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とある誤解の超能力者(マインドシーカー)

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第3話 勉強開始



ハローワークから帰った牧石は、部屋のコンピューター端末で学校の情報を調べていた。
もっとも、調べてくれるのはコンピューターで、その内容を牧石はずっと読んでいた。


「航空技術専門校か、おもしろそうだな。
ただ……」
牧石にとって、どのような進路をとるか悩んでいた。


牧石は、現実世界に戻ることを考えていた。

それならば、現実にあわせた進路をとる必要がある。

この都市は、かつて牧石が暮らしていた世界や、都市の外の世界と比べて2、30年ほど進んでいる。
そのため、ここで学んだ知識がそのまま使えるとは限らない。

逆に適切に理論を学べば、戻った場合にいわゆる「技術チート」を行うことができる。
将来の生活は安泰になるだろう。

ただ、牧石は何年もこの世界に留まるつもりはないので、高度な技術習得は無理だと判断した。

結局、普通科の高校の編入試験を受けることにした。

牧石はそのことを、夕食で一緒になった磯嶋に伝えたのだが(当然転生の話は除いて)、話の中で「サイキックシティ」のことを思わず「学園都市」と言い間違えてしまった。

牧石が知っているアニメでは、舞台となった都市のことを「学園都市」という言葉以外で表すことがなかったが、この街では公文書を含めて「サイキックシティ」となっている。

一度誰かに聞いてみたいと思ってはいたが、今日まで聞く機会を得ることはなかった。

「学園都市?
変わった呼び方をするわね。
まあ、全く間違えでもないけれども」
牧石は、何を言われるか身構えたが、磯嶋の言葉に安心した。

ちなみに、磯嶋の服装は、ユニフォームではなく、スーツだった。
ここしばらくは、毎日6時頃に帰るらしい。

「このサイキックシティは、筑波に次ぐ二つ目の研究学園都市だったわ。
当初は、バブル景気崩壊に対する景気浮揚策と、解明され始めた超能力の研究開発が目的だったけど、最終的には独立したので研究学園都市の名前も使わなくなったわね」
「詳しい経過までは知りませんでした」

「あらそう」
磯嶋は、A定食を食べながら牧石を眺めていたが、
「そういえば、牧石君はどうしてこの都市の科学技術が進んでいるか知っている?」
「……いいえ」
牧石は少し考えてから、判らないと首をふる。

「超能力が原因よ」
「超能力ですか……」
牧石は、あまりよくわからないという顔をする。
「正確に言えば、予知能力ね。
たとえば、ある条件を満たした素材を開発するために、技術者は様々な実験を行うわ。
でも、正確な予知能力があれば実験の回数を減らすことができる。
そうなれば、一つの研究に必要な開発期間も短縮できるし、経費も節減できる。
そして余った時間とお金で、次の研究に勧めることができる。
それが、積み重なっていった結果が、サイキックシティと外の世界との技術力の差なのよ」

「・・・・・・なるほど」
牧石は、磯嶋の説明に素直に感心した。

「秋子、牧石君。
お楽しみのところを邪魔して悪いんだけど、もう閉店時間なんだけど」
牧石と磯嶋の前に現れたのは、食堂のポニーテールのお姉さんだった。
「悪い。
つい、話し込んでしまった」
磯嶋は、立ち上がって、容器を食器置き場に持って行く。
「すいません」
牧石は素直に謝った。
「牧石君。
夜食はどうするの?
いつものでよいの?」
お姉さんは、優しく尋ねる。
「すいません。
お願いします」
「そう言うと思って用意したわよ。
勉強がんばってね」
牧石はお姉さんから、おにぎりを受け取る。

ちなみに、具は余った食材を適当に入れているので、何が入っているのかは食べてみないと判らない。
「ありがとうございます」
牧石はおにぎりを受け取ると、自室に戻った。



「高校の勉強は難しいな……」
牧石は、研究所に併設している教育機関で余った教科書をもらい受けて、勉強をしていた。

毎年、教育機関で使用する教科書や参考書を選定する際に、出版社が教材を送ってくる。
選定が終わった教材は処分することになるのだが、編入試験の手続きについて相談するために職員室に行った牧石が、めざとく見つけて手に入れたのだ。
ちなみに、編入試験の手続きについては、職員室ではなく、学校の事務局が窓口だった。

編入試験の要綱を確認し、出題内容を調べたのだが、中学校とは大きく違うことに牧石は戸惑っていた。

「なにか、一段階飛んでいるような感じだな……」
牧石は、ため息をもらした。
「選択式の問題なら、僕の超能力で問題は解決するけど、記述式ならそうもいかない……」
5択程度であれば、卒業試験と同じ方法で答えることができる自信があった。
「だが、それじゃあ、勉強にならないからなぁ。
そうだ、明日勉強法を聞いてみるか」

牧石は、明日あうことになっている友人達に相談することにした。



翌日のお昼の食堂には、牧石のそばに迫川と福島、そして目黒が同じテーブルで食事をしていた。
「編入試験の範囲なら、中間試験とほぼ一緒だな」
目黒が答える。

「牧石君、編入試験を受けるんだ!
がんばってね!」
牧石は、迫川から右手をぎゅっと握られて上下に動かされている。

「牧石、知っているか?
迫川は誰にでもそうするのだぞ?
恐ろしいだろう」
牧石の隣に座る目黒が、同情の視線を送る。

牧石は迫川と出会うたびに過剰なスキンシップを受けるのだが、いまだに慣れない。

コンビニで、いつもお釣りを両手でしっかり握って手渡す女の子の店員さんや、毎日通勤する電車やバスの近くの席に座って来る他校の女生徒と一緒で、自分に気があるわけではないと判っているのに意識してしまう。

「しかも、暁はなんとも感じないときたものだ」
目黒の言葉に、牧石は視線を長身の福島に向ける。

福西は食べていたご飯を置いて反論する。
「何を言っている?
俺だって、超能力を持っている。
何も感じないはずはあるまい」
「……」
福西はいつものように、天然モードだった。

「僕のこの状態を見て、何を感じている」
牧石は、少し挑発するように言った。
「そうだな。
編入試験を受けるのなら、予備校に通ったほうがいいと思うぞ。
君のように、外から来た人の為に用意されたコースもあるし」
福西は、牧石に対して親切丁寧に教えてくれた。
あいかわらず、迫川が牧石の手を握っているにも関わらず。

「……。
説明ありがとう」
「お礼なら、合格してから言ってくれ」
福西は、ライス(大)を食べ終わると平然と答えた。
「福西、今日はおかずを食べないのか?」
牧石は、福西が食堂でご飯しか食べていない事を指摘した。
「おかずなら、今朝食べたばかりだ。
それがどうかしたのか?」
「……。いや、なんでもない……」
牧石は福西の行動を指摘することを放棄した。

牧石は目黒に、中間試験の問題と解答例をもらうことを頼んだ。
迫川には、ノートを借りることを頼んだ。
福西には、特に何も頼まなかった。



磯嶋が仕事場としている研究室は、能力開発センターの隅に存在する。
部屋の入り口には、戦略研究局統括研究部第4室と示されている。

その部屋に入ると、約12畳ほどの研究室としては小さな部屋に大きめのテーブルが1つと、応接セットが置かれていた。

研究室と言うよりは、部長室の名前がふさわしいと思われる室内に、部屋の主である磯嶋と福西がいた。


「よろしいのですか?
磯嶋先生。
彼は、また勘違いをしているようですが?」
「牧石君は、自分でなんとかしたいようですから。
彼の判断を尊重してあげないとね」
「尊重ですか、良い言葉ですね。
でも、それならどうして彼に必要な情報をあげないのですか?
具体的に言えば、編入試験が目的で予備校に通った場合でも、助成金を受けることができることをなぜ言わなかったのですか?」 
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