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ラインの黄金

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第一幕その四


第一幕その四

「このラインの黄金で指輪を作ったなら」
「指輪をか」
「無限の力を与えられこの世の全てを手に入れることができるのよ」
「何っ、それは凄い」
 アルベリッヒもこれを聞いて驚きの事をあげた。
「それではわしがそれを手に入れれば」
「私達のお父様」
「あのヴォータンが」
 彼等の父の名前も出した。
「この輝く財宝を守れというように命じたのよ」
「邪悪な者が狙わないように」
「そういうことよ」
「ふむ。そうなのか」
「もっともそれをできる人はいないわ」
 しかし彼女達は安心したようにここで言った。
「黄金を指輪にできる人はよ」
「そんな人はいないのだから」
「いないというのか」
「そうよ。そんな人はいないわ」
 こうアルベリッヒに話すのだった。
「絶対にね」
「いる筈がないのよ」
「何でそんなことが言えるんだ?」
 乙女達の言葉の意味がわからず問い返すのだった。
「そんなことをだ。どうしてだ?」
「それができる人は愛の力を諦めた人だけよ」
「愛をか」
「そう。そして愛の喜びを追い払うことができた人だけが」
 また言うのであった。
「それができるのよ」
「黄金を指輪に変えることがね」
 こう話していく。
「そんな人はいないから」
「生きていたら誰だって誰かを好きになるわ」
 だからだというのである。
「そんなことなぞできるものじゃないわ」
「あんたは特にそうね」
 またしてもアルベリッヒをからかいにかかってきた。
「女好きなんだから」
「女の為なら破滅さえ厭わないわよね」
「その通りでしょ」
「いや」
 しかしであった。ここでアルベリッヒは暗い顔で言うのだった。言いながらそのうえで意を決した顔にもなっていた。暗い情念に支配された顔だった。
「あの黄金を指輪にすればこの世の全てが手に入る」
「そうよ」
「今言った通りよ」
「わしは愛を手に入れることはできなかった」
 このことは今よくわかったことだった。乙女達の悪意によってだ。
「しかしだ」
「しかし?」
「どうしたというの?」
「わしの悪知恵がこの情念を抑えることはできるだろう」
「できるというの?」
「その元を断ってしまえばいい」
 笑っていた。しかしやはり暗い笑顔であった。
「それであの黄金を指輪に変えてやるのだ」
「えっ、まさか」
「本当にそうするというの!?」
「河の水も聞いておくのだ」
 曲がった背中を精一杯伸ばして今宣言するように告げた。
「わしは永遠に愛を呪うのだ」
「何てことなの?これでは」
「黄金が奪われてしまうわ」
「もう遅い!」
 アルベリッヒはその黄金に近付いていく。乙女達が止めようとするのを払って。
「無駄だっ!」
「きゃっ!」
「わしはニーベルングの王なのだ」
 その己のことを話した。
「そのわしに御前達風情が適う筈もなかろう」
「そんな、黄金が!」
 こうして黄金は奪われたのだった。そうして今全てがはじまったのであった。
 途方もない高さの山の上に彼等はいた。そうしてそこで神々しい服を着ていた。見れば彼等の服はみらびやかで着飾ったものであった。端整であり豪奢ですらあった。
 
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