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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第36話 そして、結婚へ・・・

モンスターの周囲に冷気の風が舞い、発生した無数の氷をモンスターにぶつける。
「どうですか、私の呪文は?」
ジンクが冷気呪文ヒャダインを唱えると、自慢げに感想を求めてきた。
「綺麗ですね」
セレンがいつものように、感嘆の声をあげる。
「効果がないぞ」
俺がすかさずつっこんだ。

ゴリラに似たモンスターや、大きな面を身につけたモンスターは平気のようだ。
俺は、モンスター達に爆発系呪文イオラをぶつける。
「だめでしたか」
俺のイオラが効いたのを確認したジンクは、俺と同じく、イオラを唱えようとしていた。


俺たちは、アイテムを買うためにサマンオサ城へ向かっている。
俺が旅の扉の酔いからさますため、半日休んだのは内緒だ。
「アーベル、何やっているの。新手が来たわよ」
「了解」
俺は、空から飛んでくるモンスターを見ていた。
「ごくらくちょうか」
確か、二回攻撃と回復魔法を覚えていた。
本来なら、やっかいな敵だ。
「普通ならばね」

俺は、再度イオラを唱えようとする。
ごくらくちょうは俺たちが攻撃する前に、仲間にすばやく回復呪文を唱えるとそのまま逃げてしまった。
残されたモンスターたちは、俺とジンクの魔法によって倒れた。

「残念でしたね」
珍しくセレンは不満そうな顔をする。
「ごくらくちょうか」
「はい」
「まあ、気にするな」
「父から、あの肉は絶品と聞いていたので」
「そうか」

まあ、今後機会があるだろう。
セレンの料理の腕は確実に上昇している。
非常に楽しみだ。
「そのときには、私も呼んでくださいね」
ジンクは、期待を込めてセレンにお願いした。
「いいですよ、初めてなので上手くいくかわかりませんが」
「ありがとう、セレン。とはいえ、簡単にはあえなくなりますね」
ジンクは珍しくさみしそうな声をした。
俺は、少し気になったが、すぐにセレンにたのしそうに料理の話をしたのを見て、忘れてしまった。


俺は、サマンオサの商店で1人買い物をしていた。
旅の扉のところで、酔い覚ましをしていた俺は、セレンとテルルにアイテムをプレゼントすると口が滑った。
それならばと、俺が1人で買い物に行くことになったのだ。
俺は、一緒でも問題なかったが、皆を旅の扉のところで待たせたのだ。
多少のことは気にしない。
買い物がすむと、セレンとテルルが待っている宿屋にむかった。


「はい、プレゼント!」
「・・・」
「・・・」
俺は、嬉しそうにプレゼントを手渡そうとしたが、セレンとテルルの顔は無表情だった。
「だから、言ったでしょう。アーベルに期待したら駄目だって」
ジンクは変なことを口にする。
「そうね」
「わかっていたわよ。でも、少しくらい期待してもいいじゃない!」
セレンはジンクの言葉に納得し、テルルは反発する。

「なんで、怒っているのかな?」
「・・・」
「本気で言っているの」
俺が質問したばっかりに、セレンとテルルの怒りの矛先がこちらに向かった。
「剣のデザインが気に入らないとか?」
俺は、おそるおそる尋ねる。
俺が買ったゾンビキラーは店で購入できる武器のうち、商人や僧侶が装備できる最高の剣だ。
多少デザインが気に入らなくても、我慢して装備して欲しい。
「だから、言ったでしょう。アーベルに期待したら駄目だって」
またジンクから同じ言葉を言われた。
「うん」
「わかった」
何が悪かったのだろう。
くやしいが、あとでジンクにでも聞いてみるか。


「すまない、ジンク」
「いえいえ、説明しなかった私が悪いのです」
俺は平身低頭して、ジンクに謝っていた。
宿で2人きりのときに聞いてみたのだが、ジンクはもうすぐ結婚するそうだ。
「忙しい時期に付き合わせて申し訳ない」
「気にしないでください。結婚したら、冒険も出来なくなりますし」
「そうだよな」
俺は、結婚相手を思い出すと、ため息をついた。
「まあ、お幸せに」
「ありがとう、アーベル」

ジンクは俺の手を握った。
「お世話になりました」
「お前らしくもないな」
「最後まで、失礼な人ですね」
ジンクは、少し泣いていた。



俺たちは久しぶりに、ロマリアに来ていた。
来たら捕まるかもと思っていたが、今の王から許可をもらっているので問題なかった。
ただし、俺は顔が知られている。
前王である俺が来たことが国民にばれると、何をされるかわからない。
ごまかす必要があった。

一応、ジンクからの報告では俺の評価は落ちていないらしい。
今の王様が、
「前の王は、同郷の勇者と一緒に、魔王バラモスを倒す準備をしているのだ」
と広報していたからだ。
国民からは、既に一度魔王を倒したと思われているため、それならば彼に任せようと俺を応援しているようだ。

まあ、あまり前王を否定すると、俺が考えた政策まで否定しなければならないので、問題があったのだろう。
今の王は、驚いたことに、国民に結構人気がある。
国民いわく、
「前の王より庶民的で、親しみがもてる」
ということだ。

おかしい、絶対におかしい。
庶民の俺よりも庶民的などおかしいだろう。
ジンクの話を聞いてみたら、今の王は、俺が王に就任してから毎日のように酒場や闘技場に入り浸ってみんなの話を分け隔て無く聞いていたそうだ。
「あいつ、考えがあるとは言っていたが、本当だったのか?」
「私にもわかりません」
ジンクは正直に話す。

それに、大臣を始め部下達にも人気があった。
仕事はほとんど部下に任せる代わりに、まったく口出ししないこと。
成功した場合、部下をキチンと誉め、失敗しても責めずに「次はがんばれよ」と励ますからだ。
仕事を理解していないのに、いろいろ口を出す指導者が多い中、彼は自分の身をわきまえている。
任せて正解だったな。
「まあ、何かあればジンクがいるだろう」
俺はそう思っていた。


思考を今の自分の姿の事に移すと、思わずため息をつく。
「姿をごまかすためとはいえ、これはひどくないか?」
「かわいいわよ、アーベル」
「かわいいです」
テルルとセレンは高く評価してくれる。
だが、全然うれしくない。

俺が身につけているのは「ぬいぐるみ」というアイテムだ。
着ぐるみとも言う。
母親に、ロマリアに行くことを相談したときに、借りてきたのだ。
俺の全身が隠れているから、見た目は着ぐるみでしか評価をされない。

「まあ、すぐ噂になるな」
俺はため息をついた。
歩いていると、何人かの子ども達に抱きつかれたからだ。
城内に入るとき、近衛兵に検問を受けた。
当たり前だ。着ぐるみで歩くなど、怪しいにもほどがある。
幸いにも、近衛兵は知っている奴だった。
「お気をつけて」
奴の姿勢は完璧だったが、今にも吹き出そうな表情をしていた。
俺はこのときほど、王を退位したことを残念に思ったことはなかった。


城内に入れば、ぬいぐるみは不要だ。
すぐに脱いで、普段着に戻る。
「かわいかったのになぁ」
「残念です」
「だったら、お前達が着ればいい」
セレンとテルルの攻撃をかわしながら、俺は今日の目的の人物に声をかけた。


「ひさしぶりだな、ジンク」
「あ、お久しぶりです。アーベルさん」
「よく似合っているよ、ジンク」
「お世辞でも嬉しいです」
「俺は、お世辞などいわない。本当に綺麗だよ」
ジンクは頬を染めた。

突然ジンクは俺のそばにより、耳元でささやく。
「こうかいした?」
急に話題を変えてきたな。
「いや、まだだ。これが終わったらのんびりと船旅に・・・」
ジンクは俺の返事にあきれた顔をみせた。

俺は回答を誤ったのだろうか。
慌てて、別の話を振る。
「それよりも、早く子どもを産んでくれ」
「・・・。恥ずかしいことを言わないでください」
いや、今のロマリア王に何かあったら、前王である俺や、将来生まれる俺のこどもが王位継承争いに巻き込まれかねないのだ。

そんなことを考えながら、改めてジンクの衣装に目を移す。
うむ、やっぱり花嫁衣装は白いドレスがいいよね。
しかも、華美さが抑えられていて、ジンクが持つ清楚な感じが引き立てられる。
言動にさえ注意を払えば、立派に王妃はつとまるだろう。

言動と言えば、以前の宴会で豊胸呪文「特盛り」を披露していたな。
後から教えてもらったが、正直、目のやり場に困る危険な呪文だ。
さすがに、今日は自重したようでほっとしている。


それにしても、すてきな衣装だ。
セレンやテルルも花嫁衣装をみにつけたら、こんな感じになるのかな。
「そう思うだろう。セレン、テルル?」
俺は、振り向いて2人に声をかけようとして驚く。
「・・・」
「・・・」
2人とも石になったように動かない。
「どうした。ふたりとも?」

ジンクの美しさに見とれたのか?
それとも、普段着との違いにとまどったのか。
「アーベルさん」
「お話があります」
「どうした、ふたりとも?あらたまった言葉遣いをして」
俺の質問には答えず、2人は俺の両腕をつかまえると、ずるずると近くの個室までひきづっていった。

「何をする!ジンクとの話は済んでないぞ!」
ジンクは微笑んで、俺に手を振っていた。


「アーベルさん!」
「なにから、話を聞こうかしら?」
俺は、個室で2人に迫られていた。
刑事ドラマにある、取調室で尋問を受けている感じだ。

テルルが尋問の担当らしい。
「あなたは、いつからジンクが女性だと知っていたの?」
「初めてあったときからだが」
王宮で初めて会ったときは、ドレスを纏い、きちんと化粧をしていたからすぐに気がついた。
その後は、ゆったりとしたマントを羽織い、ズボンをはいていたので誰も気付かなかったようだ。
「なら、どうしてジンクと一緒の部屋に泊まるのよ!」
「俺が望んだ訳じゃない。部屋割りの権限は男である俺にはない」
「!」
テルルとセレンは今日まで、ジンクが女性とは気付かなかったらしい。

「どうして、教えてくれなかったのよ!」
「知っていると思ったからさ」
俺は本当に思っていたことを口にする。
「・・・」
だんだんと、テルルの追求の声が小さくなっていった。

「最後に確認したいの」
「なんだい」
俺は質問内容を予想していた。
「ジンクとは、何もないよね?」
「当たり前だろ、将来の王様の后となる女性に手を出すわけがない」
俺はため息をついて、部屋をでた。
「さあ、もうすぐ結婚式がはじまるぞ。見ないと後悔するぞ」
「まって」
「待ちなさい、アーベル」
セレンとテルルは俺のあとについてきた。

ロマリア王と王妃ジンクとの結婚式は、すばらしかった。
母ソフィアの勧めたとおり、自分が王位についたときに結婚式をしなかったことを、少しだけ後悔した。 
 

 
後書き
ジンクとの冒険はこれで終わりです。

解説は不要だと思いますが、豊胸呪文「特盛り」はジンクが開発した独自呪文です。 
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