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ルサールカ

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第一幕その四


第一幕その四

「だって。私はあの方が好きなんだから」
「人間でもかい?」
「ええ」
 返事にも迷いはなかった。
「あの方が人間でも私が精霊でもいいの。あの方が好きなの」
「本当なんだね?」
「本当よ、嘘は言わないわ」
 その言葉にも迷いはなかった。
「絶対に」
「そこまで言うのかい」
 お婆さんはルサールカの決意が固いのを見て取った。
「絶対に一緒になりたいんだね」
「ええ、だから」
「おっと、そっから先は言わないでおくれ」
 ルサールカにそれ以上話させなかった。
「御前さんの決意はわかったから。いいね」
「それじゃあ」
「仕方のない娘だよ」
 その顔も声もやはりお爺さんと同じだった。悲しいものだった。
「どうしてこんなことになったのやら」
「御免なさい」
「だから謝らなくてもいいんだよ」
 お婆さんはまた言った。
「けれど。いいんだね」
 そのうえで尋ねる。
「地上に上がったらまず力を失ってしまうよ」
「ええ」
 ルサールカは覚悟を決めた顔で頷いた。
「精霊としての力は。それに」
 さらに言う。
「力をなくしたせいで喋れなくなるし。しかも若し恋が破れたら」
「どうなるの?」
「悲しいことになるんだよ」
 お婆さんは沈んだ声で言った。
「力をなくしたままここに戻ってくることになるんだ。もう水の中にも入られない」
「それって・・・・・・」
「そうさ、何も出来ないままずっとここにいることになる。それでもいいのかい?」
「それは・・・・・・」
「だからお止め」
 お婆さんは最後と思いルサールカを止めた。
「今ならまだ間に合うよ」
「それでも」
 だがルサールカの決意は揺るがなかった。
「私はあの方と一緒にいたい」
 彼女は言う。
「何があっても。一瞬でもいいから」
「本当にいいんだね?」
「いいわ」
 迷いはなかった。
「それでもいいから。だから」
「わかったよ」
 ここまで言われてはもうそれに応えるしかなかった。
「じゃあこれをお飲み」
「これは」
 お婆さんが差し出したのは青い丸薬であった。一粒あった。
「御前さんを人間にする魔法の薬さ」
「これが」
「それを飲んだら御前さんは人間になれる。そしてその王子様とも一緒になれる」
「それじゃあ」
「あげるよ。だから」
 お婆さんは言う。
「御前さんの好きなようにし」
「お婆さん・・・・・・」
「けれどいいかい?」
 お婆さんはまた言う。
「何があっても。後悔するんじゃないよ」
「ええ・・・・・・」
「それだけはいいね」
「わかったわ」
「可哀想なルサールカ」
 お爺さんはそんなルサールカを感じて呟いた。
「人間なんて好きになって」
 だがそれがルサールカの選んだことだった。彼女は決めたのだ。もう迷わないと。そして彼女は薬を飲んだのであった。
 湖のほとり。狩人の服をした若者がいた。
 黄金色の髪に青い瞳、白い肌を持つ端整な若者だった。瀬は高く気品も漂っている。一目で彼がやんごとない身分にあることがわかる。
「この森は変わった森だな」
 彼は湖の側でこう呟いた。
「何回通っても何か不思議な感じがする。まるで迷路の中にるような。この湖にしろ」
 ルサールカのいる湖だ。そこを除いた。
 
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