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ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~

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SAO編
  episode7 忘れ得ぬ想い2

 結論から言おう。
 俺の行動は、正解だった。

 正解だったが、それが良かったかどうかと聞かれると、それはまた別の話だが。

 流れていた川面に、不思議な波紋が生じる。と同時に、水面から反射していた光が細かいポリゴン片となって、その波紋の同心円の中央へと収束していく。

 「…こりゃあ……」

 普通、ボスモンスターのポップは巨大なポリゴン片がまず生じ、それが徐々に削り取る様に外見を形作っていく。だが今回は、そうではない。細かいポリゴン…極小のドットが、無数に収束していく様子はどこかで…、と考えたところで、思い至った。記憶の中の夏の日の、プレイヤーの消滅するポリゴンの爆散エフェクトの、逆回しだ。

 …なるほどあの世の人が帰ってくる描写、ってわけだ。洒落てるじゃないか、製作者。

 そうして形作られていくのは、人間大の、女性の影。
 だがそれは、俺の記憶に眠る、待ち望んだ人のそれではない。

 当然だろう。それは恐らく、

 「このクエストの、隠しボス、だろ」

 呟いて、構えを取る。

 現れたのは、濃いピンクの髪に、黒い和服を纏った女。その手に抱えるのは、巨大な鎌。
 頭上に現れる、カーソル。驚いたことに、NPCの表示だ。

 だがその名称は、『The Heaven’s Guide』。黄泉への案内人。
 実に四十七層以来となる、ボスクラスであることを示す定冠詞に、俺の緊張感が一気に高まる。

 そんな俺の前で、女性がその碧眼で真っ直ぐに俺を見た。
 モンスターとは思えない、感情の見える瞳。


 ―――汝、死者に再び相見えんと欲するか


 透き通るような艶やかな声。
 そこに宿る感情は、嘲りか、憐れみか。それとも、俺への優しさか。

 答えは当然決まっている。俺は、会いたい。何を犠牲にしようとも。

 「望む。俺は、もう一度、ソラに会いたい」


 ―――ならば汝、案内人たる妾に、その力が黄泉の境界を超えるに足ることを示してみせよ


 告げられた言葉と同時に、俺の目の前に開かれた画面は、この世界に来て初めてみるものだった。
 デュエル申請……そのうちの一つ、『全損モード』。命をかけた、本当の決闘。

 俺は笑ってしまう。

 答えは決まってると言っているのに、随分とくどい。
 迷わず選ぶ、申請受諾。

 「……望むところだ」

 死者にもう一度会おうと言うのだ。容易いはずはない。命をかけるくらいは、当然だ。
 構える先で、美しい死神のカーソルが変化しアクティブなモンスターを示すそれへと変わっていく。

 冷静に考えれば、どう考えても俺にかなう相手では無かった。ここは六十六層で、このクエストの回始点は七十三層。出てくるMob達も七十レベルの強敵だった。ボスのレベルが同クラスとすれば、今の俺のレベルの八十三では全く足りていないだろう。

 だが、俺は冷静ではなかった。
 頭のネジは、とっくにとんでいた。

 ここまで話を引っ張ったのだ。何らかの報酬は有るだろう。
 それに、ソラに会うためのこの戦いで死ぬのならば本望だ。

 デュエル表示と、減っていくカウント。

 それに合わせて、浮かぶように水面上に佇んでいた死神の女が、その俺の身長の数倍はあろうかという巨大な鎌を振りかぶる。その目が、整った顔が、戦闘に向けて鋭いものになる。思えばこの世界で、ここまで完全な人型のMobとの対戦は、これが初めてだ。それが吉と出るか凶と出るかは、分からないが。

 「…さあ、来い」

 構えた拳を握りしめ、敏捷値を戦闘用に引き上げる。

 ゼロになるカウント。
 ……瞬間、俺の胴体の高さを、彼女の視線が水平に薙いだ。

 反射的に俺が自身の体を一気に沈ませる。と同時に、死神がまるで瞬間移動のように目の前に現れる。振りかぶられた大鎌が、かがめた俺の体を掠めるように通過する。風切り音で分かる、凄まじい勢い。喰らえば恐らく、俺の左腕の《フレアガントレット》でも一刀両断だろう。避け続けるしかない。

 だが。

 「……おおおおっ!!!」

 この手の大ぶりな武器に、先読みのしやすい人型モンスター。
 相性は、悪くない。

 引き絞っていた拳を、その胴体に叩きこむ。絶望的な僅かな量減少するそのゲージは、もう見ない。倒すまで戦い続けるなら、与えたダメージを見る意味はないからだ。と同時に、全力のバックステップで距離を取る。直後振り下ろされる大鎌が、その位置に叩きつけられて地面が大きく抉られる。

 ゆらりと鎌を持ちあげる、碧眼の死神。
 その顔には、もはや最初にあった感情は無い。ただただ、目の前の俺を倒す、モンスターのそれ。

 だが。

 「……ははっ。ははは…」

 その研ぎ澄まされた存在は、美しかった。
 美しいと、思った。

 徐々に外周から水平線へと沈みゆく太陽を背に、佇む巨大な鎌を携えた死神。
 その姿は、恐らく俺の命を奪うだろう相手にしては、贅沢過ぎるほどに、美しかった。

 これがいわゆる死神だとするなら、このキャラをデザインした奴はずいぶんとロマンチストなのだろう。死者を甦らせようなんて冒涜的な夢を追いかけるプレイヤーが相対する、悪魔の契約を交わす相手が、こんなにも美しいなんて。

 再び、彼女の目線が、俺の体を捕える。
 なぞる軌道は、袈裟斬り。

 鋭くサイドステップする俺の体を、大鎌が掠めていった。


 
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