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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第6話 そして、凶報へ・・・ 

「ただいま、かあさん」
「おかえり、アーベル」
家にかえると、ソフィアが夕飯の準備をしていた。
基本的に、ソフィアは宮廷魔術師(非常勤)として、働いており、俺や父親より先に家に帰っている。

たまに、研究で帰りが遅くなることあるが、そのときは俺が夕食をつくることもある。
とはいえ、俺が持っている過去の料理知識は役にたたないので、あまり上手く作れないのだが。

「今日はなんか豪華そうだね。
いいことでもあったの?」
「そうよ。でも、ロイズが帰ってくるまでは秘密よ」
「じゃあ、出来るまで勉強しているよ」
そういって、俺は部屋に入る。
両親の書斎だが、俺の勉強部屋も兼用している。

俺は何があったか予想してみた。
父親であるロイズが昇進したのだろうか。
父親の才能は普通だが、真面目なため、上司の評価は高い。かといって、杓子定規でもないので、周囲から嫌われることもない。
まあ、昇進したかどうかは、実際に聞いてみればわかるはずだ。
考えすぎて、話を聞いたときに「予想どおり」みたいな顔をしないように気をつけなければ。

俺は、ソフィアが研究している魔法の資料を手にとって読み始める。
この世界で冒険者が使用している魔法は、完成された魔法である。
完成された魔法というのは、誰が使っても効果が変わらないということだ。

効果が変わらないということは、安定した力を出すことが出来るという意味では便利である。
容易に戦術に組み込むことが出来るからだ。
使用を制限されているのは、習得できる職業とレベルだけ。この制限は、使用者の危険を防ぐためでもある。

メガンテやパルプンテのどこが安全かと言われるかもしれないが、死んだ場合でも、教会などで確実に復活できるという意味においては、安全である。
魔法が暴発し、もとにもどるべき体が無くなれば復活すらできない。

この世界の魔法は、安定して使用できるという意味で便利だが、変更ができないという意味では不便である。
ヒャドの0.8倍の威力が必要な時や、ベギラマの効果範囲を1.47倍にしたいと言われても変更することが出来ないのである。
完成されているので、消費MPを増減して威力を加減するという使い方もできないのだ。

そのような使い方をするためには、魔法の基礎理論を一から勉強する必要がある。
例えるなら、自動車の運転に必要な知識や技能があれば、自動車を運転できるが、自動車を改造するには、自動車の原理を知る必要があるという具合に。
普通の冒険者では、そのような勉強をする時間などないのだ。

母親は、そのような勉強が出来る、限られた職業「宮廷魔術師」になっている(ダーマ神殿で転職したわけではない)。
俺は、暇な時間さえあれば母親から資料を借りて、基礎理論を学んでいる。
しかし、実際に理論をものにするには、最低でも十年は必要だろう。

何らかの業績をあげれば、母親のように「宮廷魔術師」として、生活できる職業に就くこともできるが簡単なことではない。
だから、しばらくは冒険者として生活できるようにならないといけないのだ。

俺が魔法使いになることについて、ソフィアは喜んでいた。
ロイズも喜んではいたが、本心は別かもしれない。
ロイズはたまに、セレンの父親と剣の稽古をしているが、息子と稽古ができないことを残念そうに思っているからだ。

「ただいま」
「おかえりなさい、ロイズ」
父親が帰ってきたようだ。
書類を元の位置にもどして、食卓にむかった。

「昇進おめでとう、ロイズ」
「おめでとう。とうさん」
「ありがとう。ソフィア。アーベル」
予想どおり、父親は出世した。
近衛兵として、王の警備にあたることになった。

政情が安定しており、直接戦闘に出ることもないため、死の危険もすくない。
冒険から帰っても、一緒に暮らすことができるだろう。
そういえば、勇者と一緒に冒険するので、バラモスを倒せば歓迎式典で父親が出迎えてくれるのか。少し恥ずかしいかもしれない。

「アーベル。そのときは堂々としていろよ」
「かあさんも、顔を出すからね」
俺は話を聞きながら、何か違和感を覚えた。なんだろうか。

「!」
俺は、気付いてしまった。
「どうした、アーベル?」
「どうしたのアーベル。顔色が悪いけど?」
両親は、心配そうに俺を見つめる。
「・・・。ごめん。体調がわるくなった。休む」
そういって、俺は寝室へと向かった。

最悪だ。
俺は、何を浮かれていたのだ。
父親が大魔王に殺されることを忘れているなんて。 
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