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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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SAO
~絶望と悲哀の小夜曲~
  死への恐怖

「あー………」

レンがベッドに寝っ転がって呻いていると、ドアを開けてカグラが入ってきた。その手に抱えられているのは、綺麗に折り畳められたレンのいつもの服。血色のフードコート《ブラッディ・フードコート》と、漆黒のロングマフラー《マフラー・オブ・ブラックキャット》。

もうこの世にはいない子猫の忘れ形見と、その仇の遺品。

「そんなに呻かなくてもいいじゃないですか」

「だってだってぇ~」

いまだ駄々をこねるレンを見て、カグラはふぅ、とため息をつく。

「だいたい、少し行ってすぐに帰ってくればいいだけの話ではないですか?」

「……ずいぶん簡単に言わないでよ~。そんなの言ってたら、こっちまで簡単に思えてきちゃうじゃん」

「それで簡単に感じるあなたもあなたと思いますが………」

そう言いながら、カグラはキングサイズのベッドの隅に腰掛ける。

「はああぁぁぁ~」

とてつもなく重いため息をつくレンを見て、カグラはくすりと小さく笑う。

その笑みを見ながら、レンはこうなったそもそもの発端をウインドウとして目の前に発現させた。

そのウインドウに映っているのは、一通のメール。

from:Heathcliff

main:レン君、休暇中のところすまないが七十五層のボス攻略に参加して欲しい。無理にとは言えないが、できれば参加して欲しい。詳しい事情は会議で話すが、すでに被害も出ている。

別に無視しても全く問題はなかったのだが、しかしメッセージの末尾の《被害》の文字を見たら、さすがにノーとは返せなかった。

それからあんなことやこんなことがあって、出発の朝になったのだ。

ちなみに、とある純白の少女は朝が極端に弱いこともあってか、AM7:00というこの時間辺りは自室で爆睡しているのだろう。

あの純真無垢な少女の奇妙な特技は諸説あるのだが、そのうちの一つは夜中、寝ぼけてレンのいるところへ灯りに吸い寄せられる蛾のように来るのである。

ベッドならばまだいいのだが(いやよくないのだが)、一度トイレに立っているときにドアを開けられて本気でビビッた。なぜならば、そんなときの彼女は真っ白な髪が乱れてオバケみたいになっていたからだ。もちろん、そんなことは死んでも言えないが。

「彼女のことは心配しないで下さい。私からどうにか誤魔化しておきますから……」

「ん、わかった。よろしく頼むね、カグラねーちゃん」

レンが頷いて、ベッドから立ち上がり、カグラの手からコートとマフラーを受け取って装備する。安っぽいグレーのシャツの上に、ツヤのある血色の布地が出現した。そして、濡れたように輝く漆黒のロングマフラーも。

すっかりいつもの格好になったレンを、どこか眩しそうにカグラは見る。

「それがどこか、懐かしく思えるのはなぜでしょうか?」

「さあねぇ。でも、これで最後だと思いたい───」

「ん?レン……?どうしたの?」

げっ、と互いに顔を見合わせるレンとカグラ。

完璧に寝てると思っていた。

目を擦りながら現れたマイは、いまだ覚醒には至らずという感じでゆっくりと部屋の中を見渡す。その服装は、例のごとく《兎轉舎》女主人、イヨから貰い受けた白猫パジャマだ。

「レン……、なにしてるの?」

「……ぁ、いや。マイ………これはですね…その――」

しどろもどろに何か言い訳を言おうとしたカグラをレンは手で制す。

「マイちゃん、ちょっと僕は出かけてくるよ」

「帰ってくる?」

きょとんとした顔で問いかけてくるマイ。だが、レンは感じていた。

これは真剣なものだと。

だから、レンは笑顔で大きく頷いた。

「うん、絶対帰ってくる。心配しないで」

そう言うと、マイはにぱっと笑った。

「うん、分かった、いってらっしゃい」

そう言ってレンはドアノブに手をかける。

晩秋の朝の空気に冷やされたそれは、如実にあることを告げていた。これを捻れば、引き返すことができないことを。ほのぼのした日常と別れなければならないことを。

───何をバカなことを。

レンは一人、首を振るう。

戻る、そう心の中で確かに思う。

その強力ボスとやらを速攻で退治して、この温かい日常に戻ってくる。

絶対に、絶対に。

───だが。

小さな小骨のようなものが、ノドにちりちりと引っ掛かる。ヒースクリフからのメッセージによると、もうすでに何人もの死者が出ているような雰囲気だった。

そんなのと戦って、果たして無事に帰ってこられるのだろうか。

脳裏にポツリと浮かんだその思考が、暗雲のように広がっていく。やがて、否応なく一つの単語が浮かび上がる。

死ぬんじゃないだろうか、と。

万に一つもない。というか、そもそもそんなことは絶対にしない。

『ダレノタメニ?』

脳裏で金属質のエフェクトを帯びた声が、陰々と響く。

それを聞き、レンはこっそりと自らの背後を振り返る。そこには、こちらをきょとんとした金銀の瞳でこちらに視線を向けてくる長い純白の髪を持つ少女がいた。

そして、その傍らには艶やかな黒髪を後ろで束ねた背の高い女性も。

その二人をゆっくりと見て、レンはその声に返す。

───このヒト達を、護るために。

するとすぐさま声が返ってくる。

『ナンノタメニ?』

───理由?そんなの………

レンは少女の視線を、正面から受け止める。

───そんなもの………

そして、レンは口を開く。

「いってきます、マイ!」

驚きで目を見開くマイの顔から目を逸らし、レンはきびすを返す。

───いらない───










「偵察隊が、全滅………ッ!!?」

約六ヶ月ぶりにアインクラッド第六十一層主街区【ミンヘイ】の《尖白塔》に登ったレンを待っていたのは、衝撃的な知らせだった。

かつてレンも同席し、熱い意見を出し合ったあの円形の会議室である。

部屋の形と全く同じまん丸の机の周りには、ヴォルティス卿の肉食獣じみた威圧感を放つ巨躯、ヒースクリフの賢者然としたローブ姿、シゲさんのひょろりとした体躯とチャームポイントでもある巨大鍋、テオドラのチョコレート色で形作られたしなやかだが強靭な体、ユウキの紫のブレストアーマーに包まれた小柄な体。

レンが同席していた頃と比べて一つだけ違うのは、レンのもといた第三席に深々と座り込む、黒尽くめの人影。キリト。

後ろにはなぜか、【血盟騎士団】所属のアスナもいた。こないだあったときは思い出さなかったが、この二人新婚さんなのであった。

レンと同じく、休暇扱いのこの二人をも呼び出すとは、いよいよ持って尋常ではない事態のようだ。

ヒースクリフは顔の前で骨ばった両手を組み合わせ、眉間に深いしわを刻んでゆっくり頷いた。

「昨日のことだ。七十五層迷宮区のマッピング自体は、時間は掛かったが何とか犠牲者を出さずに終了した。だが、ボス戦はかなりの苦戦が予想された………」

それはレンも考えないではなかった。

なぜなら、今まで攻略してきた無数のフロアのうち、苦々しい思い出の二十五層と五十層のボスモンスターだけは抜きん出た巨体と戦闘力を誇り、どちらの攻略においても多大な犠牲者が出たからである。

思い出したくもないが、二十五層の双頭巨人型ボスモンスターには、結果的に軍の精鋭がほぼ全滅させられて現在の弱体化を招く原因となったし、五十層では金属製の仏像めいた多腕型ボスの猛攻に怯み、勝手に緊急脱出するものが続出して戦線が一時崩壊、援護の部隊がもう少し遅れていたら全滅したかもしれない。

その間、その戦線を一人で支えたのがヒースクリフで、その援護部隊の到着を待たずにボスを倒したのが目の前にいる筋肉漢なのだが。

クォーターポイントごとに強力なボスが用意されているならば、七十五層も同様である可能性は高かった。

「そこで我々は、攻略ギルド合同のパーティー二十人を偵察隊として送り込んだのだ」

ヴォルティス卿が、重々しい声で言う。白銀の短髪の向こうに光る黄金の瞳からは何も読み取れない。

「偵察は慎重を期して行われた。十人が後衛としてボス部屋入口で待機し………最初の十人が部屋の中央に到着し、ボスが出現した瞬間、入口の扉が閉ざされたのだ」

ヴォルティス卿の説明を、左隣にいたシゲさんが引き継ぐ。

「ここから先は後衛の十人の報告になりますな。彼らの報告によると、扉は五分以上開かなかったらしいです。鍵開けスキルや直接の打撃など、何をやっても無駄だったそうですじゃ。ようやく扉が開いた時───」

そこでシゲさんが沈黙し、口元が硬く引き結ばれた。その先は、更に左隣にいたテオドラが言う。

「………部屋の中には、何もなかったらしい。十人の姿も、ボスも消えてたそーだ。ついでに言っとくと転移結晶を使った形式もなし。結局、そいつらは帰ってこなかった………。念のため、基部フロアの黒鉄宮までモニュメントの名簿を確認しに行かせたんだが………」

その先は言わず、テオドラは首を左右に振った。

レンは鋭く目を細め、唸るように呟いた。

「………結晶無効化空間………………」

レンの言葉を、ヒースクリフは小さく首肯した。

「そうとしか考えられない。七十四層でもそうだったと言うことだから、おそらく今後全てのボス部屋が無効化空間と思っていいだろう」

「うそ………でしょ…………」

レンは嘆息した。

緊急脱出不可となれば、思わぬアクシデントで死亡する者が出る可能性が飛躍的に高まる。死者を出さない、それはこのデスゲームを攻略する上での大前提だ。だがボスを倒さなければくリアもありえない………。

「………ハッ!いよいよ本格的なデスゲームになってきたってわけ?」

「だからと言って、攻略を諦めるなどと言う選択肢は我々にはない」

ヴォルティス卿は目を閉じ、囁くような、しかしきっぱりとした声で言った。

「卿の勇戦を期待する。攻略開始は三時間後、予定人数は卿を入れて三十二人。七十五層コリニア市ゲートに午後一時集合だ。それでは───」

ヴォルティスはイスを鳴らして立ち上がる。

「解散」 
 

 
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「元気になったね。治ったの?風邪」
なべさん「おう!もうばっちりだぜ!!」
レン「そのわりには鼻水ずるっずるだけどね」
なべさん「言うな!フンッ!チーンじゅるじゅる」(鼻をかむ音)
レン「だから汚いって」
なべさん「すまぬ」
レン「それでは、お便り紹介いくよー」
なべさん「おーう」ずるずる
レン「ルフレさんからのお便りで、どんどんストーリーが酷くなっていく~だってさ」
なべさん「いいじゃん」
レン「いいのか」
なべさん「だって、キーワード辺りに書いたじゃん。原作の夢ぶっ壊しって」
レン「んーまぁ確かに」
なべさん「ならいいじゃん」
レン「いいのか」
なべさん「はい、自作キャラ、感想をどしどし送ってきてくださいね~」
──To be continued── 
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