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群狼、斯く斗えり

作者:入川結人
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1st:Prologue

『エリア・アルファ、状況終了』
『同ブラボー、状況終了』
『チャーリー、状況終了』
 念話通信で流れ込む声。辺りを見渡してみれば、彼方此方で戦闘が行われていたのを示す様に、幾筋かの煙が立ち昇る。
『エリア・デルタの状況はどうか。報告を要求する』
 額に滲む汗を拭おうとして、鋼同士の触れ合う感触と、音を感じ取る。自らがまだ戦場に留まっていると言う現実は、不快感と苛立ちを僅かずつではあるが、しかし確実に募らせるものだ。
『エリア・デルタ、応答せよ。早急に現時点での状況の報告を求む』
 先程よりも強い語気で繰り返されるオーダー。勢い頭を振って、付近で動く物を探す。フィルタのかかった少し狭い視界の中には、生物の死骸や、破壊されて散乱した機械部品しか無かった。
「エリア・デルタ、掃討――完了。これより帰還します」
 ほうと大きく息を吐き、報告終了と同時にヘルメットとマスクを外す。
 瓦礫の崩れる音。反射的にデバイスを向け、続いて視線を振る。先程まで戦っていた男が起き上がろうとして出来なかったのか、小さな土煙が人体の側を流れていた。
「……め……」
 恨み節だろうか、小さな声は、しかし怨嗟の色をはっきりと映している。
 ブーツ越しに土を踏む感触を確かめながら、倒れ伏す男に狙いを定めつつ、ゆっくりと近付く。風に乗って髪が暴れ、視界にかかり、それを手で抑えて男の前で立ち止まる。
「管理局の……犬め……!」
 近付いた今になって、はっきりと聞き取れた、侮蔑の言葉。言葉は凶器、とは、誰の言であったか。そんな事を思いながら、しかし人間の持つもう一つの凶器である、無言の冷めた視線で貫く様に見詰める。そんな睨み合いが何分続いたか。
「犬は犬らしく、主人の下で尻尾を振っていれば……!」
 それが、男の最後の言葉だった。それでも尚、視線の温度は絶対零度。人命が失われた事に対しても、それがさも当然の様に振る舞える様になって、一体何年が経つだろうか。
「私達は犬じゃない――狼だ」
 生きている物は何一つ無い破壊の跡地で、独り、呟く。 
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