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ラインの黄金

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第二幕その八


第二幕その八

「絶対にだ。これだけはだ」
「御前の命になぞ興味はない」
 これは本当のことであった。
「だが指輪は貰う」
「命や身体が助かるのなら指輪もだ」
 やはり引き渡そうとしないアルベリッヒだった。
「これだけはわしのものだ」
「その指輪は御前のものではない」
 ヴォータンはそのアルベリッヒの否定をさらに否定してみせた。
「それは誰のものだ?」
「誰のものだと?」
「そうだ。本来は誰のものだ」
 彼が問うのはそのことだった。
「誰から奪ったのだ?それは」
「くっ、これは」
「そうだな。ラインの乙女達から川底で奪ったものだ」
 このことを今アルベリッヒにあえて言うのであった。
「その悪行を忘れたとは言わせんぞ。決してな」
「おのれ、それでもだ」
「あの娘達が御前にやるとは言っていないな」
 このことを告げ続けるヴォータンだった。
「そうだな」
「わしはこの為に愛を捨てたのだ」
 アルベリッヒにとってもこれは譲れないところであった。
「それでどうして渡すことができるというのだ」
「どうしてもというのだな」
「そうだ」
 またはっきりと告げたヴォータンだった。
「必ずな」
「泥棒は御前達だ」
 また忌々しげにヴォータン達を見上げての言葉だ。
「この指輪はわしのものだ。それを奪うなら誰であろうと許さん」
「御前の許しを得るつもりはない」
 縛られている彼はやはり恐れられはしないのだった。
「勝手にしろ。それではな」
「おのれ!」
 ここで遂にアルベリッヒの腕からその指輪を奪い取ってしまった。アルベリッヒはそこから呪詛の言葉をあげた。ヴォータン達を睨み据えながら。
「覚えていろ。傲慢な神々よ!」
「これが権力の源だな」
 ヴォータンは早速その指輪を右手に持ちながら見据えた。
「私が持つべきものだ」
「それでヴォータン」
 ローゲがここで彼に声をかけてきた。
「こいつを放しますか?」
「そうだな」
 もう何の興味もないといった口調だった。
「放してやれ」
「はい、それでは」
 ローゲはここで右手の指を鳴らす。するとそれでローゲが操っていたその炎の縄は消えた。アルベリッヒはこれでようやく自由になれたのであった。
 アルベリッヒは自由になったがそれでも憎しみを忘れてはいなかった。その憎悪に燃えた目でヴォータン達を睨み、そのうえで言うのだった。
「呪われろ!」
 こう言った。
「その指輪には最早権勢を与えるだけではなくなったのだ」
「権勢だけというのか?」
「そうだ。誰もそれを得たいと思うが得たならば破滅が訪れる」
 こうヴォータン達にも言うのだった。
「わし以外の。そしてあの女達だけはそれを逃れられる」
「本来の持ち主だからな」 
 ローゲにはわかる理屈だった。
「それは当然だな」
「しかし他の者は違う。指輪は必ずわしの下に戻る」
 彼は言い続ける。
「しかしそれ以外の指輪の持ち主はその奴隷となり苦しみ抜いて死ぬ」
「苦しむか」
「そうだ。それがその指輪にわしが今かけた呪いだ」
 それだというのである。
「わしの呪いからは誰も逃れられん、そのことを覚えておくことだ」
 こう言い捨てて姿を消すのだった。ローゲはその言葉を聞き終えてからヴォータンに顔を向けて告げた。一応は冷静を保っているが心中は穏やかではなかった。
 
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