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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第32話 最後の戦い

「いよいよ、明日ね」
「ああ、そうだな」
「がんばってね、アーベル」
「ありがとう、セレン」
「母さんも応援しているわ」
「・・・、母さんはアリアハンでの作戦に参加しないと」
俺は、久しぶりにテルルとセレン、そして母ソフィアと会話していた。

俺は、ポルトガからアリアハンへ譲渡された船を受け取ると、テルル達3人にアリアハンまでの運搬を依頼した。
母ソフィアが「久しぶりに冒険がしたい」と言ったのが原因である。

「女性だけの旅は楽しかったわ」
「そうですか」
「アーベルの事も、いろいろ聞いたし」
ソフィアは俺に微笑んだ。
一方で、セレンとテルルは顔を赤くして俯いている。
俺は、何か恥ずかしいことでもしでかしたのか。
過去を振り帰ってみるが記憶にない。
あとで、2人に確認するか。

「アーベル。おみやげよ」
「ああ、ありがとう母さん」
俺は礼を言って、母さんから大きな袋を受け取った。

袋の中のものは、明日の為に事前に用意してもらったものだ。
出来れば、使わずにすませたいのだが。
「お金はいくらかかったの?」
「おみやげだからいいわよ」
金を払おうとする俺に、ソフィアはかぶりを振って断った。

「キセノンから吹っかけられなかったか?」
心配して俺は尋ねた。
「そんなことはないわ。就任祝いにこれくらいでも不足だと言っていたわ」

賄賂か。
だが、俺はロマリア王としてキセノン商会に便宜を図るつもりはないが。
俺の考えを見抜いたのか、ソフィアは笑ってこたえる。
「心配しなくてもいいわよ。アリアハン王からの友好のしるしだから」
キセノン商会がアリアハン国王に献上して、アリアハン国王が一部をロマリアに献上したとのことだ。

それならば、安心して受け取れるな。
俺は頷いた。

「かわいい息子の仕事ぶりが見られないのは残念だけど、そろそろ帰らなくちゃね」
ソフィアは席を立った。
ロマリア王国の解放計画に合わせて、アリアハンでもナジミの塔の奪還計画も同時進行する予定なのだ。
「じゃあ、テルルとセレンはあとで活躍を報告してね」
どうやら、テルルとセレンを残すつもりらしい。
「またね」
「ああ、また」

「それと、アーベル」
ソフィアが帰る前にひとこと言った。
「この戦いが終わったら、・・・」
「・・・、言いたいことはわかるから、続きを言うのはやめてくれ」
死亡フラグを立てないで欲しい。
死ぬとしたら、能力的に俺が死ぬ。


「そうか」
俺は2人から船旅の様子を聞いていた。
予想していたとおり、海上では地上ほどモンスターの出現率は高くないようだ。

実は、この世界ではポルトガしか作ることが出来ないというのは事実ではない。
造船技術だけなら、他の国も持っている。
では、ポルトガが作る船と他国が造る船との違いは何かといえば、船体に使用する金属の違いである。

他国が船を造っても、海上に浮くことは出来るが、モンスターからの襲撃に対抗出来ない。
モンスターから船体にぶつかったりするなどの攻撃を受ければ、すぐに船が沈むのだ。
一方で、ポルトガが船体に使用する金属は、水に触れると魔物を追い払う力がある。
そのため、ポルトガ製の船は、モンスターが船体にダメージを与えることは無いのだ。
この金属はホビットのノルドが済んでいる洞窟でのみ採掘されており、彼が金属を提供するのはポルトガ王だけであるのが、ポルトガ製の船だけがモンスターに襲われない理由であり、彼が住む洞窟にモンスターが出現しない理由でもある。

「・・・、という感じだよ」
「そうか」
船旅では、ソフィアがほとんど1人でモンスターを倒していたようだ。
ソフィアは呪文をほとんど使わずに、鞭でモンスターを全滅させたらしい。

確か魔法使いが装備できる鞭は一種類しかないはずだ。
あまり攻撃力が高い武器ではなかったはずだが。
俺は深く考えることをやめ、席を立つと2人に提案する。
「今夜、俺と付き合わないか?」





「昨夜はお楽しみでしたね」
「誤解を招くような事は言わないでくれ」
俺とジンクは、天幕の中で打ち合わせをしていた。
「あなたの方こそ、誤解を招くような発言は控えた方がよろしいかと」
「誤解?なんのことだ」
「お二人から聞きましたよ。私がわざと外したように、あなたも「訓練」という言葉を外したのではありませんか?」
「・・・わざとでは、ないのだが」

俺は指摘されたことの意味にようやく気がついて、頭をかいた。
こんなときに、王冠は邪魔だな。
とはいえ、防御力に心許ない俺にとってこの装備は必須だ。


昨夜は、自分の訓練のため、セレンとテルルを訓練場に招いた。
切り札を使うための練習である。
練習内容は空を飛びながら、砂袋を落とし、落ちる砂袋めがけて、まどうしの杖で放たれたメラをぶつけるというものだ。

俺は当初、飛びながら魔法を使用することを考えていたのだが、同時には使用できていない。
俺には同時魔法使用の才能は無いのかもしれない。
かわりに、杖を使用することで解決を図った。

一方で、高度を一定に保つことと、目標に魔法を命中させることを練習していた。
高度については、訓練場の端にある櫓から、高度が維持されているか確認を行ってもらっている。
高度の確認が必要なのは、モンスターから呪文攻撃を受けないためだ。
当然だが、呪文にも効果範囲がある。

命中の訓練だが、通常の呪文攻撃であれば相手を選んだ時点で、ほぼ確実に命中する。
だが、標的が自由落下により効果範囲から外れると命中しなくなるのだ。
今回の切り札を使用するためには呪文の命中が必要なので、落下する少し前に呪文を命中させる訓練を繰り返していた。

「訓練の成果はどうでした?」
「とりあえず、実戦で使用できるとおもうが」
標的に確実に命中するほど、精度は上がっている。
問題は、実戦で使用できるかどうかだ。
一応計画では、半分の力がでれば十分と考えているが、やってみなければわからない。


俺と、ジンクは机の上に広げられた図面を確認していた。
「とりあえず、順調だな」
「ああ」

既に作戦は開始されており、北方部隊1,500人、東部、西部、南部部隊各100人、そして首都ロマリアに防衛部隊1,200人が展開している。
作戦の基本は、兵の半分を首都の防衛にあて、残りの兵力で北部の都市を開放する。
あとは陽動のため、東部、西部、南部にも小隊を派遣する。
これまでのモンスターの出現法則が正しければ、分散が余儀なくされ殲滅が可能だろう。

当然、陽動部隊はモンスターを引きつけられるだけ、引きつけた後、キメラの翼でロマリアに帰還する。

あらかじめ、冒険者ギルド及び各国に伝達しており、緊急を除きルーラ及びキメラの翼でのロマリア移動について自粛要請をしている。
ここらへんの要請については、外務大臣レグルスに任せている。

俺とジンクと一部の参謀は北部都市ウエイイにいる。
ロマリアの指揮は、内政大臣マニウスに依頼している。
本来は、近衛兵総統のデキウスが行うはずだったが、「攻略に参加せずに、なにが総統だ!」
と反対し、ウエイイ攻略のモンスター遊撃部隊を率いている。

モンスターの出現は、防御結界の作成と想定されている。
俺が号令をかければ、伝達部隊が、一斉に行動を移す。
「それでは、予定通り作戦を実行する」
俺は宣言した。


「南部部隊、撤退しました」
「わかったお疲れさん」
俺は、伝達役をねぎらう。

状況は予想通りの展開となっている。
ロマリアには約2,000のモンスターが出現している。
出現したモンスターの構成が、ロマリア周辺で出現したモンスターと同じ事を確認して、迎撃体制に移行している。
防衛部隊から800人を選出し、包囲殲滅を開始している。
まず、回復役であるホイミスライムや、ホイミスライムを呼び寄せる、さまようよろいを優先的に倒し、早期の無力化を果たしている。

北部も1,800体ほどのモンスターが出現しているが、ロマリア周辺に出現するモンスター構成と同様であるため、こちらも予定通り殲滅戦に移行している。
北部の司令官近衛兵総統のデキウスの出撃で、部隊の士気は非常に高い。
結界が完成する前に、殲滅が終了するだろう。

東部、西部、南部にもだいたい1,500~1,800体程度モンスターが出現したようだが、少し足止めしたあと、ロマリアへの撤退を完了している。
「2都市同時攻略も可能だったのではないか?」
「経済的に無理だろう」
「そうだな」
ロマリアの兵の精度からすれば、モンスターの殲滅は難しいことではない。
だが、戦闘の勝利だけが目的ではない。
都市を奪回し、国力を発展しなければならないのだ。
まずは、一都市。
失敗は許されないのだ。


「ロマリア遊撃部隊から、連絡です!」
伝達の男が、息を切らして天幕に入る。
「要注意モンスター、Bの出現を確認しました」
「Bだと!」
俺たちは、素早く立ち上がる。
「自ら、登場ですか・・・」
「派手にやりすぎたということか」

俺たちは目を合わせる。
「緊急プランBに移行する」
俺は参謀達にプランの変更を宣言する。
「あとは任せた」
俺たちは、キメラの翼でロマリアに帰還した。


「アーベル王」
「出現場所を報告しろ!」
「こちらです。」
到着場所の近くにある、天幕に入る。
そこには、テルルとセレンがいた。
俺は2人を無視して、出現場所を確認する。
要注意モンスターBはロマリアの南西に出現したらしい。

「例のものは何処だ!」
「ここよ!」
俺は、テルルから大きな袋を受け取った。
あとは、セレンとジンクに指示を出す。
「魔法の支援を頼む」
「はい」
「ほい」
セレンは俺に、加速魔法のピオリムをかける。
次にジンクは俺に、守備力強化魔法スカラと魔法反射魔法のマホカンタをかける。
「あとは、まかせた」
「アーベル!」
「・・・、気をつけて」
テルルとセレンの声が聞こえる。
だが俺は振り向かずに、飛行魔法トベルーラを唱えて、外に出た。




飛んですぐに、目的のモンスターがいた。
「魔王バラモスか?」
俺はため息をついて、モンスターを眺める。
魔王バラモスは、ロマリアを攻め込むモンスターたちとは別のところにいた。
率いているモンスターは、ロマリアで出現するモンスターばかりだが、バラモス一体で他のモンスター全てを凌駕する。
それに、魔王がモンスターをキチンと指揮すれば、強大な戦力になる。
魔王自らの襲撃なら、簡単にロマリアの結界も解除され、モンスターの進入を許すだろう。

「まあ、ゾーマでなくて良かったが」
俺は作戦をたてるにあたって、いろいろとシミュレートしていた。
その中には、大魔王ゾーマや魔王バラモスの出現も計算していた。

万一、大魔王ゾーマが出現したら、計画は失敗。
全員撤退の指示を厳命している。
もちろん、大魔王ゾーマのことを知っているのは俺だけなので、要注意モンスターAとして情報提供し、俺が目視してからの撤退となる。

そして、要注意モンスターB魔王バラモス。
俺は、バラモスなら撃退可能と考え、昨日まで計画の準備をしていた。
そして、そのための切り札を持っている。

俺は、上空からバラモスに接近する。
バラモスは俺に気づいて、魔法の準備をしていた。
「イオナズンか」
俺はわざとイオナズンの効果範囲まで近づく。

魔王バラモスはイオナズンを唱えた。
「そういえば、本物のイオナズンは初めてみたな」
どうでもいいことを思い出す。
まだ、気持ちに余裕があるようだ。

放たれた魔法は、俺に当たることなく、反射してバラモスに命中する。
「まずひとつめ」
俺は、バラモスが次の攻撃に切り替える前に、袋の中から切り札を取りだした。
球状の物体をバラモスの頭上から落とした。

「杖は不要か」
俺は、すぐに上昇した。
バラモスは、俺に向かって炎を吐こうとした。
どうやらこの距離からでも攻撃が届くらしい。
「ギャーーー!!」
炎が物体に届いた瞬間、その物体は爆発し、バラモスと周囲のモンスターが爆発に巻き込まれた。


「さあ、爆撃の始まりだ」
俺が切り札として用意したのは、量産化した魔法の玉だ。
迷宮の壁を破壊するだけの力がある。
効果は抜群だ。
バラモスの上空から、魔法の玉を落とし、まどうしの杖で炎を飛ばし、魔法の玉を爆発させる。
とりあえず、連続で8発たたき込む。

鼓膜が破けんばかりの大音響と閃光、そして爆風が発生した。
視界が妨げられた影響か断言できないが、一瞬、空間のゆがみのようなものまで発生したようにも感じられた。


「地形が変わったか・・・」
バラモスがいた場所は爆破の衝撃を受けて、大きな穴が開いている。


「・・・」
気がつけばバラモスも、周辺のモンスターもいなくなっていた。
「やりすぎたか」
俺は、ため息をついた。

だが、戦いはまだ終わっていないのだ。
「本陣にもどるか」
俺は、袋からキメラの翼を取り出すと、ロマリアへと帰還した。
 
 

 
後書き
「予想どおり」の人もいるかもしれませんが、やってしまった。
バラモス城襲撃計画はネタでしたが、いつの間にか戦術として完成していた。
後悔はしています。

さすがに、大魔王ゾーマには同じ戦術は使えない設定です。
特殊攻撃である、こごえる吹雪で魔法の玉を凍らせることができると考えています。 
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