬉しかったかも!」

「じゃあ帰りの船でも頼むー」

「えー、どうしよかな、それに船は帰りだけじゃ無いかもよ?」

「そ、そういえばそうか…」
くすくす笑う彼女は俺の背をドンと叩いてから自らを指し示し、任せておいて! と、元気よく告げた。
ジャコバンの部下はレイミアへ知らせに行き、俺達一行は合流地点である港町の大き目の宿へと向かった。
水揚げされた魚を処理している漁師の嫁が、連れて来た猫に処理後の内蔵だの骨だの、時には1匹丸ごと与えたり、そのおこぼれを狙うカモメの群れやカラスが様子を窺うさまは現実でのそれとよく似たものだ。
シレジアから輸入されている氷をためた氷井戸から運び出される氷を運ぶ荷車などが脇を凄い勢いで通り過ぎて行く、すると冷気と共にすこしの生臭さを置き土産にしていくのは魚運びにも氷運びにも両用されているからだろう。
そういえばレンスターにも大きな港が欲しいな、漁村などはあるにせよ大型船を定期的に舟航できるような港があって損は無いはずだ。

町の様子を楽しみながら宿に辿りつく前にクロード神父はこの町の礼拝所を訪れ、俺達も同道した。
俺達程度の人数でも狭く感じるほどの礼拝所であったが、手入れはよくされているようで黒光りする木製の椅子や調度品、よく磨かれた床は時折光を反射するほどであった。
ここの責任者の聖職者と挨拶を交わし、聖地へと向かう事を告げると道中の無事を願ってくれた。
俺達も礼拝所で祈りを捧げ、しばし静謐な時間を迎えた。

「シルヴィのお祈りする姿、一生懸命で偉いなって思ったよ」

「あたしだってエッダの末裔だもん、まだあんまりだけど勉強もしてるんだよ! それに…」

「それに?」

「んー、カミサマってほんとに居るんだなって思っちゃうことがず~っと続いてる…」
その言葉と共に俺の手をさりげなく握り、ぱあっと花が咲いたような笑顔をまた見せてくれた。
俺が握り返してお互いに見つめ合うと咳払いが聞こえたので、あわててお互いに手を離して下を向いた。


 宿に辿りつき、手続きを済ませてから併設の食堂で人心地ついていると、窓から外を見ていたジャコバンは俺たちにレイミアが着いたことを告げた。
数人の人物を引き連れて彼女が入ってくると宿の主を含め従業員が姿勢を正し歓迎の挨拶を行った。


…ヤクザの親分かよ!


俺が席を立ち、彼女のほうを向くと凄い勢いで駆けよってきたので俺も思わず走り出し、自然と抱擁を交わした。
すこし目の端がうるっとしている彼女は昔に比べ、少しだけ化粧くさかった。

「久しぶりだな!、ずいぶんでかくなったじゃないかい!」
すごい力で俺を抱きしめながらレイミアはそう言い、いったん力を抜くと

「でも、一目でわかったよ!でもなぁ…ほんと…」
俺の方が逆に彼女の背に回した手に力を入れると少しだけ膝を曲げ、互いの頬を擦り合わせた。





「この街のいくつかの傭兵隊の内の一つの長でレイミアと申します。皆さまの旅の安全を全力でお守りします。 多少のご不便はおかけするかもしれませんが、どうか一つお任せください」
俺との抱擁のあとレイミアはいずまいを正し、クロード神父達にそう真面目くさって申し出た。

「はい、ミュアハ王子よりお噂はかねがね…私はそういう荒事は他人任せですから、隊長どのの流儀でお願いしますね」

「はっ、かしこまりました」

「どうか、楽にしてください。ここは王宮ではありませんし、王子とのやりとりを目にしたところあなたは本来そういう口調の方ではなさそうですから」

「恐れ入ります。…じゃっ、遠慮なく」

「ところで、レイミア。お代はどれくらいが相場になります?用意したので足り無ければ後で為替になるけれどそれでもよろしいです?」

「何言ってるんだい、アタシがお前からカネなんて受け取る訳ないだろ?」

「レイミアが良くても部下の方はそうはいかないでしょう?」

「ねぇ、ミュアハぁ、この人のことちゃんと紹介してよ…」
不安そうなシルヴィアの顔を見て、俺は舞いあがってしまった自分の失敗を後悔した。
レイミアはジャコバン達にいったんアジトへ帰るよう指示すると

「ずいぶんかわいい娘さんだね。王子の婚約者かなんかかい? とりあえず、アタシはさっき名乗った通りでレイミア、昔はちったぁ違う名前を名乗っててね。王子とは2年ちょい同棲してた」

「どっ、どーいうことよー!」
ガタッと音を立てて椅子から立ちあがったシルヴィアは俺とレイミアを交互に睨みつけて握った拳を震わせていた。

「シ、シルヴィ、ちょっと待って、前も話したろ、俺がトラキアに人質に出されてた時にお世話になってた領主様なんだよ、レイミアは!」

「…だって名前とか女の人とか聞いてなかったし、それに同棲ってどういうことよー!」

「う~ん、一緒に暮らしてたのは確かに本当だからなぁ…」

「アタシはウソは言ってないよ?ず~~っと一緒に仲良く暮らしてたからねぇ」

「シルヴィアさん、はしたないですよ、お席に付いてください。そして、レイミア様とおっしゃいましたね、誤解を産むような表現をわざとなさるのはお控えなさったほうが今後の互いの関係に資することとわたくしは提案いたしますが、いかがでしょう?」
…エーディンさんのとりなしによりシルヴィアは席についたが、まだ気持ちは治まらないようだ。

「どうもスミマセン、では王子のほうから子細を語っていただきますので黙りますが、違うところがあったら突っ込みますので」
…ということで俺はシルヴィアにレイミアとのこと、レイミアにはシルヴィアのことを語った。


「…まぁ、王子はアタシの命の恩人ってわけです。あのままだとトラバントに殺られましたから」

「いや、あそこで見殺しにしていたらわたしは未だに虜囚の身でしたからレイミアのほうこそわたしの恩人になります。それに、人質と思えないくらい自由に過ごさせてくださいましたので」

「なるほど、そういう事情があったのですね。互いに恩人と思い合うあなた達を神は嘉したもうと思います」
クロード神父がいいタイミングでいい事を言ってくれて助かった。

「あたしにとってもミュアハは……恩人…です。こうして兄様かもしれないひとに会わせてくれたもの」
クロード神父もエーディンさんも満足そうに頷いた。
そうするとレイミアが


「生き別れの肉親と言えばエーディン公女、あなたにもおられますね。王子に言われて調査してましたがある程度可能性の高そうなものが上がってきたので…」



…これは今回の目的の一つだ。

 
 

 
後書き
冒頭のエッダ教の設定は適当なもっともらしい?捏造設定です。スミマセン 
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