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とある誤解の超能力者(マインドシーカー)

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第2話 力の可能性




「僕の能力は、予知の力に秀でているということですね?」
「ええ、まだこれからの成長がどうなるのかまだわからないけど」
磯嶋は、牧石の質問に答えた。

「たとえば、予知能力ならどんなことが使えると思う?」
「テストの問題をあらかじめ知ったりできますね」
磯嶋の質問に対して牧石は、思いついたことをそのまま答える。

「そうね、予知能力は便利だけど、どんなに強力な力を持っても万能では無いの」
「どういうことですか?」
「ある人が、明日行われる、テストの問題を受ける自分の姿を予知したとします。
その人が、その時の問題を全部暗記しようとしたけど失敗しました。
どうしてだかわかりますか?」
「・・・・・・さあ?」
牧石はしばらく考えたが、思い浮かばなかった。

「その人には、全部の問題を暗記する記憶力がなかったのよ」
「なるほど……」
牧石は、磯嶋の答えに感心する。
「ほかにも、一日の全てを予知しようとして、丸一日費やすという問題とかもあるけれど、詳細はこの本に記載されているわ」
磯嶋は、牧石に一冊の本を手渡した。

タイトルには「予知能力とその限界」と記されていた。

「とはいえ、この前話したように、予知能力は今のサイキックシティでは、研究分野で欠かせない能力なの。
研究期間の短縮や研究材料の節約に大いに必要だからね。
君も、能力を極めたら、ここで働いてみない?」
磯嶋は優しく尋ねた。

「……、考えておきます」
「せっかくだから、ほかの能力の利用例についても簡単に説明しておくわ。
詳しく教えてくれないのが悪いと、指摘されないために」
「お願いします」
牧石は頷いた。

「次に、念力だけど最大の成果は新エネルギーね」
「5番目の力ですか?」
「そう。
超能力が物理学に組み込まれたのは知っていると思うけど、その力も大きな意味での物理法則の枠におさまるの。
もっとも、超能力を組み込んだために、新しい物理法則を考え出すしかなかった、とも言えるわ」

「現在実用化されているのは、超能力を情報エネルギーに転換させたものね」
磯嶋は極簡単に牧石に説明した。
牧石が説明を聞く限り、マクスウェルの悪魔という思考実験により明らかになった情報エネルギーの原理を応用して、タービンを動かして発電させるという内容のように聞こえたが、牧石には全く理解できなかった。


「でも、それって念力と関係ないですよね?」
それでも、牧石は磯嶋に気になったことを質問した。
「そう、あれはサイキックシティの外でも使用できるように、調整してあるわ。
だけどサイキックシティで試験運用しているものは、念力が元になっているわ」
そう言って、磯嶋は牧石に解説を始めたが、牧石が理解できたのは、超能力で水をテレポートさせることで水力発電を行うことぐらいだった。

「最後に透視能力だけど、まあ使い道はわかるわよね?」
磯嶋は、牧石にいたずらっぽい笑みを浮かべる。

「ええ、スクラッチカードの当たり部分だけを削るのですね、わかります」
牧石は、あらかじめ用意していた答えを回答した。

「そうじゃなくて、もっと男の妄想やロマンを満たすような使い道よ!」
「自動車の内部構造を透視するのですね。
確かに自動車は男の妄想やロマンが詰まっているかもしれません」
牧石は、少し考えてから答えた。

「違う、違う!
たとえば温泉で透視能力を使うと言えば、わかるでしょ?」

「……ああ、温泉ですね、わかりました。
温泉タマゴの中身を透視して、お好みの堅さに……」
牧石は、頭をフル回転して、与えられた問題に対する答えを口にした。

「ええい、覗きよ覗き。
さっさと答えないと話が進まないの」
「ええっと、どれも覗いていますけど」
牧石は、磯嶋のいらだちに冷静に反論した。


「もういい。
話をつづける!」
磯嶋は高らかに宣言した。

「超能力が認められてから、最初に進められたテーマは、何だったか覚えているか?」
「対超能力の開発です」
「よろしい、さすがわが生徒ね。
そして、最初に実用化された商品が何か知っている?」
「なんですか?」
すぐに、牧石は聞き返した。

「話の流れを読みなさい!
まあ良いわ、答えは透視防止用の下着よ」
「へえ、そうなのですか」
牧石は感心する。
確かに、透視能力を使用すれば上着だけではなくて、下着まで透視することは出来るだろう。
それは、多くの人にとって避けたい問題である。

磯嶋は、白衣から、一枚の布切れを取り出す。
「これを見てください。
丸に斜線を引いた中に、目が描かれています。
これが、透視防止マークです」
磯嶋は、布地から注意書きが示された部分を牧石の目の前につきだした。
「いきなり何を見せつけるのですか!
磯嶋さん」
牧石は驚愕と抗議の声を上げる。

「何って、ブラだけど?」
磯嶋は、牧石の抗議に素直に答えた。
「そんなものを、見せびらかすな」
「問題ないわよ、未使用だから。
それとも、未使用の方が興奮するの?」
「そういう問題ではありません」

「とりあえず、私のブラに興奮した牧石君は置いといて」
「未使用なのでしょう?」
「たとえ未使用でも、私が購入したものに変わりありません。
説明を続けると、サイキックシティ内で製造販売されている下着のほぼ100%に、透視防止機能が付いています。
さらにサイキックシティ指定の学生服及び体操服も全て対応済みです。
透視で、すけすけを期待した男性諸君、残念でした~」

「僕には関係ないことだ」
牧石はつぶやいた。
「そうですね。
今の牧石君は、レベル2ですから関係ありません。
ですが、今の製造技術では透視対策及び読心対策等はレベル5までしか対応していません。
たとえば、サイマスターレベルなら覗き放題です」
「なんだと」
牧石は、先日あった坊主に文句を言う。
「あの男はそんな事を、やっていたのか……」

「していませんよ、グルーさんなら」
磯嶋は、牧石の言葉を否定した。
「どうして、そんなことが断言できる」
「グルーさんは一日のほとんどを、自宅で過ごしているからです。
予知能力を使用するために」
磯嶋はまじめな顔をした。

「グルーさんの予知能力のおかげで、超能力と呼ばれる力が市民権を確保しました。
そして、彼の予言によって多くの命が救われました。
牧石君。
君がグルーさんにどのような感情を抱いてもかまいません。
ただ、彼がいなければ、今の自分は存在していないと思っている人が多くいることだけは、覚えていてください……」
「……」
磯嶋と牧石のあいだに、しんみりとした雰囲気が漂った。

「……。
磯嶋さん、勉強になりました。
ありがとうございました」
牧石は、磯嶋に礼を言うと、研究室を退室した。
牧石は、疲れが貯まっていた。


部屋に残された磯嶋は、机の引き出しから写真を取りだすと、悲しみの表情で写真を眺めていた。



自室に戻った牧石は、今後の事を考えていた。

牧石は、高校に編入したことと、サイレベルが上昇したことにより、サイキックシティから支給される給付金が増額したおかげで、当面の生活費には不自由しなくなった。

ただし、研究所での無料の宿泊所の提供と食事の提供があることが前提である。
完全に独立した生活を送ることを考えるのであれば、賃貸住宅の頭金や、家事をろくにしたことのない牧石の食費を考えると、十分な給付金額ではない。

たとえば、スプーン曲げ用のスプーンなどは、磯嶋の研究室から借りたことにして、又借りして練習している。
牧石は「スプーン曲げ程度なら、誰でも出来るのでは?」と思ったのだが、レベルに応じたスプーンがあるということで、このサイキックシティでは、スプーン曲げは挨拶代わりになっているようだ。

磯嶋の様々な好意は、元の世界に戻ることを考えている牧石にとって、感謝しているが、同時に頼りすぎるのも良くないとも牧石は考えていた。

だからと言って、アルバイトを行ってまで生活費を稼ぐのは、元の世界に戻るまでの時間が延びることになり、本末転倒である。

「あとは、早くレベルをあげることか……」
レベルがあがることにより、給付金の金額が増額する。
またサイキックシティ内での施設等の利用料金も割引され、レベルが上がることで割引幅も大きくなるそうだ。
レベル5にもなれば、ゆとりある生活が送れると言われているので、牧石はさらなる訓練を積むことを決意した。 
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