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カルメン

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第二幕その二


第二幕その二

「まずは一杯」
「是非共」
「わかりました。それでは」
 エスカミーリョは笑顔でその杯を受け取った。そうしてそれを右手に高々と掲げ高らかに歌うのであった。
「皆さんの杯に返礼させて下さい。何故なら軍人と闘牛士は戦いを好む同士気が合いますから」
「その通りだ」
「流石にわかっているな」
 将校達はエスカミーリョの今の言葉に機嫌をさらによくさせた。
「祭りの日に闘牛場は満員、上から下まで満ちている。客達は大騒ぎで叫び足を慣らして興奮の坩堝」
「まるで戦場だ」
「確かに似ている」
「今日は武勇の祭り。血気盛んな人々の祭りだから、さあ構えはいいか!」
 高らかな声をまたあげる。右手の杯が剣に見える。
「トレアドール!」
 叫ぶとワインを飲み干す。杯は上に投げられる。それと共にエスカミーリョは剣を構える動作をする。上着を脱ぎそれを左手に持ってマントに見せる。そのままトレアドールであった。
「構えはいいか」
「そうなる?」
「不意に場は水を打ったように静まり返る」
 エスカミーリョは前を見据え構えたまま歌う。
「どうした?叫び声も足も止み皆息を飲む。その時だ!」
「何が起こった!」
「囲い場が跳ね上がり牛が飛び出す!巨大な黒い牛が!」
「牛が!」
 皆その光景を目に見ていた。それで本当に叫んだ。
「来るぞ!前に!馬が倒されピカドールが引き摺られる」
「まずいぞ!」
「それは!」
 見えない筈の光景が目に思い浮かぶ。誰の目にも。
「牛のあまりもの強さに観客達は息を飲む。言葉さえもない。牛は背中に突き刺さる槍をものともせず猛り狂い突き進む。闘牛場は血の海になっていく」
「血が!」
「まさに戦場だ!」
「だがその時だ!」
 エスカミーリョはいよいよ叫ぶ。その目の前に牛を見て。
「御前の出番だトレアドール!」
 剣を引いて構え。そして。
「構えはいいか!さあ!」
 突いた。それと共に身を翻す。
「戦え。だが」
「だが!?」
「忘れるな、トレアドール」
 自分自身に対しての言葉であった。
「恋が」
 ここでカルメンを見る。
「恋が御前を待っているぞ。黒い瞳のあの女の恋が!」
 そう言って最後の突きを入れて牛を仕留めた。あまりにも勇壮でかつ派手な歌であった。
「即興の歌ですが」
「いやいや」
「お見事!」
 誰もが拍手をするエスカミーリョの鮮やかな歌であった。
 彼はその拍手の中でカルメンに近寄る。そうして彼女に声をかけるのであった。
「名前を聞いておきたいな」
「どうしてかしら」
「今度の牛を倒す時にあんたの名前を叫びたいからさ」
 ニヤリと笑って言う。口説きの言葉であった。
「それでね。駄目かな」
「カルメンシータよ」
 カルメンはそれを受けて微笑んで彼に名乗った。
「カルメンシータっていうのか」
「カルメンでもどちらでもいいわよ」
「そうか。わかったカルメン」
 彼はこの名で呼ぶことにした。そのうえでまたカルメンに声をかけるのであった。
「若し俺があんたとを愛してあんたに愛されたいと思ったらどう答えてくれるんだい?」
「愛してくれるのはどうぞ」
 カルメンはエスカミーリョの問いにまずは素っ気無く答える。だがすぐにその目を鋭く、そのうえで熱くさせてまた言うのであった。
 
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