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とある誤解の超能力者(マインドシーカー)

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レベル6 かみ の りょういき
  最終話 神との対話


9月の中旬にサイキックシティ各所で発生した無差別テロ事件は、サイキックシティに深い陰を落とした。

被害総額は概算で8兆円(日本円に換算して)。
サイキックシティ年間予算の約2年分に相当する被害状況により、サイキックシティ内の為替相場も事件発生後1週間で、時価総額が半減した。
サイキックシティ内で最大規模の財閥森原財閥が、財閥が持つ資産の半分を救援に充てることを発表したが、市場での反応は限定的だった。

直接的な人的被害がほとんどなかったことは幸いだったが、多くの市民、特に好景気に浮かれて移住してきた住民は、ほかの町への移転を考えた。

普通であれば、科学技術が数十年先を行くサイキックシティから移動するのはどうかと思うだろうが、日本政府が受け入れ先を用意した。

日本政府は「被災者支援」の目的と称して、研究学園都市として開発中の東京都青梅市を候補地にあげた。

そこは、緊急的な生活物資の支援や当面の財政支援を条件に、サイキックシティとの交渉で超能力関係技術の一部を、日本政府に売り渡す行為でもあった。

市長は、最後まで交渉を拒否したようだが、サイマスターグルーの説得により、受け入れたと噂されている。

サイマスターグルーは、事件前後から行方不明となっていた。
テロに巻き込まれて死亡したとも、テロを撃破したが重傷を負ったとも、テロ事件以上に凶悪な事件を防ぐために動いたとも言われるが、すべては謎のままだった。

不安と緊張が続くサイキックシティで明るい話題といえば、レベル6に到達した少年が登場したという話題ぐらいであった。

サイマスターに到達するためには、通過しなければならない条件のひとつ。
それが、レベル6であった。
逆にいえば、レベル6に到達した人間はサイマスターへの道にたどり着いたことになる。
だが、レベル6に到達した本人の表情に喜びはなかった。



牧石は、第10区にいた。

第10区には、サイキックシティ最大の共同墓地が存在している。
牧石は、そこで眠る少年の墓に花を供えた。
墓碑には「牧石啓也」とだけ記載されていた。

「多くのクラスメイトが、学園都市に移住するそうだ。
君の事を知る人が減ってしまうな」
牧石は、手を合わせながら話しかける。
「僕は、君にいろいろとひどい事を言った。僕は間違っていたよ、君は確かに人間だった。僕と同じ人間だったよ」

牧石は、最後の戦いを思い出していた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



圧倒的な機動力と破壊力、そして各種の「能力」を持った白い鉄の「天使」達の前に、牧石達は、撃沈する。

そして、もう一人の牧石はつぶやいた。
「僕には、自爆装置がついている。
その力で天使達を倒す。
だから、君は逃げてくれ」
「なにを言っている。
僕たちは一緒に撃退すると言ったはずだ!」
「残念だな。
僕は最後においしいところを一人で平らげるのが好きなのでね。
君と分かちあうつもりはない」
もう一人の牧石は、牧石を突き飛ばすと折れた翼をちぎれるまで酷使して天使達の中心に到着する。

「やめろ!」
牧石の叫びも空しく、もう一人の牧石は爆発した。

「……」
粉塵で視界がぼやけ、透視能力で解析すると牧石は絶望した。


「……、そんな」
天使のうち3体は立ち上がったのだ。
今の牧石では、一対一でも勝てるかどうかわからない相手、一対三なら速攻で逃げ出すべき水準である。
だが、牧石は天使達に相手をすることを決意した。

「牧石よ。
あの世で決着をつけるか」
牧石は右側にいた天使の一撃で倒れた。



牧石は気がつくと、病院で寝ていた。
「なぜ、俺はここにいる?」
牧石は自分が生きていることが理解できなかった。

「気がついたかね、少年」
牧石に声をかけたのは、熊のぬいぐるみのような顔をした医者だった。
どこかでみたことがあると思ったら、牧石がこの世界にきたときに初めて顔をみた医者だった。
話を聞いてみると、負傷者に対応するため、超能力開発センターからかり出されたらしい。

「君は危ないところだったよ」
医者は簡単に状況を教えてくれた。

首謀者である天野が死亡したことで、計画が中断し、天使達も動かなくなったらしい。
その原因を作った男が、牧石の隣で寝ていた。
目黒である。

目黒は、急に天使達が現れたことから、目黒が愛用するサイキックシティ最速の自転車で逃げ回っていた。
最高時速160kmとも言われる、謎な最先端技術満載の機能で逃走したのだが、とある駐車場で囲まれてしまった。

目黒は、近くに止めてあった車の陰に隠れて攻撃を回避したところ、車が爆破するとともに、天使の動きが止まったということだった。
警察による現場検証の結果、首謀者である天野が制御していた車両であり、天野が危険を感じて自動制御を手動に切り替えたが、最後の攻撃を受けてしまったらしい。
「周囲に被害が及んでもかまわない」
という条件を、自分を例外にしなかったのが理由と考えられている。

「……」
牧石は、なんともいえない表情を浮かべた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



牧石は、墓の前でサイカードを取り出した
L:06
PSI:000000
と、記載されていた。

「レベル6になったのに」
牧石はつぶやく。
「神の領域にたどりついたのに、僕はなにもできないのだな」
『そんなことはない』
聞き覚えのある男の声がした。
牧石は、周囲を振り返る。
しかし、周囲にはだれもいなかった。

「誰だ?」
牧石は、透明化した超能力者か、遠方からテレパシーを送る超能力者のどちらかと思い、慎重な態度を取る。
『忘れたのか?私は神様だ』
「神様……」
牧石は、召還された日のことを思い出した。

「奨学金が受けられなくなったぞ!」
『え、そんなばかな……。
なるほど、役員の横領か、いやぁ参った、参った』
神様は状況を理解し、困ったような声を出す。

「そんなことより、本題だ。
僕はレベル6に到達して神の領域にたったのだよな」
『そうだ。
だから、神である私の声が聞こえるのだ』
「それだけ?」
『それだけだが、何か問題でも?』
神様は、何がおかしいのかわからないという口調で返事した。

「レベル6ならば、そっちの世界にいけるのではないのか?」
『サイマスターであるレベル∞(インフィニティ)に到達してからだな』
神様は、昔を思い出すような口調で答える。

「インフィニティだと?
それって無限という意味じゃないのか!」
牧石が大きな声をあげる。
『それがどうした?』
「無限ということは、一生届かないではないか!」
牧石は思わず叫んでいた。

『ああ、安心しろ。
レベル10の次がレベル∞だから』
神様は、牧石を落ち着かせるため、ゆっくりと答える。
「そうなのか?」
『ああ、マインドシーカーの世界だから間違いない』
神様の言葉から牧石の知らない単語が出てきた。

「マインドシーカー?
それって、何ですか?」
牧石は神様に質問する。

『いや、ファミコンソフトのタイトルだけど?
召還された時は知っているような顔をしていたが?』
神様は、どうして知らないのかと質問する。
「とある魔術の禁書目録の世界ではないのか?」
牧石は、自分の考えを神様につたえる。

『私はそんなことは言ってないぞ』
神様は、しばらく考えてから話を続ける。
『「とある世界」に送ると言ったはずだが、「とある魔術の禁書目録」の世界に送るとはいってないぞ』
「なんだと……」
牧石はようやく自分が勘違いしたことを理解した。

『まあ、がんばれ。
ここまで順調に育ったのなら、ここに再び現れる日も、遠くないだろう』
「そうだな」
牧石は、神様との交信を切ると、墓を後にした。


牧石は、引き続きサイキックシティで超能力の訓練を続けることにした。

いつか、サイマスターになる日を夢見て。
 
 

 
後書き
にじファン掲載時点での後書き)
本来であれば、13章で完結のところ、今回で最終回としたため、いろいろと回収していない伏線があることをおわびします。
短い間でしたが、ご愛読ありがとうございました。
「とある誤解の超能力者(マインドシーカー)完全版」は、マインドシーカーの著作権が切れる、2039年に連載開始する予定です(嘘)。

追記の後書き)
読み直してみると、いろいろと手直しをしたくなります。
これからの内容を「新約・とある誤解の超能力者(マインドシーカー)」とし、
これまでの内容を完全修正した内容を「旧約・とある誤解の超能力者(マインドシーカー)」としたいとは思っています。
いつになるかはわかりませんが。 
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