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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第22話 そして、餌付けへ・・・

俺たちは、ポルトガで一泊していた。
王宮の衛兵に使者として、ポルトガ王との会談を要請し、翌日の面談となった。
ポルトガ王の家臣からは、すぐにでも会談は可能な旨を伝えられたが、急ぐ話ではないとして、俺は翌日でもかまわないと答えていた。
テルルとセレンは、商店街を見て回っていた。


「断る」
俺の提案を聞き終えたポルトガ王は、断言する。
「まあ、そうですよね」
ジンクは頷く。
ジンクはロマリアの交渉責任者として俺のとなりにいるが、俺の友人でも部下でもない。

「確かに、勇者の派遣は魅力的ですが、ポルトガが独占している船を与えるほどではないですよね」
ジンクはお調子者だが、ロマリアの代表という立場をわきまえたのか、真面目な様子で話を続ける。
「さらに、アリアハンとロマリアを仲介しただけの我が国にも船を与えるなど、バランスはとれないでしょうね」
「そうでしょうね」
俺は人ごとのようにいう。
「今日のところは、これくらいで失礼します」

「待つがいい」
「なんでしょうか、ポルトガ王」
「今宵はうたげの準備をしておる。そちたちをもてなさねば」
「感謝いたします」
「後が怖いですが、お受けします」

俺の言葉にポルトガ王が反応する。
「後が怖いとは?」
「失礼しました。我が国からの使者は、自分だけですが、共に旅をするものがおり、自分1人が宴を楽しむと知れば、後で何をされるかと考えたしだいです」
宴での外交交渉が怖いという意味ではないことをほのめかす。
「それならば、そのものたちを宴に招こうか」
「お気遣い感謝します。しかしながら、旅のものも自らの立場をわきまえており、ポルトガ王に余計な気を遣わせたと知れば、返って後が怖くなります」

俺は、交渉が失敗した場合に、テルルとセレンに被害が及ばないようにする必要から、2人を呼ばなかった。
「そうか」
ポルトガ王は納得し、席を立とうとした。

「ああ、そうでした」
「どうしたのだ、アーベルよ」
「今日は、王に献上品がございました。今宵の宴にお使いいただければと」
「ほう、どんなものだ」
「こしょうでございます」
「こしょうとな?」


「なかなか変わった味じゃのう」
「左様でございますな」
ポルトガ王とその家臣は、俺たちが献上した香辛料を使った料理を味わっていた。

「お気に召しましたでしょうか」
「そうだな、まずくはないが、なかなか、変わった味だのう」
「左様でございますな」
俺は2年後のポルトガ王とは異なる評価に少し疑念を抱いたが、俺は計画通りに話を続ける。
「まあ、こしょうの真価は味よりも、効能にありますからね」
「効能とは?」
「一言で言えば、食料の保存に役立ちますね」
「保存だと」

「船旅は、時として長期にわたります。
不案内な陸地では、食料を確保することも難しいでしょう。
肉も塩漬けで多少の保存もできますが、水分を多く取る必要が出てきます。
その点、こしょうは香りも味も楽しめるだけではなく、防腐剤としての役割に優れています」
俺は立て続けに、こしょうの効能を話した。
誰もが黙って聞いていた。

俺が話し終わっても、静かなままなので、言い訳めいた形で一言付け加えた。
「まあ、王宮での料理ではあまり関係ありませんが」
「・・・、まあそうだな」
そのまま宴は続いていた。


「これでよし」
「アーベル、あの対応で大丈夫ですか」
深夜、宿屋に戻る途中、ジンクは俺に疑問を示す。

俺は、ジンクがバハラタにいった経験があることを利用して、こしょうの買い付けを頼んだ。
ジンクにキメラの翼と1,000Gを持たせたが、100Gで購入できたようだ。
こしょうはイベントで入手していたので、金額がわからなかったが、ジンクから聞いていた情報どおりの値段で助かった。

こしょうの情報や入手に関して、キセノン商会を通すことも考えたが、今後予想されるキセノン商会による買い占めをさけるため、取りやめたのだ。
「まあ、10日以内に結果がでるさ。こしょうに興味を持つはずだ」
「私は保存食の話に興味を持ちましたが、彼らはあまり感心を示さなかったようですが」
「保存食の話は、理由づけのためだよ」
「理由づけ?」
「後でわかるよ。それよりも」

俺は、宿屋の前にいる2人の女性に視線を移す。
「ああ」
「セレンとテルルの対応だな、問題なのは」
「そのようですね」
どうやら、2人は俺たちの帰りを待っていたらしい。



俺たちが、ポルトガ王に再び呼ばれたのは、8日後のことである。
「アーベルよ」
「なんでしょうか」
「このまえの、こしょうのことだが」
「なんでしょうか」
「手に入れることができないか」
「私たちの国でとれるものでありません」
俺とジンクは否定する。

「そして、私たちは商人ではありません」
冒険者が商売品を持ち込もうとして没収された品々は、冒険者ギルドが全て回収し、基本的に原産地に返還される。そこには各国の国家権力ですら介入出来ないようになっている。
各国の商人達が、王が直接冒険者に貿易まがいの行為をさせないようにするための措置だ。

「そうか。あれをもう一度・・」
「王様!」
家臣から制止の言葉が入る。
王は思い出したように、話を続ける。
「・・・、そうだった。あれを使って、兵達の保存食にしたいのだ」
「であれば、ロマリアからの使者と話をすればよろしいかと」
俺はジンクに視線を移す。
「どういうことじゃ?」

話を振られたジンクはよどむことなく話を続ける。
「こしょうは東方の国でとれます」
「商人が通行するのであれば、ロマリアの許可が必要であると」
「そういうことです」

ポルトガ王はしばらく考えてから、ジンクに向けて問いかける。
「・・・ロマリアは、船が必要であると」
「そうですね。象徴として一隻あれば十分です」
ジンクは正直に答える。
ロマリアの支配地域は限定されている。
広い海に出ようとすれば、ポルトガを通過しなければならない。
また海軍のないロマリアは、海では海洋王国であるポルトガに逆らうことはできない。

「そして、アリアハンも必要であると」
「勇者の冒険には、1隻あれば十分でしょう。オルテガの時と同様に」
「そうだな」
現在のアリアハンにも、海軍は存在しない。
勇者の冒険用に一隻あれば十分だ。
ちなみに、オルテガが使用した船はもともとアリアハンが所有していた最後の一隻であり、
モンスターの襲撃を受け沈んだ。

「とはいえ、船が完成するのは1年かかるぞ」
「ロマリアは待つことは構いません。友好の為であれば」
ジンクは正直にいった。
約束までの期間が長ければ、それだけの間友好が保証できるともいえる。
約束が守られる限り。

「我が国は既に完成している船で構いませんよ」
俺も希望を伝える。
「・・・。装備を変更するのに1月はかかるだろう」
ポルトガ王は、そばにいる重臣からの説明を受けてから答えた。
「かまいません」

「それでは交渉成立だな。細かい内容は、彼らと話を詰めてくれ」
ポルトガ王は、そばに控える重臣に視線を移した。
「ありがとうございます」
俺とジンクはポルトガ王に一礼した。


「アーベル、どうして上手くいったのですか?」
「味ですよ、味」
「でも、この前の食事のときは、あまり旨そうに食べてなかったようですが」
「そうですね。ただあれは、中毒性が高いですから」
前の世界でのポルトガ王は、いつもこしょうを食べていた。
そのため、俺はすぐに食いつくだろうと思っていたのだ。


「それにしても、アーベルはすごいですね」
「おせじを言っても、なにも出ないぞ」
「いえいえ。ただ、」
「どうした、ジンク?」
「なぜ、今回はキセノン商会を使わなかったのですか」
どうやら、ジンクは俺とキセノン商会との関係を知っているようだ。
本当に元あそびにんか?

「キセノン商会に任せっぱなしだと、富の集中が起きるからな。将来を考えると、富の独占は世界の為にならないから、あまりおもしろくない」
「そうですか。やはり、あなたはただの冒険者ではないですね」
「かいかぶりすぎだよ。ただ俺は、平和になった後のことを、少し考えているだけだ」
俺は、ポルトガの宿屋に向かっていった。
 
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