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カルメン

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第三幕その四


第三幕その四

「私もそうだからね。半年経てばね」
「しかしだ」
 ホセは感情を何とか押し殺してまたエスカミーリョに言った。
「相手はジプシーの女だぞ」
「それはもうわかっている」
 何を今更といった感じであった。
「高くつくぞ、それでもいいんだな」
「望むところだ」
 エスカミーリョはそう言われても全く臆するところはなかった。
「金にも何にも困ってはいない。それでは何で支払えばいいのかな」
「剣だ」
 ホセはこう言うと腰にかけてある剣を抜いた。
「御前も持っていないのならもう一本あるが」
「ふむ。ということはだ」
 エスカミーリョはここまでのホセの言葉を聞いて楽しそうに言ってきた。
「ではあれか。その兵士とは君のことか」
「だとしたらどうするんだ?」
「そうではなくてはな」
 だがエスカミーリョはそれを聞いても動じない。楽しそうに笑うだけであった。
「恋を手に入れるには決闘が付き物だ。つまりそれが今だ」
「わかったのならどうするんだ?剣なら」
「それはもうこっちで持っているさ」
 エスカミーリョは腰にある剣を抜いてきた。そうしてそれを構える。闘牛士の構えであった。
「こうしてね」
「やるというんだな」
「如何にも。しかし君のその構えは」
「何だ?」
「ふむ。ナバラのものか」
 ホセの剣の構えを見てすぐにそれがナバラのものであると見抜いた。
「すぐ側の生まれなんだな」
「その通りだ。御前のはマタドールか」
「そうさ。私のそれは兵士のそれとは違う」
 エスカミーリョの声と目が鋭くなった。
「決闘のものだ。常に死と背中合わせの」
「それは兵隊も同じことだ」
 ホセも負けてはいない。先に剣を出したのは彼だった。
「くっ」
「ふむ、かなり筋がいいな」
 エスカミーリョは今のホセの剣捌きを見て言う。
「中々やるようだな」
「俺の剣をかわしたのか」
「危ういところだったがね。かわさせてもらったよ」
「だが。次はないぞ」
「そうだろうね。それなら」
 エスカミーリョも本気になる。声にそれが出ていた。
「私も参る」
「来い、せめて一撃で仕留めてやる」
 二人の間に火花が散る。だがそこに。カルメン達がやって来たのだった。
「止めるんだね、ホセ」
「カルメン」
 カルメンはすぐに二人の間に入る。それにダンカイロ達もつづく。こうして両者の決闘はとりあえずは分けられることになったのであった。
「また今度か」
「悪いがそうしてくれ」
 ダンカイロがエスカミーリョに対して言った。
「もうそろそろ出掛けなければいけないからな」
「わかった。だがその前にだ」
「まだ何かあるのか?」
「私の仕事を果たさせてくれ」
 そうダンカイロ達に言うのだった。
「今度のセビーリアの闘牛に来て欲しいのだ。そこで私の腕前を堪能してくれ」
 そう言うとすぐにカルメンを見る。
「是非共。そして」
 その目を見て身構えるホセに対しても言う。
「何の心配もなくね。ではこれで私の仕事は終わりだ」
「帰るのか」
「ああ。言っておくが私は警察とは仲が悪くてね」
 笑って暗にここでのことは言わないと言ってきた。
「それじゃあこれでね」
「ああ、またな」
「セビーリアでね」
 ダンカイロ達はエスカミーリョに別れを告げる。彼はそれを受けて悠然とその場を後にする。彼のことはこれで終わりだったがホセは憮然とした顔のままであった。
「なあホセ」
 そんな彼にレメンダートが声をかける。
「落ち着いてな。何があってもな」
「わかっているが」
「そうしてくれ。ん!?」
 ここでレメンダートは岩陰に誰かがいるのに気付いた。
「そこにいるのは誰だ?」
「ああ、ミカエラだ」
 ホセが彼に言う。
 
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