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カルメン

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第二幕その五


第二幕その五

「それじゃあやってみるわ」
「ああ、じゃあ皆」
 ダンカイロは他の面々に声をかけた。
「俺達は一旦席を外そう」
「カルメンに任せるのね」
「そういうことだ。じゃあな」
「ええ」
 仲間達は店の奥に消えカルメンだけになった。そうするとすぐに店にホセが入って来た。
「いらっしゃい」
「来たよ、カルメン」
 軍服姿のホセだった。営巣にいたせいか少しやつれている。
「御免なさいね、私のせいで」
 カルメンはまずは営巣のことを謝る。
「怒っているでしょうね」
「そのことならいい」
「いいの」
「ああ、俺はわかったんだ」
 胸に花があった。あの黄色い花が。それこそが何よりの証であった。
「俺の本当の気持ちが。カルメン」
 カルメンをじっと見詰めて言う。
「俺は御前が」
「ホセ」
 一旦はその言葉をかわして言うのだった。
「ジプシーの女はね。借りた借りは返すのよ」
「そうなのか」
「ええ、だからね」
 熱い目と声をホセに向けながら言葉を続ける。
「今もね。踊りを見せるわ」
「ジプシーの踊りか」
「ここで皆にも見せたけれどね」
「皆に!?」
 ホセはその言葉にいぶかしむ顔になった。
「誰なんだ、それは」
「大尉さんよ」
「大尉に」
 スニーガのことであった。ホセは階級だけでわかった。
「お見せしたのだけれどね」
「何てことを」
「あら、妬いてるのね」
 顔を赤くさせらホセに微笑む。
「カナリアみたいね。色も性格も」
「この軍服が黄色いからかい?」
「そうよ。けれど今は」
 ここでまたホセに言う。
「あんたのために踊るわ。いいわね」
「ああ、是非共」
 ホセもそれに応える。
「頼むよ、そのジプシーの踊りを」
「わかったわ。あら」
 カルメンは辺りを見回してあることに気付いた。
「カスタネットがないわ。あんたが隠したのね」
「馬鹿な。俺はそんな」
 ホセは生真面目な顔で言葉を返す。
「そんなことはない」
「焼き餅焼かなくていいから」
「そういうことじゃない。ここにあるじゃないか」
 必死になった顔でテーブルの上を指差す。見ればそこに本当にあった。
「ここに。ほら」
「やっぱり隠していたのね」
 カスタネットを差し出してきたホセにまたこう言って笑ってみせた。
「本当に焼き餅なんだから」
「俺をからかってるのか?」
「だって好きだから」
 ここでは少女のようになったのだった。
「それでよ」
「それでなのか」
「ええ」
「じゃあカルメン」 
 ホセも本気だった。もう逃れられることはできなかった。自分ではそれに気付かないままカルメンに対して言葉を続けるのであった。
「俺の為に。踊ってくれ」
「わかったわ。それじゃあ」
 カスタネットを手にあのテーブルの上にあがる。そうして歌い踊りはじめるのであった。
 
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