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とある誤解の超能力者(マインドシーカー)

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第7話 レベルアップ




編入試験の合格発表の日、牧石は自室で静かに時間を過ごしていた。
試験結果は、受験した高校で掲示されることになるが、携帯電話のメールに合否結果が送付されることになっているため、自室で待機することになっている。

合格がわかれば、編入試験に世話になった、磯嶋や目黒、迫川ついでに福西にもメールで知らせることになっていた。

牧石は、試験時間にも間に合い、あわてて出発した割には忘れ物もしなかったおかげで合格できるのではないかと思っている。

それでも、牧石は合否のメールが届くまでどきどきしていた。
牧石は緊張感を和らげるために、グルーが出題したの問題の結果を思い出しながら待っていた。



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牧石の目の前を通過した白い車は、急ブレーキの音を周囲に響かせる。
「牧石君、忘れ物!」
白い車の持ち主である磯嶋は、大きな声を出しながら、牧石に駆け寄った。

牧石は、白衣を着ていない磯嶋を見るのは初めてだという、試験に遅刻しそうな人間が考えそうもないことを思いながら声をかける。
「ありがとうございます」

「礼はいいから、早く車に乗りなさい!」
「はい?」
「何言っているの!
試験に遅刻するから早く車に乗りなさい!」
磯嶋は、牧石の手を引っ張ると車に誘導する。

「磯嶋さん。
研究所の方は大丈夫ですか?」
すでに、研究所の開所時刻を過ぎていた。
「室長は一応管理職だから、勤務時間なんてあってないようなものだし、そもそもうちの研究所の研究部門は成果さえだせば、あまり出勤時間にうるさくないの。
それよりも」
磯嶋は、牧石に鋭い視線を向ける。

「牧石君が遅刻で受験できないなんて知られたら、私まで研究所で恥ずかしい思いをするのよ!」
「そ、そうですね?」
牧石は納得できないまま、それでも磯嶋の好意を素直に受け取り、上に開いたドアの下から助手席に乗り込む。
「シートベルト、急いで!」

あわてて磯嶋の指示に従った牧石は、直後の車の加速により、背中をシートに押しつけられる。
ほんの一瞬だが、飛行機の離陸時の加速を思い出す。

牧石は先ほどまで会話をしていたグルーの事を思い出して振り向いてみたが、そこにグルーの姿は存在しなかった。

牧石は、グルーからの、
「よし、なかなか良かったぞ!
しかし、もうちょっと余裕があるといいのだが……」
という言葉に対して、返事を返すことが出来なかった。
確かに、これから試験を受けなければならない自分に、心の余裕などなかった。


牧石は、グルーの質問に対して、予知能力で答えを出したわけではなかった。

牧石は、磯嶋から自分の携帯電話に送られたメールの内容を見て、自分が編入試験の受験票を部屋に忘れたこと、そしてこれから自分のところに向かうことを知った。

牧石は、メールの内容と急激に近づいてくるエンジン音を根拠にして、磯嶋の車の色を言っただけである。
電気自動車が一般的なこの都市で、磯嶋が運転するようなガソリン車は、ほとんど存在しないのだ。

牧石は、車の中で磯嶋に説明すると、
「グルーに限ってそんな甘いテストをするはずはないと思うけど……」
と、磯嶋はしばらく考えていたが、

「もうすぐ到着よ、口を閉じて舌を噛まないように!」
磯嶋は鮮やかなドリフトを決めると、試験会場に車を横付けする。


「がんばってね」
周囲からの視線が集中する中、優雅に手をふる磯嶋から逃れるように、牧石は受験会場へと急いだ。



磯嶋のおかげで、ぎりぎりで試験に間に合った。
試験会場である教室に入ったとき、目つきのするどい試験官や、様々な制服を着た受験生達からの視線が集中したが、もうすぐ試験がはじまるということで、すぐに視線が戻った。

牧石は、自分以外の受験生が全員夏服であることに、少しだけ違和感を覚えたが、すぐに試験に頭を切り替えた。

試験の問題は、自室で問題を解くときに比べて少し時間がかかったが、それでも解答欄の大部分を埋めることが出来た。


午後からは、超能力の実技試験が始まった。
編入試験の願書を提出する際に、サイレベルを1と申告していたが、実技試験のときにサイカードを見てもらったところ、
「牧石君、レベル2になりましたね。おめでとう」
と、試験官に言われて、牧石は驚いた。
いつのまにレベルがあがったのかと首を傾げる牧石に対して、試験官は、
「実技試験を課すのはレベル1以下の人ですから、レベル2のあなたは実技を免除します」
といって、帰ってもいいと告げられた。

牧石は、朝からのどたばたで疲れていたので、素直に試験官の指示に従った。


「……、という感じでした」
「とりあえずは、お疲れさま」

編入試験が終わり自室に戻ろうとする牧石の目の前に、磯嶋の姿があった。

今日は研究所でも白衣を着ないのかとどうでもいいことを質問しようとする牧石よりも先に、磯嶋が話を聞きたいと、食堂まで引っ張られた。

食堂のお姉さんから、
「ここは、デートの場所ではありませんよ」
という言葉を二人は無視し、磯嶋は牧石に試験の感触を質問していた。

「磯嶋さんの助けが無かったら、編入試験に間に合いませんでした。
ありがとうございます」
牧石は素直にお礼を言った。
「そうね、私の助けがなければ、合格は出来なかったでしょう」
磯嶋は、普段とは違う表情をみせていた。
「本当に感謝の気持ちがあるのなら、私のお願いをきいてくれるかしら?」
磯嶋は、牧石のそばに近寄ると、小さな声でささやいた。

「……」
「あら、私のことは大して役にたっていないという事かしら」
磯嶋は悲しそうな表情を見せる。
「……。
そうではありません。
ただ、まだ合格したわけではありませんから」
牧石は慎重に言葉を選びながら答える。
「そうね。
ということは、合格したら私のささやかなお願いを聞いてもらえるということね!」
磯嶋はこれまでにないうれしそうな表情を見せた。
「……。
わかりました」
牧石は、観念した表情で頷いた。



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「~♪」
牧石は、携帯電話のメール着信音に反応して画面を確認する。
送られてきたメールの内容には、編入試験合格の文字が大きく記載されていた。

牧石は編入に必要な手続きを読みとばして、自分が合格したことを4人に知らせる。
すぐに4人からメールが帰ってきたが、牧石が内容を確認しようとしたところで、部屋の入り口からブザーがなった。

「入るわよ~」
磯嶋が牧石の返事よりも前に入室してきた。
牧石は、編入試験の日から、白衣を身につけていない磯嶋の姿にもようやく慣れた。
そして、牧石は磯嶋との約束を果たすため、覚悟を決めて磯嶋に呼びかけた。
「……姉さん」



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「グルーさん」
スーツ姿の男性がグルーの前に現れた。
「私のやり方に、文句を言いに来たのかい。忙しい中をご苦労なことだ」
「誰が来たのかわかると言うことは、驚きがないと言うことですよね?
さみしくありませんか」
「そんなことはない」
グルーは否定した。

「たとえば、君がここに来ることを1年前に予知したが、そのことを知ったときはすごく驚いたよ」
「なるほど、予知した当時は驚くということですか?」
「それに、予知にも限りがあることくらい君も知っているだろう?」

スーツの男は、何かを思い出すような表情で話し出す。
「ええ、確か「明日を知る男」の話ですか。
明日1日の行動を知るためには、今日一日を全て費やす必要がある。
だからその男は死ぬまで、「毎日部屋の中で翌日の行動を予知し続けている」ということを予知し続けるという話ですね」
グルーはうなずいた。
「極論すれば、そういうことだ。
無論、効率化を図ればそんなバカな事はする必要はないが、そうなると予知が曖昧になる」
「予知能力の不確定性原理ですね」
「学者たちが、そう名付けたのは知っている」
グルーの表情に変化はみられない。

「では、私が何故彼をレベルアップさせたのか質問することも承知していますね?」
「君が、サイキックシティを愛していることは知っている。
だが、私に言わせれば君の方こそ本来の目的を忘れているのではないか?」
グルーがスーツ姿の男を見る目は冷ややかだった。

「二人目のサイマスターが誕生したときと、状況が酷似している。
そうなれば、本来の目的から外れるのではないのか」
「新たにサイマスターが誕生すること以外に、本来の目的があるのかい?」
「君だってわかっているだろう。
そのようなことが続いたらどんなことが起こるのかを?」
スーツ姿の男は、いらついたような口調でグルーに追求する。

「無論知っている。
その時が来るのが近いということも」
「君は運命に従うというのかい?」
「そうだ、私ははじめから目的のために生きている。
役目が終われば、それで死んでもかまわない」
二人の間には、沈黙の時が流れた。


沈黙を破ったのは、スーツ姿の男だった。
「ならば、俺が止めてみせる。
サイキックシティの全てを使っても」
「そうだな。
がんばるといい」
スーツ姿の男は、グレーの前を立ち去った。 
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